サステナビリティファースト。今企業が取り組むべき「SX経営」とは

現在、世界規模で持続可能な社会の実現に向けた取り組みが加速しています。そして、SDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けて、企業には今まで以上にサステナブルな経営が求められています。
一方で、少し前までは、いわゆる「社会貢献」は本業と切り離されて捉えられていました。つまり、企業の利益が出た時にその一部を社会にお付き合いとして還元するといったものです。そのため、企業の業績が悪いと社会貢献ができなくなる場合もありました。
それに対して今では、企業の社会的責任として、もっと積極的に持続可能な社会の構築に貢献することが求められています。このような状況を踏まえ、富士通もサステナビリティ経営へと大きく舵を切りました。実際社内の現場ではどのようなことが起こっていたのでしょうか。推進者のひとりとして、現場を牽引してきたサステナビリティ推進本部長代理の藤崎壮吾さん(以下:藤崎さん)に話を聞きました。

サステナビリティ推進本部 本部長代理 藤崎壮吾さん
目次
  1. 持続可能な社会に不可欠、企業の価値を高める「SX」とは?
  2. 長期的には「SX」しかありえない、企業存続の戦略として今変革を
  3. 強烈な危機感をもった。富士通がいち早くサステナビリティ経営に舵を切ったワケ
  4. サステナビリティを「自分ごと」にするための取り組み
  5. 将来の世代に地球を返す。持続可能な社会の実現に向けて、富士通が目指す姿とは

持続可能な社会に不可欠、企業の価値を高める「SX」とは?

――SDGsについてはだいぶ浸透してきましたが、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)はまだなじみのない方も多いかもしれません。まずSXについて教えてください。

藤崎さん: SDGsはみなさんご存じの通り、2015年に国連で採択され、各国が2030年までに達成すべきゴールをまとめています。基本的には国家の目標ですね。それに対して、SXというのは「サステナビリティ・トランスフォーメーション」の略で、SDGsに代表されるサステナブルな世界を実現するために、我々企業自身も変革していかねばならないということです。
SXという言葉を耳にし始めたのは2020年の経済産業省の勉強会です。そこでは企業が持続する力、つまりビジネスの持続性と、環境や社会、ガバナンスといった社会の持続性の両輪が必要だとされました。

長期的には「SX」しかありえない、企業存続の戦略として今変革を

――企業がビジネスとして利益を上げつつ、持続可能な社会を作っていくのは難しくないのでしょうか?

藤崎さん: 大事なのは、サステナビリティをどう捉えるかなんです。サステナビリティへの対応を短期的なコストであると考えると、邪魔なものでしょう。でもそれを無視することはふたつの側面から許されない状況にあると考えています。
ひとつは社会的責任です。地球温暖化をはじめとする数々の社会や環境の問題は、多くが産業革命以降の企業活動がもたらしたものといえます。その責任を背負って、きちんとCO2削減などに配慮しなければなりません。
もうひとつは企業としての存続の問題です。社会的責任を果たせるかどうか、多くのステークホルダーに見られています。それは投資家や取引先かもしれませんし、これから社会を支えていく若い世代かもしれません。彼らに見放されてしまっては企業は成り立ちません。
そこで必要なのは、サステナビリティを未来への投資として捉えることなのです。そして、しっかり利益を上げるための「財務指標」と、社会の課題を解決するための「非財務指標」という両輪がうまく回るよう長期的に経営を変革していかなければなりません。そのためにはマインドセットを含めた、トランスフォーメーションが必要となります。実際に、非財務の取り組みに優れた企業の「株価純資産倍率(PBR)」が相対的に高いという調査結果もあり、当社としても相関関係を明らかにしていきたいと思います。

すでに欧州では、社会に対し、バリューチェーンを通じて、責任あるビジネスに取り組んでいることで初めて商談の場に立てるといったケースもあり、社会的にもきちんと貢献している企業でないと信頼されなくなっているのが現状です。

サステナビリティと企業の利益は、今まではトレードオフの関係として見られがちでしたが、今や企業が持続的に存続していくためには、両立が不可欠です。戦略的に取り組むべきことになっています。地球環境を汚染しながら短期的に利益を増やすことはできるかもしれませんが、そのような企業は長期的には存続しえないのです。

強烈な危機感をもった。富士通がいち早くサステナビリティ経営に舵を切ったワケ

――将来に向けて企業も社会も持続していくにはSXが不可欠という話でしたが、富士通がいち早くサステナビリティ経営に大きく舵を切った背景を教えてください。

藤崎さん: 具体的には2020年7月にパーパスを定め、あらゆる事業活動へアラインしていくために、当社として大切にする価値観や行動指針を示すべく「Fujitsu Way」を改訂したことが転換点でしょうか。パーパスは「イノベーションによって社会に信頼をもたらし世界をより持続可能にしていくこと」です。まさしくサステナビリティを基軸とした内容になっています。
サステナビリティを基点に我々が変わり、お客様の抱える社会課題を解決できなければ、お客様も地球も持続しませんし、そうなると我々自身も生活できなくなります。欧米の先進企業の取り組みを目の当たりにして、それは強烈な危機感でした。
富士通は86歳の会社でもともと社会に貢献することを目指して活動してきました。社会に大きな価値をもたらすことは、大きな経済価値を我々のビジネスにもたらすことになりますから、ビジネスチャンスでもあるのです。

――富士通といえばDX企業というイメージですが、DXからSXへはつながっているのでしょうか?

藤崎さん: 当社社長の時田隆仁は、就任時からDX企業として社会課題の解決を目指すと発信しています。DXとはデジタルを中心としたビジネスモデルに変革するということですが、その先にどこへ向かうのかを定義するものではありません。富士通の場合、向かう先がパーパスです。我々にとって、デジタルを駆使してパーパス(持続可能な社会の実現)を追求すること、これを両立させるとSXになっていくのは自然なことかと思います。

サステナビリティを「自分ごと」にするための取り組み

――大きな枠組みとしてサステナビリティ経営へ舵を切ったとはいえ、一般の社員や各部署に具体的なイメージを持って取り組んでもらうのはなかなか難しいかと思います。どのような取り組みをしているのでしょうか?

藤崎さん: トップダウン的に非財務経営指標などが発表されたこともあり、なかなか「自分ごと」として捉えてもらうのは難しかったかもしれません。そこで、社員が直接相対するビジネスの軸にサステナビリティを据えることを関係部門と連携して進めています。
一例は社内表彰です。例えば、ICTで社会課題を解決したり、新型コロナウイルス禍で要望が多かったチャットボットをすばやく展開するなど、そういった活動を称するサステナビリティ貢献賞を設け、きちんと評価する仕組みを構築しています。
昨年度は国内外から127件の応募があり、本年6月に大賞2件、優秀賞6件、特別賞13件を表彰しました。
今ではすべての商談に対してサステナビリティに関係しているかを評価し、社外発表などにおいてもSDGsへの貢献を入れるようになっています。
社内での人事評価も、マネージャー以上の幹部社員に対しては売り上げや利益のみならず、社会に対するインパクトや行動についても評価する形に変化しました。
収益のようにすぐ目に見えるもの以外にも、GRB(Global Responsible Business)の7つの課題を経営目標に設定して、全社一丸となって取り組めるような仕組み作りもしており、社員にも浸透しつつあると思います。

富士通のサステナビリティ経営。パーパス実現のため、財務・非財務両面の経営目標を設定

将来の世代に地球を返す。持続可能な社会の実現に向けて、富士通が目指す姿とは

――今後、富士通ならではのSXが目指す世界について教えてください。

藤崎さん: 富士通は社内と社外、同時にビジネスを通じてサステナビリティの実現に向けて取り組める非常にユニークな立場にあると考えています。
例えば、富士通自身の気候変動への対応としてデータセンターの省エネですとか、事業所の電力を再生可能エネルギーに切り替えるという社会の課題解決へ取り組んでいます。
同時に、効率化や高度な予測に基づく最適化を実現する道具であるICTをおさめるだけではなく、DX企業の強みとして多くの企業と一緒にお客様や社会課題の解決に取り組むことで、社会への貢献ができます。例えば食品業界であれば、フードロスの問題に対してデジタルテクノロジーを用いた解決を一緒に考えることができるでしょうし、物流業界に対しては輸送作業をデジタルテクノロジーで効率化することで時間やエネルギーの節約に貢献できるでしょう。

今後は我々のテクノロジー企業としての強みを発揮しながら、社会からの要請や課題に対していかにお客様と一緒に考え、応えていくか、そういう新たな時代に入っていくのではないかと思っています。
さらにいえば、持続可能な社会は一企業や一つの国だけで実現できるものではありません。サステナビリティには業界も国境もないのです。その点、我々のようなグローバルな企業は国境という概念におさまりませんから、思いをひとつにして活動していくことが重要かと思っています。

――グローバル企業同士の連携というのははじまっているのでしょうか?

藤崎さん: 富士通はグローバル企業約200社のCEO連合体であるWBCSD(持続可能な発展のための世界経済人会議)に参加し、時田社長が理事に就任しています。2021年の2月には2050年の社会はどうあるべきか、そのためにテクノロジーをどう役立てるべきかという議論を行い、「Vision 2050:Time to Transform」を策定し、近々日本語版もリリースされる予定です。
SDGsは世界の共通言語となっており、それをベースに、世界の仲間とよりよい世界をよりよいビジネスで実現するという夢を一緒に描きたいと思っています。我々は、今この地球をお借りしている立場であり、将来の世代にそれをきちんと引き継がねばならない、という責任感を持って社会課題の解決に取り組んでいきたいと考えています。

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