「エバンジェリストが語る未来戦略」
~今後起こる変化の中で、企業はどのように変革すべきか~

「エバンジェリストが語る未来戦略」~富士通がめざす信頼創造のための革新とは~

2019年5月16・17日、東京国際フォーラムにおいて「Driving a Trusted Future」をテーマに「富士通フォーラム2019」が開催された。
富士通のエバンジェリスト5名が未来への展望を語った。
中山五輪男(富士通理事/首席エバンジェリスト/兼エバンジェリスト推進室長/兼未来共創センター長)のモデレートにより、セキュリティ、デジタルマーケティング、ワークスタイル変革、デジタル革新の各領域を担当するエバンジェリストが、これからの社会や市場のトレンドと、それを見据え、企業はどのように革新をしていかなければならないのか、事業戦略を描いた。

膨大なデータを安全に利用したいという需要はこれまでになく大きい

中山 五輪男 富士通株式会社
首席エバンジェリスト
中山 五輪男

あらゆる技術のデジタル化、AIをはじめとするテクノロジーの進化は、従来の社会や産業のありかたを劇的に変えつつある。従来にない利便やビジネスの可能性をもたらす一方で、これまでになかったリスクも懸念され、社会には期待と不安が混在するような状況になっている。

それに対して、最新のICTトレンドへの知見と社会や市場における広い視野を持つエバンジェリストが、富士通のこれからの動きを簡潔に説明、不安を払拭し、期待を高めるものとなった。

まず登壇したのがセキュリティ担当のシニアエバンジェリスト、太田大州である。太田はまず、「セキュリティを“技術”より、“経営課題”としてとらえる」という富士通の姿勢を語った。

サイバー攻撃は2010年頃から猛威を振るっている。データを利用してさまざまな価値を生み出せるようになってきたが、この頃からデータを悪用し、損害をもたらすリスクも拡大した。「全世界でのサイバー被害は2014年に47兆円でしたが、2017年には63兆円に増加しました。全世界の企業の純利益が420兆円と言われますから、その15%がサイバー被害で失われていることになります。しかも被害額は今後、さらに拡大することが予想されます」。

大田 大州 富士通株式会社
シニアエバンジェリスト
(セキュリティ担当)
大田 大州

今後のサイバーリスクについて、太田は二つの点を指摘した。

「一つは根源的なリスクに『なりすまし』があること。カード番号、パスワード、メールアドレスなどの個人情報は今、ダークウェブと呼ばれる闇サイトで取引されるようになりました。また、ヨーロッパではプライバシー保護のため、GDPR(一般データ保護規則)を制定、個人情報漏洩に対し、制裁金を課すようになりました」。

もう一つは、サイバーフィジカルの反映としてのリスクの拡大だ。「現在はサイバー世界と実世界がデジタルにつながっています。これによってサイバー空間に留まらず、実空間が攻撃される可能性が出てきました。AIが攻撃してくるという恐ろしい想定もしなくてはならないでしょう」。

こうした流れに対し、富士通が掲げるのはTrust3.0の社会だ。人と人が会い、信頼を築くのがTrust1.0、国家や企業と人が主に書類で契約を交わし、信頼を築くのがTrust2.0とすれば、Trust3.0は、セキュリティ技術を駆使して、人とモノ、モノとモノの間にも信頼関係を築く社会と言える。

「富士通はセキュリティ技術として、生体認証、データの真正性の保証などを追求し、なりすましを防ぎ、情報のトレーサビリティを確保しています。また将来のサイバーリスクに備え、なるべく人を介さずAIでセキュリティ上の脅威を発見する研究を進めています」。

またセキュリティ分野の人材については、2015年から認定制度(セキュリティマイスター認定制度)をスタートした。現在4000人がセキュリティ技術者に認定されたが、2年後までに1万人をめざしていると太田は語った。

続いて登壇したのが、デジタルマーケティングを担当するシニアエバンジェリストの西本伸一である。「データ活用の未来」について語った。

「2011年のダボス会議で、データは21世紀のオイル(石油)であるという言葉が登場しました。採掘したばかりの原油と同様に、データもそのままでは利用しにくく、加工することで価値あるものになります」と西本。象徴的な例として警視庁が防犯カメラのデータをつなぎ、何万人もの群衆の中から数人の容疑者の特定に成功した事を挙げて説明すると共に、さまざまなチャネルから発生したログをつなぎ、マーケティングに活用するカスタマージャーニー分析などの身近な活用事例も紹介した。

「ばらばらのデータをつなぐことで価値を生み出す手法は進化していくと思います。例えば、親が介護施設に入っていて、そこを訪問する際、一緒に食事をしたいという人はいるはずです。ところが今の介護施設は法律上、健常者には食事を提供できません。そこで飲食店、介護施設、住居の位置、交通状況など、複数のデータを効率的に解析し、マッチングすることによって、介護施設の中で親子が食事をできるようにする業種を越えた新しいサービスの開発も可能になるでしょう」。

西本 伸一 富士通株式会社
シニアエバンジェリスト
(デジタルマーケティング担当)
西本 伸一

このように個人データの重要性が増す中で、新しいしくみも必要になる。その代表例として西本が挙げたのがPDS(Personal Data Store)である。

「ある企業が所有する個人データを別の企業へ提供するための仲介をしたり、個人が自分のデータを預けると、それを責任を持って管理し、個人へポイントなどの利益で還元する。

ちょうど銀行がお金を扱うようにPDSは個人データを扱うため、『情報銀行』とも呼ばれます」。

自由にデータ活用できる社会にするために必要なこととして、西本が上げたのは、ブロックチェーンをベースとした技術と、信頼性の高い企業同士の共創によって段階的に社会的信頼を築き上げていくことである。

データの利活用への動きは世界的にもめざましく、アメリカではGAFAが個人情報の占有に独走してしまい、批判を浴び始めた一方で、ヨーロッパではGDPRというルールを策定する事で、いかに安全にデータを活用するかという方向に舵を切った。中国では国が主導してデータ管理・活用するために巨大なパーソナルデータベースを整備している。

「そうした動きに比べると、日本はデータ活用後進国と言っても良い。しかし日本社会が今後、縮小していく事が見えている今、社会の維持という課題も視野に入れなくてはなりません。日本社会の将来像を考え、そこから遡って現在何をすべきかを考える必要があります。富士通はそのためにデータの利活用を推進していきます」。

既に始まっている動きとして、富士通が電通との協業で行なったGoogleのカレンダーデータを用いた個人のデータ活用の実証実験、三菱地所、ソフトバンク、東京大学と協業して実施した丸の内エリアでのショッピングに関するデータ交換の実証実験を紹介した。

ICTを活用した、場所・時間に依存しない働き方やものづくりが普通になっていく

後半の登壇者二人は、デモンストレーションを含めた講演で来場者を引きつけた。

まず、ワークスタイル変革を担当するシニアエバンジェリスト、松本国一だ。2019年4月から働き方改革関連法が順次施行されるなど、ワークスタイル変革はまさに日本社会を上げての重要テーマとなっている。松本はこんな問いかけから口火を切った。

松本 国一 富士通株式会社
シニアエバンジェリスト
(ワークスタイル変革担当)
松本 国一

「平成時代においては、業務のOA化が進み、ポケベルや携帯電話が普及し、どこでも仕事ができるようになりました。そして令和になった今、オフィスは必要でしょうか。9時から5時まで、社員全員が毎日、同じ時間帯で働く必要があるでしょうか」。

平成時代に人々が基本的に同じ場所、同じ時間に働いていたのは、情報を守ることができる環境、言い換えればTrust(信頼)を実現できる環境はオフィスだけだったからだ。しかし令和時代の現在、もはやオフィスに依存しなくても問題はない。松本は自らのワークスタイルを題材にして説明する。

「スマホやパソコンなどのエッジがTrustを守ることができるようになりました。ここにある私のノートパソコンはオフィスにあるOA機器、内外線電話、会議室も搭載しています。こうなると、オフィスという場所に依存せずに仕事ができます」。

その時、講演している松本に仕事の相談やオフラインでの資料説明が入り、それに対応する場面が展開した。まさにオフィス以外の場での業務シーンである。

更にAIを使った紙資料からのドキュメント検索などのデモでは、紙配布された場合でも即情報をデジタルで入手することができる、まさに場所に依存しない働き方の例を示した。

デモの様子 デモの様子

デモを行いながら、「スマホやスマートウォッチを使い、パソコン無しでも仕事をすることも可能になってきています」と説明、こうなると、場所はもちろん時間にも依存しない働き方が普通になる。しかも仕事の相手やデータなどもボーダーレスになっていく。

松本はこうした変化を象徴する最先端事例を紹介した。

(1)トヨタとカブク。世界トップクラスの自動車メーカーであるトヨタと、30カ国以上の数百の工場に3Dプリンターとデジタル工場ネットワークを持つカブクが協力しあい、部品の即時生産を実施している「会社のボーダーレス」。

(2)人気ブログサービスWordPressを運営するAutomattic社はオフィスのない企業だ。社員は好きな場所で働き、60カ国にも社員が存在する「場所のボーダーレス」。

(3)中国の新華社通信では、AIのニュースキャスターが登場した。疲れを知らず、24時間ニュースを伝えることができる「人や相手のボーダレス」。

「オフィスワークはもう過去の概念になりつつあります。新しい働き方に切り替えて行かなければなりません。バーチャルオフィスはもちろん、ワーケーションと言って、旅先やリゾートなどで仕事をするやり方も出てきました。働き方が多様化した現在において、働き方改革の一歩目は、ありたい働き方を思い描くことだと思います。富士通は働き方改革のために、デザイン思考を用い、それを推進するお手伝いをしています」。

最後に登壇したのが、デジタル革新担当のシニアエバンジェリスト、及川洋光。来場者がそのデジタルトランスフォーメーションのプレゼンテーションの迫力に魅了された。

及川 洋光 富士通株式会社
シニアエバンジェリスト
(デジタル革新担当)
及川 洋光

最初に見せたのは、中国の工場内部を画像で再現したインテリジェントダッシュボードの画像だ。「今、私たちは有楽町にいますが、中国にある工場の現状がわかりますね。これはデジタルツインと言う技術で、物理的にだけではなく数値データやグラフで設備の状況を可視化し、管理することができます」。

しかし、こうした技術が普及してもどうしても足りないものがある。それは現場・現物を見たい、確認したいという欲求への対応だ。「車の購入にしても、色や形、雰囲気などを目の前の現物で確認したい気持は解消しません。

しかし現場・現物を見ようとしたら、コストも労力も大変な負担がかかります。遠隔地や海外にある場合はなおさらです。ではどうすれば良いのか。そこでご紹介するのがこの『マジック・ドア』という技術です」。

「マジック・ドア」は、富士通の技術とマイクロソフトのMR(Mixed Reality)デバイス「Hololens」を組み合わせたもので、目の前に、現場・現物を3Dで再現できる技術だ。

デモの様子 デモの様子

及川は壇上で、Hololensを装着、自分に見えている世界を解説した。壇上のスクリーンには及川の視覚世界が映し出される。バーチャルなドアに正対し、ドアを開け、中を見ると、実物大の機器が見える。しかし、角度を変えて、横から見るとそこには何もない。

画像を切り替えることで、工場内を俯瞰して見たり、製品や設備にデータを重ね合わせて見ることも可能だ。及川はこう締めくくった。

「松本シニアエバンジェリストのプレゼンと共通するのは、場所と時間にとらわれずに仕事ができる時代が到来するということです。こうした少し先の未来を見据え、皆様にお伝えしていきたいと思います」。

リアルタイムに作成したグラフィックで講演内容を可視化する

佐久間 彩記 富士通株式会社
グラフィックカタリスト
佐久間 彩記

4名のエバンジェリストの講演が終了した後、ステージ横で、講演内容をグラフィックで可視化するグラフィック・カタリストの佐久間彩記を紹介した。

佐久間は、リアルタイムに作成したイラスト、文章、図表などが渾然となったレポートを提示、それに沿って佐久間は講演についてのサマリーを行なった。

中山は、エバンジェリストが、いつでも、どこへでも、講演、プレゼンテーションに行くことをアピール、来場者の期待を促してセッションを終えた。

多くの来場者にとって、このセッションは、未来社会への潮流をより具体的に感じる体験であり、今回のフォーラムのテーマであるTrustの重要性と、それを実現するためのさまざまな手法やアイデアを知る機会になったようだ。

私たちは今、時間や空間の制約を受けない世界を構築し、これまでにない利便や自由を手に入れつつある。一方でそれがどのような世界になるのか、十分な予想がつかず、不安に感じることも多い。そうした中で今回の5人のエバンジェリストの講演は、私たちは未来を単に予測するだけでなく、さまざまな課題に積極的に取り組み、信頼と安心に基づいた未来へ向かっていることを示したと言えるだろう。

  • 注)
    本記事中に記載の肩書きや数値、固有名詞等は掲載時のものであり、このページの閲覧時には変更されている可能性があることをご了承ください。

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