作家・ジャーナリスト 佐々木 俊尚氏と描く

デジタルビジネスの未来地図 Vol.1 デジタル革新

及川 洋光氏、佐々木 俊尚氏

(写真左)富士通株式会社 エバンジェリスト 及川 洋光氏、(写真右)作家・ジャーナリスト 佐々木 俊尚氏

ニーズ起点への転換と「想像力」が日本企業のビジネス変革には不可欠

平成が終わる。この30年、特に21世紀に入ってからのビジネスの変化は、それ以前とは比較にもならない大きな変化だったといえる。急速に進歩するITが、企業の持続的成長に必要なビジネス構造や、市場における競争優位性の要因などを大きく組み替えた。こうした中、日本企業が世界で存在感を放つために必要なことは何か。作家・ジャーナリストの佐々木 俊尚氏と、富士通のエバンジェリスト及川 洋光氏が語り合った。

GAFA、BAT、ビジネス革新の旗手が次々登場

佐々木 俊尚氏 作家・ジャーナリスト
佐々木 俊尚氏
毎日新聞社、アスキーを経て、2003年にフリージャーナリストに。著書に『「当事者」の時代』(光文社新書)など。総務省の情報通信白書編集委員なども務めている

及川この30年のビジネスシーンを振り返ると、実に様々なことがありました。

佐々木そうですね。なかでもインパクトがあったのは、「GAFA」の台頭でしょう。GAFAは「グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン」の頭文字。いずれもITを扱う企業ですが、2010年前後から、それらの企業が提供する巨大なプラットフォームは、我々が暮らす社会や企業のビジネスに欠かせないものであり続けています。

ただ、ではGAFAはずっと安泰かというとそういうわけではありません。ここ数年のIT関連の重要トピックスにAIやIoTがありますが、これらはともに多くの「データ」を扱うという共通点を持ちます。このAI・IoTがビジネスで本格活用されるようになるにつれ、欧米におけるデータ収集やプライバシーに関わる法律が、GAFAのビジネスのボトルネックになる可能性が出てきているのです。

そうした中、台頭しているのが「BAT」(バイドゥ、アリババ、テンセント)です。GAFAがすべて米国企業であるのに対し、BATはすべて中国企業です。 中国は法規制やプライバシーの概念が独特で、それが奏功してビッグデータの収集が非常に容易です。それ自体の善し悪しは別としても、データがビジネスのカギを握る時代、こうした環境が下地にあることは有利に働く。BATは今後も急速に成長していく可能性があるでしょう。

及川確かにその通りだと思います。中国企業が優れており、また脅威なのは、単にデータやテクノロジーを見るのではなく、「誰に何をどう売るか」のようなビジネスモデルのあり方も同時に発想するところですね。もし日本企業が、そうしたアプローチをもっと柔軟に取り込むことができれば、ここまで名前が挙がったようなグローバル企業に追いつき、追い越していくことも不可能ではない気がします。

日本企業が着目すべきは製品ではなく、組み込み製品(中間消費財)

佐々木私は別の点でも日本企業には未来 があると考えています。例えば、特にエレクトロニクスの分野では、もう長いこと「日本企業は最終消費財(製品)を生み出せなくなった」といわれてきました。1990年代までは、日本企業がつくるテレビやCDプレーヤー、DVDレコーダーといった製品が世界を席巻していましたが、今はそれらがアップルや中国企業の製品に取って代わられているということです。

しかし、これについて私は、それほど悲観しなくてよいと思っています。というのも、特にIT製品の市場においては、これからは製品ではなく組み込み製品が求められる時代になると考えているからです。

及川具体的にはどういうことですか。

佐々木例えばスマートスピーカー。あれは別に、壁や車に埋め込まれていてもよいわけで、独立した製品である必要はないですよね。いわゆる組み込み製品のような、モジュール化したオブジェクトが世の中に溢れるようになるならば、それらの製造に強い日本が活力を取り戻すチャンスは十分あると思っています。

及川 洋光氏 富士通株式会社
エバンジェリスト
及川 洋光氏

及川おっしゃる通り、製品開発において、これまでの発想は捨て去るべきなのかもしれません。大事なのは「世の中にどんな価値を提供できるか」ということであり、新たな製品・サービスを考える際も、そのために最適な形を考えるべきだということですね。

佐々木その通りです。人々のライフスタイルや考え方が多様化する現在、企業は「テクノロジー起点」から「ニーズ起点」へと考え方を転換する必要があります。高度成長期の名残か、どうも日本の産業界はテクノロジー起点の傾向が強いのですが、顧客や社会が何を求めているかを見極め、そのために何ができるかを徹底的に考えなければ、競争力を維持・強化していくことはできません。

及川まさしく、そこは我々富士通も注力しているポイントです。当社は現在、「モノ」づくりから、課題解決などの「コト」づくりへとシフトしています。いまはスペックや機能ではなく、「モノ」が実現してくれる「コト」の豊かさや満足度で、商品やサービスが選ばれるようになっています。具体的には、お客様先にエンジニアが出向き、困りごとや課題の洗い出しを行った上で、当社の製品やソリューション、テクノロジーを活用してどうご支援できるかを考えるという取り組みです。

そうすると、例えば高齢者施設なら、「入居者は増える一方だが、職員が採用できずに人手が足りない」といった課題が見えてきます。この時点で、まだITの話は出てきません。エンジニアは、まずお客様の課題をしっかり捉えてから、AI・IoTをはじめとするテクノロジーの使い方を模索します。ニーズ起点で考える姿勢を、とても大切にしているのです。こうした姿勢や、テクノロジーの使い方は今後も重視していきたいと思いますし、ひいてはそれが当社の強みにもなると考えています。

佐々木素晴らしいですね。今後、ますます重要になる考え方だと思います。

目の前の空間に浮かぶ3Dモデル 佐々木氏も驚く

及川また当社は、技術開発の面でも一歩先を見据えた取り組みを継続的に行っています。1つ、5年先を感じるためのデモンストレーションを佐々木さんに体験していただきましょう。

佐々木 俊尚氏、及川 洋光氏
現実空間の中に宇宙飛行士の3Dモデルが投影されている(背後の画面はHoloLens内の見え方を投射したもの)。
HoloLensを装着した人は、360度好きな方向から3Dモデルを見ることができる

及川これはマイクロソフトの「HoloLens」をデバイスに使った、当社が「デジタルプレイス」と呼んでいるものです。

佐々木MR(Mixed Reality 複合現実)ですね。まるでSFの世界にいるようです。

及川デジタルプレイスでは、空間上に肉眼では見えない立体的なホログラフィックを立ち上げます。これは例えば、自動車開発のテスト機を実物大の3Dモデルで投影し、複数名でレビューするといった用途への適用が考えられるでしょう。物理的にテスト機を作ると数千万円かかりますが、そのコストを大幅に削減できます。またデザイン修正を何度も繰り返して検証したりすることも容易です。

佐々木富士通の技術だけではなく、他社の技術と組み合わせて具現化されている点がとても良いと感じました。いまや、必要な仕組みすべてを1社がつくれる時代ではありません。企業間コラボレーションによるオープンイノベーションの促進は、これからの企業が備えるべき視点だと思います。

FUJITSU Digital Transformation Center FUJITSU Digital Transformation Center
富士通が設立したオープンイノベーション拠点。最新ICTをつかったデモンストレーションを体感できることに加え、デジタル革新に向けたビジョン策定の支援、デザイン思考を活用したワークショップなども行われている。現在は東京、大阪、ニューヨーク、ロンドン、ミュンヘンに設立

及川当社もそう考えており、お客様のオープンイノベーションに向けた取り組みをサポートする場も用意しています。それが「FUJITSU Digital Transformation Center」です。

ここでは、経験豊富な専門家のサポートの下、デザイン思考を取り入れながら、ともにビジョンをつくっていく取り組みを行っています。まずは「ありたい姿」を見定め、それに向けて現時点で足りないことややるべきことを考える。その上で、仮に自社だけで施策を実施していくことが難しい場合、ビジネスパートナーとの連携も視野に入れて活動を進めます。

佐々木こうした拠点から何が生み出されるか、とても楽しみです。特に現在は、私が子供の頃に読んだSF漫画の世界がほとんど現実になっているくらい、新しいテクノロジーが次々登場しています。その意味では、現在だけを見ていても、ビジネスイノベーションにつなげることは難しいでしょう。

また、これは何かの記事で読んだのですが、最近は米軍も将校クラスにSF小説を読むことを推奨しているそうです。

すぐ時代遅れになる既存の技術を勉強するより、圧倒的な想像力で未来のビジョンを描け――。こうしたアプローチは、「ありたい姿」をまず描くことを提案する富士通の方法論と近いものだと感じます。これからは、あらゆる企業が、そうした姿勢でビジネスに向き合わなければいけないと思います。

及川ありがとうございます。AIやIoTなどのテクノロジーも、それらを使うことを前提に考えはじめてしまうと、できることが限られてしまいます。描いたビジョンから、必要なテクノロジーは何かということへ考えを進めるアプローチが、とても重要になっていると思います。

当社は今後も、様々なソリューションを通じて、イノベーションを目指すお客様を支援していきます。

  • 注)
    このコンテンツは2019年3月~5月に日経ビジネスオンラインに掲載したものです。
  • 注)
    本記事中に記載の肩書きや数値、固有名詞等は掲載時のものであり、このページの閲覧時には変更されている可能性があることをご了承ください。

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