2019年02月20日更新

コスト改善に繋がる院内業務改善 第01回 医療機関の経費削減 内部努力編

株式会社FMCA 代表取締役 藤井 昌弘 氏

毎回のように診療報酬マイナス改定が続き、さらにDPCに代表される包括方式の範囲も広がり、医療機関の収益は頭打ちどころか減収するところも出てきている。少子高齢化が主な原因であるが、少子により税収増は期待できず財源がない中で、高齢者が増えることによる医療費の支出は増えている状況である。高齢者の増加は2039年前後まで続くと予想されているので、このような状況はしばらく続く。医療機関は、このような厳しい経営環境のなかで経営の継続を考え利益を出し続けていかなければならない。大幅な収益増が見込めないなかで、利益を確保するには、支出を削減するしか方法はない。
支出を削減するために、多くの医療機関は「経費削減」に取り組んでいる。経費削減には、大きく2つの方法がある。ひとつは、医療機関と取引きしている企業との交渉。すなわち外部の協力を得て経費を削減する手法。もうひとつは、医療機関の職員自らの努力によって経費を削減する内部努力によって経費削減する手法である。ここで多くの医療機関は、その順序を間違ってはいないだろうか。経費削減と聞くと、最初に委託業者などと価格交渉して、外部の協力に頼っていないであろうか。自らの血は一滴も流さず、利益だけを得る手法は、一時的には功を奏しても最後には見放されてしまう。まず最初に自らの努力によって経費削減を行って(血を流して)、そのうえで外部の企業に協力を求めることが重要である。外部の企業も良く見ているので、職員自らが血を流したうえで協力を求められたら、その真剣さは必ず相手に伝わる。
今回のコラムでは、主に内部の努力によって経費削減することに関して記述する。

内部の経費削減は「業務内容の見直し」から

経費削減は、大きくその対象が2つに分かれる。ひとつは「人」に関することで、もう一つは「物」に関することである。「人」に関することの経費削減手法は、「業務改善」と「業務委託」がある。「物」に関する経費削減手法は、「価格」と「使用量」である。「業務改善」、「業務委託」、「価格」、「使用量」すべてに共通して注意すべき視点は以下の4つである。

費用削減の4つの視点

排除(無くすことができないか) 入れ替え(順序を入れ替えられないか)
結合(他の作業等と組み合わせられないか) 簡素化(単純化できないか)

人に関する経費の中でも残業代を減らす、あるいは、効率よく仕事を行い増員しないなどのために、内部努力として「業務改善」を行う。具体的には、同じような業務を行う場所を複数作らない。複数の場所に分散しているのであれば、集約化できないか検討すべきである。例えば医事業務の中の計算業務であれば、その計算業務の場所が分散されていたら、計算業務に必要な資料も知見も分散される。場合によっては席を立ち、人に聞きに行くことにもなる。その結果計算までの時間がかかり、患者ひとりの計算に掛かる時間が長くなり、一日で対応できる患者数も少なくなってしまう。さらに会計待ち時間も長くなり患者満足度も下がる。
また専任業務を作らないことも重要である。ある特定の人にしかできない業務がいくつもあると、その特定の人がいないと業務が捗らない、場合によっては業務が滞ってしまう事態も起こる。このような状況を改善するには、マニュアルをしっかり作り込み、普段から活用する。ジョブローテーションを定期的に行う。主担当、副担当などの複数人担当制などを採用しておくことが効果的である。これらは、業務改善の観点からだけではなく、職員の教育体制や人事評価の観点からも非常に重要である。すなわち、職員個人の能力の把握と個人レベルに合わせた教育立制を構築してその個人の能力、仕事の質と量に合わせた評価手法も同時に構築することが肝要である。
もうひとつ具体的な事例をME部門で示す。ME部門は院内で人工呼吸器や透析機器の管理、操作を行っているが、日常の機器のメンテナンスや機器の貸し出し管理までその業務内容を拡大している病院もある。ME部門がメンテナンスを行う意義は大変高く、ME部門がメンテナンスを行わなければ、外部に委託することになり、その費用は高額になることも少なくない。MEの貸し出し業務や保管管理を各現場で行っていると、必要以上の台数を購入してしまうことも予想される。このように費用削減からもME部門の業務範囲の拡大は効果的である。ME部門の対応能力が向上すると、いかに効果的かイメージ図を示す。

ME部門の対応度イメージ図
ME部門の対応度イメージ図

「物」に関しての費用削減については、「物」に関する費用は、「価格」と「使用量」の掛け算であることを理解する必要がある。価格に関しては、購入先との交渉になるので、今回は「使用量の削減」を中心に記述する。
最初のステップは、「使用量」の把握と「必要量」の把握である。この二つの量が把握できたら、必要量以上に使用している理由の調査である。必要以上に使用している理由として考えられる原因としては、紛失、ミス、盗難などであるが、これらの原因に対応した個々の対策、実行が必要である。紛失やミスは職員個人の物を大切にしようとする意識が低いために起きていることが多い。日ごろから啓もう活動を行うことや、物品購入の部署別年間予算管理の採用なども効果がある。盗難に関しては外部からと内部からのふたつのケースを想定して対策を講じる必要がある。無くなっていることさえ気づかないこともあるので、年に一回は物品の棚卸は実施すべきである。
さらに「消費ロス」の問題も無視できない。「消費ロス」の構造は、保管中(あるいは保管期間が長期で)の劣化によるロス、使用準備中のミスによるロス、使用したが、やり直しが発生したためのロス、標準的な使用量よりも多く使用してしまったためのロスなど、想定される消費ロスや実際に起こってしまった消費ロスのケースを踏まえて対策を講じることが大事である。特に患者に直接使用する物品は、患者に対して使用して、はじめて病院の収益になるので、患者へ使用する前にロスすることは絶対に避けるべきである。
次に購入物品の種類数の調査であるが、特に一品目当たり複数のメーカーの物品を購入していていないか注意してほしい。一品目複数物品は、在庫管理も難しく在庫スペースも取り、メーカー当たりの購入数が分散されてしまうので、購入側のスケールメリットが活かせないので、単価コストが下がりにくい。一品目一メーカーが理想的だが、様々な理由から困難であるならば、少しでも種類数を集約する努力は最低限するべきである。
そして、最後に必要量の削減である。必要量を削減するには、今までのやり方を見直す必要がある。書類などスキャンして電子保存しているにも関わらず、念のため紙にコピーしていないだろうか。今までこういうやり方で踏襲されてきたからという理由だけで、不必要な意味のない業務を行っていないだろうか。一度業務内容の見直しを徹底的に行い、必要量を再度計算しなおしてほしい。

次回コラムでは、外部の協力を得て経費削減するポイントを解説する。

著者プロフィール

株式会社FMCA
代表取締役

藤井 昌弘(ふじい・まさひろ)氏

1984年:医療関連企業入社
営業を経て、医療機関の運営改善や業務改善など大型プロジェクト専門職、医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事
2005年:退職及び株式会社FMCAを設立し同社代表取締役に就任

株式会社FMCA 代表取締役 藤井 昌弘(ふじい・まさひろ)氏

執筆
「病院のマネジメント」共著 建帛社
「医療機関における原価計算の取組み」、「診療圏調査への取組み」
「紹介率と医療連携」(完全返信を目指したシステム構築と運用)
「診療所における診療録の電子化についての一考察」
「新入社員のための教育研修ガイドライン」(ユニット1:医療とは何か?)日本衛生検査所協会 他
藤井昌弘の「医療・介護のWhat do you think?」(大塚商会)など継続掲載中

会員 他
日本医療・病院管理学会 会員
NPO法人HIS研究会 会員
MJS税経システム研究会 客員研究員(研究テーマ:戦略的医療機関経営)
埼玉女子短期大学 非常勤講師(担当科目:コーディング、医療法規等)
早稲田速記医療福祉専門学校 兼任講師(担当科目:財務諸表/原価計算・医療経営指標など)

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