2021年12月21日

今や主流!「クラウドシステム」のメリットを詳しく解説 第01回 医療現場でも「クラウド化」が進む時代背景とメリット

富士通Japan株式会社

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いま、クラウド化やDX(デジタルトランスフォーメーション)は、医療の現場にとっても大きなトレンドです。とくに近年は、少子高齢化が進む中、働き方改革の加速とともに、2020年に始まった新型コロナウイルス感染症拡大の影響も加わり、デジタル技術の導入が推進されています。クラウド化の波は医療の世界にも着実にやってきている背景を受け、今回、「クラウド」をテーマに、2回にわたってコラムをお届けいたします。

第1回では、医療におけるクラウド化の進む背景やその導入メリットについて、プロの医療コンサルタントの視点で解説します。また、第2回では富士通Japanが新たにリリースしたクラウド型電子カルテシステム「HOPE Cloud Chart II」の開発責任者のインタビューを交え、サービスリリースの背景や病院様へのメリットなどについてお伝えします。

医療現場でも「クラウド化」が進む
時代背景とメリット

MICTコンサルティング株式会社 代表取締役 大西 大輔 氏

デジタル化の歴史

かつて1970年以前の医療の世界は紙カルテ、紙レセプト、フィルムと、すべてがアナログの時代でした。医療デジタル化の歴史は約48年前、レセコン(レセプトコンピュータ)の発売開始にさかのぼります。その後、1980年代~2000年にかけて、オーダーリング、電子カルテ、画像ファイリングシステム(PACS)と発展を遂げていきます。現在の医療デジタル化の中心は電子カルテであり、電子カルテをプラットフォームとして、様々なシステムがつながって成り立っています。
2000年代に入り政府は積極的にデジタル化を進めるなか、1999年に法的に「電子カルテ」が認められ(診療録等の電子媒体による保存について【厚労省通知】)、2001年に「医療IT化に関するグランドデザイン」の第1弾が公表されます。当時のグランドデザインには、「5年以内に病院・診療所の6割に電子カルテを導入する」ことが目標として明記されています。
その後、2004年に「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」が出されることで、医療のシステム化に関するルールが整備されます。2006年には、レセプトのオンライン請求が推進され、いまではオンライン請求が当たり前となっています。
2010年には、「医療分野のクラウド解禁(診療録等の保存を行う場所についての一部改正【厚労省通知】)」により、クラウド技術でシステムの開発環境が著しく改善されました。
2021年現在では、その流れはさらに進み、自動精算機やセルフレジなどの導入が、「働き方改革」を受けた生産性向上を目的に進み、新型コロナによる「感染対策」として、オンライン診療・服薬指導などの診療のデジタル化が進んでいます。また、2021年10月からはオンライン資格確認が本格稼働し、2022年の夏をめどに電子処方箋が解禁される予定となっています。

クラウド化、医療DX

医療現場においては約10年前からクラウドの活用が始まっています。クラウド技術の活用の先には、様々な情報がクラウド上に集積されている世界がイメージされています。 最近では、「医療DX」という言葉をよく聞くようになりました。つい最近までは、医療IT、医療ICTと言われていたものが、急にDXと言われても、なかなか受け入れるのは難しいかもしれません。DXとは、Digital Transformationの略ですが、欧米ではTransを「X」で表すことから、DXと表現されています。DXを平易な言葉で表せば「デジタル技術を使いこなすことで新たな価値が生み出される」となります。代表例としては、AIやロボット、RPAの医療分野での活用がイメージされます。この流れはコロナ禍で一気に盛り上がりを見せており、これからの飛躍が期待されています。

データヘルス改革

政府のデータヘルス改革推進本部がまとめた「健康寿命延伸に向けたデータヘルス改革」によると、データヘルス改革で提供を目指すサービスとして、①保険医療記録共有 ②救急時医療情報共有 ③PHR・健康スコアリング ④データヘルス分析 ⑤乳幼児期・学童期の健康情報 ⑥科学的介護データ提供 ⑦がんゲノム ⑧人工知能(AI)の8つのサービスが例示されています。
政府はクラウドの先にあるデータ集積・活用をイメージして、今後のデジタルデータを活用し医療の質向上に資する社会を描いているのです。

図1 健康寿命延伸に向けたデータヘルス改革

出典:データヘルス改革推進本部資料(2018.7.30)厚生労働省

中小規模病院のデジタル化の課題

さて、病院の電子カルテの普及率を見ると、400床以上の大規模病院や200~399床の中規模病院では順調に普及が進んでいるものの、中小規模病院では普及が遅れていることが分かります。病院の規模によって電子カルテの普及率に差が存在しているのです。

図2 電子カルテの普及状況

出典:医療施設調査(厚生労働省)より作成 [注]2020年は予測の数値

ではなぜ、中小規模病院での普及が遅れているのでしょうか。まずはコストの問題が考えられます。かつて電子カルテの価格は「1床100万円」と言われ、100床で1億円にも上るとされていたのです。現在は価格の低下が見られており、少しリーズナブルな価格になってきてはいますが、中小規模病院の経営状況を見ると、その価格では導入は難しいというのが本音であったと思われます。
また、政府が2000年代から相次いで出した電子カルテの導入に関する補助金についても、基本的には200床以上の中核病院を対象としており、中小規模病院はその恩恵にあずかれなかったというのも普及が遅れた原因の一つでしょう。
また、中小規模病院のスタッフは比較的年齢層が高く、「パソコンやITが苦手」というスタッフが多いのも要因の一つです。さらに、非常勤医師が多く、たまにしか勤務しない医師にとっては、電子カルテをマスターしてもらうためのトレーニングの機会も少ないというのも原因として考えられます。
中小規模病院がシステム構築する際に、医療IT専任担当者を配置することもコスト面で難しく、既存スタッフによる兼務になりがちであり、その負担も導入に対する大きな課題となっていました。
このように、導入コストやスタッフのITリテラシー、専任担当者の配置などの理由から、大規模病院に比べて電子カルテの普及が難しかったという状況があったのです。

クラウドシステムのメリット

中小規模病院における電子カルテのクラウド化のメリットを考えてみましょう。メリットは、①コスト低減 ②利用場所を選ばない ③運用負荷の軽減 ④導入期間の短縮 ⑤端末が選べ、システム間連携も容易、の5つがあげられます。それぞれについて以下に解説します。

① コストが抑えられる

従来のように自院でサーバーを保有すると、それなりのイニシャルコストが発生します。また、サーバーを管理するためには、専門スキルを持つ担当者も配置しなければなりません。担当者がいない場合は外部に委託せざるを得ず、ランニングコストもかかってしまいます。その点、クラウドであれば、パーツを選んで利用する仕組みでカスタマイズをせずに利用できることでコスト減になり、サーバーを管理する担当者の配置も必要としないため人件費の削減にもつながります。

図3 クラウドとオンプレミスのコスト比較

② サービス利用の「場所」を選ばない

クラウドは安全を確保した上でインターネットにつなげば、場所を問わずに利用できます。オンプレミスの場合、特別な運用をしていない限り、外からは電子カルテにアクセスできません。その点、クラウドはインターネットを経由して利用できるため、遠隔地にいても院内と同様にアクセス可能です。社会情勢の変化により、在宅医療が増えている現状を考えると、場所を選ばずに利用できるのは大きなメリットと言えるでしょう。

図4 クラウドサーバーの利用場所

③ 運用の負荷が軽減できる

自院でサーバーを運用する場合、サーバーを維持するために専任スタッフを置く必要があります。安定性やセキュリティ面の確保など、システム維持のためにかかる負担は軽いものではありません。一方、クラウドサービスなら運用を任せきりにできるのがメリットです。従来は自院で行っていた細かなメンテナンスは、サービスの提供元が済ませてくれるので必要ありません。また、外部からの攻撃に対しても提供元が行ってくれるため、セキュリティ面でもメリットが大きいでしょう。

図5 クラウドとセキュリティ

④ 入期間が短縮できる

クラウドサービスはパーツを組み合わせて利用する形になるため、自院に合わせたカスタマイズをあまり行いません。クラウドタイプの電子カルテは、オーダーメイドとパッケージの中間にあたる「セミオーダメイド」というシステム構築の形態をとるようになります。
従来のように、仕様を決め、プログラムを開発し、テストをするといった「カスタマイズ」のプロセスが大幅に省かれるため、導入期間の短縮が期待できます。

図6 セミオーダメイド

⑤ 端末が選べ、システム間連携もしやすくなる

クラウドサービスは、さまざまな端末に対応しています。パソコンだけでなくスマートフォンやタブレットからもアクセスできるので、モバイル性が高く、ベットサイドでの利用や在宅でもモバイル端末で利用が可能です。別の場所にいるスタッフ同士が情報共有することも簡単にできます。さらに今後、API(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)の開発が進めば、他システムとの連携もスムーズに進むことでしょう。

図7 クラウドの端末、API連携のイメージ

クラウド化の経営的視点

最後に、クラウド化の経営的視点にも触れておきましょう。医療現場の効率化が進んでいる欧米では、「病院マネジメントシステム」が広く浸透しています。病院マネジメントシステムとは医療ITのカテゴリーの一つで、病院における経営の課題や業務の負担などを軽減するためのソフトウェアの総称です。
これまで我が国では、これらの病院マネジメントシステムはレセコンや電子カルテの「付録」程度に考えられてきました。今後は、クラウド化が進むことで、病院マネジメントシステムの世界は大きく発展していくことが予想されます。
今後は、少子高齢化が進む中、医療費削減なくして社会保障制度を維持することは難しくなり、プラス改定は期待できません。また、新型コロナの影響で患者数も減少に転じており、病院経営は、ますますコスト削減に意識を向ける必要があるのです。
病院の改善活動を「SOAP」で考えるならば、経営分析は「O」(Object)にあたります。現在のように状況が刻々と変わる中、リアルタイムに経営を見える化し、アクションプランを構築し、PDAサイクルを高回転で回すためには、経営分析は必要不可欠な機能となることでしょう。そこで活躍するのが、莫大なデータをリアルタイムに扱えるクラウド基盤なのです。

図8 病院経営分析システムと改善活動の関係

参考文献

著者プロフィール

MICTコンサルティング株式会社 代表取締役

大西 大輔 氏

過去3,000件を超える医療機関へのシステム導入の実績に基づき、診療所・病院・医療IT企業のコンサルティングおよび講演活動、執筆活動を行う。

経歴
2001年 一橋大学大学院MBAコース修了
2001年 医療系コンサルティングファーム「日本経営グループ」入社
2002年 医療IT総合展示場「メディプラザ」設立 (~2016閉館)
2016年 コンサルタントとして独立し、「MICTコンサルティング」を設立

大西 大輔 氏

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