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研究開発最前線


雑誌FUJITSU 2017-9

2017-9月号 (Vol.68, No.5)

富士通研究所は,現在および将来の社会課題を解決するために,常にグローバルな視野で最先端テクノロジーを研究開発し,富士通グループの成長を牽引することをミッションとしています。先端材料,次世代素子,コンピュータ,ネットワーク,ICTシステムの研究開発から次世代のソリューション・サービス・ビジネスモデルの創出まで,幅広い分野の研究開発に取り組んでいます。
本特集号では,AIの将来展望,ハードウェア・ミドルウェアからアプリケーションまで全てのレイヤーをカバーしたAI技術,最新の先端基礎研究への取り組み,およびブロックチェーンなどのICTを活用した応用事例についてご紹介いたします。


巻頭言

研究開発最前線特集に寄せて (531 KB)
株式会社富士通研究所 代表取締役社長 佐々木 繁, p.1-2

特別寄稿

ディスカバリーサイエンス再考 (676 KB)
富士通研究所フェロー 有川ディスカバリーサイエンスセンター長 有川 節夫, p.3-7

先端基礎研究

組み合わせ最適化問題向けハードウェアの高速化アーキテクチャー (818 KB)
塚本 三六, 高津 求, 松原 聡, 田村 泰孝, p.8-14
社会では,限られた人や時間などの制約のもとで難しい意思決定を迫られる場面,例えば災害復旧の手順を決める場合や,投資ポートフォリオの最適化,経済政策の決定などがしばしば発生する。このような意思決定においては,様々な要因の組み合わせを考慮して評価を行い,最適なものを選択する「組み合わせ最適化問題」を解く必要がある。組み合わせ最適化問題は,考慮する要因の数が増えると組み合わせの数が爆発的に増えるため,現行の汎用ノイマン型プロセッサを用いた単純な数え上げ法では現実的な時間内で解くことが難しい。筆者らはこのような課題を解決するため,1,024ビットの全結合イジングモデルを高速化する手法を開発し,FPGA(Field-Programmable Gate Array)に実装した。組み合わせ最適化問題の例として32都市の巡回セールスマン問題を実際に解き,3.5 GHzのIntel Xeon プロセッサー E5-1620 v3上で同じ処理をした場合に対して約12,000倍の高速化が確認された。
Deep Learningのための高効率化技術 (706 KB)
池 敦, 石原 輝雄, 富田 安基, 田原 司睦, p.15-21
近年,Deep Learningと呼ばれる機械学習手法が注目されている。Deep Learningは,人間が特徴量をプログラミングする既存手法を圧倒する認識精度を実現できることから,世界的に注目され研究開発が加速している。ニューラルネットワークは,より高精度な認識を実現するため,その層数は年々深くなってきているが,こうした深層化に伴う課題も見えてきている。それは,ニューラルネットワークの学習時間の増大と,メモリサイズ制限によって生じるネットワーク規模の制約である。
本稿では,これらの課題を解決するための技術を紹介する。一つ目は,Deep Learningの高速化を可能にする分散並列技術であり,二つ目は,ニューラルネットワークの大規模化を可能にするメモリ使用の効率化技術である。そして三つ目として,使用するデータサイズそのものを必要最小限自動的にチューニングする技術により,高速化とメモリ効率化の双方を更に加速する専用ハードウェアアーキテクチャーについても解説する。
FPGAアクセラレーターによるドメイン指向コンピューティング (842 KB)
渡部 康弘, 藤澤 久典, 小沢 年弘, p.22-28
ドメイン指向コンピューティングとは,適用するアプリケーション領域を絞ることでサーバの桁違いな性能向上を図るアプローチである。FPGA(Field-Programmable Gate Array)は,アプリケーションに応じて演算器やメモリを適切に構成できるドメイン指向コンピューティングの実現に有用な汎用デバイスの一つである。今回,FPGAを活用した高速化技術により,画像検索処理に特化して高速化を実現した「メディア処理向けドメイン指向サーバ」を開発した。更に,ドメインに特化した高性能なアクセラレーターをFPGA上に効率的に設計するための技術として,モジュール間のデータ依存関係や性能ボトルネックを可視化し,アーキテクチャーレベルでの構造設計を容易にするFPGA設計支援環境を開発した。
本稿では,メディア処理向けドメイン指向サーバを実現するFPGAによる部分画像検索アクセラレーターと高速文書画像検索システムへの適用,および高性能なFPGAアクセラレーターの設計を可能にする設計支援環境について述べる。
人やモノのつながりを表すグラフデータから新たな知見を導く新技術Deep Tensor (995 KB)
丸橋 弘治, p.29-35
人やモノのつながりにより表現されるグラフデータを,つながりの形状に基づいて分類することが求められている。こうした分類は,例えば通信ログのIPアドレスやポート番号の間のつながりに基づく攻撃の発見や,銀行取引履歴の口座や支店の間のつながりに基づく不正取引の発見といった問題において,特に重要である。しかし,大量のグラフデータを分類の対象とする場合,専門家が人手で設計した部分グラフの一致に基づく従来のグラフ分類手法では,高精度な分類の実現には限界があった。そこで筆者らは,グラフデータを高精度に解析できる機械学習技術Deep Tensor(以下,DT)を開発した。DTは,テンソル分解と呼ばれる技術を応用することにより,専門家の設計に頼ることなく,グラフデータの特徴量の抽出方法をニューラルネットワークと同時に学習する。
本稿では,全く異なる三つの分野のデータに適用した実験により,DTがグラフデータを従来手法より高精度で分類できることを示す。また,DTによる予測結果は,ニューラルネットワークの活性に基づく解釈が可能であることも示す。
都市の警備配置問題を高速に解くAI数理技術 (772 KB)
岩下 洋哲, 大堀 耕太郎, 穴井 宏和, p.36-42
犯罪被害を最小化するために,警備側が取るべき行動をゲーム理論によって数理的に分析する技術は「警備ゲーム」と呼ばれ,近年,人工知能(AI)やマルチエージェントの研究分野で注目されている。またこれは,既に米国などの複数の公的機関でも活用が始まっている技術である。しかし,攻撃目標に向かう犯罪者を検問所で確保する「都市ネットワーク警備ゲーム」は難しい問題として知られており,これまで現実の大都市規模の問題を安定して取り扱える解法がないことが実用化の障害となっていた。この課題を解決するために,筆者らはAI数理技術を応用した最小カット配置とグラフ縮約の手法を開発した。最小カット配置のアルゴリズムは,最大の警備効果を達成するための警備員の効率的な配置場所を探し出す。グラフ縮約による単純化は,計算コストが問題の大きさに対して指数的に増大する都市ネットワーク警備ゲームにおいて,計算速度の劇的な改善をもたらす。
本稿では,これらの開発手法を解説するとともに,東京23区の大規模問題(約20万ノード)に対する試行結果を紹介する。
感性デジタルマーケティングを支えるメディア処理技術 (905 KB)
外川 太郎, 佐藤 輝幸, 斎藤 淳哉, p.43-51
近年,スマートフォンやソーシャルメディアの普及により,顧客の購買行動は複雑化・多様化しており,実店舗やECサイトなどのあらゆる顧客接点において,顧客が製品やサービスに関する情報にアクセスできるようになった。そこで,スマートフォンなどを通じて顧客の関心を捉え,個人に合った商品を提示するデジタルマーケティングが注目されている。その中でも,様々な顧客接点で得られた顧客データを相互連携させて,チャネル全体としてサービスを向上させるオムニチャネルの取り組みが広がっている。富士通研究所では,オムニチャネルにおける様々な顧客接点において,顧客の興味や満足度などの感性情報を連続的に捉え,購買フェーズや顧客ごとの感性に応じて適切なタイミングで顧客に働きかけることで,最適な顧客体験を創造する「感性デジタルマーケティング」の実現に向けた研究を進めている。
本稿では,感性デジタルマーケティングを支えるメディア処理技術として,広告文作成支援技術,タッチセンシング技術,および音声分析技術について解説するとともに,その応用事例を紹介する。
顧客接点を高度化するサービスロボット基盤技術 (802 KB)
上和田 徹, 今井 岳, 金岡 利知, 武 理一郎, p.52-61
近年,人と話をするコミュニケーションロボットを実用化し,ビジネスを立ち上げる動きが活発化している。たいていのコミュニケーションロボットは,ユーザーからの指示を受けてから動作するが,そのためにはまずユーザーが指示の仕方を覚える必要がある。そこで富士通研究所では,ロボットの方から能動的に話しかけることで役立つサービスへと導くロボットの実現を目指し,サービスロボット基盤技術を開発している。この基盤技術では,ロボット向けのアプリを多数用意しておくと,その中からロボットが人の好みや状況に合ったアプリを選択してユーザーと会話する。このときのユーザーの反応は基盤側で収集し,以降のアプリ選択に反映していく。この基盤を適用したロボットによって,サービス提供者は様々なサービスを提示し,嗜好がマッチするユーザーとサービスとを結び付ける顧客接点の高度化が図れる。
本稿では,富士通研究所が開発した人とロボットとのインタラクションを通じてその人の嗜好や状態を獲得し,適切なサービスへと導くサービスロボット基盤技術について述べる。
次世代ICTを切り拓くブロックチェーン技術 (830 KB)
小暮 淳, 鎌倉 健, 島 常和, 久保 竹清, p.62-68
ブロックチェーン技術とは,中央集権機構を持つことなく,改ざん耐性,高可用性,透明性などを併せ持つ分散データ管理を低コストで実現する技術であり,次世代ICTを切り拓くブレークスルーとして期待されている。元々は,仮想通貨であるビットコインを実現するために考案された技術であるが,より広い金融分野,更には流通や,シェアリングエコノミーなど,様々な分野への応用が期待されている。一方で,応用範囲を広げるためには,データのプライバシー保護や処理性能向上などの技術的課題があるため,富士通研究所ではそれらを解決するための研究開発を行っている。
本稿では,まずブロックチェーン技術の概要および応用事例を紹介し,次にビジネスに適用する際の課題を解決する秘匿制御技術について解説する。最後に,富士通のブロックチェーン製品化・サービス化への取り組みと,その一環で行っているOSS(Open Source Software)プロジェクト活動について述べる。
標的型攻撃の全貌をひと目で把握する高速フォレンジック技術 (1.31 MB )
海野 由紀, 及川 孝徳, 古川 和快, 森永 正信, 武仲 正彦, p.69-77
政府官公庁や特定の企業,個人を標的として情報窃取を行うことを目的とした標的型攻撃は年々増加を続けており,その攻撃の手口はますます巧妙化している。標的型攻撃では,攻撃者は標的を十分に事前調査して執拗に攻撃を仕掛けるため,組織内ネットワークにマルウェア(悪意のある不正なコード)が侵入するリスクが高くなる。そのため,マルウェアが侵入することを前提にした対策の必要性が高まっている。万が一,マルウェアが組織内ネットワークに侵入したとしても,可能な限り早い段階でその攻撃活動を検知し,攻撃が広がる前に適切に対処して被害を最小限に抑えることが重要である。この適切な対処の実現を目的として,筆者らは攻撃を見つけた後に被害の状況を迅速に分析する高速フォレンジック技術を開発した。
本稿では,これまで長い時間がかかっていたセキュリティ事故の分析が短時間で実現でき,被害が拡大する前に迅速に包括的な対策を講じることを可能とする高速フォレンジック技術について述べる。
業務システムのモダナイゼーション支援技術 (1.03 MB )
前田 芳晴, 上村 学, 矢野 啓介, p.78-84
ビジネスのデジタル化が加速する中,どのようにして既存の業務システムをICTやビジネスの変化に対応させていくかが課題となっている。システムを仮想化してクラウドに移行するだけでなく,業務拡大や他サービスとの連携など,ソフトウェアを柔軟性の高い構造に移行することが望まれている。一方,稼働中のシステム全体を新たに作り直すのは,コストやリスクの観点から現実的ではない。
本稿では,システム全体の移行ではなく,システムから部分を抽出し,部分ごとに特性に合わせた形に移行していくアプローチを示し,その実現を支援する三つの技術を紹介する。まず,ソフトウェア地図を作成してプログラム資産の全体の概観と機能間の関係を可視化する。次に,業務ロジック複雑度や更新頻度などのプログラムの特徴量を算出して地図上の建物の高さに設定することによって,移行対象の機能とプログラムの優先付けを行う。最後に,優先付けしたプログラムをシンボリック実行によって解析して,実装された業務上の決まりや計算の方法などを理解しやすい条件表の形式で抽出する。本アプローチによって,SoR(Systems of Record)である既存システムから機能部分を抽出し,機能ごとの移行の方法として,例えばAPI(Application Programming Interface)の切り出しによるサービス化,BRMS(Business Rules Management System)化,あるいは継続活用のような計画立案が可能となる。
クラウド時代のエンドツーエンドネットワーク技術 (1.03 MB )
小口 直樹, 片桐 徹, 松井 一樹, Wang Xi, 関屋 元義, p.85-94
近年,IoT(Internet of Things),第5世代移動通信(5G)といった技術の登場やクラウドサービスの進展により,業種やサービスごとにユーザーデバイスからクラウドに至るエンドツーエンドの閉じたネットワーク空間(ネットワークスライス)を,オンデマンドかつ簡単に構築する仕組みが求められている。従来,一つのネットワークインフラ内では,SDN(Software Defined Networking)技術により仮想ネットワークを構築し,ネットワークスライスを実現できていた。しかし,クラウドとユーザー拠点のように複数のネットワークインフラにまたがるネットワークスライスを構築する場合は,ネットワークインフラごとに設定方法が異なることに加え,ユーザーはそれらの間をつなぐVPN(Virtual Private Network)などに対する配慮が必要であり,専門知識がないと構築が困難であった。そこで,複数のネットワークインフラを単一のネットワークインフラとして仮想化し,簡単にネットワークスライスを構築できる仕組みを提案する。
本稿では,ユーザーデバイスからクラウドに至るネットワークスライスの統合的な構築,運用,管理の課題,および解決のアプローチを,仮想化,ソフトウェア化の流れの中で論じる。また,その上で展開される情報指向ネットワーク技術などの最新研究を紹介する。
100 Tbps光通信を実現する光変復調技術と光ノード技術 (796 KB)
星田 剛司, 谷村 崇仁, 加藤 智行, 渡辺 茂樹, 陶 振寧, p.95-100
人・情報・モノをつなぐハイパーコネクテッド・ワールドの実現や,IoT(Internet of Things),ビッグデータ,人工知能(AI),および第5世代移動通信システム(5G)を含むICTの将来にわたる発展には,情報の伝達を支える光ファイバー通信ネットワークの大容量化が不可欠である。ネットワークを流通するデジタルデータは増大する一方であり,2020年以降に光ファイバー1芯あたり100 Tbps級の伝送容量が必要になると予測されている。しかし,従来技術の改良による大容量化は限界に近づきつつあり,限界を打破する新しい技術の研究開発が必須である。そこで筆者らは,光ファイバー通信ネットワークの主要な構成要素である光送受信器および光ノードについて,大容量化技術の研究開発に取り組んでいる。
本稿ではこのうち,大容量信号を送受信するための光変復調技術と,広帯域光信号を低電力にスイッチング処理するための光ノード技術の開発に関する最新の取り組みを紹介する。
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