日本政策金融公庫は、メインフレーム主体で事業ごとに構築されていたシステム基盤をプライベートクラウドへ集約した。
システム基盤はOSS(注1)を軸に構築し、システムの統合監視は 「FUJITSU Software Systemwalker Centric Manager」、サーバのリソース管理は「FUJITSU Software ServerView Resource Orchestrator」で実施。ベンダーロックインの排除に加え、運用管理の最適化やサーバリソースの有効活用により運用コストを約3分の2に削減し、業務サービスとITガバナンスの向上を実現した。
[ 2016年2月26日掲載 ]
業種: | 金融・保険証券 |
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製品: |
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1 | 特定ベンダーへの依存をなくして事業共通のシステム基盤を構築したい | ![]() |
ベンダーロックインを排除しプライベートクラウドで共通システム基盤構築 |
2 | 事業単位のシステムごとに行っていた運用・保守を効率化したい | ![]() |
監視業務を一元化し運用管理の最適化によりコストを削減 |
3 | サーバの余剰リソースを有効活用したい | ![]() |
リソースのプール化・利用量に応じた動的切り出しで有効活用を実現 |
日本政策金融公庫は国民生活金融公庫、農林漁業金融公庫、中小企業金融公庫および国際協力銀行(2012年分離)が2008年に統合して発足した政府系金融機関である。
国の政策の下、民間金融機関の補完を旨としつつ、社会のニーズに対応して、種々の手法により政策金融を機動的に実施することで、国民生活の向上に寄与することを目的としている。
渡邊 英己氏
株式会社日本政策金融公庫
システムインテグレーションオフィス マネージャー(公庫共通基盤・共通システム担当)
同公庫の基幹システムは経営統合直後、事業ごとに旧機関を踏襲したかたちで、システム基盤から業務アプリケーションまで個別に構築・運用していた。
システムインテグレーションオフィス マネージャー (公庫共通基盤・共通システム担当) 渡邊 英己 氏は「当初は13台のメインフレームや各種サーバが乱立したり、様々なベンダーのソフトウェアが混在したりしていました。そのため、コストの高止まり、特定ベンダーへの依存、柔軟性・拡張性低下など多くの問題を抱えていました」と振り返る。
同公庫は諸種の問題を解決すべく、2010年に「公庫全体システム最適化計画」を策定し、基幹システムの最適化に着手した。
「コスト削減や柔軟性・拡張性向上などを狙い、メインフレームを全廃してオープン化し、プライベートクラウドによる全社共通のシステム基盤に集約する方針としました。あわせて、競争原理を働かせることでコスト削減などにつながるよう、ベンダーロックイン排除のためにOSSを優先し、適切なOSSがなければ、デファクトスタンダード製品を採用するという方針を打ち立てました」(渡邊氏)
システム基盤は検討の結果、OSにはLinuxディストリビューション「Red Hat Enterprise Linux」、ハイパーバイザーにはLinux標準の仮想化技術「KVM」の採用を決めた。
今回のシステム基盤集約では、運用管理の最適化も命題であった。
「運用管理は従来、3事業のシステムごとに異なるツールを導入し、個別に行っていたため、運用・保守の煩雑さとコスト増に悩んでいました」と渡邊氏は明かす。
加えて、サーバリソースの問題への対処も求められていた。
従来は事業ごとに物理サーバを導入しており、CPUやメモリといったサーバリソースは、負荷のピーク時にあわせたスペックを選定せざるを得なかった。
「サーバの余剰リソースが有効活用できておらず、コスト増の一因となっていました」(渡邊氏)
これらの課題を解決しつつ最適なシステム基盤を構築するためのポイントの一つがミドルウェアだ。
「システム基盤は日本政策金融公庫の事業を下支えする存在であり、システム基盤の構築や運用管理に欠かせないミドルウェアを重視しています。ベンダーロックインからの脱却を推進するには、OSやハイパーバイザーといったキーになる製品のみならず、システム統合監視やプライベートクラウドのリソース管理などにおいても、OSS / デファクトスタンダード製品に対応した製品を導入する必要がありました」と渡邊氏は述べる。
複数ベンダーによる入札の結果、ミドルウェアはシステム統合監視にSystemwalker Centric Manager、プライベートクラウドのサーバリソース管理にServerView Resource Orchestratorが採用された。
渡邊氏は同公庫の方針に、富士通のミドルウェアが最も適していた点を評価する。
「Systemwalker Centric ManagerとServerView Resource Orchestratorの両方ともOSSにいち早く対応していました。中でも、KVMへの正式対応を表明していたリソース管理ソフトウェアは当時、ServerView Resource Orchestratorだけでした」(渡邊氏)
システム基盤集約は、いずれかの事業のシステムに"片寄せ"するのではなく、プライベートクラウド上に各事業のシステムを再構築するかたちで進められた。
アプリケーションは原則手を入れず、約1980万ステップにのぼる既存のCOBOL資産をマイグレーション。システム基盤の統合監視をSystemwalker Centric Manager、リソース管理をServerView Resource Orchestratorで実施した。
「性能と可用性は基本的に従来の品質を保持しています。一部、遠隔地へのオンラインバックアップを高頻度で実施できるようにするなど、可用性をさらに向上しました」(渡邊氏)
多い時は10本のサブプロジェクトが並行で走るほど大規模なプロジェクトであった。
システム基盤構築は富士通が担当。「富士通の着実なマネジメントのおかげで、期日内に無事構築できました」と渡邊氏は振り返る。
【株式会社日本政策金融公庫様導入事例 システム概要図】
新システムは2015年4月から順次運用を開始した。
3事業のシステム基盤をプライベートクラウドに集約した結果、メインフレームは全廃、乱立していた物理サーバは約770台から約300台に削減できた。
そして、Systemwalker Centric Managerによって、OSS / デファクトスタンダード製品を軸とするシステム基盤の統合監視を、ServerView Resource Orchestratorによって、OSSのハイパーバイザーであるKVMのリソース管理を実現できた。
「OSS / デファクトスタンダード製品を優先するという方針をより高いレベルで推進できました」(渡邊氏)。
さらには、従来は3事業ごとに行っていた監視業務をSystemwalker Centric Managerによって一元化したことなどにより「運用管理の最適化やITガバナンスの向上にも寄与できました」(渡邊氏)。
サーバリソースの有効活用についても、狙い通りの効果が得られている。
「ServerView Resource Orchestratorによって、ピーク時のみリソースプールから必要な分だけ増強するなど、リソースの有効活用が可能な体制を整備できました」と渡邊氏は手応えを感じている。
その上、ServerView Resource Orchestratorのテンプレート機能によって、頻繁に使う構成の仮想サーバのひな形をあらかじめ用意しておくことで、サーバ構築も効率化した。
日本政策金融公庫が今回実施したプライベートクラウド集約や運用管理の最適化などをトータルすると、「システム全体の運用コストを約3分の2に削減できました」と渡邊氏は語る。
同時に、ベンダーロックインからも脱却、運用・保守性の向上なども達成でき、同公庫の今後を支える最適なシステム基盤の構築に成功した。
今後は一部で残っているアプリケーションのマイグレーションを進めるとともに、「セキュリティや災害対策の強化などに取り組みたいですね」と展望を述べる渡邊氏。
また、OSSやデファクトスタンダード製品の動向チェック、最適な製品選定やリプレースの検討なども継続的に行いつつ、システムのさらなる最適化を進めていく。
社名 | 株式会社日本政策金融公庫 |
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本社所在地 | 東京都千代田区 |
発足 | 2008年10月1日 |
資本金 | 3兆8,819億円(2016年2月3日現在) |
代表取締役総裁 | 細川 興一 |
職員数 | 7,364人(2015年度予算定員) |
事業概要 | 一般の金融機関が行う金融を補完することを旨とし、国民一般、中小企業者及び農林水産業者の資金調達を支援するための金融の機能を担うとともに、内外の金融秩序の混乱又は大規模な災害、テロリズムもしくは感染症などによる被害に対処するために必要な金融を行うほか、当該必要な金融が銀行その他の金融機関により迅速かつ円滑に行われることを可能とし、もって国民生活の向上に寄与することを目的として業務を行っている。
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仮想化・システム集約により店舗システムを最適化
既存のCOBOL資産活用を軸にコストを大幅に削減
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