【出席者 写真左から順に】 | |
富士フイルム株式会社
記録メディア事業部 記録メディア研究所 所長 野口 仁 氏 記録メディア事業部 営業部 統括マネージャー 江尻 清美 氏 取締役 執行役員 記録メディア事業部長 柴田 徳夫 氏 |
富士通株式会社
エンタープライズシステム事業本部 ストレージソリューション事業部 事業部長 高野 明 テープシステム開発部 部長 橋本 恒二郎 佐藤 淳一 |
コンピュータ用磁気テープで世界シェアトップの富士フイルム様との未来対談。ETERNUSのテープシステム(装置)で利用可能な磁気テープを生産している富士フイルム様の神奈川工場小田原サイトで、過去・現在を踏まえ「テープストレージの未来」を語っていただいた。
※ FFは富士フイルム、FJは富士通を示しています。
FF(野口)
磁気テープというと皆さん、音楽用のコンパクトカセットテープや映像用のビデオテープが一番馴染み深いと思います。富士フイルムはこうした家庭用はもちろんですが、それよりも前の1959年に、日本初の放送局用ビデオテープを開発しました。磁気テープとの関わりとなりますと、研究期間も含めて60年くらいになります。
FF(江尻)
コンピュータのデータ保存用としては、富士フイルムが日本で初の国産オープンリール方式の磁気テープを出したのが1965年です。
FJ(高野)
磁気テープの歴史は、他の記録メディアと比べても本当に長い。富士通も磁気テープ装置を初めて出したのが1960年で、その頃まで遡ると、富士通社内にも当時のテープについて語れる人がいないくらいです。
FJ(橋本)
長い歴史を持つテープストレージの一番の肝は、何と言っても磁気テープ。そこをいかに高密度にするかというところで進化してきましたね。
FF(野口)
磁気テープには「磁性体」と言って、情報を記録する磁石が塗布されています。この磁性層を薄く均一にするほど、高密度に記録できるようになります。富士フイルムは1992年、従来のメタル磁性体をサブミクロン単位で薄く塗る「ATOMM(アトム:Advanced Super Thin Layer & High Output Metal Media)」技術を開発し、DLT(Digital Linear Tape)テープの容量を飛躍的に向上させました。その品質と信頼性の高さが様々なドライブメーカーさんに評価されたことがきっかけで、コンピュータ用のテープ供給を増やしてきました。
さらに2001年には、そのATOMM技術を進化させた「NANOCUBIC(ナノキュービック)」技術を開発し、ナノ単位の厚さの塗布に成功しました。現在主力となっているLTO(Linear Tape Open)テープは、こうした60年近い歴史と最先端の技術で高密度化してきました。
画像提供:富士フイルム株式会社
FF(江尻)
現在、一番薄い磁気テープの厚さは5µmちょっとです。
FJ(橋本)
今の磁気テープは、触ってみると本当に薄くてペラペラですよね。それでも昔のオープンリールテープのように切れることもくっつくこともない。すごい技術です。
FF(野口)
富士フイルムがBaFeの研究をスタートさせたのは、ATOMMを開発した1992年です。すでにハードディスクが世の中に出ていましたが、データストレージの主流は磁気テープ。磁性体を小さくしていくことで、将来も磁気テープの容量はまだまだ伸びるという時代でした。しかしながら、メタル磁性体は金属ですから、酸化による劣化を防ぐための保護膜が必要になります。
画像提供:富士フイルム株式会社
磁性体をどんどん小さくしていくと、言ってみれば皮ばかり厚くて中身の餡子が少ないお饅頭のようになってしまう。いずれ記録容量の限界が来ることは、原理から考えて多くのテープメーカーさんが懸念していました。しかし当時はメタル磁性体の技術がどんどん進化していく中で、「大丈夫なんだろう」という風潮がありました。
そうは言っても、なんとかしなければいけません。そこで当時の記録メディア研究所内に、メタル磁性体に代わる新しい磁性体を開発するための小さな研究チームが結成されました。その研究チームで注目したのがBaFeです。BaFeはもともと酸化鉄ですから、劣化が起こらず化学的に安定しています。しかもメタル磁性体の20~50%程度、20nmまで微粒子化でき、飛躍的な大容量が期待される磁性体でした。
FF(柴田)
BaFeの研究はかれこれ20年以上前からスタートしています。常に先を見ながら、長い年月をかけて価値のある技術や商品をつくっていくという取り組みは、富士フイルムの歴史を見ても当たり前のことです。
FF(野口)
ところがいざ研究を始めたものの、実際は途中でけっこう挫折も経験しました。20年間ひたすらBaFeを研究していたわけではなく、時にはペンディングしたり、他の商品に携わったりしながら取り組んできました。浮き沈みはありつつも、一度止めてしまっては復活できなくなります。変化しながらでも続けられたことが、今につながっています。
FF(柴田)
我々の仕事は、こういう信念のようなものが大事です。それを理解する上層部も必要ですが、やはり現場の担当者の意思が一番大事です。しかも研究所は、単に新しい磁性体を開発するだけではなく、ドライブメーカーさんへも自分たちで働きかけて、周囲を引き込みながら品質の向上に取り組んでいます。
FF(野口)
そうですね。BaFeの性能を出すためには、非常に高感度な磁気ヘッドが必要だったんです。しかし我々がテープシステム全体を設計することはできませんから、当時の最先端のハードディスクの磁気ヘッドを使ってBaFe磁性体のテープを評価できる実験装置を作りました。それをドライブメーカーさんに見せて「これくらい高感度なヘッドがあれば、BaFeの優れた性能を引き出せます」と説明したんです。すると「そこまでやるなら私たちもやってみましょう」と言ってもらえました。単にテープメディアのサンプルを渡して「良いはずだから見てください」と言うだけでは、なかなか相手も動いてくれませんから、こちらから働きかけるということは常に意識しています。
FJ(佐藤)
私は富士通に入社以来テープ開発に携わり、富士フイルム様のテープメディアの評価もさせていただきましたが、テープがいろいろな問題に直面するたびに富士フイルム様が改善していってくださいます。古いところでは、テープにバックコートを追加してテープ同士のくっつきを解消したり、テープを高速で巻き付けるときの空気の逃げを良くして、リールの隙間をできるだけ少なくして折れを防いだりと、我々にその都度説明したうえで新しい技術や機能を追加してくださっていますね。
第2回 膨大なデータ生成量に追随して進化を続けるテープシステムの"いま"を発信し続けたい >>
第3回 ビッグデータ/IoT時代のお客様のビジネスを支えるデータストレージとして >>
テープが見直される理由
更掲載日:2015年10月13日
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