地域創生とDX
~神恵内村のデジタル化戦略と未来展望

神恵内村の子供たちや、地域の住民、富士通社員の集合写真

北海道の西側にある日本海に面した小さな村、神恵内村。人口は約750人、豊かな自然と漁業が特徴です。そんな神恵内村に、2021年に「地域DX人材」として派遣されたのが、福地 達貴です。地域DX人材とは、DXの知見を有する富士通社員が、現地で地域の住民の方々と一体となって地域課題解決に取り組む活動で、2024年12月現在20地域24名の人材が派遣されています。

福地は、地域DX人材として3年間、神恵内村の課題解決に取り組みました。デジタル技術と住民の協力を組み合わせた独自の取り組みを通して、新たな未来への道を切り開きました。本記事では、その挑戦と成果、そして今後の展望を紹介します。

目次
  1. コロナ禍でのプロジェクト立ち上げ
  2. 「かもチャン」を通じて見えたもの
  3. 「自分事」で未来を考えるワークショップ「未来の語り場」
  4. 地域課題と向き合い続けて行くために必要なのは「Willがある人が集うこと」

コロナ禍でのプロジェクト立ち上げ

私が神恵内村に赴任した2021年は、コロナ禍の真っただ中でした。人と人との関わりが激減し、皆が集って行うようなイベントは開催できない状況。神恵内村の地域課題を解決するプロジェクトは不安からのスタートでした。
村の方々を集めることができないため、まずは直接足を運んでお話を伺うことにしました。すべての村の方々のご自宅を訪問し、抱えている課題や感じていることをヒアリングした際の気づきは、「何とかしなければならない」と感じている人がそれほど多くないという現実です。私のようなDX人材が必要だという考えに対しても、全員の賛同を得られたわけではなく、「何もないのに」といった声も少なからずあり、地域住民自身が地域課題に向き合うことの難しさを痛感しました。
村長をはじめ、一部の方々は課題意識を持ってくださり、私を受け入れてくださいましたが、課題を認識していたとしても、それを具体的にイメージし、行動に移す難しさもあります。これが地域DX人材としてのプロジェクトの出発点でした。

「かもチャン」を通じて見えたもの

私が行ったプロジェクトの一つに「かもチャン」というサービスがあります。これはスマートデバイスを使って村の情報を発信するものです。最初は「そんなの使わないよ」といった声が多く、多くの困難があったことを覚えています。では、どうすれば村の人たちに使ってもらえるのか。チームのみんなと議論を重ねた結果、子どもたちに「かもチャン」に出演してもらうことが良いのではないかという結論に至りました。
このアイデアを実現するためには、先生や学校の協力はもちろん、保護者の方々の理解と協力も不可欠です。コロナ禍で減少してしまった村民同士の「つながり」をもう一度作り上げるためにも、「かもチャン」の必要性を何度も説明し続けました。その努力が実を結び、ようやくサービスを立ち上げることができました。
サービスが始まると、子どもたちの元気な様子が村の中で共有されるようになり、多くの村民が「かもチャン」を視聴し、「いいね」を押してくれるようになりました。時にはもっと見たいと画面を拡大して食い入るように見る方や、タンスからタブレットを引っ張り出して「かもチャン」を見る方もいらっしゃいました。こういった経験を通して、ITという道具を使い、村の人たちが知るべき情報や村の魅力を発信することの重要性を切に感じました。
一方で、この事業はデジタル田園都市国家構想(※1)の一環として国の予算を活用して立ち上げたものであり、持続可能な活動にするには、という課題も見えてきています。今後は、村民自身が主体的に運営し続けられるような仕組みを構築することが求められています。

村民がタブレットで「かもチャン」上に発信される村の情報を見る様子

「自分事」で未来を考えるワークショップ「未来の語り場」

3年間の出向期間が終わりを迎えるにあたり、神恵内村が村として存続し続けていくためには、村民自身が「自分事」として未来を捉える気持ちを育てることが大切だと感じました。この思いを実現するために、富士通の仲間たちと共に「未来の語り場」というワークショップを開催しました。
このワークショップは、村の子どもたちと大人たちが一堂に会し、未来の神恵内村がどんな姿であってほしいかを話し合うものです。参加者全員が村長になったつもりで、自分たちがどんな村を作りたいかを想像し、そのために何ができるかを「自分事」として考えてもらうことが目的でした。
結果として、語り場は非常に画期的な体験になったと思います。子どもたちに神恵内村で何を実現したいかを考えてもらったところ、親子間で「これをやるために神恵内村に帰っておいで」といった会話がなされていました。また、大人たちも子どもたちの意見を真剣に受け止め、自分たちの未来について再考するきっかけとなったようです。
私はこの経験を通して、「自助」ではなく「共助」が地域の未来を築く上で不可欠であることを再認識しました。自治体が主体なのではなく、地域住民が主体となり、それを自治体が支援する形が望ましいと考えます。さらに、地域住民が異なる地域の人々を巻き込み、共に取り組むことで、より強固なコミュニティが形成されると感じました。ワークショップ「未来の語り場」を通じて得たこの気づきは、今後の地域活動においても大切な指針となりました。

小学校低学年くらいの男の子が、自身のアイデアを発表している様子 村の子ども達が参加したワークショップ「未来の語り場」の様子①
女子児童が、ホワイトボードに何かを書き込んでいる写真 村の子ども達が参加したワークショップ「未来の語り場」の様子②
ワークショップの内容を絵で表現したポスターの写真 ワークショップ「未来の語り場」で作成されたグラフィック①
ワークショップの内容を絵で表現したポスターの写真 ワークショップ「未来の語り場」で作成されたグラフィック②

地域課題と向き合い続けて行くために必要なのは「Willがある人が集うこと」

神恵内村への出向を通して、地域課題の深掘りから事業化・自走化までのプロセス、そして自治体の意思決定の風土を学ぶことができました。また現場で奔走する中で、富士通の仲間との多くのコラボレーションを実現できたことは大きな財産となりました。「富士通は、スキルや経験、熱意を持った人材が豊富であり、地域課題解決に取り組む力がある」と強く感じています。
本気で地域課題(社会課題)に取り組みたいという強い意志(Will)がなければ、真の解決には至りません。また意志ある人が数名(点や線)だけでは、事業性を見出すのは難しいです。だからといって、ただ漫然と組織化し人員を増やすだけでも成果は得られません。個別の対応に固執し、短期的な意志に終わってしまうこともあります。
だからこそ、特定の事業部だけで地域課題を解決するのではなく、富士通全体で社会性と事業性を追求する地域課題ビジネスを生み出したいと考えています。意志の質と量を追求し、様々なバックグラウンドを持つ富士通社員が横断的に、縦断的に、そして斜め串に連携することが必要です。もちろん連携するのは社内だけではありません。ビジネスパートナーや地域の地場産業と共創し、持続可能なエコシステムを作り上げることも重要です。
ここで私の神恵内村での経験を存分に活かしていければと思います。熱意を持った仲間と共に取り組むことで、地域課題に対する新たな解決策を見出し、より良い未来を築いていくことができると確信しています。今後も地域課題に真摯に向き合い続けていきます。

地域DX人材として北海道神恵内村と共に歩んだ3年間を”未来”へ

担当者情報

富士通株式会社 DX Division 福地 達貴

富士通株式会社 DX Division 福地 達貴

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