IoTで実現する持続可能な経営とカーボンニュートラル

エネルギー消費の削減は、企業がもはや避けられない温暖化対策です。特に、電気代がコストの大部分を占める企業にとっては、喫緊の課題です。そうした中、あらゆるモノがネットとつながるIoT(Internet of Things)技術が、効率を保ちながらエネルギー消費を削減するツールとして注目されています。

「LED照明へ切り替えた」「外壁の断熱塗装をした」という企業も多いと聞きます。しかし、従来型の省エネは、天候など外的要因に効果が左右されるため、定量的に把握しにくいのが課題です。人手による定期的な計測が必要となれば、業務効率の低下も心配です。「コスト削減」と「効率化」の二律背反のジレンマに悩む企業にとって、IoTが必要な理由について解説します。

目次
  1. カーボンニュートラルとは何か
  2. カーボンニュートラル実現に向けた日本の課題
  3. IoTが脱炭素に欠かせない理由
  4. 富士通の事例でみるIoTによる排出量管理とそのメリット

カーボンニュートラルとは何か

頻繁に耳にする「カーボンニュートラル」。温暖化対策のキーワードですが、どのような意味か、実はよく知らないという方もいるのではないでしょうか?

カーボンニュートラルとは、人間の活動によって排出される温室効果ガス(GHG: Green House Gas)の排出量と、森林などによる吸収量を均衡させた状態を指します。つまり、GHGを、自然や技術によって吸収することで、地球全体でGHG増加をゼロにする考え方です。

地球温暖化は、二酸化炭素などのGHGが大気に蓄積して太陽の熱を閉じ込めてしまう現象です。その結果、高温や異常気象、海面上昇などの深刻な影響が起きています。カーボンニュートラルは、温暖化の進行を食い止めるために不可欠といえます。

カーボンニュートラル実現に向けた日本の課題

日本は、2050年のカーボンニュートラルを目指しています。国立環境研究所の調査では、日本のGHG排出量は2013年度以降減少に転じているものの、2022年度 は11億3千万トンと、依然として高い水準にあります。

森林などによる吸収量を7千万トンと仮定しても、カーボンニュートラルの実現には、更なる排出量削減が必要です。(※1

  • ※1
    国立環境研究所 温室効果ガスインベントリオフィス(「日本の温室効果ガス排出量データ(1990~2022年度)(確報値)」)をもとに作成
図1 日本の温室効果ガス排出量データ(1990~2022年度)
出典:国立環境研究所 温室効果ガスインベントリオフィス

GHGの多くを占めるのは二酸化炭素(CO2)で、その40%は、発電時にCO2を出すエネルギー転換部門が占めています。(図2)これは、石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料を燃やすことでエネルギーに転換している現状を表しています。(図3)

(左)図2 日本のGHG排出における部門別排出量(右)図3 燃料種別ごとのGHG排出量

これらのデータからは、日本において、以下のような対策が求められることがわかります。

1. 再生可能エネルギーの利用拡大

日本の再生可能エネルギー利用は、政府目標の2030年までに36~38%に対し、現状は20%ほどと広がりは限定的です。背景には適した土地が少ないことや、地域合意を得る難しさなどが指摘されていて、さらにコスト負担についても考慮する必要があります。(※2)自社導入する場合は、初期投資や技術革新の可能性を踏まえた、綿密な計画が必要です。

2. 省エネルギー化

無駄の見直しや作業効率化など、テクノロジーを導入することで、比較的容易に取り組める課題です。

3. その他

「森林保全と植林」「CO2回収・貯留技術(CCS)」(※3)など、吸収量やCO2回収を増やす方法もありますが、多くの割合を占めるエネルギーの削減の方が効果を得やすく、優先して取り組むべき課題と言えます。

IoTが脱炭素に欠かせない理由

省エネルギー化のため、人手をかけて電力・温度・湿度などを監視・計測するのは、非常に手間がかかります。また、ゲージなどを目で読む作業では、人による誤差が発生しがちで、データ品質にも懸念があります。測定地点や頻度を増やしてより精緻な分析を行いたくても、人員やコストには限界があります。

しかし、IoTを導入すれば、数値を24時間365日監視することが可能になります。ここで大切なことは、センサーによって収集されたデータを活用することです。IoTを活用するメリットは次の3つにあると考えています。

1. エネルギー消費の可視化と効率化

IoTセンサーで、工場やオフィスなどのエネルギー消費状況を、リアルタイムでモニタリングできます。無駄な電力使用を特定し適切に制御することで、大幅な省エネを実現します。さらにAIと組み合わせ、過去のデータに基づいたエネルギー運用の最適化も可能です。

2. 生産プロセスにおける排出量削減

製造工程の消費量や排出量を可視化することで、無駄なエネルギー使用や排出源を特定できます。自動化や最適化により生産効率を向上させるとともに排出量を削減できます。

3. サプライチェーン全体の脱炭素化

IoTは、サプライチェーン全体の可視化と効率化を促進する効果もあります。物流における配送ルートの最適化や在庫管理の効率化により、排出量を削減します。サプライヤーとの連携を強化し、サプライチェーン全体のカーボンニュートラルを推進できます。

富士通の事例でみるIoTによる排出量管理とそのメリット

IoT導入は、GHG排出量のモニタリングだけが目的ではありません。データ活用によるコスト削減やサービス品質の向上など、様々なメリットがあります。IoT導入で効果を出している事例をご紹介します。

1. 整氷作業の最適化でコスト削減(スポーツ施設)

ボブスレーやリュージュなどの「そり競技場」施設は氷との戦いです。アスリートにとって良い競技場とは氷の表面がスムーズなコースです。施設管理者には確実な整氷が求められますが、冷却のしすぎはエネルギー効率上よくありません。長野市によると、長野オリンピックを機に整備されたそり競技場では、維持管理費の約95%が整氷コストでした。(※4

ドイツ・ウィンターベルグ市のそり競技施設「フェルティンス・アイスアレーナ」は富士通のソリューション「IoT Operation Cockpit」を導入し、整氷作業の最適化によるコスト削減を実現しました。センサーによって氷のコンディションを正確に把握しながら、エネルギー消費を最小限に抑え、維持管理費の低減につなげています。

2. 空調管理の最適化によるサービス品質向上(地方自治体)

温度や湿度の管理は、サービスの品質維持に大切な要素です。ドイツの地方都市・バルスビュッテルは、施設の空調を一元管理することで、エネルギーコスト削減と施設内の空気も改善しています。富士通の「IoT Operation Cockpit」は、温度・湿度・明るさ・CO2濃度をリアルタイムで把握・管理できます。これにより、夏は学校で生徒や教師が快適な室温で勉強に集中し、冬は暖房から出るCO2濃度が上がりすぎないように調整します。湿度管理によるカビ予防などの効果もあり、公共サービスの向上を実現しています。

3. 施設利用者の安全確保

設備異常を早期に検知することは、事故を防ぎます。先述の「フェルティンス・アイスアレーナ」は、氷のコンディションを整えることで、選手の安全を守っています。ボブスレーは時速150キロのスピードが出ることもあり、氷の状態は安全に直結します。特に日光で氷が部分的に溶け出すと、表面が不均一になり、大事故につながるおそれがあります。センサーによって氷の状態を早く正確に把握することで、有効な事故対策を講じています。

4. 機械の故障を予測し業務効率化(小売業)

小売業では、人口減少にともない人材不足が深刻です。標準オペレーションの導入で生産性向上が求められる一方、現場は忙殺され、ストレスが顧客満足度の低下を招くことが懸念されています。富士通は、IoTで収集した機器データをAIで分析し、人では判断できないような微細な変化を捉えて故障を予測するサービスを提供しています。早い段階で対策を講じることが可能となり、業務運営の安定と効率化を実現しています。

5. 環境配慮による企業イメージの向上(サッカー競技場)

ドイツのサッカーチーム、アイントラハト・フランクフルトのホームスタジアム「ドイチュ・バンク・パルク」でも、「IoT Operation Cockpit」が活用されています。売店の混雑状況をセンサーによりリアルタイムに表示し、来場者の利便性をはかっています。
また、芝生にまく水を節約するため、地中の水分量や日照時間、天気予報などをAIで分析し、作業を最適化しています。こうした取り組みは、企業の持続可能性と社会的責任を高める役割も担います。

企業がカーボンニュートラルに向けて取り組むべきは、エネルギー消費量の削減だけではありません。しかし、第一歩であることに間違いありません。なぜなら、限りある資源を有効に使うことを意味しているからです。それは企業を差別化し、存続を左右する要素となりつつあります。

IoTの導入は、データを可視化しエネルギー消費を削減します。それだけではなく、データに価値を与えて新たなビジネスチャンスをつくる可能性を秘めています。IoT技術を活用することで、企業は持続可能な経営を実現し、競争力を強化することができるのです。

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