「Fujitsu Technology and Service Vision(以下、FT&SV)」は、社会課題や技術トレンド、最新の研究開発成果から、テクノロジーカンパニーならではのインサイトを見出し、その先にある未来ビジョンをお客様やパートナー様と共有するものです。2013年より年に一度、毎年アップデートしています。
2024年5月にリリースした「FT&SV2024」(※1)の総合テーマは「Regenerative enterprise(再生型企業)への変革」です。私たちが目指す未来像、再生型企業とは?その実現に向けて、先進テクノロジーをどのように活かすのか?富士通からの提言をよりよく読み解いていただくために、富士通株式会社 技術戦略本部 コミュニケーション戦略統括部 シニアディレクター 西川 博が解説します。
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- 目次
企業の未来像を自分ごと化しアクションへ導く「FT&SV2024」
—はじめに、この度策定されたFT&SV2024の概要をご紹介ください。
西川:皆様ご承知の通り、世界中の企業がサステナビリティ・トランスフォーメーション(以下、SX)へ向けて経営の舵を切り、様々な取り組みを推進しています。私たち富士通も「FT&SV2022」でこれからの10年の最重要テーマとして「デジタルイノベーションによるサステナビリティ・トランスフォーメーションの実現」を掲げ、現在、変革の途上にいます。また、「FT&SV2023」では、再生型社会を目指してSXをビジネスの機会と捉えていくというコンセプトをお示ししました。
しかし、経営視点で見るとサステナビリティは長期的な課題で、道半ばで成果が見えず、むしろ深刻化しているように見えます。一方テクノロジーの視点では、進化の渦の中心にあるのは「AI」です。AIとどのように付き合っていくのか、これはあらゆる企業にとっての最重要課題になっています。
そこでFT&SV2024では、サステナビリティの課題に対し、AIを中心としたテクノロジーを駆使して、企業そのものを新しい価値を生み出すRegenerative enterprise(再生型企業)に変革していきましょう、と提案しています。
本編では、まず目標とする再生型企業の姿を描き(Module1)、その未来ビジョンに近づいていくために、テクノロジーをどのように活用するか(Modele2)、そして具体的にどのようなアクションを起こすか(Modele3)という3章立てで紐解いています。ここでは、この流れに沿って論旨をご案内していきます。
目指すべき未来像「再生型企業」とは
西川:Module1(第1章)では、グローバルのCxOを対象に富士通独自で行った調査の結果から、未来のビジネスや社会を洞察し、Regenerative enterprise(再生型企業)とは何かを明らかにしています。CxO調査のデータから課題感を読み取り、企業変革を自分ごととして捉えていただきたいと思っています。
—本編では、Regenerative enterprise(再生型企業)は、「AIを中心としたテクノロジーを駆使して、環境、経済、ウェルビーイングにネットポジティブ(※2)な再生型価値を創出する」と定義されています。この未来ビジョンを語るうえで、なぜ「再生」にフォーカスしたのでしょうか。
西川:「Regeneration(リジェネレーション)」という言葉は、日本語にすると「再生」ですが、この再生には、例えば、環境へのネガティブな影響を修復し維持するだけでなく、「より良い状態に発展させる」という意味が含まれています。
今、サステナビリティを取り巻く世の中の論調は、決して明るくはありません。2030年のSDGs達成も2050年のカーボンニュートラル実現も、本当にできるのか、サーキュラーエコノミー(循環型社会)も提唱されていますが、環境負荷の低減や現状維持では間に合わないという状況です。この危機感をポジティブに転換するという意思を込めて、Regenerationをキーワードに据え、Regenerative enterprise(再生型企業)への変革に焦点を絞りました。
—「ネットポジティブな再生型価値の創出」は、壮大で遠い理想のようにも感じます。ここに目標を置いた狙いを教えてください。
西川:これは、私たちがサステナビリティにおける価値創造ビジョンとして、「デジタルサービスによってネットポジティブを実現するテクノロジーカンパニーになる」と表明していることに通じています。
たしかに容易には到達できないアグレッシブな目標です。しかし、実は皆様が抱えている目下の経営課題・事業課題の中にも、再生型の価値を創出するチャンスや可能性はあります。例えば、リテール企業がECと実店舗の連携や配送業務を見直し無駄をなくすと、ビジネスを変革するだけでなく、エネルギー消費やCO2排出量の削減にもつながっていきます。まずは、こうしたネットポジティブな価値を生み出す機会が、現状のビジネスの中にもあることに気づいていただきたいと考えています。目標は遠くとも、富士通は皆様と共に現実的な一歩を踏み出したいと考えています。
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※2ネットポジティブ(Net Positive):事業を通じて環境・社会・ウェルビーイングの課題に向き合うことで、それらの課題にポジティブな(良い)影響を与え、かつ自社の収益向上にもつなげるという考え方
AIを中心としたテクノロジーが生み出す「再生型価値」とは
西川:Module2(第2章)では、未来シナリオを示しながら、富士通が注力している技術の研究開発から実用化までをご紹介しています。テクノロジーの近未来を想像していただくことで、今できること、やりたいことが見えてくると思います。
—テクノロジービジョン全体を通して示唆されているAIと共に拓く未来を、改めて紹介してください。
西川:AI活用は、あらゆる企業にとって喫緊の経営課題です。現在の業務の改善や効率化に使うのはもちろんですが、大きくビジネスを変えていく存在として、AIの活用は企業の行く末を左右するといって過言ではないでしょう。しかしAIをビジネスに使うとなると、大きな期待と同時に不安もある、という企業は多いと思います。
そこでテクノロジービジョンでは、未来の再生型企業の4つの特徴に当てはめて、AIと共に新たな価値を生み出すとはどういうことか、現実味のある提案をしています。
未来シナリオは、AIと人、AIと他の技術を融合させて再生型価値を創出していくという構成で、夢物語ではない実現可能な未来の企業像を紹介しています。例えば「Who(誰が)」のシナリオでは、AIのインテリジェンスと人間のインテリジェンスを掛け合わせ、人とAIがバディとなって共に成長していく様子を具体的に描いています。これは、2024年2月に発表した全社AI戦略「AIはわたしたちのバディとなる」をベースにしたものです。
—AI技術と他の技術領域の融合とは、どのようなことでしょうか。
西川:富士通は5つの重点技術領域(Computing/Network/AI/Data&Security/Converging Technologies)に集中して研究開発を進めており、AIと各領域の先端技術を組み合わせたところに、新たな価値を生み出す突破口があると考えています。
膨大なデータを分析するAIにとって、高性能かつ低消費電力のコンピューティング技術は不可欠ですし、データを活用してビジネスのアジリティを高めるデジタルツインやデジタルリハーサルといった技術も、その上で成り立っています。また、リアルとデジタルの境目がない世界でビジネスや共創を行うためには、高度なセキュリティ技術に支えられた信頼できるネットワークが必要です。そうしたテクノロジーのつながりを「AI×○○」という形で、わかりやすく紹介しています。
—進化し続けるテクノロジーに追従していく姿勢でいると、迷子になってしまいそうです。テクノロジービジョンで紹介している先端技術に触れてみることはできますか。
西川:5つの重点技術領域のうち商用化されていない最先端技術は、「Fujitsu Research Portal」(※3)を通じて無償公開しています。スーパーコンピュータ富岳で学習した大規模言語モデル「Fugaku-LLM」などもお試しいただけますので、ぜひご利用ください。
またAIに関しては、富士通の先端AI技術を結集した「Fujitsu Kozuchi」(※4)の提供を始めました。独自開発の生成AIや、AIの公平性、説明可能性のための独自技術など、7つのAI技術領域から、ユースケースに合わせて有用な技術を選択し、迅速な開発、テスト、実装が可能です。今後は、このFujitsu Kozuchiを「Fujitsu Uvance」のオファリングに実装して提供していきます。
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ビジョンを具体的な一歩に変える 「Fujitsu Uvance」
西川:Module3(第3章)では、SXパートナーとしてビジネスと社会にテクノロジーを実装する、富士通の変革アクションを紹介しています。ご紹介している富士通のアクションが、皆様と一緒に一歩を踏み出すきっかけになったら嬉しいです。
—再生型企業への変革を目指して、富士通はFujitsu Uvanceを中心に具体的な取り組みを進めています。いま一度、Fujitsu Uvanceの事業目的を紹介してください。
西川:環境、経済、ウェルビーイングの課題に対して、AIを中心としたテクノロジーを活用して、再生型価値を生み出す。ビジョンは理解できても、実際にAIを活用し、ビジネス視点でサステナビリティに取り組むという変革に明確な答えはなく、またすぐに結果が出ることもなく、乗り越えなければならない課題が次々と現れます。富士通はFujitsu Uvanceを通じて、これらの課題にお客様と共に取り組んでいます。
複雑な社会課題に対応するために、AIソリューション「Fujitsu Kozuchi」、ブロックチェーン技術を活用したトレーサビリティ基盤「Fujitsu Track&Trust」、パートナー企業のデータ基盤、それらを統合するオペレーションプラットフォーム「Fujitsu Data Intelligence PaaS」などを組み合わせて、SXを推進するお客様にパートナーとして伴走することがFujitsu Uvanceの本意です。
2021年10月にローンチし、2年半を経たFujitsu Uvanceですが、FT&SVではこれまでコンセプトは紹介してきたものの、具体的な取り組みは掲載できていませんでした。FT&SV2024では、主要なオファリングやお客様事例も紹介していますので、ぜひご覧になってFujitsu Uvanceの実像をつかんでください。
—コンサルティングサービス「Uvance Wayfinders」(※5)も始動しました。このサービスが担う役割を紹介してください。
西川:SXパートナーになるために、コンサルティングは欠かせません。Uvance Wayfindersは、お客様の事業課題に対して、ビジネスとテクノロジーの二つの視点からアプローチし、名前の通り、変革の道筋を見出し、具体化します。
企業を内側から変えていくには、ビジネスモデルの変革も検討する必要があり、場合によっては業界・業種を越えたクロスインダストリーのビジネスモデルの構築が求められます。Uvance Wayfindersはそうした産業構造の変革も視野に入れ、富士通が培ってきた知見、ノウハウ、研究開発の成果(=先端テクノロジー)をフル活用して企業変革をサポートします。
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作り手として「FT&SV2024」に託した思い
—ここまでFT&SV2024の見どころを紹介しました。最後に、読者の皆様にメッセージをお願いします。
西川:FT&SVは、私たち富士通のテクノロジーとビジネスの未来ビジョンを皆様にお伝えするものですが、裏返せば、私たち自身のパーパスの実現へ向けて、進むべき方向を確認する羅針盤のようなものでもあります。
FT&SVは、未来ビジョンがつかみどころのない空論や一方通行のメッセージにならないよう、客観的な視点で社会トレンドや課題感を捉え、ナラティブな(物語性のある)読み物に仕立てています。私たちが描いたビジョンの中に、「そうそう」と共感できることや、ご自身の課題や解決への選択肢を見つけていただけたら幸いです。
すでに、いち早くFT&SV2024をお読みになって、詳しい話がしたいとお声がけいただいたお客様もおられます。もっと知りたいこと、チャレンジしたいことが見つかりましたら、ぜひビジネスプロデューサー(営業担当)にご相談ください。
富士通株式会社
技術戦略本部
コミュニケーション戦略統括部
シニアディレクター
西川 博