富士通がWeb3テクノロジーをアップデートし続ける理由とは

いま、特定の企業や管理者に依存せず、自分のデータを自分で管理する自律分散型インターネット「Web3」に注目が集まっています。ただし真の自律分散型インターネットの実現には、ブロックチェーンや相互検証可能なトラスト技術、そしてそれを支える高度なコンピューティング技術が欠かせません。富士通は、デジタル空間上で信頼をもってつながることができる「Fujitsu Web3 Acceleration Platform」を、共創パートナーを対象に2023年3月より無償提供し、アップデートし続けています。富士通がWeb3の社会実装を支援する理由とは?開発者に聞きました。

目次
  1. 真の自律分散型インターネットWeb3に必要な技術を無償で提供
  2. 進化し続けるFujitsu Web3 Acceleration Platform
  3. 富士通がWeb3を支援する理由

真の自律分散型インターネット
Web3に必要な技術を無償で提供

インターネットは、何十万もの異なる通信事業者が効果的に協力して一貫したグローバルシステムを運用している大変優れたシステムです。しかし一方で、インターネット上で行われる取引の決済処理、データの保管等における信頼性の担保は、一部の巨大企業による寡占状態となっています。

また、インターネットには非中央集権的で、個人情報等のデータ所有はどの組織にも属さず個人が主権を持つべきであるという考え方があります。このような考え方が反映された真の自律分散型インターネットの姿は「Web3」と呼ばれます。このWeb3を実現するためには、組織や個人間でのデータのやり取りの真正性・非改ざん性およびデータ所有権の証明や、相互検証可能な信頼性を担う仕組み、透明性のある価値交換の仕組みが、社会インフラとして必要となります。

富士通ではインターネットがこの理想を実現するための社会基盤の実証実験の場所として「Fujitsu Web3 Acceleration Platform」をリリースしました。このプラットフォーム上では、Web3を実現するためのブロックチェーンを始めとする先進テクノロジーを、共創パートナー(※1)は無償で利用することができます。

  • ※1
    当社のグローバルパートナー共創プログラム「Fujitsu Accelerator Program for CaaS」への参加企業のうち、Web3の新サービスの企画から実証実験までを共創するパートナー

進化し続けるFujitsu Web3 Acceleration Platform

富士通は、米フォーブスが選ぶ世界の「ブロックチェーン50社」に選ばれるなど、ブロックチェーン技術に黎明期から取り組んでおり様々な実績を持っています。Fujitsu Web3 Acceleration Platformを2023年3月に日本向けにリリースし、2023年度以降に順次、グローバルにも展開します。

このプラットフォームは、富士通の高度なコンピューティング技術を提供するクラウドサービス群「Computing as a Service (CaaS)」が提供するData e-TRUSTなどのサービスの実証実験向け無償利用や、富士通研究所が持つ先進テクノロジーの利用権から成り立ちます。これにより、自律分散型社会における信頼性担保を行うための先進テクノロジーを利活用することが可能になります。

初回リリース以降の半年で、富士通研究所が持つ次の2つの先進テクノロジーをリリースしました。

  • 透過的トラスト(WebAPI)
    組織内・組織間でデータのやり取りを伴うワークフローにおいて、オフラインでも検証できる形で、データの真正性・非改ざん性を保証できます(5月リリース)
  • ConnectionChain(WebAPI/デモアプリ)
    複数のブロックチェーンを接続し、様々なデジタル資産交換の取引処理を紐づけ、全体を一つの取引として自動実行することができます(7月リリース)

これらはFujitsu Research Portal上でグローバルにリリースしています。Fujitsu Research Portalでは、富士通の先進技術を、様々な用途で、いち早くお試しいただく環境として、技術コンポーネントのAPIやWebアプリケーションを公開しています。日本語版はこちらから、英語版はこちらからユーザ登録することにより無償で利用することができます。このように技術を広く公開して使っていただくことにより、技術を発展させていきつつ、新しい事業の創出につなげていくことを狙いとしています。Web3 Acceleration Platformの技術群もこのFujitsu Research Portalから技術の提供を行っており、共創プログラム「Fujitsu Accelerator Program for CaaS」では、この場を活用して共創パートナーとのサービス開発を実施します。

富士通がWeb3を支援する理由

富士通が無料でプラットフォームを開放することは、いままで例がありませんでした。今回、あえて今までと異なる新しい方法でWeb3の社会実装を支援する理由にはどういった背景があるのでしょうか。
Fujitsu Web3 Acceleration PlatformのData e-Trustの開発と共創プログラムに携わった伊藤 章に、富士通がWeb3に積極的に関わる背景を聞きました。

――Fujitsu Web3 Acceleration Platform関連のテクノロジーをアップデートし続ける理由を教えてください。

伊藤:まず、近年世の中で取り上げられる様々な社会課題を見てみると、1つの組織や団体では解決できない課題が多いと言われています。例えば、サプライチェーン管理やカーボンニュートラリティサーキュラーエコノミー等、環境問題やサステナビリティに関する問題があります。このような地球規模の社会課題を扱う環境問題では、国境を越えて複数の組織や団体が絡んでくるため、サプライチェーンにおけるカーボンフットプリント(CO2排出量)の記録や、炭素排出権といった価値交換の仕組みをエコシステムの中で誰かが中央集権的に管理することは難しくなり、たくさんの管理者が協力し合える自律分散型の仕組みを取り入れる必要があります。これはまさにWeb3が目指す姿であり、Web3のテクノロジーをアップデートすることにより、このような大きな社会課題を解決していけると考えるためです。

――今はWeb3の考え方が、大きな社会課題に世界全体で取り組んでいくためにも求められているというわけですね。富士通はこれにどのように関わっていくのですか?

伊藤:その際に求められるのが、ブロックチェーンをはじめとする先進テクノロジーを使って構築される自律分散型システム基盤だと考えます。この基盤には、それぞれ独立して存在するデータや文書を相互に検証可能な透明性や真正性・非改ざん性の証明など、分散型の価値を証明する仕組みが求められます。複数のブロックチェーンをつなぐ技術も必要になります。

ただし、基盤だけあっても、それを使うサービス・アプリケーションがなければ、社会実装は進みません。そこで、我々は、グローバルパートナー共創プログラム「Fujitsu Accelerator Program for CaaS」を展開しており、パートナーと一緒になってFujitsu Acceleration Platformを用いたWeb3の新サービス実現に向け、企画から実証実験までを共創していきます。Web3の世界実現に向けては、まだまだいろんな壁がありますが、富士通だけでなく、いろんな業界のパートナーと検討・実証することにより、一歩一歩前に進んで行きたいと考えています。

図1:Fujitsu Web3 Acceleration Platform

――過去3か月で更新された機能がお客様にもたらす価値はどのようなものですか?

伊藤:7月にリリースしたConnectionChainは、複数のブロックチェーンを連携させる技術ですが、特にData e-TRUSTとイーサリウム(Ethereum)などのパブリックチェーンとの連携の実現が、Web3 Acceleration Platformの価値を大きく向上させました。パブリックチェーンは透明性が高く、改ざん困難な状態で、半永久的にデータを保存することができ、Web3の世界ではNFT発行などに用いられています。ただし、リアルなユースケースを考えると、透明性を高くしたくない場合があります。ConnectionChainが加わったことにより、Web3 Acceleration Platformでは、公にしたくない非公開情報はData e-TRUSTに、透明性を高く、広く公開したい情報をパブリックチェーンに載せ、両者を紐づけることにより、ユーザの利便性が高まる運用が可能となりました。

――共創パートナーからはどのようなソリューションが出る予定ですか?

伊藤:当社が金沢工業大学の出原研究室と取り組んでいる事例を紹介します。金沢工業大学は、Fujitsu Accelerator Program for CaaSのパートナーとなっており、地域活性化をテーマにさまざまなWeb3の新サービスに向けた検討をしています。今回、その取り組みのひとつとして、金沢工業大学主催、金沢市後援のイベント「金澤月見光路」にて2023年10月20日(金)から10月22日(日)までの3日間 AR技術でリアルとヴァーチャルをつなぐ体験イベント「Connect Kanazawa 2」を出展されます。この「Connect Kanagawa 2」で用いるARアプリケーションの開発で、当社のWeb3 Acceleration Platformを活用いただきました。本アプリケーションは、イベント来場者がスマートフォン端末を介して簡単に操作できるWebアプリとなっており、会場でライブパフォーマンスとして実施するプロジェクションマッピングに向けてスマホカメラをかざすとARで描かれたキャラクターが画面上に現れ、そのキャラクターとプロジェクションマッピングを元に生成される画像をNFT化します。このNFT化は富士通のWeb3 Acceleration PlatformのAPIを介して実行されます。本APIにより、ARアプリケーションのユーザ向けに専用のNFTウォレット管理が行われ、パブリックチェーンEthereum上に標準規格ERC1155に沿ったNFTが発行されます。イベント終了後もこのNFTは記念品として半永久的に保存されるので、ARイベントの参加者は、いつまでも金沢市での旅の思い出を楽しむことができます。金沢工業大学の出原研究室の学生さん達は、ブロックチェーンアプリの開発ははじめてだったそうですが、一般的なWebアプリ開発の知識だけでこのようなWebアプリの開発が可能となりました。

図2:金沢大学との今回の実証実験の範囲

今回のケース以外にも、このような形でWeb3を簡単に使っていただき、特定の企業にデータを保存することなくNFTなどをエンドユーザに保有してもらう利用シーンは多いと考えます。記念品とするとともに、Data e-TRUSTも活用して非公開情報を紐づけることにより、自治体などと協力してより実用的な証明書や権利証として末永く使うことも可能です。それぞれの地域の観光や特産品との結びつけることによる地域活性化にもつながると考えます。
今回のARアプリケーションは一例であり、他にもいろんな共創パートナーとサービスを検討中ですので、実際にWeb3サービスとして世の中に出せるよう努力していきます。

このように、Web3で社会課題を解決していくためには、テクノロジー企業が先進テクノロジーを単純にリリースするだけでは不十分であり、アプリケーションや運用も含めた社会実装までを、エコシステムを作ってきちんとやりきる必要があります。これは容易なことではありませんが、富士通は様々な技術的、人的リソースを持っておリ、これを実装していく役割の一端を担うべき企業としての責務があると考えています。今後も富士通とそのパートナー企業の取り組みは続きます。

プロフィール

富士通株式会社富士通研究所 データ&セキュリティ研究所
Trusted Web3 コアプロジェクト シニアリサーチマネージャー 伊藤 章

事業部にてData e-TRUSTの商用化、Web3 Acceleration Platformの立ち上げ後、本年6月より現職。研究所の先進技術を取り入れつつ、共創パートナーと共に、Web3 Acceleration Platformを活用した新しいWeb3のサービス立ち上げに尽力している。

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