株式会社ぐるなび(以下、ぐるなび)は、皆さまご存知のとおり飲食店の情報を集めたウェブサイト「ぐるなび」を運営されている企業です。情報サイトの運営だけでなく、実はそれら7万店にもおよぶ掲載店の情報を元に、飲食店の経営や自治体等の支援に25年以上にもわたり取り組まれてきました。今回の取り組みでは、富士通がGoogleトレンドなどのオープンデータと株式会社日本経済新聞社(以下、日経社)のPOSデータ、およびぐるなびのデータを掛け合わせ、アジャイルで様々な分析を実施(※1)。勘や経験を元にした仮説をデータとして立証しました。
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変化の予測できない不確実な時代と言われる今、データドリブンな意思決定はますます重要視されています。今回の取り組みをきっかけにさらに多様なデータを活用できれば、食業界全体の可視化やトレンド予測、フードロス削減などにつながるかもしれません。
ぐるなびと富士通の担当者に今回の取り組みについて話を聞きました。
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ぐるなびが保有する貴重な飲食店のビッグデータをより有効活用したい
――ぐるなびさんの事業内容を教えてください。
ぐるなび 伊藤氏(以下、敬称略): 当社では過去25年以上にわたって外食産業の経営サポートなど様々な活動をしてきました。飲食店の情報サイト「ぐるなび」はその一つです。 2021年より「食でつなぐ。人を満たす。」を存在意義(PURPOSE)に掲げ、私たちの部署では、飲食店のネットワークを活かして、行政や食品メーカーなどの企業をつなぎ食業界全体が活性化するためのマーケティングやプロモーション事業を行っています。
ぐるなび 山本: 当社では、飲食店が管理画面で登録するメニューや価格などのデータ、また消費者が検索や予約をする行動データなど膨大なデータを蓄積しており、そのデータを活用して、たとえば食品メーカーの商品開発などの支援も行っています。ただ、外食データの分析はしているものの、他のデータを掛け合わせた分析が難しかったり、市販の分析ツールでは非常に時間がかかり思うように分析できないことがあったりと、データを十分に活かし切れていないと感じていました。
――この取り組みが始まったきっかけは、どのようなところからでしたか。
富士通 寺島: ぐるなびさんと出会ったのは、昨年、東京都で開催されたハッカソンです。当社はデータを活用して飲食店の出店を支援するアプリの試作品を開発したのですが、その際、ぐるなびさんに食のプロの目からフィードバックをいただきました。
富士通 伊藤: そのときぐるなびさんが膨大なデータをお持ちだと知り、それを活用することで、ぐるなびさんが目指す飲食店の経営支援にお役に立てるのではないかと考えました。
ぐるなび 伊藤: お声がけいただいてとてもありがたかったですね。一般に、スーパー、コンビニなど小売店の販売データはJANコード(商品識別コード)と紐づいたPOSデータがあり扱いやすいのですが、個人店も多い飲食店のデータは収集しにくく、定量化された各メニューの価格データなどはおそらく当社しか持っていないと思います。
これらのデータは行政や食品メーカーとの事業では活用していますが、もっと他の活用方法もあるのではないかと感じていました。出店支援アプリは富士通さんの社員の声なども反映されたとても面白い取り組みで、食の専門家ではないからこその視点も入っており、一緒に取り組めば将来的には食業界全体の課題にも取り組めるのではと思いました。
柔軟な発想でスピーディーに分析を行い、仮説を検証
――今回の取り組みでは、ぐるなびさんのデータ以外も活用したのですね。
富士通 寺島: 今回は、オープンデータとして公開されているGoogleトレンドのデータ(Googleで検索されたキーワード情報)や小売物価動向データ、日経社さんからご提供いただいた過去5年分のPOSデータ、つまりいつ何がいくらで販売されたかというデータを、ぐるなびさんのデータと組み合わせて分析しました。ぐるなびさんから提供されたのは、メニュー別、地域別、業態別の取扱店舗や提供価格の時系列のデータ、消費者の検索データなどです。
ぐるなび 山岡: 分析にあたり当社からいくつか仮説を提供しました。その一つが「外食で流行ったメニューが、個店から始まり、内食(家庭で調理した食事)から中食(弁当、総菜、テイクアウトなど)と順に流行っていく」というものです。これまでも社内のデータを見て、この流れがあるという認識はありましたが、POSデータなどとも掛け合わせ、様々な視点で分析できたのは大きな収穫でした。
ぐるなび 山本: 今回、この仮説がデータとして立証されて「ぐるなびマーケティングソリューション事例」としてWebに公開しています。公開しているのは台湾カステラの事例ですが、これだけでなく約50のメニューを分析してもらいました。半年ほど、継続して取り組んできました。
――半年間、富士通とはどのようにコミュニケーションをとって進めたのですか。
ぐるなび 山岡: 月に2~3回、オンライン会議を行いました。通算20回以上は開催したでしょうか。オンラインでも全く支障はなく円滑に進みました。実は富士通さんとお会いしたのは今日が初めてです。分析は想像以上の速さで、最初は本当に驚きました。
富士通 寺島: こういった多変量の分析には前処理・統合・加工・可視化など分析プロセスが多く非常に時間がかかるのが常ですが、富士通の分析プラットフォームと社内の分析手法の知見を活用し、スピーディーに分析できたと思います。
ぐるなび 山本: 打ち合わせをしながら「こんな表示もできますか?」と聞いたら、その場で対応して画面を見せてくれたこともありました。自分たちでツールを使って分析していたのとは全然違い、あまりに速くてびっくりしました。「こういう分析をしてみましょうか」といった提案もたくさんしていただき、その発想力や柔軟性にも驚かされました。その場でできないことは次の会議までの宿題としてやっていただきました。
富士通 寺島: 富士通側から、「時系列同士の相互相関や周期性の観点でも見てみましょう」と提案したり、相関・周期性がある場合はその裏付けとなるデータを探して組み合わせたりしました。例えば、羊羹の取り扱いは内食ではお中元・お歳暮シーズンに販売が増えるのですが、外食では10月に伸びていました。調べると10月8日が「ようかんの日」で、飲食店がイベントとして取り扱いを増やしていたことがわかりました。同じメニューであっても内食・外食で販売側の施策が異なるということがデータから読み解けました。
富士通 伊藤: これまでも各企業の方々がデータを活用した商品開発や出店戦略をされてきたと思いますが、分析に複数のデータを掛け合わせて意思決定することはあまりなかったのではないでしょうか。今回、「食」というテーマで日経社さんのデータやオープンデータなど様々なデータを掛け合わせることができ、ユニークな取り組みになったと思います。
ぐるなび 伊藤: 当社では分析データを使って消費者向け商品や業務用商品の開発コンサルティングもしていますが、最近では材料を調達する商社や自治体・関係団体なども外食のデータに高い関心を寄せています。今回、オープンデータとの組み合わせで卸価格等との相関性、内食の価格比較なども行うことができました。さらに分析を進めれば、材料調達から消費者まで食の領域がより全体的に俯瞰できるようになるのではと期待しています。
データドリブン経営基盤の構築サポートから、将来的には食のデータプラットフォームまで
――今回の分析結果はどのように活用できるでしょうか。
ぐるなび 山岡: 今回、台湾カステラで一つの仮説が立証できましたが、違った傾向のトレンドもあると思います。それらをパターン化して、違うメニューに横展開できれば、さらに面白い取り組みになるでしょう。
ぐるなび 山本: 当社には元々トレンドを予測し公開しているコンテンツがあります。今回のように多くのデータと組み合わせることで、それがより強固なものにできるのではと期待しています。
ぐるなび 伊藤: 活用するデータが増え、より精度の高いデータが得られれば、食品メーカーや農産品で地域おこしをしたい自治体に、データを見ながら外食発のトレンドを起こしていくようなソリューションも提供できるでしょう。また、トレンドには始まりもあれば終わりもあります。データを活用して正確に流行を予測できたり、あるいは流行を継続するための働きかけができたりすれば、作り過ぎによるフードロス解消にも貢献できるかもしれません。
富士通 寺島: いま、月次で表計算ソフトを駆使して社内データを分析されている食品メーカーや大手飲食チェーンも多いと聞きますが、手間がかかるだけでなくデータのサイロ化やノウハウの属人化などの課題もあると思います。企業内のデータ、さらにぐるなびさんの外食データなども統合し、常にそれらの最新断面を提供する業務アプリケーションを作成することができれば、データ駆動型の力強い意思決定が可能になります。「データを分析して終わり」ではなく、それらを持続化させ活用していくところまで、富士通がトータルにお手伝いできればと考えています。
ぐるなび 伊藤: コンシューマー向けビジネスをメインで行う企業では、ビッグデータ活用というと消費者向けの広告を指すことが多い気がします。今回の取り組みのような統計分析によるビッグデータ活用もあることを知ってほしいですね。
富士通 伊藤: ゆくゆくは富士通がつなぎ役となって、レシピ情報を提供する企業、実際に摂った食事の情報が集まる食事管理アプリの企業などとも一緒に、「食のデータプラットフォーム」のような基盤ができると良いですね。そうすれば、エンドユーザのお客様にさらなる価値を提供できることにもつながると思います。
ぐるなび 山岡: 昨今SNSなどへもデータが散在しており、専門家の支援が必要だと感じています。富士通さんと組むことでデータ分析だけでなく、他の業態、業界などへとデータ活用の幅が広がるかもしれないと期待しています。最終的には、SDGsにもつながる持続可能な「食」、食業界全体の最適化につながる取り組みへと発展できれば良いですね。
富士通 寺島: 今回は飲食店と別のソースのデータを組み合わせましたが、このような別の企業が持つデータ同士を掛け合わせる取り組みの事例は、まだ多くありません。食の業界に限らず、業界を飛び越えてデータがつながり、エコシステムとして連携されることで様々な課題解決につながるのではないでしょうか。それを目指して今後も取り組んでまいります。