スマートシティを実現する可視化技術とは~豊かで持続可能な社会の実現に向けて

CO2排出量の増加や交通の安全性などの諸問題がグローバル規模で深刻化している昨今。これらの社会課題を解決する上で都市が担う役割はとても重要です。2022年11月9日、交通に関わる民間企業や自治体のみなさまを対象に持続可能な未来の都市計画を考えるイベントが開催されました。本日はこの中から、「脱炭素×都市可視化技術で実現する新たなスマートシティとは」をテーマに、富士通株式会社Uvance本部の三好健宏よりご紹介します。

目次
  1. 豊かで持続可能な社会を実現する「Trusted Society」
  2. 移動に新たな価値を創出する「Sustainable Transportation」
  3. お客様とのディスカッション内容

豊かで持続可能な社会を実現する「Trusted Society」

私は以前モビリティ部門に所属して、自動運転や電気自動車(EV)などを担当していました。今から10年ほど前、都市計画を担当されている先生と議論させていただいた際、「自動運転ができそうです」とお話ししたところ、「都市計画の観点からは、自動運転ができると(社会のインフラが対応できていないので)困る」と言われたことを覚えています。当時は都市の交通手段も自動車か公共交通くらいだったので地球環境問題に対していかに自動車を減らしていくか、という話題ばかりでした。しかし現代ではシェアバイクやカーシェアなどの新たな交通手段も増え、都市計画に際しては考慮すべき観点も複雑化していますが、そこにITは貢献できると自負しています。

富士通株式会社
Uvance本部 Trusted Society Lean Development Office
室長 三好 健宏

さて、技術のご紹介をさせていただくまえに、富士通について紹介させてください。富士通は、世界をより持続可能なものにするというパーパスを掲げ、情熱をもってDXに取り組んでいます。この目標を達成しお客様の成功を促進するためにFujitsu Uvanceというビジネスフォーカスをご用意。たとえばスマートシティの領域であるTrusted Societyなど、7つの領域で技術開発を進め、取り組んでいます。

図1:Trusted Society ―Fujitsu Uvance

富士通はこのTrusted Societyの中で、特に次の4領域を強化し、豊かで持続可能な社会の実現に挑んでいます。
1つは、データドリブンな政策の決定に公共職員をサポートする「Government DX」。
2つ目は、安心安全な地域社会のための住民サービスを提供する「Public Services, Safety & Security」。
3つ目は、すべてのヒトとモノに最適な移動手段を提供し、移動に新たな価値を創出する「Sustainable Transportation」。
そして最後は、持続可能な低炭素社会を実現する「Sustainable Energy & Environment」です。

本日は都市開発や交通関係の皆さまにお越しいただいていますので、この中から特に皆さまに関係の深い「Sustainable Transportation」を実現する3つのテクノロジーについて次の章でご紹介します。

移動に新たな価値を創出する「Sustainable Transportation」

都市開発の上でも考慮すべき観点から、移動に新たな価値を創出する3つのテクノロジーをご紹介します。

Traffic Simulation & Analysis、Traffic Control

冒頭でも話したとおり、現代ではシェアバイクやカーシェアなどの新たな交通手段も増え、V2X(※1)の例にもあるように、移動サービスは複雑化してきています。そして、早稲田大学理工学術院創造理工学部の森本章倫教授(以下、森本教授)は、これからの都市の政策提言は、エビデンスベースにすべきと言われています。

  • ※1
    V2X:Vehicle to Xの略で、車と何か(歩行者、インフラ、ネットワークなど)との接続や相互連携を総称する技術

それに対し、車の事故状況や混雑状況を見える化する富士通の技術Traffic Simulation&Analysis、Traffic Control(図2)、富士通がデジタルツイン技術領域で提携しているHexagonの技術で可能になります。この見える化した情報をもとに、例えばどのように信号機を制御するか、または、日本ではありませんがロードプライシング(※2)のような交通バランスを図る施策立案も可能になるのです。これにより、事故の削減による安心・安全な交通や、信頼性の高い交通制御を実現することができ、都市にとってはCO2排出量の削減にもつながるクリーンな街づくりを可能にします。

  • ※2
    ロードプライシング:特定の道路や地域、時間帯における自動車利用者に対して課金することにより、自動車利用の合理化や交通行動の転換を促し、自動車交通量の抑制を図る施策
図2:Traffic Simulation & Analysis

Multi-modal Optimization

COVID‑19は私たちの生活に大きな影響を及ぼしましたが、ポストコロナの都市政策を考える際、都市や交通はどのように変わっていくでしょうか。森本教授は、MaaS(※3)の例にもあるように、これからは人がスマートフォンで自由に交通手段を選ぶ、アクセス性優先のアプローチが主流となるだろうと言われています。

  • ※3
    MaaS:Mobility as a Serviceの略。様々な形の交通サービスを需要に応じて利用できる1つの移動サービスに統合すること。移動の際、公共交通、シェアバイクなどの様々な交通手段をそれぞれ検索・予約・決済するのではなく、スマートフォン、AIなど情報通信技術を組み合わせ1つのアプリで検索・予約・決済することができる仕組み。

富士通のMulti-modal Optimizationは、楽しくて使いやすいMaaSプラットフォームを実現します。現在、日本ではMaaSはどちらかというと個人利用の観点で語られることが多いと思いますが、富士通は企業に向けて、例えば通勤する従業員が自主的に車ではなくCO2排出量の少ない手段にシフトするにはどうすればよいか、の観点を踏まえサービス化しようとしています。

図3:Multi-modal Optimization:Green Commute利用個人向けデモ画面

Fleet CO2 Reduction

これからの都市計画に、CO2排出量の削減は不可欠な要素です。森本教授も、都市開発の際、都市全体のCO2排出量がたとえば2050年にはどのくらい削減できるのか、コンピュータでシミュレーションし、示す重要性を言われています。

富士通のFleet CO2 Reductionは、CO2排出量を見える化しシミュレーションすることができます。現在、交通におけるCO2削減策はガソリン車からEVに移行する点だけが語られることが多いように思いますが、EVの充電の最適化を図ることにより、CO2排出量を15%削減できたといったシミュレーション結果が出ています(参考:脱炭素実現に向け、分野を超えたデータ連携の有効性を実証)。このように富士通は、EVをどのように活用するかといった観点からのサービス化を考えています。

図4:Fleet CO2 Reduction(充電ステーション、車の状況の可視化)

お客様とのディスカッション内容

セミナーでは、参加されたお客様からの質問に講演者が答えるコーナーもあり盛り上がりました。ここではその中から2つご紹介します。

――V2G(※4)の現状と今後の発展性についておしえてください。

  • ※4
    V2G:Vehicle-to-Gridの略。EVを「蓄電池」として活用し、電力会社の電力系統に接続し相互に利用する技術

三好: V2Gは主に自動車業界やエネルギー業界が求める技術だと思いますが、普及にはインフラ整備や利用するためのインセンティブなど多くの課題があり、よってなかなか進まないのではないかと思います。V2Gは電力需給調整としての機能が期待されていますが、持続可能な社会に向けて大切なのは、CO2排出量を下げるために車だけではなく、充電や充電する際のカーボンインシティ(※5)を考慮する必要があると思っています。つまり、再生可能エネルギーを昼間の太陽光がちゃんと発電しているときに充電するなど、Fleet CO2 Reductionでご紹介したように全体をコントロールし最適化することが重要と思います。

  • ※5
    カーボンインシティ:CO2排出原単位。投資先企業の収益百万米ドルあたりの炭素排出量を測定したもの(tCO2e/百万米ドル(収益))で、ポートフォリオにおける炭素効率性を表す。

――脱炭素化に向けて、どのようなインセンティブが考えられるでしょうか。

三好: Multi-modal Optimizationでご紹介したアプリでは、利用者のサステナブルな習慣を促進させるためにたとえばクーポンの発行などのインセンティブを設けるなど、様々な実証実験を行なっています。その中で気づいたのですが、日本では確かにインセンティブが期待されがちですが、ヨーロッパではあまり利用者からインセンティブが求められることはなく、サステナブルな行動はやらなければならないものとして受け止められている方が多いようです。国によって利用者の意識の違いはあるように思いますので、その国・土地にあった施策が必要かもしれません。

このように、会場ではお客様と多くの意見交換が行われました。豊かで持続可能な社会の実現に向けて、スマートシティをどのように計画し構築していけばよいのか、お客様の中にも様々な課題や疑問があるようです。ひとつ言えるのは、スマートシティの実現は1社、1業界だけでは実現せず、クロスインダストリーで皆が取り組まなければならないことだということではないでしょうか。

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