「AI倫理外部委員会」とともに創る、信頼できるAIと豊かな社会

安心安全で信頼できるAI社会のために

みなさんは、日々の生活で「AI倫理」を意識することがあるでしょうか?
近年、AI(人工知能)が急速に社会に浸透しつつあります。「AI倫理」は、AIが活用される中で発生しうる、さまざまな倫理課題に対処するための重要な観点です。富士通は、日本企業のなかでも早い段階から「AI倫理」を推進しており、その先進的な取組みは、政府や他企業などからも高く評価されています。今回は、数ある取組みの中でもひときわユニークな「富士通グループAI倫理外部委員会」の活動について、ご紹介します。

(★2023年12月6日追記)「富士通グループAI倫理外部委員会」に関するホワイトペーパーを公開しました。富士通の他のAI倫理活動も複数紹介しています。 AI倫理Webよりダウンロードいただけますため、ぜひみなさんのAI倫理の実践にお役立てください。

目次
  1. パーパス実現のために、富士通が取り組んできた「AI倫理」
  2. 「富士通グループAI倫理外部委員会」、そのユニークな取組みとは?
  3. AI倫理外部委員会の委員ご紹介
  4. AI倫理外部委員会のトピックスと、今後の展望
  5. 富士通・顧客・すべてのステークホルダーが、協調して目指す未来

パーパス実現のために、富士通が取り組んできた「AI倫理」

AIは、大量のデータを瞬時に分析し、人力では不可能な規模の推論を可能とします。今や、個人のスマートフォンや家電製品、企業で活用する生産機械にまで組み込まれ、わたしたちの日常生活や事業活動に欠かせないものとなっています。しかし、とても便利なツールである反面、その技術的特性や利活用法によっては、予想もしなかった不都合をもたらすことがあります。
たとえば、人材採用AIに学習させた過去データにバイアス(偏り)が潜んでいた場合、そのAIに応募者の選抜を任せると、出身地、学歴、性別や年齢などによる差別的な結果を生じるおそれもあります。そうなれば、AIを開発した企業だけでなく、利用した企業にも非難が殺到することでしょう。こういった懸念を未然に防ぐために、公平性や透明性、人権・プライバシー保護といったAI倫理の観点がとても大切になります。

富士通は、「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていく」というパーパスを掲げています。AIをはじめとする最新のキーテクノロジーによって人を幸せにするために、AI倫理がきちんと担保された、「信頼できるAI」を提供する責務があります。
具体的には、AI倫理指針である「富士通グループAIコミットメント」の策定・実践、社内外でのイベント登壇などの教育・浸透活動、AI商談へのチェックプロセス組込み、技術ツールの開発、そして今回ご紹介する「富士通グループAI倫理外部委員会」など、多岐にわたる取組みを推進しています。

「富士通グループAI倫理外部委員会」、そのユニークな取組みとは?

富士通は2019年9月に、「富士通グループAI倫理外部委員会」(以下、AI倫理外部委員会)を設置しました。国内外の社会情勢を踏まえ、ステークホルダーから客観的な評価を受けることを目的として、おおむね半年に1回、多様な分野から著名な専門家を委員として招聘し、AI倫理に関するさまざまなテーマを議論しています。

AI倫理外部委員会のもっともユニークな点は、AI倫理の取組みを「コーポレート・ガバナンスの一環」として位置づけている点です。富士通の経営陣はAI倫理を「企業経営上の重要課題」と認識しており、このAI倫理外部委員会には、社長・副社長をはじめとする役員層が欠かさず出席しています。
議論の内容も、単なる諮問委員会のように個別のAI商談について評価を受けるといったものではありません。富士通のAIビジネス形態は、いわゆるB to B to Cの商流における最初のBが主になるため、直接的な顧客としては中央のBにあたる企業が多いですが、「信頼できるAI」の実現のためには、一番右のC、つまり顧客の先にいる生活者など、社会の幅広いステークホルダーにも配慮する必要があります。 こういったステークホルダーの視点も念頭に置いたうえで委員からは、富士通関係者だけでは思い至らないような大所高所から、当社のAI倫理への取組みについて積極的な提言を受け、富士通サイドからも見解を述べるなど自由闊達に議論を深めております。
また委員会開催後は、委員からのご提言・議論の成果を「取締役会」にも共有し、透明性を担保しています。こういった仕組みは、他社ではあまり類を見ない、大変先進的な試みとなっています。

AI倫理外部委員会の委員ご紹介

AI倫理は、AIテクノロジーの専門家だけで実現できるものではありません。「AI倫理外部委員会」には、情報工学・法学・医学・生態学・SDGs・消費者行政など多岐にわたる分野から、ハイレベルな識見をお持ちの6名の専門家の方々を招聘し、多様性に配慮した仕組みとなっています。
委員からは、富士通におけるAI倫理の取組みに対して幅広い視野から忌憚のない意見をいただき、「信頼できるAI」の実現を強力に後押ししていただいています。

辻井 潤一 委員長
国立研究開発法人産業技術総合研究所 人間工学領域フェロー 兼 人工知能研究センター長、東京大学名誉教授、マンチェスター大学教授
特に言語処理分野における学術的成果が、世界的に高く評価されている。

君嶋 祐子 先生
慶應義塾大学 法学部・大学院法学研究科教授、 弁護士、
同大学グローバルリサーチインスティテュート(KGRI)所長、
日本工業所有権法学会理事
専門領域は知的財産法、海外での研究・講義も精力的に行っている。

国谷 裕子 先生
ジャーナリスト、東京藝術大学理事(SDGs推進室長)
豊富な国際的見識をもとに『ワールドニュース』『クローズアップ現代』等のNHKキャスターを歴任。近年はSDGsに関する取材・発信にも力を入れる。

武部 貴則 先生
東京医科歯科大学 統合研究機構教授
兼 横浜市立大学 コミュニケーション・デザイン・センター センター長、
シンシナティ小児病院 オルガノイドセンター 副センター長
26歳の時にiPS細胞からミニ肝臓を生成、科学誌『ネイチャー』に論文発表。

板東 久美子 先生
日本赤十字社常任理事、公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン理事 他
文部科学省で大学改革の推進などを担い、文部科学審議官、消費者庁長官、日本司法支援センター理事長を歴任。

湯本 貴和 先生
京都大学名誉教授 兼 中部大学客員教授
生態学者として世界各地の熱帯雨林にて、動物と植物の相互関係を研究。
近年は、人間と自然の相互関係の研究にも力を入れる。

  • 各委員の経歴等は2022年11月時点のものです。

AI倫理外部委員会のトピックスと、今後の展望

AI倫理外部委員会は、2019年9月の第1回から現在(2022年11月)まで、計7回開催されています。
これまでの議論の中でも、特に興味深いトピックスの一部を公開するとともに、先生方のご意見を受けて富士通がどう取り組んでいくか、特別にご紹介します。

①「AI倫理」と人権についてのご意見

社会のAIビジネスの動向を踏まえ、安心・安全な「信頼できるAI」の提供を目指す上で、影響を受ける人々の人権をどう守るかについて、活発な議論が交わされ、委員からは下記のようなご意見がありました。

AI利用においてはビジネス意識も大切だが、エンドユーザー個々の人権に還元されるような問題から目を背けてはいけない。 (ユーザーをトラブルに巻き込まないよう)富士通としてのここだけは譲れないという一線を、あらためて明確にすべきでは?

一企業として「我々はこういうことをしません」「個人の尊厳を守ります」といった 日本国憲法にもつながるスタンスを発信することは、法的観点からも非常に重要。

AI技術は、悪用されるおそれがあり、また悪用の意図はなくてもデータに潜むバイアス(偏り)や個人の価値観によっては、結果として人権を侵害するような使い方をされるおそれがあります。富士通のAI技術開発にあたっては、AIによって社会に豊かな価値をもたらすことを意識する一方、委員からの指摘の通り、プライバシーや公平性をはじめとした、個人の人権を十分に尊重することが不可欠です。

これらの意見を受けて富士通では、AIがもたらすネガティブな側面を正確に分析し、人権に反する使い方には技術を「提供しない」という姿勢をより明確にするため、「AI倫理ポリシー」や各種ガイドラインの策定を進めています。

②「AI倫理」とガバナンスについてのご意見

富士通では、「『人間中心のAI』推進検討会」として、AIやデータの倫理に関する社内相談窓口を設置しています。この相談窓口では、社内から寄せられた相談について、研究開発・ビジネス・人権・法務など社内の複数部門が多様な観点で検討し、回答しています。
AI倫理外部委員会では、こういった有意義な取組みにさらに力を入れ、すべてのAI商談に倫理審査プロセスを設けるなど、ガバナンス体制をさらに強化してはどうかとご提案をいただきました。

テクノロジーが複雑化する中、現場だけにAIリスクの判断を任せるのでなく、それぞれの部署に「AI倫理の担当者」を置くなど客観的な仕組みが必要では?


個別のAI案件について「~を可能な限り遵守しているか」といったチェックを行い、判断が難しいものは議論する場を設けるなど、AI倫理指針から乖離がないかを見極めるマネジメントプロセスが、社内でしっかり機能しているべきと考える。

体系だったルールのない中でビジネスの現場の方の個別判断に任せきりになると、重大なAI倫理課題が見過ごされるおそれがありますが、かといって社内ルール・規則が強すぎると、ビジネスの柔軟性やスピードが犠牲になりかねません。

上記の意見を参考にしながら、富士通では今後、世界各国のAI法規制の動向も配慮に入れつつ、社内すべてのAI商談におけるチェックプロセスの組込みなど、全社横断的なAI倫理ガバナンス体制を強化していきます。

③「AI倫理」と社外連携についてのご意見

富士通が、AI倫理を遵守したAIシステムを作っても、実際にそのAIシステムを利用してビジネスを行うのはもっぱら富士通の顧客となる企業です。富士通だけでAI倫理に取り組んだとしても、顧客企業がAIに投入するデータに人種や性別に関連するバイアス(偏り)が入っていた場合、AIはそのバイアスを反映した出力を行ってしまい、差別的な結果が生じるおそれがあります。こういった観点を受けて、委員からは下記のようなご意見をいただきました。

富士通だけがAI倫理について考えていても、富士通と顧客企業との間に「リテラシーギャップ」があると、なかなかメリットが伝わらない懸念がある。

不十分なデータで動いているAIであっても、「AIが判断したから」という理由で人間が判断を委譲してしまうと大変危険。顧客企業に対して、AIを過信しすぎないように、ツールとしてどういう形で使っていけば良いか、丁寧に啓発活動をするべき。

AI倫理に取り組んでいるのは富士通ばかりではなく、顧客企業においても、独自の、あるいは政府機関等が策定したAI倫理ガイドラインを参照するなどして、取組みを進めているケースがあります。しかし、各社におけるAI倫理の認識や浸透度合いには大きな差があり、中には、「AIは完璧なものである」、「AIに任せておけば人間は要らなくなる」といった誤解もあります。もし、当社と顧客企業、またはステークホルダーとの間でAI倫理の考え方にギャップがあると、安心・安全なAIの提供のために連携することが難しくなります。

富士通では今後も、「AI倫理といえば富士通」としてすべてのステークホルダーから頼られる未来を目指し、社外で積極的に議論の場を持ち、顧客企業とともに取組みを推進するなどのアクションを推進していきます。

富士通・顧客・すべてのステークホルダーが、協調して目指す未来

繰り返しになりますが、AI倫理は、AI開発者や専門家だけが意識するアカデミックな概念ではありません。 AI倫理外部委員会での議論は、その中で閉じたものではなく、富士通のAI倫理の取組みの屋台骨を支えるとともに、社内のさまざまな部門の取組みと連携し、ビジネスの現場までしっかりつながって実践されています。これらの取組みは、AIを活用している顧客企業を通じて、AI倫理の実践ひいては「信頼できるAI」の実現という形で、社会のステークホルダーにまで及ぶものですので、顧客企業とともにAI倫理を意識することは大変重要です。

「信頼できるAI」のメリットを最大限に享受するために

企業が、AI倫理に取り組む意義は大きいです。現在、事業活動にはサステナビリティやDE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)の視点が強く求められているため、事業活動にAIを用いる場合においても、こういった倫理的な観点を意識することは当然と言えるでしょう。

同時に、AI倫理を意識できていない企業は、思わぬ危機に直面するおそれがあります。
昨年、EC(欧州委員会)が、EU全域の適用を目指す「AI規制法案」を発表しました。この法案が成立すれば、2025年ごろを目途に施行される見込みで、人権侵害などのリスクの高さに応じて、AIシステムの利用が類型ごとに禁止・制限されることになります。EU域内で使用されるシステムのみならず、EU域から日本のサーバにアクセスがあっただけでも規制の対象になる可能性がありますので、日本国内でビジネスを行う企業にとっても決して対岸の火事ではありません。違反した場合には、巨額の制裁金が課される可能性もあります。

つまり、企業がAIのメリットを最大限に活かしながら活用するためには、そのAIが信頼できることを確認するだけでなく、万が一 AIによる不都合などが判明した場合、即座に対応策や再発防止策をとれるよう、AI倫理や法令対応の観点から、事前にガバナンス体制を確立しておくことが必須となります。
今や「AI倫理をガバナンスできているかどうかが、企業や事業の価値を左右する時代である」とも言えるのです。

「信頼できるAI倫理パートナー」としての富士通

富士通では、AI倫理外部委員会を定期的に開催することで、 AI倫理に率先して取り組む企業として目指すべき方向性を不断に見直し、抽象的な理念だけでなく、ビジネスの現場における具体的な取組みを進めてきました。富士通には、AI倫理ガバナンスの実践を時代に先駆けて率先し、黎明期から積み重ねてきた確かなノウハウがあります。
これからはAIを提供する企業だけでなく社会全体で、AI倫理を実践していく時代です。実践にあたって何が必要かは企業によって、また具体的なビジネスによっても異なるため、正解の道筋は一つではありません。 富士通は、顧客企業をはじめとするすべてのステークホルダーのみなさんが主体的に倫理を実践する際に、積極的な支援を行い、ともに解決策を探っていく、そんな「信頼できるAI倫理パートナー」でありたいと考えています。
(詳細については下記、関連情報の「[公式サイト]富士通のAI倫理ガバナンス」もぜひご参照ください)

「信頼できるAI」がもたらす豊かな未来の実現に向けて、一緒に取組んでいきましょう。
今後も、富士通のAI倫理実践にご期待ください。

AI倫理ガバナンス室 荒堀 淳一
AIは、人類の発展やサステナビリティの向上のために不可欠なテクノロジーです。しかし、社会がAIの利便性を享受するためには、AI提供企業が倫理指針を作れば十分というわけではありません。AI倫理が組織文化に浸透し、制度として適切に運営されていることが、客観的に確認されることが重要だと思います。「富士通グループAI倫理外部委員会」には当社経営陣も必ず同席し、委員の先生方のご知見を踏まえて、安心安全なテクノロジーを社会に提供するためにどう行動すべきなのか、不断の検討を続けています。これからAI倫理に取り組む皆さまにとりまして、富士通の取組みがご参考の一助となれば幸いです。

AI倫理ガバナンス室 森永 理恵
「AI倫理ガバナンス室」は、AI倫理実践のグループ司令塔として、全社的な取組みを推進するために設立されました。社内外にて仲間を増やしながら、ガバナンス体制の整備や戦略の策定、積極的な情報発信、そして今回ご紹介した「富士通グループAI倫理外部委員会」など、多様なアプローチにてAI倫理を先導しております。今後も、安心安全な「信頼できるAI」によって、より豊かで持続可能な社会を実現するために、AI倫理の「実践」を着実に進めてまいります。ぜひ一緒に、取組みを深めていきましょう。

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