多様性を強みにしたチームマネジメントとリーダーシップとは

富士通はWECに参戦するトヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ)のレーシングチーム「TOYOTA GAZOO Racing(以下、TGR)」を応援しています。9月11日決勝が行われる富士6時間耐久レースを前に、ドライバー兼TGRのチーム代表である小林可夢偉選手が富士通を訪問。部員500人を誇る富士通eSports部の部長である有馬和宏と、部員の仲田雅彦との対談およびグランツーリスモ7での対決が実現しました。対談では、それぞれのチームマネジメントへの考え方や、eスポーツの意義とモータースポーツにおけるサステナビリティについて語っていただきました。

目次
  1. eスポーツでの駆け引きやクルマの動かし方は
    本物のモータースポーツに似ている
  2. 新人メンバーをしっかりサポートし
    強いだけでなく応援されるチームを作りたい
  3. エネルギー問題は誰もが直面する!
    水素はサステナブルな社会を牽引するか
  4. eスポーツが社会に貢献できることとは

eスポーツでの駆け引きやクルマの動かし方は
本物のモータースポーツに似ている

左から、TGRの小林可夢偉チーム代表(以下、小林)、
富士通eSports部 部長の有馬和宏(以下、有馬)、
グランツーリスモ部門 仲田雅彦(以下、仲田)

──本日は『グランツーリスモ7』での対決、お疲れさまでした。対決されていかがでしたか?

小林: グランツーリスモ7は初めてプレイさせていただきました。前作以上にグラフィックスが綺麗になったこともあって、非常に楽しかったです。よく「実際のコースとバーチャルな世界と、どう違うのですか」と聞かれるのですが、もちろん細かな操作やセッティングなどは異なります。しかし、レースの駆け引きや、クルマをどのように動かすかという点ではとても似ているものがありますね。レースを練習したり学んだりするには、今後eスポーツはどんどん伸びていくのではないでしょうか。もっとリアルに近づいていくように思います。モータースポーツというのは体験が難しいスポーツだと思いますが、こうしたeスポーツを通して、モータースポーツをもっと身近に感じてもらえたらありがたいですね。

仲田: 僕は小林さんのクルマにぶつけてしまって……土下座したい思いです(笑)。

有馬: 富士通eSports部としては、これ以上ない記念となりました。本当にありがとうございます。

グランツーリスモ対決中の小林可夢偉選手と仲田さん

小林: eスポーツ部では、グランツーリスモの他にどのようなゲームをされているのですか。

有馬: 富士通eSports部は富士通グループのeスポーツ活動におけるプレゼンス向上と推進、並びにグループ間交流などを目的に2020年に設立しましたが、対象ゲームも徐々に増え、現在ではバトル系、格闘ゲーム、パズルゲームなど多種多様なゲームに挑戦しています。

小林: ぜひ有馬さんの力で、モータースポーツのeスポーツ部員をもっと増やしていただきたいですね。

新人メンバーをしっかりサポートし
強いだけでなく応援されるチームを作りたい

──小林可夢偉さんは、今年からドライバーだけでなく、チームの代表としてご活躍されています。兼務されてからは何が変わりましたか。

小林: ドライバーは“負けず嫌い”というイメージがあるかと思いますが、まさに僕もそうなんですね。ただ代表の立場としては、勝てるチームを作るのはもちろんですが、応援されるチームにならなければと思っています。強くても応援されないチームというのは長く続きません。プロフェッショナルでありながら応援されるチームを作っていきたいですね。
トヨタの豊田章男社長が「プロフェッショナルでありながら家庭的なチームを目指したい」とおっしゃっていましたが、たとえば経験の浅い新人メンバーをしっかりとサポートして温かい雰囲気を作ることで、『将来こういうチームで働きたい』というメンバーが増えていくといいなと思っています。

──TGRの実際のレースでは、ふだんは何人ぐらいがチームに関わられているのでしょうか?

小林: 世界中のレース現場に行くメンバーは、だいたい80~100人ぐらいです。そのほかに、会社でクルマを開発するメンバーが300〜400人ぐらい。プラスアルファでエンジンの設計や組み立てを担当する方がいます。そう考えると、レースでクルマを動かすのにだいたい400〜500人の力が必要ですね。

──多様なメンバーがいらっしゃいますが、どのようにまとめていかれるのですか。

小林: 一番は、やっぱり気持ちをしっかり伝えることだと思います。その上で、やる気のあるメンバーを主要メンバーとして進めていくことが結果的に重要になると思います。一言に多様と言ってもさまざまで、同じ日本人でもまったく違うキャラクターの人もいる。でも“勝ちたい”という気持ちは同じ。一人ひとりの良い部分をしっかり引き出すというのはマネジメントの力なのかなと思いますね。

有馬: 私たちの部も、基本的に社員なら誰でも入れますので、部員は多様です。ただいろいろな人を受け入れているぶん、たとえば“絶対に試合で勝つぞ!”とストイックになりすぎるとついて来られない人が出てきてしまう。部員の中にはのんびりとゲームをしたい人もいるので、どちらの人も楽しめるような環境をつくりたいと思っています。

──部員の肩書きもさまざまですよね。

有馬: 20代の新入社員からマネージャーまでいます。ただ、名前を明らかにすると会社での立場もわかり人間関係に影響してしまうので、基本的に性別や年齢、役職などはすべて隠してコミュニケーションしています。オンラインの良さですね。

小林: 有馬さんの対戦相手が、実は会社のものすごく偉い人だったりする場合もあるのですね(笑)。チャットでは優しくしないといけないですね。

仲田: eスポーツでは、ゲームが終わったあとに「こういうところが良かった/悪かった」と言い合える関係があるのですが、それは顔を見ては言いにくかったりします。オンラインの良さというのはありますね。

エネルギー問題は誰もが直面する!
水素はサステナブルな社会を牽引するか

──モータースポーツにおけるサステナビリティが注目されています。トヨタはWECにハイブリッド車で参戦されていますね。

小林: レーシングカーのハイブリッド車というのは、ブレーキやエンジンから出る熱を電気に変えて、それをバッテリーに貯めます。その電気を、モーターを使ってプラスアルファの力に変えるのです。これは、今まで使っていなかったエネルギーを使って、さらにエンジンパワーを出したり後続距離を伸ばしたりすることができますので、世の中にプラスになっていると思います。映画『Back to the Future』で、ゴミをエネルギーに変えるシーンがありますが、それと同じです。ブレーキも、今までは鉄やカーボンを挟んで削ることでクルマを止めていましたが、ハイブリッド車だとその量も減ります。エネルギーに関しても、水素で内燃機エンジンが動くレーシングカーでスーパー耐久レースに出ています※。

──水素をエネルギーにして走るレーシングカーがあることに驚きます。

小林: 速いだけでなく、後続距離を伸ばすことができます。技術の開発には時間がかかりますから、水素をエンジンにする一般車が普及するまではもう少し時間がかかるでしょう。ただ、モータースポーツで先に導入することで技術開発のスピードは上がるし、エネルギー問題の行方が不透明ななかで、意味があることだと思います。ところで、自動車がガソリンを使わなくなったら、ガソリンの値段は上がると思いますか?

──上がるのではないでしょうか?

小林: 上がります。ということは、工事現場の発電機に使うガソリンの値段も上がります。家を建てるときは、当然ながら電気が届いていません。つまり電気のないところから家を作り出さなければならないとうことですよね。そこでガソリンを使わなければならず、その値段が上がるということは、工事費が上がって消費者に影響が出てくるということです。家の建設だけではありません。高速道路などのインフラ整備もそうです。バッテリーでは代替できませんから、工事費が上がって、高速料金も上がるということになります。そう考えたときに、水素がエネルギーとして使われる意味は大きいでしょう。水素だと今のエンジンをそのまま使えますので、これはまさにサステナビリティではないかと思います。エネルギー問題は自動車産業にばかり影響があるわけではありませんが、当事者としてエネルギーの選択肢を増やしていかなければと思っています。

eスポーツが社会に貢献できることとは

──富士通としてもサステナブルな世の中を実現すべく、コミットしていきたいです。有馬さんは、eスポーツの世界ではどのように社会に貢献できると考えていますか。

有馬: 小林さんもおっしゃっていましたが、レーシングゲームをきっかけにモータースポーツや車に興味を持つ方が増えたら嬉しいですね。eスポーツ部の部員のなかには、親子でゲームを楽しむことで家族間のコミュニケーションが活性化したという人もいます。
また、eスポーツが自立支援に役立ったこともあるそうです。なんらかの理由で他者とのコミュニケーションが難しかったり、不登校になったりしていたお子様が、eスポーツを通して友だちと遊ぶようになり、再び学校に通い始めたそうなのです。
また、国際的な大会で勝つようなチームだと、お互いに切磋琢磨したり、負けた場合は分析をしあったり、戦略を立てたりします。そのなかでチームワークやリーダーシップが養われるでしょう。人格形成にも寄与できているのではと思っています。

──eスポーツでの社会貢献について、仲田さんはいかがですか。

仲田: 関西で、お年寄りを対象にしたeスポーツ教室が開かれているそうです。独居の方や施設にいらっしゃる方を招いてみんなでeスポーツをするのですが、eスポーツを通してコミュニケーションがすごく活発になって、精神的にも元気になられた。なかにはかなり上達されて大会で優勝した方もいらっしゃるとか。人と人をつなぐツールとして、ゲームは安全ですし、取り入れやすいものでしょう。富士通としてはこうしたソリューションをしっかりと出していくことが大事だと思うし、プレイヤー同士をつなげることもできると思います。具体的には、インフラ作成やPCの支援をしていきたいですね。

──最後に小林さん、本日はいかがでしたか。

小林: まずは本日お呼びいただきありがとうございました。モータースポーツを富士通さんが応援してくださることをとても嬉しく思っています。
「モータースポーツにおけるサステナビリティとは何か」と言っても、ピンと来ない方も多いかもしれません。でも、我々ドライバーがモータースポーツを通して考えていることをここでお話できたことは意義がありました。9月には富士6時間耐久レースが日本で開催されます。ぜひとも、現場にも足を運んでいただけたらと思っています。

──有馬さんはいかがでしたか。

有馬: 改めてeスポーツ部の在り方を考える機会になりました。部長としては、まずは多様な部員が心から楽しめるようにしていきたいですね。そのうえで、試合では勝てるチームを作りたいです。レーシングゲームをきっかけにモータースポーツに興味を持つ人が増えたらという話がありましたが、実際のサーキットに足を運ぶような機会もeスポーツ部から提供できたらと思いました。レーシングゲームをプレイするとモータースポーツを見る目も変わるでしょう。可夢偉さんのレースを部員で応援するのは、考えるだけでワクワクします。

──本日はありがとうございました。

小林可夢偉選手×富士通eSports部「チームマネジメントとリーダーシップ」(12分)

小林可夢偉さんプロフィール

小林 可夢偉(こばやし かむい、1986年9月13日生まれ)は、兵庫県出身のレーシング・ドライバー。9歳でカートを始め、2000年には全日本ジュニアカート選手権、翌年は全日本カート選手権ICAの王者に。同年、フォーミュラトヨタ・レーシング・スクール(FTRS)を受けスカラシップを獲得。2002年の15歳誕生日を迎えると限定競技ライセンスを取得し、フォーミュラトヨタで4輪デビュー。2004年からTDPドライバーとして欧州のフォーミュラに挑戦。2008年にはGP2で優勝、翌年はGP2アジア王者に。2010年からF1にフル参戦し、2012年の日本GPで3位獲得。2015年からは日本のスーパーフォーミュラに参戦。2016年からWECへもフル参戦。2017年のル・マン24時間ではコースレコードでポールポジション獲得。2019-2020シーズンは4勝して初のチャンピオンに。2021年はハイパーカーのGR010 HYBRID(7号車)で初のル・マン24時間制覇、WECは前年に続きチャンピオン獲得と活躍。2022年も引き続きWECとスーパーフォーミュラに参戦する。

eスポーツルーム(Fujitsu Uvance Kawasaki Tower 26階)

eスポーツルームは、eスポーツを通じて富士通社員間のコミュニケーション活性化、自治体や他企業との交流を目的に、2022年7月にオープン。富士通創立記念eスポーツ大会の開催をはじめ、様々なイベントで活用中

ページの先頭へ