革命的なデジタルツインテクノロジーで目指す
サステナブルでレジリエントな社会

デジタル空間とリアル空間をシームレスに融合するデジタルツイン技術。インターネットの誕生以来、もっとも革命的な進展とも言われ、超高速なデジタルシミュレーションによる的確な未来予測など様々な用途で活用が期待されています。例えば、現実世界の災害の影響を、仮想世界で高精度に再現・予測・分析することが出来れば、多くの人命を救えるようになるでしょう。

今回のインタビューでは、イギリスの国家デジタルツイン・プログラムやSociety5.0に先駆的に関わり、当社グループエンジニアの最高峰「Global Fujitsu Distinguished Engineer」を務めるKeith Dearに、デジタルツイン技術により、私たちの暮らしや社会がどのように変化していくのか話しを聞きました。

目次
  1. デジタル空間とリアル空間の交差点に立つ革命的技術
  2. 富士通のテクノロジーの倫理的活用でレジリエントな社会を構築
  3. 公共の利益のためのデータ活用
  4. 新興技術のより迅速で効率的な社会実装を目指して
  5. デジタルツインテクノロジーによって形成される未来を思い描く

デジタル空間とリアル空間の交差点に立つ革命的技術

――まず初めに、日本のSociety 5.0構想について教えてください。この構想により、どのような社会を構築しようとしているのでしょうか。また、どのような社会的メリットをもたらすとお考えですか。

Keith Dear (以下、Keith): Society 5.0は、日本の第6期科学技術・イノベーション基本計画において、日本が目指すべき未来社会の姿として提唱されているものです。そこでは仮想空間と現実空間が高度に融合されて、拡張された仮想現実が、リアルなものとバーチャルなものの境界を曖昧にしていきます。ちょうどインターネットが社会を革命的に変えたのと同じように、私たちの情報との付き合い方を革命的に変え、人間が関わり合うすべてのものを巻き込んでいく、そんな世界です。非効率な多くのプロセスを最適化し、あらゆることに対して新たな方法を見つけ出すための、はじめの一歩となる世界です。

――日本のSociety 5.0と同じようなものとして、イギリスには国家デジタルツイン・プログラムがありますが、その目的と社会的メリットについても詳しく教えていただけますか?

Keith: デジタルツインは、バーチャルな仮想世界と私たちが住む現実世界を結合するものです。例えば、私が仮想世界でなにかを変えたら、現実世界でも同じように変化が起こります。

私とイギリスの国家デジタルツイン・プログラムとの最初の出会いは、ダウニング街10番地の首相官邸で働いているときでした。当時私は、安全保障、防衛、開発、外交政策の統合レビューを担当し、首相のエキスパートアドバイザーをしていました。
国家デジタルツイン・プログラムは、建築環境情報モデリングの取り組みの一環としてスタートしました。政府は、デジタルツイン、つまり仮想空間と現実空間が相互にシームレスに接続するための、標準とプロトコルを策定することを目的として、ケンブリッジ大学の研究を支援していました。

例えば、現在私たちがデジタルツインに接続しようとすると、携帯電話同士を異なるアーキテクチャーやプロトコルで接続しようとするのと同じくらい、尋常でない作業が必要となります。国際的に見れば、標準化をしない限りは、日本とイギリスとのシステムは若干異なりますし、他の国々の場合も同様です。外国に行って電気製品を接続する場合のことを考えてみてください。アダプターが必要となり、コストも嵩めば、面倒な手順も必要となりますね。

このような状況を踏まえ、国家デジタルツイン・プログラムは、イギリス主導で標準とプロトコルを構築し、それを外国に輸出することを狙っています。私の知る限り、これは世界でもっとも先進的なプログラムであり、その基本原則の一部はすでにオーストラリアとニュージーランドで採用されています。

国家デジタルツイン・プログラムと富士通は、接続されたデジタルツインの標準とプロトコルを策定するにあたり、セキュリティが中心的なコンポーネントとなると考えています。仮想空間と現実空間でシームレスな状態にある世界において、このプログラムの社会的メリットは、個人データのセキュリティの保護と重要な国家インフラのセキュリティの保護が含まれていることです。

現在、私たちの情報との付き合い方に関して、3つの主要なモデルがあります。
ひとつは、監視資本主義と批評されてきた米国型モデルです。このモデルは、人間を搾取されるべき商品と見なしています。
もうひとつは、権威主義国家が追求しているデジタル権威主義と言われるモデルで、ここでは私たち市民は管理すべき脅威と見なされています。
最後は、私たちが必要としているデジタル民主主義モデルです。これは、あなたと私のデジタルツインをもつことができながら、私たちを収奪から守ることができるという大きなメリットのあるモデルです。現在、私たちが構築しようとしているのも、このモデルです。

富士通のテクノロジーの倫理的活用でレジリエントな社会を構築

――富士通がSociety 5.0とイギリスの国家デジタルツイン・プログラムに関与する理由は何ですか? そして富士通はこの2つのイニシアチブにおいてどのような役割を果たしているのでしょうか。

Keith: 私たちは、富士通で「ソーシャルデジタルツイン」と呼ばれるものを手がけています。1年ほど前、私が以前イギリスの国家デジタルツイン・プログラムで行っていた仕事について富士通研究所の同僚たちから問い合わせがあり、詳細を説明したところ、彼らが注力している分野に応用できると興味を示してくれました。
富士通のモデルは変化し続けており、私たちは調査、発明、研究といった活動の多くを日本だけに留まらずに海外で展開しています。富士通研究所は、ソーシャルデジタルツインをイギリスで実証し、イギリスの国家デジタルツイン・プログラムとの関係を構築したいと考えていました。現在、私たちはビジネス・エネルギー・産業戦略省とともに、国家デジタルツイン・プログラムの主要テクニカルパートナーとなっています。

――富士通のテクノロジーはどのように貢献しているのでしょうか?

Keith: とくにイギリスにおける富士通の伝統的な立場は、システムインテグレーター、そしてネットワークサービス・プロバイダーです。私たちは、クラス最高の技術をもち、統合対象の技術がどこのものであろうと対応できることを政府に理解いただいています。

私たちにはそれに加えてユニークなテクノロジーがあります。富士通は、世界最高水準のスーパーコンピュータ「富岳」と高性能コンピューティングへのクラウドベース・アクセスを活用して、高品位のシミュレーションを構築しています。

例えば、ソーシャルデジタルツイン・シミュレーションの洪水モデルへの活用です。因果関係の連続をモデル化できれば、仮想世界で洪水の水位が高まったことを現実世界で実際に起こりうることの予測と調査につなげることができるのです。
このように私たち独自のテクノロジーは数多くありますが、本当の意味で世界トップレベルである場合に限り、政府に推奨するという立場をとっています。

――現在までにどのような成果をあげたのでしょうか? そして将来的にはどのような成果を見込んでいらっしゃいますか。

Keith: 今までのところ、私たちはイギリスのビジネス・エネルギー・産業戦略省と組んで、同省が既存のプログラムの課題を特定するお手伝いをするとともに、その解決方法を助言してきました。これは、ソリューションの共創をベースとする日常的な業務関係です。私個人でいえば、富士通がこのソーシャルデジタルツインを日本以外の地域で、現実世界に応用することの加速化に貢献できたと考えています。
この点では、私は若干、会社よりも先走っているかも知れませんが、2025年の大阪・関西万博でSociety 5.0がどのようなものかを我々が示していきたいと考えています。

公共の利益のためのデータ活用

――これらのイニシアチブに関わっている中で直面した課題はどのようなものでしたか? また、どのようにして克服してこられたのでしょうか。

Keith: 課題については3つの分野に分けて考えることができると思います。

まず、技術の分野です。仮想世界と現実世界の完全な融合、あるいは大規模なシミュレーションについて語ることは簡単ですが、それらを実際に行うとなると、現実問題としてきわめて難しい課題が生じてきます。
例えば、累計的なモデル誤差の問題です。モデルが大きくなればなるほど、モデル内の誤差は増加します。個人データの保護をしながら、商業的に利益を出し、公共の利益においても、社会的に有益な形で可能とすることを目指すのは容易ではありません。それらの実現のためには、ブロックチェーン・ソリューションや量子セキュリティなど、私たちが援用できるあらゆる技術に注目しつつ、発生する概念的、哲学的、社会的問題をどのように管理していくかを考えていかなければなりません。

2番目の課題は、内部的な問題です。富士通は変容しつつあります。それはエキサイティングなことですが、変化することは容易ではありません。富士通はグローバル企業全体で仕事をしようとしていますが、これは強みでもあり、弱みでもあります。米国のMIT&CMUに出資している研究、日本における研究、ヨーロッパにおける研究、そしてもちろん、イギリス国内からの研究をどのように活用するか、方法を模索しています。私たちは、顧客が変わろうとしているのと同じように変わろうとしており、共通する多くの課題に直面し、それを克服しようとしています。

最後に、外部的な課題があります。信頼されるパートナーであるためには、私たちは細心の注意を払って歩まなければなりません。顧客との関係が不公平だとみなされるほど顧客との距離を縮めすぎてはいけません。さらに外部コミュニケーションの課題もありますが、私たちのこの取り組みはまだ始まったばかりです。私たちの仕事が、最善の利益であると市民に安心してもらうために、我々がやっていることを正確に説明する必要があります。 これはすべて、公共の利益のためのデータです。私たちが行うことはすべて、公共の利益の為でなければなりません。

つまり、私たちが直面している3つの異なる課題は、技術的、内部的、外部的な課題となります。それぞれの課題に求められるものは異なりますが、いずれの課題にも、楽しみ、喜ぶ瞬間があります。これらの深刻な課題を解決しようとすることは、私たちの歩みの一部となっています。

新興技術のより迅速で効率的な社会実装を目指して

――こうしたイニシアチブに関わるにあたって、Dearさんの個人的及び職業上のバックグラウンドがどのように関連しているのか教えていただけますか?

Keith: 防衛及び国家安全保障における私のバックグラウンドを考慮すると、国際秩序が直面する深刻な問題からデジタル民主主義について考えることは、自然な流れでした。

イギリス政府の国家安全保障と国際政策に関する統合レビューに関わっていたときのことですが、21世紀の国際競争力の主要な指標は、新興技術を商業化、運用化、管理する国家の能力ではないかと話し合ったことがあります。富士通に移ってからは、世界でもっとも重要な民主主義国のなかの2カ国であるイギリスと日本がそうした目標を達成できるようにお手伝いをしています。

私はオックスフォード大学で、実験心理学の哲学博士号を取得していることもあり、技術に対して独自の視点からアプローチできる立場にあります。私の博士論文は監視の心理学に関するものでしたが、そのテーマは以前よりも徹底した監視下に置かれているような世界で生活することの意味を問うものでした。人はどのような世界で繁栄出来るのでしょうか?恐ろしいほど多くの保護を必要とする世界でしょうか?これこそが、私の学問的バックグラウンドが、私たちが行っている活動に適合していると考える理由です。

――Dearさんがお仕事をされているなかで、もっとも心躍る局面は何でしたか?

Keith: 私は現在、ケンブリッジ大学でエグゼクティブMBAを取得中なのですが、私のこれまでのすべての学問的バックグラウンドをビジネス面での利益にどのように「翻訳」するのかということにわくわくしています。毎日毎日、新しいことを学んでいると実感しています。私にとって、世界中から集まったスマートな人々と一緒に学ぶということこそ至福の時なのです。
技術をより迅速に、かつ効率的に発展させることへの新たなスキルを構築するために、私を支援してくれる本当の意味でスマートな人々と共に働けることにわくわくしています。

――社会に大きな影響を与える可能性があるプロジェクトに関わるということについてどのように感じていらっしゃいますか?

Keith: どんなにわくわくすることがあっても、ある意味で、私の仕事は他の仕事と変わらないように思います。人間なら誰でも感じるフラストレーションとも無縁ではありませんし、打ちのめされたと感じることもあります。たくさん会議もありますしね(笑)
ですが、立ち上がり、すべてと関わりを持とうとするような特別なモチベーションもあります。
結局のところ、わくわくした気持ちをもつこと、このプロジェクトが達成できるであろうことを伝え広めようとすること、そして単調な日々の活動の間のバランスを維持しようとすることに尽きるのです。
お互いに議論できる環境をつくり、適切なソリューションに適切なテクノロジーをマッチングさせていくことが必要なのです。

デジタルツインテクノロジーによって形成される未来を思い描く

――デジタルツイン技術によって社会が完全に統合されたときの世界はどのようなものになるのでしょうか?

Keith: 最初にまず、このような世界にはしたくないという話から始めましょうか。映画の『マイノリティ・リポート』や『レディ・プレイヤー1』が描くような世界にはしたくないですね。仮想世界と現実世界を融合させることによって、ディストピア(暗黒郷)を生み出したいとは思っていません。

私たちが情報とどのように関わるのかについて、インターネットのように奥深く革命的なものについて、境界を設定することは困難です。それは例えば、あなた用にパーソナライズされた拡張バーチャルレイヤーを使って都市を歩いたり、指標や警告をしらせ、連鎖的因果関係をマッピングしたり、あらゆることのリアルタイムよりも速いシミュレーションを実行し、確率的な予測を作成して、これまで以上に正確に未来を予測し、備えることができる世界といったことなのです。
それは、あなたが瞬時に、どこにでも存在できる-つまり、ただテレプレゼンスするだけでなく、ときにはテレエグジスタンスできる世界なのです。

例えば、ミーティングを行っている場合でも、カメラを通じて話すのではなく、バーチャルに同じ部屋で座って、現実世界のデジタルツインや、あるいはロボティック・インターフェースを通じて、現実世界のオブジェクトとお互いにやりとりができるようになるのです。これはまさに、メタバースのエンタープライズアーキテクチャーと言ってよいでしょう。

――いままでお話しいただいたこと以外に、今回のプロジェクトについて、世界の人々に知っていてもらいたいことはありますか?

Keith: 私たちは、これらのイニシアチブをパートナーとともに、ユースケースごとに共同構築していきます。そうした歩みを進めるなかで、私たちは保険会社や金融サービス企業とともに仕事をするようになります。例えば、デジタルツイン・シミュレーションを洪水モデリングのために使用することは政府にとっては重要なことですが、それと同じように保険会社も、保険料をオーダーメイドで設定するなど、この技術の恩恵を受けることができるのです。金融サービス企業は、クライアント企業にビジネス活動環境のデジタルツイン情報を提供するよう要求することにより、さまざまなシナリオにおけるCO2排出量のストレステストを行い、貸出に関わるリスクの程度をより的確に理解できるようになります。
こうした活動を通じて、これらの企業は気候変動に影響を及ぼすような融資を拡大する場合に、それに伴うコンプライアンスリスクのレベルをより的確に理解できるようになることでしょう。こうしたことは、1回につき1プロジェクトずつ、全セクターにわたるポートフォリオを共同制作・構築し、必要であれば全セクターに渡ってコネクトすることによって機能するものなのです。

私たちは、驚くべき速さで、あらゆるもののインターネット化(IoT)からあらゆるもののデジタルツイン化(Society 5.0)へと進んでいくことになるでしょう。仮想世界と現実世界の融合については、ぜひとも私どもに抱えている問題を相談していただきたいと考えています。解決に向けて努めて参ります。

Keith Dear(キース・ディア)

Fujitsu Defence and National SecurityのAIイノベーション担当ディレクター

政府及び民間企業の意思決定過程を革命的に変革する活動を展開。研究から広範な採用に至るまで技術の普及にかかる時間をスピードアップさせることに取り組んでいる。富士通では、イギリスの国家デジタルツイン・プログラムと先駆的に関わり、メタバースのエンタープライズアーキテクチャーとなると思われるものの構築に貢献。同僚たちとともに、イギリスや米国など世界の大学と提携して次世代AI技術の研究に先駆的に取り組み、ユーザー、問題、データを集結し、最新のAI/ML、量子に着想を得た ソリューション(デジタルアニーリング)、スーパーコンピュータを利用したソリューションを共同で開発、迅速に普及させるための共同クリエーション環境を構築している。



※この記事はFujitsu Blogに掲載された「How a sustainable and resilient society built with revolutionary digital twin technology will change the world」の抄訳です。

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