2030年に向けた医療のデジタル改革。医療格差をなくすためにデジタルができること

目次
  1. 今の医療が直面する課題とは
  2. 効果的な医療サービス提供のためにも、患者との信頼関係を築くことが重要
  3. 最先端医療の恩恵をすべての人に届けるため、富士通に課せられた使命とは

2022年3月10日、富士通は医療業界の専門家を招いて「2030年の医療」について討論するウェビナーを開催しました。 富士通はかねてより「Healthy Living(あらゆる人のLife Experienceを最大化し、個人の可能性を拡張し続けられる世界)」の実現に取り組んでいます。ウェビナーでは、世界中のパートナーと協働したケーススタディが紹介されました。

今の医療が直面する課題とは

医療業界は現在、重大局面を迎えています。医療業界のリーダーが今後10年間に決定する事柄は、業界の次の半世紀を決定づけることになるといっても過言ではありません。
医療において、最新のテクノロジーがもたらす効果や恩恵について不安を覚える患者さんは少なくありません。特に人工知能(AI)の活用については賛否が分かれるところでしょう。そのため、医師による複雑な臨床的判断においても、患者さんから理解を得る必要があります。

今回開催したウェビナーでは、米国の大手調査会社フォレスター・リサーチの最新レポート「医療の未来: 今後10年間で行うべき10個のドラスティックな変革要求」の筆頭著者をゲストに迎え、この問題にスポットを当てました。
ウェビナーでは、フォレスター・リサーチ社の上級アナリスト、ナタリー・シベール氏によって、医療業界で取り組まれなければならない重要なテーマについて説明されました。医療サービス利用者から、医療への信頼が失われていることや、医療サービスにおける格差など多くの課題が挙げられました。
また、システム医療やゲノム情報解析、人工知能の一種である機械学習およびトランスレーショナル・バイオインフォマティクスを専門とするヨアキン・ダパツォ 氏からもプレゼンテーションがありました。
「Sitra」のミンナ・ヘンドリン氏からは、医療財政制度や技術面からの展望が語られました。「Sitra」とは、医療制度を改善するための新たな機会創出や新しいアイデアの試験運用に特化したフィンランドのイノベーションファンドです。
富士通執行役員常務でグローバルソリューション部門デジタルソフトウェア&ソリューションビジネスグループ長(2022年3月10日ウェビナー開催時点)を務める高橋美波(以後、高橋)からは、技術提供者の将来についての概要が述べられました。
フォレスター・リサーチのレポートでは、十分に行き届かない医療や、医療における格差、病院の閉鎖、医療従事者の不足、患者の医療への不安など、さまざまな問題により世界の医療エコシステムがどれほど脅かされているかを浮き彫りにし、大きな警鐘を鳴らしています。

効果的な医療サービス提供のためにも、患者との信頼関係を築くことが重要

ナタリー・シベール氏は、医療のデジタル変革が進むなか、患者の不安を取り除くことがいかに重要であるかについて問題提起しました。
患者から信頼を得るためには、いつ、どこの医療機関でサービスを受けるかを決める健康保険プランの選択や、あらゆるタッチポイントにおいて「これなら安心して任せられる」と実感してもらえるような体験を患者に提供することが必要である、とシベール 氏は説明します。医療サービス従事者には、信頼性、透明性、共感のバランスを取ることが求められます。必要以上に大量の情報を提供して患者を混乱させることがあってはならないのです。

これは、富士通が掲げるパーパス「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」に共通するところがあります。この点についてはウェビナー冒頭で高橋からも言及がありました。2030年までに医療制度に必要な抜本的な変革を行うためには、技術面と文化的側面の両方を変えることが必要だということを、富士通もフォレスター・リサーチも認識しています。富士通が単独で行動を起こすのではなく、国連の持続可能な開発目標(SDGs)に従い、地域社会や業界団体と連携していきたいと高橋は強調しました。

心身ともに健康で質の高い生活を維持し、ウェルビーイングの実現の妨げになっているものを取り除くため、自社の有能な人材や技術的な専門知識を結集して尽力すること。SDGsの目標3である「すべての人に健康と福祉を」に貢献をすること。これが医療分野における富士通のミッションです。

医療財政の専門家ミンナ・ヘンドリン氏からは、フィンランドの医療制度について説明がありました。フィンランドでは、ここ10年で医療サービスの民主化が進んでいます。それにより、国民から医療への信頼が構築できたという説明がなされました。
ヨアキン・ダパツォ氏からは、スペインの現状について説明がありました。急性期(症状が急に現れ始める時期)に患者の健康が回復するかは、どの病院で治療が受けられるかによって差が生じてしまうといいます。マドリッドやバルセロナといった大都市圏の病院はすでにデジタル変革を遂げています。一方で都市部より遅れてデジタル変革を遂げた地方の病院でも、デジタル化により医師が地域全体の患者の情報を得られるようになったことで、提供する医療サービスに恩恵がもたらされているそうです。地方でも早い時期にデジタル変革に踏み切った医療機関は、都市部に追いつきつつあるといいます。

さらに同氏は、現在は診療記録から得られる知見に依存し過ぎており、患者から全幅の信頼を得られていないと問題提起を行いました。ゲノム解析など最先端の医療を用いた治療法に、不安を感じる患者も多いのです。患者に最先端医療の恩恵を十分に享受してもらうには、最先端医療の価値を理解してもらい、医療従事者への信頼を得ることが大事だと述べました。
医療診断でAIを導入する場合、診断に到達した根拠や経緯をAIがきちんと説明できるようにならなければなりません。そのためにも、診断の際にはブラックボックスは使用すべきでないのです。「患者の信頼を得るためには、透明性を確保しなければなりません」とダパツォ氏は締めくくりました。

最先端医療の恩恵をすべての人に届けるため、富士通に課せられた使命とは

サイバーセキュリティの必要性は誰しもが賛成するところでしょう。さらに、データ供給者主導ではない消費者主導によるデータ共有の増加やデータの民主化が求められています。今後さまざまな変革が起きる際に鍵となるのがデータである、とフォレスター・リサーチのレポートは予見しています。すべてのデータがきちんと管理され、必要ならば誰でもデータが利用でき、なおかつ、そのデータが外部に漏洩することがないようにする──富士通のような技術提供者がサポートすべきところだと考えています。

「データフローを簡単に最適化するため、AIを活用すべき」とフォレスター・リサーチが強調している点に、富士通の高橋は注目しました。その背景には、健康データを取得したり、関連づけて分析ができたりするプラットフォームの構築と、そのプラットフォームに基づく総合的なデジタルヘルス・エコシステムへのニーズの増加があるでしょう。

これを可能にするには、人やデータの信頼性に関わる「デジタルトラスト」という概念が重要になります。富士通の取り組みとして、妊娠糖尿病の診断材料になる血糖値異常を妊婦が自ら診断できるようにするという、フィンランドのヘルシンキ大学病院 婦人科と共同で行っている事業の例が紹介されました。

「医療格差を出さないようにするため、テクノロジーが果たす役割は大きい」と高橋は力説します。北米の医療機関との共同事業を例に挙げ、組合せ最適化を高速で解く富士通の技術「デジタルアニーラ」の導入事例を紹介しました。手術対応能力を最適化するソリューションであり、これを導入したため、限られた外科手術リソースを最大限に活用できるようになったといいます。

※この記事はFujitsu Blogに掲載された「The Future of Healthcare in 2030」の抄訳です。

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