備えずに防災する、「フェーズフリー」という考え方

東日本大震災から11年。日本各地に甚大な被害をもたらした地震災害は、多くの人の記憶に深く刻まれているはずです。しかしながら、どれだけの人がかれの震災を糧に“備え”ができているでしょうか。内閣府の調べ(*1)では、災害が起きたらどうするかなどについて家族や身近な人と話し合ったことがある人は57.7%にとどまっており、防災についての日常的な意識が希薄である側面が浮き彫りとなっています。
「そうは言われても、いつ来るかわからない災害に備えるのはちょっと面倒……」、そう感じられた人にこそ知っていただきたいのが“フェーズフリー”という考え方です。

目次
  1. フェーズフリーって何?
  2. フェーズフリーなアイテムやサービスには、どんなものがある?
  3. 気象情報やSNSのフェーズフリー化はAIがかなえる

フェーズフリーって何?

「フェーズフリー」とは、平時と有事、それぞれのフェーズの垣根を取り払うことで、日常生活を“備え”につなげるモノやサービスを指す概念であり、誕生したのは2014年のことです。社会起業家の佐藤唯行氏が提唱したこの考えは、多くの人が抱える“備えられない”マインドを前提としたこれまでにない備え方であり、注目を集めています。

“備えずして防災する”とも言い換えられるフェーズフリーの考え方は、佐藤氏が代表を務める一般社団法人フェーズフリー協会による啓蒙活動や推進活動により企業や生活者へ拡まり、協会が「日常時および非常時の価値を共に有している」と認めるフェーズフリー認証を取得したモノやサービスが続々と登場しています。

フェーズフリーなアイテムやサービスには、どんなものがある?

フェーズフリーをより深く知るために、具体的な製品やサービスを見てみましょう。まずは、撥水バッグです。

表と裏に超撥水生地を使ったこのバッグなら、雨に濡れても中身が濡れることはありません。また海水浴やプールで濡れた水着を入れた際には、外に水滴が染み出ることなく安心です。日常使いで頼りになるこのバッグが、非常時フェーズではどう活躍するのか? そう、バケツとして活躍するのです。ライフラインが寸断された避難生活下において、ポリタンクなどがなくても6Lの生活用水を運搬できるのです。このバッグのように、平時と有事の両フェーズで活躍する二面性こそが、フェーズフリーの真骨頂なのです。

フェーズフリーの考え方はモノだけに留まりません。
フェーズフリーの価値観に賛同するコクヨは、フェーズフリーのオフィス作りを提唱しています。例えばオフィスデスクは、連結可能な1人用サイズのコンパクトデスクをモジュール化させることで、チームメンバーの増減に合わせて席数が変えられる“島型”のレイアウトを実現。同時に、連結させていたデスクを分離・移動させることで、災害時にオフィス内で起き得る様々なハザード対応にも即座に対処できる仕組みです。

また、2019年に運行開始した池袋エリアの周遊バス「IKEBUS(イケバス)」は、災害時にはバッテリーに蓄電した電気を活用することで、移動式電源としての役割を果たします。供給できる電力はスマートフォン約2,500台の充電分に匹敵し、非常用照明などへの活用も可能です。平時には池袋エリアの移動インフラとして、有事には電気を供給するインフラとして転用できる、まさにフェーズフリー発想から生まれたシステムなのです。

フェーズフリーはモノだけでなくサービスへも拡がり、企業のみならず行政も積極的に取り組んでいます。

気象情報やSNSのフェーズフリー化はAIがかなえる

天候変化の影響を受けやすい日本でますます活用されるようになった気象データや、スマートフォンの普及で一挙に存在感を強めたSNS(ソーシャルメディア)のデータは、フェーズフリー発想で災害対策に有効活用できます。
それこそが富士通の推進している、「デジタルレジリエンスサービス」です。

富士通が着目しているのは、災害発生時における状況を迅速かつ正確に把握することの困難さ。国や自治体、そして企業や生活者がそれぞれに持つ様々な情報はこれまで一元化されることがなかったため、災害発生状況をタイムリーに把握する術は限られていました。そこでAI分析や予測した各種データを組合せ、地図上に状況を可視化させるサービスの提供を始めたのです。そこで活用されるのは、前述の気象データや、動画・写真などを含むSNS情報です。注意報や警報などの気象データ、降雨量などのリスク情報、そこへリアルタイムで投稿されるAI分析した災害や事故などのSNS投稿情報が掛け合わされ、災害対策に欠かせないタイムリーな状況把握に役立つのです。こうしたデータは事象が起こっているエリアだけでなく拠点ごとに被害レベルすらも確認できるため、生活に欠かせない電気・ガス会社や鉄道・道路事業者、通信事業者での活用も期待されています。

富士通のデジタルレジリエンスサービス:リスク情報マップ画面(気象データ・SNSデータがマッピングされ状況を把握できる)

災害時のための何かではなく、防災フリーで平常時でも利用できる。また、平常時の何かでも災害時にそのまま活用し、レジリエンス強化につなげられる。
日本における自然災害の発生件数と被害はこの数十年で増加傾向にあることはデータにより証明されています(*2)。今後も増加するであろう災害にいかに備えるか、その解決策の一つはフェーズフリー発想かもしれません。

一般社団法人フェーズフリー協会
代表理事 佐藤唯行氏

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