「新技術への挑戦で人々の暮らしを守る」ーAI映像解析で目指す、安心安全な街づくり

安心・安全でレジリエントな社会を目指すべく、研究開発に力を注いでいる富士通。社会課題解決に寄与するテクノロジーの社会実装とイノベーションを促進するため、かねてより公共分野のDXを後押しする技術の開発に取り組んでいます。

その取り組みの一つが、ディープラーニングによるAI映像認識の技術。世の中にディープラーニングやAIが認知される前から研究を重ね、現在富士通の技術は道路や河川などの監視業務に役立てられています。暮らしの安全を支える技術はどのように生み出されたのか?開発チームがプロジェクトにかける想いとは?今回は当社グループのエンジニアの最高峰「Global Fujitsu Distinguished Engineer」であり、公共分野のAI技術開発をリードしてきた三浦真樹さんに、取り組みの内容や社会貢献への想いを聞きました。

目次
  1. 道路河川の安全を守る。AIで突発的な事象を検知
  2. 技術開発のきっかけは、車名自動判別の実現
  3. 部門横断で極めて短期間で実用化。志のつながりが推進力に
  4. 社会の拠りどころを創る。それが富士通の役割

道路河川の安全を守る。AIで突発的な事象を検知

――まず、AI映像解析の技術について、開発の背景となった社会課題を教えてください。

三浦さん: 私は道路河川などの社会インフラの分野で、技術開発を推進しています。道路では渋滞や立ち往生などの交通問題、河川では氾濫などの水害問題があるため、安心安全な日々の暮らしをどう維持するのかは、重要な社会課題です。また社会インフラの安全維持のため、これまで人の目によって監視を行っていましたが、膨大なエリアの監視業務にかかる負担は大きく、突発的なトラブルへの対応が難しいこともあり、人的には全ての監視をカバーしきれないことが課題となっていました。それをテクノロジーで補うために開発したのが、AI映像解析です。

――社会インフラに対して、AI映像認識の技術は、具体的にどう適用されているのでしょうか?

三浦さん: たとえば、道路や河川の状況を監視する「AI事象検知システム」「道路河川映像解析ソフトウェア」などは、道路利用者や河川周辺の住民の安全を守るため、24時間365日システムで監視をしています。AIによる映像認識技術なら、道路での事故や異常、河川の越水などの事態を早期に検知できます。

――早期の検知により、どのように社会課題の解決につながるのでしょうか?

三浦さん: 近年、大雪などの災害時に物流が止まるなど、交通への影響が問題視されたり、河川の氾濫や水害が社会問題化したりと深刻化していますが、監視技術によってこうした問題を改善できます。また、道路と河川は人の暮らしに密接に関わりますから、監視体制を万全にすることは、暮らしの安全に直結することになります。いまAI事象検知システムをはじめとする各種のAI映像解析ソリューションは、各地への導入が進んでおり、これからの安全安心な交通や街づくりを考えるうえでも、必ず役立つ技術だと言えます。

技術開発のきっかけは、車名自動判別の実現

――そもそも、AIでの映像解析に着目されたきっかけを教えてください。

三浦さん: 最初のきっかけは、監視カメラの映像から特定の車両を見つけ出す技術を求めているお客様からのご相談でした。当時は人間が選別ルールを考えてプログラムを組み、画像を判別する技術が主流の時代で、今のように高度なAI映像解析技術の社会的な応用は進んでいませんでした。しかし、人間が決めたルールでのプログラミングでは、屋外の千差万別な環境条件の影響により、どうしても認識性能が十分に高められないという根本的な問題がありました。そこで、AI技術のひとつであるディープラーニングの活用検討をはじめました。

――なぜディープラーニングに着目されたのでしょうか?

三浦さん: ディープラーニングなら映像のデータを読み込ませることで、高い認識精度で特定の車両を判別できるからです。ただし、ディープラーニングの研究は、富士通でも進めていましたが、社会インフラの領域で実用化しているケースは当時ほとんどありませんでした。私は、技術を製品に適用できるかどうかを考える部門にいて、主に社会インフラ領域における“世の中に役立つ技術”を考えていました。その中で、ディープラーニングは、これから必ず色々な分野で適用されると思っていたんです。

――とはいえ、当時は未開拓の技術とあって、チャレンジングな試みだったのでは?

三浦さん: もちろん社会インフラへの適用を目指すということは、性能を担保しなければいけません。しかし検証する価値はあると考えました。既存技術ではクリアできない状況に直面したことをきっかけに、これまでにない新しい技術で突破口を開くことができると考えました。ディープラーニングが世の中に実装されれば、車両の判別のみならず、あらゆるところで活用できます。それにより幅広い社会貢献を実現できるはずだと確信しました。

――ディープラーニングの可能性を信じて、研究から実用化に向けた開発に舵をきられたということですね。

三浦さん: はい。とはいえ、まずは緻密な検証を重ねることが重要です。少量のデータを学習させるところからはじめて、高品位なCGを活用したり、大量の教師データを効率よく整備する技術を確立したり、使用する画像のバリエーションを変えてみたりと、性能や処理速度の向上を目指しました。その過程で、実システムに適用するにあたっての貴重な知見が数多く得られました。そして開発したのが「車名認識システム」です。ディープラーニングの技術によって、監視カメラの映像からリアルタイムかつ高精度に車名を自動認識することができるようになったのです。

部門横断で極めて短期間で実用化。志のつながりが推進力に

――ディープラーニングの実用化を早期に成功させることができたのは、研究のベースがあったからということでしょうか。

三浦さん: もちろんそれは大きな理由の一つです。しかし何よりも、壁にぶつかったときに部門を横断したメンバー同士が協力して解決策を見いだせたことが大きかったと思います。私が統括していたのは約20人のチームでしたが、まだ世の中に浸透していない技術とあって、幅広い知見が必要でした。私のチームだけでは開発に数倍以上の時間がかかったと思います。組織や部門をまたいだ協力が必要でした。しかし幸いにも、富士通には新しいチャレンジをしている人にどんどん力を貸そうという雰囲気があります。特に新規の開発とあって、社内でスキルのある部署やメンバーが少なかったのですが、各チームの責任者の方々へ相談したところ、みなさん快くプロジェクトに協力してくれました。

――志を持つメンバーの知恵とスキルによって、開発を後押ししたということですね。

三浦さん: その通りです。「どうすればお客様のためになるのか?」「社会をより良くするためにどうするべきなのか?」という議論で開発が進みました。社会貢献につなげるためには、オープンなコミュニケーションが不可欠です。私自身もまったく新しい技術開発においては、メンバー同士の積極的なつながりや議論で解決策を迅速に導くプロセスを大事にしています。また、ディープラーニングの分野で業界をリードする存在になるという目標を共有できたのも大きかったと思います。

――具体的にはどのような目標でしょうか?

三浦さん: たとえば、最低限の機能だけで満足するのではなく、現時点での要件を確実に満たしながらも、さらに将来長期にわたり通用するアーキテクチャや開発技術を実現するといったことです。いちから自前で創るのは大変なことで、ディープラーニングでは、最適なAIモデルの設計、AIに学習させる開発技術の確立、学習させるデータの準備など、大変な労力がかかります。また、社会インフラに新しい技術を適用させるには、大きな責任が伴います。その意味でも、関わったメンバーたちの「技術で世の中に貢献しよう」という想いが推進力になったと感じています。

――今後、ディープラーニングの技術をどう社会に浸透させたいですか?

三浦さん: いま手掛けているのは事象の検知なので、起きた出来事をいち早く把握するために、データを効率よく的確に判別するという技術です。言い換えれば過去から現在にかけての事象に対処するための技術ということです。しかし、より事故や災害に強い社会を目指すなら、過去に起きたことだけではなく、これから起きうる事象を予測し、その影響を未然に防止や軽減することも視野に入れるべきだと思っています。そうした予測技術が社会インフラに浸透していけば、より有効な施策を講じられるはずです。

社会の拠りどころを創る。それが富士通の役割

――新しい技術を世の中に適用させてこられた三浦さん。ご自身は、仕事とどのように向き合っていらっしゃるのでしょうか?

三浦さん: 「本当にそれがベストな技術なのか」というのを見極めることを大事にしています。実用化されれば最先端の技術になるかもしれないけれど、世の中に求められていなかったり、発展が期待できなかったりするかもしれません。ましてやお客様が本当に必要とする技術ではない可能性もあります。それを見極めるのが私の仕事だと思っています。そのためには、本質的な課題への理解が必要。顕在化しているニーズにだけ注目するのではなく、踏み込んだ議論をしなくてはいけないと思っています。

――目の前に見えている課題だけに囚われないということですね。

三浦さん: はい。もう一歩踏み込み、根源的な課題を見つけて、それを解決する技術や製品を作らないといけない、と意識して日々仕事をしています。表面的な課題をひとつずつ潰していったとしても、根源的な課題は解決できないと思うんです。まずはお客様とのコミュニケーションから課題の本質を掴んで、そこからさらに技術の本質を突き詰める。重箱の隅を突き詰めるよう技術開発ではなく、本質をがっちり把握したうえで製品を創り出したいですね。というか、これは私の性分かもしれません。本質を理解できないまま物事をすすめるのが嫌なんです。

――技術だけが先走るのではなく、イシュードリブンであることが重要だと。

三浦さん: そうですね。技術は世の中に貢献して初めて意味があると思うんですよね。それは企業の価値についても言えること。企業は社会という、さらに大きなネットワークの中に存在するものです。だからこそ、社会への貢献を念頭に置くことが重要だと思っています。もちろん技術者には技術者の好奇心があって、それが仕事の大きな原動力の一つです。技術開発が面白くて突き詰めたくなるのは私もそうですし、とても大事なことだと思います。ただ、それで性能が二倍になったとして、技術的には確かに素晴らしいですが、それにっいて本当に社会に価値をもたらすのか、しっかり考えなくてはいけないと私は思います。

――最後に、富士通は社会にどのような「信頼」をもたらせると思われるか、伺えますでしょうか。

三浦さん: 「信頼」とは、「人間が安心できる拠りどころ」だと解釈しています。その拠りどころがなくては、安心した暮らしや心豊かな生活は送れません。社会は人間同士のネットワークで支えられているものですから、そのネットワークには拠りどころとしての強靭さが必要です。今回お話した「車名認識システム」や「AI映像認識」は決して表に出る技術ではありません。しかし、こうしたイノベーションやデジタル化によって、社会ネットワークを支える基盤を強化し、安心で豊かな社会につなげていくことは、これからの日本に必要です。これからも社会ネットワークの基盤の強化に務めることが、富士通の役割だと思っています。

三浦真樹(みうら・まさき)
Global Fujitsu Distinguished Engineer
(Certified Technology Field : AI)

1966年秋田県生まれ。富士通入社後、IPビデオ配信システム、画像認識システムなど、一貫して映像関連システムのコア技術と製品開発に従事。技術・製品開発をリードし、新たなビジネスの立ち上げに貢献。社内AIコミュニティのアドバイザーや社外コンソーシアムメンバーを務め、AIビジネス活性化全般に取り組む。AIは業務そのもの、答えは現場にある、が信条。2021年より、AIの知見をグローバルビジネスに展開するため現部署に異動し、次世代レジリエンスサービスの企画開発に携わっている。

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