モビリティデータ活用で変わる「移動」の未来

今、モビリティの世界は100年に一度の変革期を迎えています。
急速に普及が進んでいるドライブレコーダーや車載ネットワークのCANデータ、2030年までに爆発的に増えると予測されているコネクティッドカーから収集したデータを有効活用することで、新たな移動サービスの創出や、環境負荷軽減・交通事故減少・渋滞緩和などの社会課題解決への寄与が期待されています。
富士通は車両から収集した様々なデータから、“モビリティデジタルツイン”としてデジタル世界に現実世界を再現することで、安全で快適な移動サービスの実現を目指しています。では、安全で快適な移動サービスとは具体的にどのようなものなのか、そして、富士通が提案している“モビリティデジタルツイン”とはどのような世界なのか。開発を担当したDigital Transportation事業本部 ソリューション事業部の大下朋也さん(以下:大下さん)に聞きました。

目次
  1. あらゆるモビリティデータを社会課題の解決につなげたい
  2. 実世界をリアルタイムに写し取る“モビリティデジタルツイン”の世界とは
  3. 私たちのモビリティ体験に起こるイノベーション
  4. 人に寄り添う、人にやさしい、未来のモビリティ社会を目指す

あらゆるモビリティデータを社会課題の解決につなげたい

――自動車から収集するデータの活用によりもたらされる、「安全で快適な移動サービス」とはどのようなものですか?

大下さん: 自動車が収集している速度や加速度などのセンサーデータを活用することで、その自動車の状態を把握することができます。また、ドライブレコーダー等の映像を解析することで周囲状況を把握することができます。これらのモビリティデータや外部データを組み合わせて分析することで、過去のある時点や現在の現実世界を再現・把握し、未来に何が起きるのかを予測することが可能になります。
これにより、例えば、不幸にも事故を起こした場合においても、事故の状況を再現することで客観的で納得感のある解決方法をスムーズに提供できる、常に鮮度の高い渋滞情報を作成し予測し続けることにより、最適な走行ルートを提供することができるといったことが挙げられます。その他にも様々なサービスを実現するソリューションを準備しています。

――なるほど。では、なぜ富士通としてそれを実現しようと思ったのでしょうか?

大下さん: 私たちが自動車のデータを収集されている多くのお客様と会話させていただいたところ、データを活用して社会課題を解決したいと考えられているお客様がたくさんいらっしゃり、私たちと同じ思いを持たれていることが分かりました。
例えば、交通事故を起こさない世界を実現したいという思いです。昨今、自動車の電子テクノロジーの進化や安全運転指導などのサービスの普及に伴い、事故件数は減ってきているとはいえ、高齢ドライバーによる事故は増加しているなど解決すべき課題はたくさんあります。同じ思いを持つお客様と議論を重ねることで、お客様のデータと私たちの技術によってこういった社会課題を解決していくことができると確信しました。
その答えが現実世界をデジタル世界に再現する“モビリティデジタルツイン”です。

Digital Transportation事業本部 ソリューション事業部 大下朋也さん

実世界をリアルタイムに写し取る“モビリティデジタルツイン”の世界とは

――では、富士通が提案する“モビリティデジタルツイン”の世界について教えてください。

大下さん: “モビリティデジタルツイン”とは、刻々と変化し続ける車や道路などの実世界の情報を、デジタル世界上にリアルタイムに再現、分析、予測するプラットフォームです。モビリティデジタルツインでは、実世界の一台一台の車や人などを別々のオブジェクトとして管理することで個々の状態を把握し、その個々の状態を掛け合わせて分析することで、道路等の地点情報を把握します。
これにより、街の変化や動いている物体の軌道、潜在リスク、関連する交通状況などを忠実に再現し、実世界を超えたデジタル世界が実現できるのです。

私たちのモビリティ体験に起こるイノベーション

――三次元データを再現し、実世界をリアルタイムに写し取ることで、私たちの暮らしはどのように変わるのでしょうか。

事故報告不要!?保険会社が映像から事故状況を解析し迅速な対応を

大下さん: 事故に遭遇した時、ドライバーは警察や保険会社に事故状況を連絡することになりますが、気が動転して状況を正確に思い出せないといったケースがございます。そんな時、自動的にドライブレコーダーの映像が保険会社に送信され、事故状況を高精度に再現し分析することでできれば、保険会社から迅速な事故対応サービスを受けることができます。

実際、モビリティデジタルツインの技術を取り入れたサービスを展開しているのが、あいおいニッセイ同和損害保険株式会社の「テレマティクス自動車保険」です。
テレマティクスとは「テレコミュニケーション」と「インフォマティクス」を組み合わせた造語で、カーナビゲーションシステムやGPSなどの移動体通信システムを利用したサービスの総称。自動車に取り付けられた専用のドライブレコーダーから得られるデジタルデータを事故対応に活用するサービスです。

これまで事故が起こった時、損害保険会社はドライバーなどからヒアリングした事故場所・状況などの情報に基づいて処理を進めなければならず、相手方との示談交渉に時間がかかる場合がありました。本サービスでは、ドライブレコーダー映像をAI画像認識と位置・速度推定技術で解析することで、事故状況をより客観的、正確に特定することが可能となります。これにより、事故解決のスピードを格段に向上し、ドライバーの負担を大幅に軽減することができます。

リアルタイムなデータ収集により、ストレスのない移動を

大下さん: 道路状況は刻々と変化します。カーナビゲーションに従ったのに渋滞に捕まってしまった、そんな経験皆さんにもあるのではないでしょうか。その課題は、自動車からのデータを使って交通情報をリアルタイムに分析し、精度の高い渋滞情報を配信することによって最適なルートをナビゲーションすることで解決できます。また、渋滞の末尾に気付かずに起こる追突事故が増えていますが、事前に末尾の位置を通知することによってブレーキや減速をうながし、今後事故防止につなげたいと考えております。

旅行先で個人の嗜好にあった場所をリコメンド

大下さん: 過去に自動車が立ち寄った場所や、例えば外部データの購買行動を掛け合わせて個人の嗜好を分析し、初めて訪れた場所でも、おすすめのスポットをリコメンドすることでドライブ旅行の楽しみを広げていく。さらに、スポットの混雑状況や交通情報と組み合わせて、より快適なモビリティ体験を提供していきたいと考えています。

人に寄り添う、人にやさしい、未来のモビリティ社会を目指す

――今後の展開についてお聞かせください。

大下さん: 2021年5月には、米Amazon Web Services,Inc(以下AWS社)と協業が始まりました。この取り組みは、モビリティデジタルツインをはじめとした富士通のソリューションとAWS社のクラウドサービス(以下、AWSクラウド)を組み合わせることにより、モビリティ業界における企業の新たなサービスやビジネスの創出を支援するフルマネージドのモビリティソリューションを共同で開発し、AWS Marketplaceを通じて提供するものです。順次日本だけでなく欧州、北米をはじめグローバルに展開されます。

私たちが目指しているのは、人に寄り添う、人にやさしい、未来のモビリティ社会です。そのためには快適な移動や事故を起こさない世界の実現だけでなく、CO2削減などの環境における社会課題にも寄与していく必要があると考えています。我々だけではなく、様々な業種の方々に働きかけ、共に未来のモビリティ社会を実現していきます。

モビリティデジタルツインを実現する、車載カメラ映像解析プラットフォーム「Digital Twin Analyzer」

モビリティデジタルツインの実現には、自車情報だけでなく周囲状況を把握するために映像データを数多く集める必要があります。「Digital Twin Analyzer」は、特別なカメラを設置することなく、個人で取り付ける一般的なドライブレコーダーから高精度に周囲状況を把握することができます。
安全で快適な移動社会の実現に向けて、この技術を様々な業種に横展開していき、社会課題の解決に寄与していきます。

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