内部事務における業務プロセスのデジタル完結に向けた基本的な考え方

自治体においては、予算・決算・契約・支出等の内部事務のデジタル化が課題とされており、これを解決するためには、業務プロセスの開始から終了まで、一気通貫のデジタル完結を実現することが重要です。本稿では、自治体における内部事務のデジタル化に向けた検討をこれから進めはじめる又は現在進めている方々を対象として、内部事務における業務プロセスのデジタル完結に向けた基本的な考え方について、筆者の経験を踏まえ、ご紹介します。

はじめに

社会環境の変化に伴い、行政・民間ともに、DX(デジタルトランスフォーメーション)に向けた取組を大きく加速させています。特に、アフターコロナを見据えた新しい働き方に対応するために、バックオフィスのDXに向けた取組が進められています。

自治体においても、予算・決算・契約・支出等の内部事務のデジタル化が課題とされており、これを解決するためには、業務プロセスの開始から終了まで、一気通貫のデジタル完結を実現し、職員の生産性向上や事業者の利便性向上につなげることが重要です。

1.本稿の趣旨

自治体DXの推進にあたり、住民が便利で快適に暮らせる社会を目指すためには、職員が働きやすい環境を整備していくところから始めることが大切です。ルールとして確立している定型的な作業を省力化し、職員がこれまで以上に「考える仕事」に注力できるようにしなければなりません。特に、予算・決算・契約・支出等の内部事務については、全ての職員が関与する業務になりますが、紙書類やエクセルによるアナログ作業が未だ多く残っており、職員の生産性低下の一因となっています。

東京都(※1)・横浜市(※2)等の先進自治体においては、内部事務のデジタル化に向けて、構想策定・業務改革・システム構築に取り組んでいます。アフターコロナを見据えた新しい働き方に対応するため、また、自治体DXを推進するためにも、各自治体において、内部事務のデジタル化を進めることが必要です。進めるにあたっては、紙書類やエクセルを単にシステムに置き換えるのではなく、業務プロセスの開始から終了まで、一気通貫のデジタル完結を実現し、更には、自動化したプロセスにAI等を活用し高度化していくことが重要です。

そこで、本稿では、自治体における内部事務のデジタル化に向けた検討をこれから進めはじめる又は現在進めている方に対して、内部事務における業務プロセスのデジタル完結が重要な理由と実現に向けた基本的な考え方について、筆者の経験を踏まえ、ご紹介します。

なお、本稿の意見に関する部分は、筆者独自の見解であり、筆者の所属する法人や組織を代表する見解ではないことを申し添えます。

2.内部事務における業務プロセスのデジタル完結が重要な理由

内部事務の対象範囲は、財務会計・文書管理・人事給与・人事評価・庶務事務等、多岐に渡ります。本稿では、先進自治体の動向を踏まえ、負荷が大きい予算・決算・契約・支出業務に焦点を当てることとします。

予算・決算・契約・支出業務においては、台帳管理・起案・決裁・契約書類・支出関連書類が未だ紙書類やエクセルであることや、システムとシステムとの隙間にどうしても手作業が残ってしまうことが、職員の生産性低下並びに在宅勤務の障害となっています。

過去を振り返ると、ホストコンピューターの時代から、当時の技術力を駆使し、手作業の業務プロセスが段階的にシステム化されました。一方で、技術面や費用面の制約により手作業やエクセルが残ってしまい、更には、社会課題の増大や法制度改正により、行政事務が複雑化・肥大化するにつれて、つぎはぎ・サイロ化し、「人手による補完」を余儀なくされました。

しかし、コロナ禍の影響もあり、ワークスタイル変革が社会全体で急務となったことにより、「人手による補完」の限界が露になりました。この課題を解決するためには、デジタル原則に基づく業務・システムの全体最適化が必要です。ユーザー中心で、業務プロセスの開始から終了まで、アナログ作業を介さずに、デジタル処理で完結するように、エンドツーエンドの業務プロセスを描き直し、複数のソリューションを適切に組み合わせることが重要です。

3.内部事務における業務プロセスのデジタル完結に向けた基本的な考え方

それでは、内部事務における業務プロセスのデジタル完結に向けた基本的な考え方について、図1・2をもとに説明します。

① 行政経営プロセスと事業進行プロセスのデジタル完結

図1左では、予算・決算・契約・支出業務を一連のプロセスとして整理しています。「予算編成~予算執行~決算統計~行政評価」という一連の行政経営プロセスでは、アナログ作業が残り、データが紐づいていないので、執行額/執行見込の把握が困難であり、意思決定スピードの阻害要因となっています。また、予算執行においては、「発注~契約~請求~支出」という一連の事業進行プロセスが存在しますが、こちらも、アナログ作業が残り、データが紐づいていないので、起案/決裁/進行状況の把握が困難であり、煩雑な事務作業に職員の貴重な時間が多大に割かれています。

そこで、行政経営プロセスと事業進行プロセスに残存しているアナログ作業をデジタル化し、業務プロセスの開始から終了まで、アナログ作業を介さずに、デジタル処理で完結させることにより、予算・決算・契約・支出業務のデジタル完結を実現します。これにより、職員の生産性/意思決定スピードの向上、支払遅延の防止、事業者の利便性向上につながります。

② デジタル完結に向けた主要機能とシステムとの対応付け

図1右では、行政経営プロセスと事業進行プロセスのデジタル完結に向けた主要機能を整理しています。デジタル完結に必要となる機能に既存システムを当てはめることで「実装済/未実装」を把握し、未実装の機能については、既存システムの制約等を総合的に勘案し、既存システム改修や新規システム導入による実装方法を検討することが重要です。

一方で、財務会計システムはA社、電子入札システムはB社、予算編成システムはC社というように、マルチベンダーのソリューションを採用している場合、個別業務で見るとデジタル化されていたとしても、業務横断で見るとシステムとシステムとの隙間にどうしてもアナログ作業が生まれてしまう可能性があります。この隙間を埋めるためには、業務横断でデジタル処理を実行するためのプラットフォーム(デジタルワークフロー)が重要です。

図1:内部事務における業務プロセスのデジタル完結の全体像

③ デジタル完結に向けたデジタルワークフローの実装

図2左では、デジタル完結に向けたデジタルワークフローの位置づけを整理しています。デジタルワークフローとは、業務横断でデジタル処理を実行するためのプラットフォームであり、近年、さまざまなソリューション(※3)が提供されるようになりました。

デジタルワークフローは、主に、作業の発生源(トリガー)・実行(アクション)・情報(データ)を構成要素としています。個別業務であればシステムのなかでトリガー・アクション・データを管理できますが、業務横断となるとシステムを越えてトリガー・アクション・データを管理するプラットフォームがこれまでに普及していなかったので、システムとシステムとの隙間にどうしてもアナログ作業が生まれていました。デジタルワークフローは、このアナログ作業を解消する有力な方法です。

また、デジタルワークフローは、ユーザー中心で、業務プロセスとシステムをつなげる効果があります。ユーザーはポータルサイトにアクセスし、デジタルワークフローが起動され、アクションとしてシステム連携(リクエストが送受信)されます。これにより、システムをそれぞれ立ち上げたり、同じ情報を何度も入力したり、紙に印刷・回付するといった、これまでの煩雑な事務作業を省力化できます。

④ BPMNをベースとしたデジタルワークフローの整理

図2右では、BPMN表記の業務フローとデジタルワークフローとの対応関係について整理しています。デジタルワークフローを整理するにあたっては、まずは、業務プロセスの可視化から始めることが非常に大切です。

業務プロセスについて、BPMN表記の業務フローとして可視化し、アナログ作業や改善箇所を抽出します。その後、BPRを検討し、必要なアクティビティをデジタル処理に置き換えます。システムのなかでデジタル処理できる場合は、既存システム改修や新規システム導入を検討することになりますが、システムを越えたデジタル処理が必要となる場合は、デジタルワークフローの実装を検討することが有効です。

これまでにも、電子決裁システムにワークフローが具備されていましたが、デジタル処理の対象範囲は、「起票~承認」のように限定的でした。一方で、ワークフローでデジタル完結を実現するためには、デジタル処理の対象範囲は、「起票~承認~承認以降のアナログ作業全般」まで含まれることとなります。デジタルワークフローは、システムでカバーしきれない一連の業務のやり取りを対象範囲として、業務フローをベースに整理することが重要です。

最後に、留意いただきたい事項として、デジタルワークフローを実装するだけで、デジタル完結が実現するという訳ではありません。前提として、業務プロセスを可視化し、アナログ作業や改善箇所を抽出することが非常に重要です。また、ベンダーとのコミュニケーションを図り、既存システムの制約や費用対効果等を総合的に勘案し、実現可能性や段階的なロードマップを検討することも非常に重要です。

図2:デジタル完結に向けたワークフローの概観図とBPMNフローの活用

むすびに

以上のとおり、本稿では、内部事務における業務プロセスのデジタル完結に向けた基本的な考え方について、筆者の経験を踏まえ、ご紹介しました。本稿が、自治体における内部事務のデジタル化に向けた検討をこれから進めはじめる又は現在進めている方々にとって、その検討の一助になりましたら幸いです。

注釈

  • ※1
    東京都では、都政スピードアッププロジェクトの一つとして、契約・支出関連事務のデジタル化に取り組んでいます。
  • ※2
    横浜市では、内部管理業務等の事務の効率化の取組の一つとして、新たな財務会計システムの構築に取り組んでいます。
  • ※3
    デジタルワークフローは、業務システムに組込まれているものや、ノーコード・ローコードで開発するものなど、国内・海外の多種多様なソリューションが存在しており、目的・用途に応じて適切に活用することが重要です。

西山 直輝(にしやま なおき)

Naoki Nishiyama

公共デジタル戦略グループ シニアコンサルタント

(兼)公共政策研究センター 上級研究員

専門分野

  • 業務改革
  • DX事業推進
  • デジタル実装

2014年東京工業大学大学院総合理工学研究科人間環境システム専攻修了、同年富士通総研入社。主に中央官庁や地方公共団体のデジタル化・BPR・調達支援・PMOを対象としたコンサルティング業務に従事。

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