行政手続のデジタル化に向けた検討のポイントに関する一考察

自治体DXの推進にあたり、「地方公共団体におけるオンライン利用促進指針」を踏まえ、自治体の行政手続のオンライン化を積極的に進めることが求められています。本稿では、自治体DXや行政手続オンライン化に向けた検討をこれから進めはじめる又は今まさに進めている方々を対象として、行政手続のデジタル化に向けた検討のポイントと留意点について、その一考察をご紹介します。

はじめに

超スマート社会と表現されるSociety5.0の実現に向けて、国・自治体・民間企業においては、さまざまな取組に挑戦されています。

自治体においては、「地方公共団体におけるデジタル・ガバメントの推進」として、利用者中心の行政サービスの提供と効率的・効果的な行政運営の実現に向けて、取組を進められています。また、デジタル社会のビジョン(※1)である「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会~誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化~」の実現に向けて、自治体DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が必要とされています。

1.本稿の趣旨

自治体DXの推進にあたり、自治体の行政手続のオンライン化(※2)として、「2022年度末を目指して、主に国民がマイナンバーカードを用いて申請を行うことが想定される手続について、マイナポータルからマイナンバーカードを用いてオンライン手続を可能とする」ことが求められています。また、当該手続以外についても、地方公共団体におけるオンライン利用促進指針を踏まえ、積極的にオンライン化を進めることが求められています。

先進自治体においては、自治体DXや行政手続オンライン化を推進するための戦略・計画を策定済又は策定しているところですが、未策定の自治体においても、自治体DXや行政手続オンライン化に向けた検討を進めることが必要になります。とりわけ、当該検討を行うにあたっては、申請部分だけにフォーカスして検討するのではなく、申請~受付~審査~交付~支払のように住民接点から内部事務までを対象とした一連の業務プロセスをデジタル化するためのBPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)を検討することが非常に重要です。

そこで、本稿では、自治体DXや行政手続オンライン化に向けた検討をこれから進めはじめる又は今まさに進めている方々を対象として、行政手続のデジタル化に向けた検討のポイントと留意点について、その一考察をご紹介します。

なお、本稿における意見に関する部分は、筆者独自の見解であり、筆者の所属する法人や組織を代表する見解ではないことを申し添えます。

2.行政手続のデジタル化に向けた検討のポイント

行政手続のデジタル化とは、これまでアナログ(紙)を前提としてきた行政手続から、デジタルデータ(構造化データ)を前提とした行政手続へ、業務面・システム面・規則面を変革していくことであると考えています。「オンライン化」ではなく「デジタル化」と表現している理由は、申請のオンライン化だけにフォーカスするのではなく、バックオフィスまでを対象とした抜本的なデジタル化・BPRを想定しているためです。

なお、住民による行政手続の視点で考えると、申請~受付~審査~交付~支払が主なプロセスとして想定されますが、事業者による行政手続の視点で考えると、入札~契約~検収~請求~支出というプロセスや、補助金申請、許認可申請、使用許諾申請などのパターンも想定され、行政手続のパターンは多岐にわたると言えます。そこで、本稿では、行政手続のパターンの全てを対象に入れようとすると説明が複雑になってしまうため、住民による行政手続(申請~受付~審査~交付~支払)を想定ケースとして考えることとします。

それでは、アナログベースのプロセスからデジタルベースのプロセスへ変革していくにあたり、どの作業がどのように変化するか、どのような検討のポイントがあるかについて、図1をもとに説明します。

図1では、上段にASISのプロセス(デジタル化前の行政手続の流れ)、中段にTOBEのプロセス(デジタル化後の行政手続の流れ)、下段にASISとTOBEを対比し抽出した検討のポイントを①~⑧として示しています。なお、実際の業務分析では、さまざまな検討が必要になると思いますが、本稿では、主な検討のポイントを一例として示していることに留意ください。

図1:行政手続のデジタル化に向けた検討のポイント

①【ASIS】(記入/添付)→【TOBE】(入力/添付省略)
住民は、デジタル化前は紙の申請書に記入し紙の添付書類を付けていましたが、デジタル化後はオンライン申請フォームに入力し添付ファイルをアップロードするように変わります。その際、オンライン申請サービスの適用が検討のポイントになります。ぴったりサービスの活用を第一としつつ、スマートフォンアプリやパーソナライズされたポータルサイトの導入などもアイデアとして想定されます。
②【ASIS】(記名押印/窓口申請/本人確認)→【TOBE】(電子署名/電子申請/本人認証)
住民は、デジタル化前は紙の申請書に押印のうえ窓口に提出し本人確認を受けていましたが、デジタル化後はマイナンバーカードの公的個人認証により本人確認・電子署名のうえ電子申請するように変わります。その際、データの信頼性(トラスト)の確保が検討のポイントになります。トラストとは、真正性・完全性を担保し、意思表示・発行元証明・存在証明をするためのものです。
③【ASIS】(入力/回付)→【TOBE】(取込/回送)
職員は、デジタル化前は紙の申請書を見てシステムに入力し(決裁が必要な場合は)紙回付していましたが、デジタル化後はオンライン上で受信した申請データをシステムに取込み(決裁が必要な場合は)ワークフローで回送するように変わります。その際、回送ルートや閲覧権限の管理、大容量ファイルの添付が可能なデジタルベースのワークフローの適用が検討のポイントになります。
④【ASIS】(目検審査)→【TOBE】(審査省力化)
職員は、デジタル化前は紙の申請書・添付書類を目視で照らし合わせ審査していましたが、デジタル化後は申請データと添付ファイルのデータ突合等により一部の審査箇所を自動化し審査を省力化できるように変わります。その際、申請データを紙印刷しては本末転倒のため、デュアルディスプレイ等画面上で審査するような、書面を扱わない審査事務の実施が検討のポイントになります。
⑤【ASIS】(公印押印/紙交付)→【TOBE】(電子署名/オンライン交付)
職員は、デジタル化前は(交付物に公印が必要な場合は)紙の交付物に押印のうえ窓口又は郵送で住民に交付していましたが、デジタル化後は(交付物に公印が必要な場合は)交付データに電子署名(LGPKI)を付しオンライン上で住民に送信するように変わります。その際、②と同様に、データの信頼性(トラスト)の確保が検討のポイントになります。
⑥【ASIS】(現金支払)→【TOBE】(オンライン支払)
住民は、デジタル化前は証発行手数料を現金や収入証紙で支払っていましたが、デジタル化後は証発行手数料をオンライン上で決済するように変わります。その際、キャッシュレスサービスの適用が検討のポイントになります。窓口ではさまざまなキャッシュレス決済手段が用意されてきていますが、オンラインサービス上ではどこまで用意するかが議論になります。
⑦【ASIS】(紙保管)→【TOBE】(データ保管)
職員は、デジタル化前は紙の申請書を物理的なキャビネットに保管し鍵をかけていましたが、デジタル化後は申請データをシステムや共有フォルダ等に保管し閲覧権限を設定するように変わります。その際、デジタルデータの文書管理が検討のポイントになります。また、公文書管理という観点からも、デジタルデータの取り扱いを検討することが必要になります。
⑧ ①~⑦に共通すること
①~⑦の検討のポイントについては、全てが業務面・システム面・規則面の見直しに影響することが想定されます。なお、業務面の見直しでは、デジタルファースト、ワンスオンリー、コネクテッド・ワンストップによるBPRを念頭に置くことが必要です。システム面の見直しでは、現行システムでは不足する機能を追加し、重複する機能は共通化することを念頭に置くことが必要です。頻繁なバージョンアップが必要なシステムはマイクロサービス化も有用です。規則面については、業務面・システム面と対応を図りながら、文書管理規則や電子署名管理規程等を見直すことが必要です。

3.行政手続のデジタル化に向けた検討のポイントに関する留意点

2.のとおり、行政手続のデジタル化に向けた検討のポイントを説明しましたが、①~⑧のうち、とりわけ、②③⑤⑦については、外部動向(国・自治体・ICTソリューションベンダー等)に大きく影響されるため、その動向を注視することが必要になります。

②⑤では、データの信頼性(トラスト)の確保が検討のポイントになりますが、国においては、トラストサービス(電子署名、タイムスタンプ、eシール等)についての検討が進められています(※3)。その動向を踏まえ、例えば、住民・自治体において、どのような場面に何のデータに対してどの程度のレベルのトラストサービスを適用するかについて、自治体での検討が進んでいくものと想定されます。

③では、デジタルベースのワークフローの適用が検討のポイントになりますが、市場の動向を見ると、ワークフローに関するICTソリューションがここ数年で増えてきています。一方で、従来のとおり、文書管理システムや財務会計システムのなかにもワークフローが具備されています。はんこレス(特に認印の廃止)により、ワークフローの活用シーンは今後増えていく可能性があり、その際に、全庁共通基盤のワークフローとして構築するか、個別システムのワークフローを活用するかについて、自治体での検討が進んでいくものと想定されます。

⑦では、デジタルデータの文書管理が検討のポイントになりますが、国においては、デジタル時代の公文書管理の在り方についての検討が進められています(※4)。その動向を参考にして、例えば、デジタルデータの原本の位置づけや、原本の複製に関するルール、共有フォルダでの管理方法、紙媒体を電子媒体に変換する場合の扱いなどについて、自治体での検討が進んでいくものと想定されます。

また、これまでの説明を振り返ると、窓口部門・文書部門・財務部門・情報部門など、数多くのステークホルダーが関係してくることが想定されますが、業務・システム横断的な変革のためには、全庁的かつ強力な司令塔の存在が重要です。また、アナログベースのプロセスからデジタルベースのプロセスへ変革するにあたり、デジタルベースのプロセスを現場に落とし込むためのフィージビリティスタディのような検討も重要であると考えます。さらには、市場にある先進的なソリューションの活用を検討し、現行のシステムアーキテクチャと組み合わせて新しいサービスを生み出すという発想も将来的には重要になると考えています。

むすびに

以上のとおり、本稿では、行政手続のデジタル化に向けた検討のポイントと留意点について、その一考察をご紹介しました。本稿が、自治体DXや行政手続オンライン化に向けた検討をこれから進めはじめる又は今まさに進めている方々にとって、その検討の一助になりましたら幸いです。

注釈

  • ※1
    「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針(令和2年12月25日閣議決定)」にデジタル社会のビジョンが示されています。
  • ※2
    「自治体DX推進計画(令和2年12月25日策定)」に重点取組事項として、自治体の行政手続のオンライン化が示されています。
  • ※3
    「デジタル・ガバメント閣僚会議トラストに関するワーキングチーム」において、データのトラストの枠組みの検討が進められています。
  • ※4
    「公文書管理委員会デジタル・ワーキンググループ」において、デジタル時代の公文書管理の在り方の検討が進められています。

西山 直輝(にしやま なおき)

Naoki Nishiyama

公共デジタル戦略グループ シニアコンサルタント

(兼)公共政策研究センター 上級研究員

専門分野

  • 業務改革
  • DX事業推進
  • デジタル実装

2014年東京工業大学大学院総合理工学研究科人間環境システム専攻修了、同年富士通総研入社。主に中央官庁や地方公共団体のデジタル化・BPR・調達支援・PMOを対象としたコンサルティング業務に従事。

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