2022年4月11日

新たに施行される「電子帳簿保存法」と「インボイス制度」が企業運営に与える影響と知っておくべき重要なポイントを解説 第02回 新たな「インボイス制度」に備えるためのポイントとは

税理士法人ヒダ 代表
檜田 和毅 氏

シリーズ第2回では2023年に開始するインボイス制度およびそれに伴う電子インボイスについて解説し、新制度の適用が管理部門の現場に与えうる影響だけでなく、意思決定者の方々にも有益と考えられる内容について紹介いたします。
インボイス制度も税制上の大きな変更を伴う新たな制度となります。こちらは電子帳簿保存法と比較して、取引先との確認や関係などが重要となってくる可能性がある分野ですので、管理者の方々が留意しておくべき事項がより多いかもしれません。
なお、こちらの制度はまだ開始されていないため、想定をもとに記述している部分もあることをご承知おきください。

開始の時期

インボイス制度は、2023年10月からの施行となります。改正電子帳簿保存法とは異なり、制度の適用を受けるには事前の申請が必要で、2023年10月の制度開始から適用を受けるためには2023年3月までに届出をする必要があります。こちらは2021年10月より受け付けを開始していますので、本稿執筆時点(2022年3月)では既に届出可能な状態です。
なお、届け出るのは「適格請求書発行事業者の登録申請書」という書類で、国税庁のホームページなどから入手できます。

国税庁のホームページ
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/annai/invoice_01.htm新しいウィンドウで表示

インボイス制度とはどのような制度なのか

i. インボイスとは

インボイスとは一般的には請求書の英語名(Invoice)の意味で用いられることが多いですが、2023年10月からスタートする税務上の制度においては、「適格請求書」のことを指します。
2023年10月以後、事業者の消費税額の計算において仕入税額控除をするためには、適格請求書を受け取ることが必要となります。これは事業者の取引先側でも同じことが言えますので、こちらから適格請求書を発行してあげないと、取引先は仕入税額控除ができなくなってしまいます。

具体的にどのような書類を適格請求書と呼ぶのか、ですが、“区分記載請求書”と呼ばれる現行の請求書との一番の違いは“登録番号”というものの記載が必要になる点です。登録番号は法人の場合は法人番号の前にTを付したものとなるようですが、自社の請求書にこの登録番号を記載しなければなりません。
また、請求書などを受け取った際には、その請求書に登録番号が記載されているかも確認しなければなりません。その有無で消費税に関する経理処理が変わってくるためです。

ii. インボイス制度が創設される背景

従来は、取引そのものが課税取引かどうか、を経理が判断し、仕訳の入力時に課税区分の登録を行っていました。相手が課税事業者でも、免税事業者でも、自社の経理処理には無関係だったのです。しかし、今後は自社が受け取った請求書が適格請求書かどうかで経理処理が変わってくるため、取引先の属性によってその取引が課税取引なのか対象外の取引となるのかが変わってきます。
このとき、以前はたとえ取引先が免税事業者であったとしても税込みで請求されていれば税込みで支払っていたと思いますが、取引先が受け取る税込み部分(10%部分)は、免税事業者であれば納税する必要はありません。無税での収益となっていたのです。これを益税問題といい、国税が捕捉したいと考えている部分の一つです。
そこで、取引先が課税事業者かどうか分かるようにし、課税事業者に対する支払いであれば仕入税額控除を認め、そうでないならば仕入税額控除を認めないという今回のルールができました。その他にもインボイス制度創設の理由はありますが、この益税問題の解決が創設の背景の一つとして説明できます。

インボイス制度の現場への影響

導入部分でお伝えしたとおり、インボイス制度は取引先への確認を要し、取引条件自体にも影響を与えうる制度となりますので、社内にとどまらず、取引先なども含めて検討・判断を要すると考えられます。

i. 取引先が登録事業者かどうかを確認する必要性

大手企業でも個人事業主との取引はあるかと思います。その際に、相手が課税事業者かどうかを聞くことはあまり多くないと思います。取引相手としても、自らの売上が1,000万円を超えているかどうかを開示することに近い情報であることから、積極的には回答したくないでしょう。

それでも、インボイス制度が始まると相手が課税事業者かどうかを確認しなければならなくなります。

適格請求書は請求書内に登録番号を記載しなければならないため、請求書を見れば一目瞭然なのですが、もし取引先が免税事業者であることが2023年10月以降に判明したとしても、判明するまでの期間の取引については課税取引とできないことから、できれば事前に把握しておきたいところです。前述のとおり2023年10月から適格請求書を発行するためには2023年3月までに申請をしないといけないことから、確認期間は2023年3月までとするのが理想です。

ii. 取引先が免税事業者だった場合の取引継続や取引条件の検討

取引先が免税事業者だった場合には、当該取引先は適格請求書を発行できませんので、支払いは課税取引とはならず、仕入税額控除をすることができません。消費税分だけ取引金額が減少するのなら結果として支出の額は変わらない(そもそもの支払額が減るので仕入税額控除ができなくても支出合計は変わらない)ですが、支払額は変わらないのに仕入税額控除だけできなくなってしまうと、その負担は支払者にきます。
それでも今の取引先との取引を継続するのか、条件変更を申し入れるのか、適格請求書を発行するために課税事業者の選択を依頼するのか、については管理者に委ねられるところです。

iii. 事前のコミュニケーション

取引先が課税事業者かどうか、免税事業者だった場合に自社としてどのような対応をするか、取引先にどのようなことを依頼するか、に加えて、詳細な実務面も事前にすり合わせる必要があります。
たとえば毎月請求書を発行せずに契約書に準じて毎月の支払いをしているような場合には、契約書などに登録番号の情報を加える必要があるとされています。細かい話では、振込手数料を受取側負担にしている場合などは請求書に記載の金額と実際の振込額に差異が生じるため、それが値引きに該当すると判断された場合には、別途値引き分についても適格請求書を発行する必要がある可能性も指摘されています。
このような細部についても、管理者が意思決定をしたうえで、実際に制度が開始する前に取引先とすり合わせておく必要があります。

iv. 仕入税額控除の経過措置について

現在の消費税率は10%と軽減税率適用の8%があり、場合によっては過去の契約がまだ継続していて増税前の8%が適用されている取引もあるかもしれません。
2023年10月以降はこれに加えて、消費税の対象外となる課税区分も増やされることになります。この消費税対象外取引は現行の消費税対象外取引とは分けて管理する必要があります。今までは課税取引だったものが、適格請求書の発行がないために対象外となった場合には、経過措置が適用されるためです。この経過措置は、制度発効後3年間は80%の仕入税額控除を認め、そのまた後3年間は50%の仕入税額控除を認めるものです。
軽減税率が適用されただけでも現場の負担が大きかったわけですが、ここにさらに区分が増えてしまうので、現場の負担はさらに大きくなってしまいます。人間の目と手のみで会計入力をするという従来のオペレーションは、大きな負担になると予想されます。管理者としては入力についても機械化などを検討して現場の疲弊を未然に防ぐという判断が必要になってくるかもしれません。

v. 下請法との関連

先述のii.やiii.にて、取引先が適格請求書を発行できない場合に税込分をどうするのか、取引条件をどうするのかの判断が必要になると述べましたが、取引条件の交渉にあたっては、下請法などの法律にも留意する必要があります。
2019年に消費税率が8%から10%になった際には、税込金額を据え置きとする価格転嫁などの圧力をかけていないかどうかについて監視・取締りの対象となっていましたが、今回のインボイス制度においては同様の措置の対象とはならないとされています。ただし、取引上の立場を利用しての値下げ圧力などに対する下請法などの取締りは対象となるとされています。
管理者としては、取引先が適格請求書を発行できない場合の適切な対応を定め、現場で取締りの対象となってしまうような交渉が行われないルールを作り、実際に行われていないかのチェック体制を構築する必要があると考えられます。

新たに施行される「電子帳簿保存法」と「インボイス制度」が企業運営に与える影響と知っておくべき重要なポイントを解説
第02回 新たな「インボイス制度」に備えるためのポイントとは

著者プロフィール

税理士法人ヒダ 代表
檜田 和毅 氏(Kazuki Hida)

公認会計士・税理士、MBA(国際経営学)
税理士法人ヒダにて法人税務や国際税務に従事するとともに、複数社の上場準備支援業務も行う。
また管理部業務のアウトソーシングサービスであるシェア管理部を運営し、管理部業務の効率化コンサルティングも提供。
元AI inside株式会社取締役CFOとして同社の上場準備の設計、実行を担当。

檜田 和毅 氏

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