2022年3月31日

新たに施行される「電子帳簿保存法」と「インボイス制度」が企業運営に与える影響と知っておくべき重要なポイントを解説 第01回 新たな「電子帳簿保存法」に備えるためのポイントとは 

税理士法人ヒダ 代表
檜田 和毅 氏

近年、書類の紙での管理を減らしていく動きが出てきていますが、国税関係書類にもその流れは押し寄せてきており、税金に関する書類は全て紙の状態で保存しないといけない、というルールも変わりつつあります。
3回シリーズで解説する第1回では2022年より施行し関心を集めている改正電子帳簿保存法を、第2回では2023年に開始するインボイス制度およびそれに伴う電子インボイスについて解説し、新制度の適用が管理部門の現場に与えうる影響だけでなく、意思決定者の方々にも有益と考えられる内容について紹介いたします。
そして、第3回では電子帳簿保存法やインボイス制度への対応が結果的に管理部門業務のDX化を促進させる効果があるのではないかという考察や、それぞれの制度に対応する際の課題などについてお伝えしたいと思います。

電子帳簿保存法とは

2022年から改正適用となるため2021年の後半あたりから経理部関連の方々や税理士業界を中心に注目を集めた電子帳簿保存法について、まずは制度の概要について解説したあと、具体的にどのような内容についてどのような意思決定を要するのかという観点についても解説します。

開始の時期

電子帳簿保存法は2022年の1月に改正が施行されました。ただし、現場での対応が間に合わないという声が強く、2年間の猶予期間が設けられました。そのため、法律自体は現在有効なものの、実際に全ての法人や個人事業主が対応しないといけないのは2024年1月以降となりました。
猶予期間が設けられたということは、それだけ対応に時間を要する制度であるということが言えますので、2021年中の対応が間に合わなかった事業者はすぐにでも対策を始める必要があることを示しています。

電子帳簿保存法とはどのような法律なのか

まずは電子帳簿保存法の概要について簡単に触れさせて頂きます。

i. 3つの形態で対策が必要

電子帳簿保存法は、大きく3つの書類形態に分けてその保存方法を規定しています。
3つの形態とは、

  • 電子帳簿等保存
  • スキャナ保存
  • 電子取引

です。

電子帳簿等保存とは主に会計帳簿を指し、決算書や総勘定元帳などが該当します。

またスキャナ保存とは、紙で授受した書類をスキャンしたデータを、電子帳簿保存法で規定する方法で電子的に保存することを指します。

そして電子取引とは、そもそも電子的な方法で授受される書類となります。具体的にはメールで受け取った請求書や、EC取引などについてオンライン上で発行される領収書などが該当します。

2022年1月から適用された改正電子帳簿保存法では、電子取引のみが強制適用となり、電子的に授受した書類は紙の形態ではなく電子の状態で保存することが求められています。電子帳簿等保存とスキャナ保存については、事業者の選択で電子的な保存をすることもできますし、従来通り紙の形態で保存することもできます。

ii. 具体的な保存方法

電子帳簿保存法の規定上は、電子化された書類をそのまま会社のローカルドライブやサーバ、クラウドストレージなどに保存するだけでは要件を満たす保存とは認められません。書類を後から置き換えたり内容を修正したりすることが容易にできないよう、保存要件がいくつか設けられているのです。
現場が混乱する原因の一つとなったこちらの保存要件ですが、電子データにタイムスタンプを付すことで保存日時を証明させることに加えて、サーバ上でも訂正や削除ができない、もしくは訂正や削除をしたとしてもその履歴が後から確認できるようになることを求めています。

電子帳簿保存法の現場への影響

前述のとおり、改正電子帳簿保存法は多くの企業が施行前に対応できず、結果として2年間の猶予期間が設けられることとなったほど、シンプルとは言い難い法律です。また後述の懸念点から、電子帳簿保存法への対応には慎重な判断が求められることも想定されます。
しかし、テレワークへの対応がなかなか出来ないと言われている管理部門業務のデジタル化や、業務の効率化にも繋がる可能性を秘めていると考えられます。
以下では電子帳簿保存法への対応のメリットや留意点について解説します。

i. システム投資

改正電子帳簿保存法への対応には、ある程度のシステム投資を要するケースが多いと考えられます。上述のとおりタイムスタンプを付すこと、またはそれに類する対応が求められていたり、電子データの保存自体にも一定の条件が定められていたりするため、現状のシステムでは対応できない場合には、対応できるシステムを新たに導入する必要があります。
また、単に電子帳簿保存法に対応できるシステムを導入したとしても、会計帳簿との対応・整合が困難なシステムとなってしまった場合には、紙での処理よりも煩雑な業務が増えてしまう危険性もあります。
この点、電子帳簿保存法に対応するシステムとして会計ソフトなどに連動した形での帳簿保存システムも用意されており、このようなシステムを導入すれば例えば仕訳番号と書類番号の連動や、各仕訳上に電子書類が添付されるなど、税務署への対応の観点からも望ましい体制を整えることが可能となります。

ii. 業務の効率化につながる可能性

システムによっては、電子データをアップロードしたときに書類上の情報を読み取って自動で仕訳の入力をしたり、仕訳を提案してくれたりするものもあります。
また、そもそも書類をいちいちプリントアウトしなくてよくなることで、紙の書類に関する業務が省略できますし、後で書類を探す作業を簡略化することも可能です(詳細はここでは述べませんが、保存の要件には検索要件というものも含まれています)。
紙の書類の保管にはある程度のスペースも必要になりますし、紙を削減することはSDGsへの貢献という観点からも企業としてより良い方向に進むことができます。
また自社が電子化への取り組みを進めていても、取引先からは郵送で請求書などの書類が送られてくるために、結局管理部門などは出社を要するという事情もあるようですが、たとえば郵送物を転送先で受け取って、スキャンデータにした上で送ってくれるというサービスもありますので、セキュリティ面の検証は必要ですが、テレワークへの対応を可能とするサービスも徐々に出てきています。

iii. 本当に紙の書類を完全に廃棄して大丈夫?

一方で、本当に紙の書類を全て廃棄してしまってもいいのか、という懸念点も残ります。電子帳簿保存法に対応できていると自社では判断して書類を保存しないようにしたものの、税務調査のときなどに保存方法の不備を指摘されて、結果として国税関係書類を適切に保管できていないと判断されてしまう可能性があります。国税庁も即座に取り消しすることはないと言っているものの、国税関係書類の適切な保管ができていないと、青色申告の承認取り消しの可能性もあります。
どのような状態をもって電子帳簿保存法への対応ができているとするかの判断基準や、どのタイミングで本格的に紙の書類の保管をやめるのかなどの判断は、管理者に求められるところとなります。

iv. 逆に郵送での発送を要求されてしまう?

電子帳簿保存法とはどのような法律なのか、の項で述べたとおり、今回の改正電子帳簿保存法で必ず対応を求められるのは電子取引のみとなります。紙の形態で授受した書類をスキャンしたデータの保存については、現状ではまだ選択性となっています。
ここで問題となり得るのは、電子的な授受をした書類は法律の規定通りに保存しないといけないのに対して、紙で授受した書類は紙のままで保存することが認められているために、法律の改正前からデータで授受をしていた書類についてまでも紙での発送に切り替えるように取引先から要求されてしまうケースです。
せっかく法律への対応を進め、電子化の流れへの対策を講じても、逆戻りを強いられてしまう可能性があるのです。紙で発送した書類は電子取引には該当しませんので、電子的に保存をしたい場合にはスキャナ保存を選択することとなり、電子取引とはまた異なる保存の要件に従わなければなりません。
このような場面でどのような対応をするのかについて、管理者の方々には決断が求められると想定されます。

v. 税務調査のときにデータを全部持っていかれてしまう?

現在の税務調査では、調査官が閲覧を要求した書類を提供し、コピーの求めがあった際にはコピーをして紙の状態で提供するということが行われているかと思います。調査官が分厚い紙の束を持ち帰るという光景はよく見られます。現在でも総勘定元帳などの書類を電子データの形で提供することを求めてくることもありますが、提供範囲を限定してもらう交渉ができないわけではありません。

それでは、書類の多くをデータの形で保管している場合にはどうなるのでしょうか?

紙で持って帰るのではなくUSBメモリなどで一括してデータを持って帰れる状態になっているならば、調査官としては当然全て持って帰りたいと考えるはずです。
この点、電子帳簿保存法においては、たとえば検索要件に関する箇所などでは、調査官の求めに応じて該当する書類を速やかに出力できることを求めていることから、全てのデータを提供することまでは求められていないと考えられます。また、会社のPCなどを直接調査官が操作して検索するということも想定されていないとのことですので、あくまで求められたデータを自社の社員が提供するのみでも調査対応といえると考えられます。
会社として全てのデータを提供しても差し支えないという判断であればこのような論点は検討する必要はないですが、全てのデータの提供は何かと不利になると考えているような場合には、管理者としては正しい電子帳簿保存法の知識と毅然とした対応が求められます。

新たに施行される「電子帳簿保存法」と「インボイス制度」が
企業運営に与える影響と知っておくべき重要なポイントを解説

第01回 新たな「電子帳簿保存法」に備えるためのポイントとは

著者プロフィール

税理士法人ヒダ 代表
檜田 和毅 氏(Kazuki Hida)

公認会計士・税理士、MBA(国際経営学)
税理士法人ヒダにて法人税務や国際税務に従事するとともに、複数社の上場準備支援業務も行う。
また管理部業務のアウトソーシングサービスであるシェア管理部を運営し、管理部業務の効率化コンサルティングも提供。
元AI inside株式会社取締役CFOとして同社の上場準備の設計、実行を担当。

檜田 和毅 氏

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