2021年6月24日

『今さら聞けない基幹システム構築のポイント』~Back to BASIC~ 第01回 レガシーシステム刷新時に最重要ポイント、『部品構成表(BOM)』の基本と活用法について

フューチャーナレッジコンサルティング株式会社 代表取締役 福岡 博重 氏

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昨今、製造業のお客様より基幹システムの再構築をどのように進めれば良いかとのご相談を多く受けます。特に「2025年の崖」の問題を意識して『レガシーシステムからの刷新をどのように進めればよいか、また新システムをパッケージで適応したい』などの声を受けています。また、お客様の内部事情で既存システム資産について把握している技術者不在、現行の業務に即したシステム要件を取り入れたいなど様々なご質問も受けており、その解決のための第1ステップとして、レガシーシステムからの刷新について今回は『BOM』を中心にお話ししたいと思います。

1. BOMの役割理解

製造業のコンサルタントとして毎日のようにお客様の工場を訪問していると、BOMの基本概念を理解して業務を行っている会社が少なくて驚いています。例えば『図面は書きますが、部品リストは作っていません!』それでは、どうやって部品や材料を買ってくるのですか?と聞くと、『自社で製造できない部品は調達部門にて図面から拾い上げてリストアップし、Excelで一覧表を作成して発注しています。100年近く同じやり方です。』という、驚くような管理方法をご回答いただきます。また違う工場に出向くと『BOMはありますが部門ごとに設計BOM、 製造BOM、原価BOM、調達BOM、修理BOM、特注BOMを整備しています。』というお答えも耳にします。変更管理の際にどのように整合性を保つことができるのか心配になります。
レガシーシステムを新しい基幹システムに入れ替えるお客様に共通してお伝えできるアドバイスとして主に下記の3点が挙げられます。

  • ① BOMは生産の部材リスト以外で何にどう使えるのかを十分に理解する
  • ② BOM階層の基本的な決定方法を理解する
  • ③ リードタイム(LT)、スタンダードタイム(ST)の意味を理解する

ここでは、基本に戻りBOMに関連する大切な事柄をご説明いたします。それを理解していただくと、今後直面する問題の解決策が見つかるかと思います。

2. レガシーシステムからの移行

現在ホストコンピュータ、オフコンを基幹システムの環境として利用している場合「レガシーシステム」の状態にあります。(表1:多くのレガシーシステムの内容)

表1:多くのレガシーシステムの内容
表1:多くのレガシーシステムの内容

その場合、現状もBOMをオフコンに登録してあり、新基幹システムにそのまま移行すれば良いのでしょうとよく言われます。BOMがそのまま移行、登録出来れば、資材所要量計算が実行できるためすぐに使えます。30年前の経営をそのまま継続して行う場合は良いのですが、上記のBOMの定義を変えずにそのまま新システムに移行したがるお客様も多くいらっしゃいます。そこで上記のように現行システムをそのまま移行したいといういわゆる『レガシー派』の論点を下に挙げてみました。

  • ① 資材払出し:買ってきたら全部すぐ工程に払い出せばよい(現在もそうしている。当然部材在庫はわからない)
  • ② 資材納期:客先から受注したら発注書をすぐに出してしまえば、製造開始までに納期は間に合うはずだ(実際は間に合わず個別対応している)
  • ③ 在庫(材料、仕掛):正確な在庫を知る必要があるので毎週棚卸をしている
  • ④ 製造原価:工場全体で購入したものと、月毎の人件費は給与合計でわかるので不自由していない(決算はできるが改善はできない)

これらのレガシー派の意見を踏襲することも可能ですが、その場合、何が達成できないのでしょうか?

  • ① 過大在庫になりがち、欠品が頻繁に発生し、どこでどのようになっているか見えない
  • ② 在庫探しが頻繁に発生する
  • ③ 納期の督促が現場から言われるまでわからない
  • ④ 生産計画変更が現場に行かないとできない

レガシーの生産システムは古い経営の要素である『人、物、金』の管理が中心でした。今の経営の考え方では『人、物、金の他に重要なのは時間』の要素です。何年か前の流行語のように“いつやるんですか!? 今でしょ!”がポイントをついています。レガシーシステムと新しい基幹システムの大きな違いは『時間の概念(リアルタイム処理、現状在庫、未来在庫、需要予測、保持日数、納期回答等)』です。

3. BOMの使い道

それでは、最新のBOMの使い道は何でしょうか。「図1:BOMの使い道」にある通り、

  • 生産管理
  • 進捗管理
  • 工程管理
  • 在庫管理
  • 購買管理
  • 歩留管理
  • 原価管理

に使用されます。

図1:BOMの使い道 図1:BOMの使い道

4. リストBOMと階層BOM

レガシーシステムの中のBOMは親製品の下に構成する部品や材料を組み立て、順序に関係なく全てをリスト形式で並べている構成表を持っている場合が多いです。これをそのまま新しい基幹システムに引き継いでしまうと時間の要素がなくなってしまいます。手間はかかりますが、BOMを階層化することによりものづくりの手順を示してください。それを達成したらそれぞれの手順にかかる時間を工程LTとして設定をしてください。

5. BOMと生産管理

リストBOMを(図2:BOMの階層化)のように階層化する必要があります。理由は、生産工程毎にタイムリーな生産指示を出せるようにするためです。製品を組み立てる順番に、例えば①複数の部材を組み合わせてサブアセンブリを作り、②サブアセンブリを組み合わせてアセンブリを作り、③アセンブリと部品を組み合わせて製品を作るという親子の関係を定義していきます。上位の品目をつくるための工程をそれぞれ定義し、工程の滞留時間を示すリードタイムを設定していけば立派な階層化されたBOMとなります。

図2:BOMの階層化
図2:BOMの階層化

最低限の定義ができたので、製品の納期と数量を与えることにより所要量計算がリードタイムを利用し、部材の払い出し日、各工程の開始日、終了日がわかるようになります。
このロジックで計画を立案し、工程の実績(進捗)、不良の発生(歩留)、工程の完了による仕掛品の所在も管理できるようになります。

6. BOMと調達

階層化されたBOMの最下階層は部品、材料になっているはずです。この部品、材料に対して納入リードタイムを定義すれば製造の開始の何日前に発注をすべきかがわかります。(図3:BOMと調達) リードタイムは過去のデータの平均から算出またはサプライヤーとの話し合いで合意した日数を設定するのが一般的なやり方です。
さらに、BOMによる部品の定義と管理方式を設定しておくことが最適在庫運用を可能にします。例えば ①MRP品として所要量計算により必要数量の合計数を発注する方法 ②製番品として特定注文・製番に紐付きで発注する方法 ③ダブルBINにより1つの箱または容器に入っている部品が使用された際にもう1箱購入する方法。このように発注点管理により基準在庫を下回った際に発注をかける方式を取る設定がポイントとなります。

  • 階層化する → 工程定義 → 工程LT定義 → サプライヤによる納入LT定義
  • 部品ごと在庫品、MRP品、製番購入品をカテゴライズすることにより工数削減、在庫削減になる。

図3:BOMと調達
図3:BOMと調達

7. リードタイム(LT)と標準時間(ST)の設定

BOMの中で定義するLTとSTは重要な役割を果たします。(図4:リードタイム(LT)と標準時間(ST))LTには工程における段取り時間、待ち時間、実際の加工や組立時間等の合計時間で、工程に入ってから工程を出るまでの時間となります。このLTをレガシーシステムで持っている場合はほとんどないため、新規に算定、計測、経験者の勘によって初期値を決める必要があります。
一方、STはレガシーシステムの中に持っている場合が多く、その値をそのまま新基幹システムでも利用することができます。

図4:リードタイム(LT)と標準時間(ST)
図4:リードタイム(LT)と標準時間(ST)

8. 設計とBOM

ここまで、BOMの作成について説明してきましたが、製造業のおおよそ半分のお客様は、設計により図面とBOMを作成しています。(図5:設計BOMから製造BOMへ)基本的には、設計により作成されたBOMをそのまま製造で使用するBOMの基本とすれば良いのですが、現実にはそう簡単にいきません。設計BOMの設計者と製造BOMの設計者が同じ意図する目的で作成できていないことで各々の都合により各BOMが出来上がることが多く見受けられます。そのため以下の修正または追加を必要とする場合が多く発生しています。

  • ① 設計によるアセンブリ、グループ化と実際の製造工程は異なっている
  • ② 設計は完成状態あるいは加工後を示しているため、部品・材料が拾われていない
  • ③ 共通部品で一箇所にまとめてしまっていて、実際に製造の組立で使いたい箇所とは別の枝葉に登録してある
  • ④ 外注で製造したいので発注書には品名コードが必要だが、設計のBOMには階層がなく品名コードもない
  • ⑤ 寸法あるいは色が違っていても同じ品名コードがとられている

それ以外に生産管理あるいは生産技術では、工程、工順、LT、ST、原価、不良率、品目タイプ、在庫場所等の追加が必要になります。
できるだけ設計と生産管理、生産技術が話し合いを持ち二重手間をかけず、タイムリーにBOMを作成できるよう調整が必要です。

図5:設計BOMから製造BOMへ
図5:設計BOMから製造BOMへ

まとめ

BOMは人間で言うと背骨に当たります。現代の基幹業務システムは、このBOMの考え方をベースに主要業務が運営できるように設計されています。基本を押さえることにより、多くの目的を達成することができます。

著者プロフィール

フューチャーナレッジコンサルティング株式会社
代表取締役社長

福岡 博重 氏

千葉大学工学部(機械)、Case Western Reserve大学院修士(OR、土木)卒。
バーンアジアパシフィック:アジアパシフィック副社長、他多くのビジネスの立上げや海外進出コンサルティング、ERP業務コンサルティング、ビジネス展開における新規立ち上げ支援、セミナー講師としての職務経歴を持つ。特に日本市場におけるERP導入の立役者と言われ多くの企業コンサルタントとして幅広く活躍中。

福岡 博重 氏

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