2022年5月25日更新

ゲノム医療におけるDX
~ 家系情報の収集・管理・利活用を効率化するには?

富士通Japan株式会社

ゲノム医療が広がりを見せるなかで、家系単位の医療情報を効率的に収集・管理・利活用できる遺伝医療体制が求められています。2022年3月16日に開催された「ゲノム医療におけるDXセミナー」には、国立がん研究センター中央病院の認定遺伝カウンセラー・田辺記子氏と富士通Japanの石黒利幸が登壇し、遺伝カウンセリングなどにおける医療情報の収集・管理・利活用の課題について講演。家系図作成や家系情報管理の効率化を支援する「HOPE LifeMark-GiMS ファミリカルテ」の有用性を語りました。

国立研究開発法人国立がん研究センター 中央病院 様
所在地:〒104-0045 東京都中央区築地5-1-1(国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院)
認定施設等:特定機能病院、臨床研究中核病院、がんゲノム医療中核拠点病院、がん診療連携拠点病院、東京都小児がん診療病院、病院機能評価、3rdG:Ver.2.0
URLhttps://www.ncc.go.jp/jp/ncch/

がん治療・研究のリーディング・ホスピタルとして日本がん医療を牽引


「手書きの家系図」にまつわる数々の課題

近年、がんゲノムパネル検査などの個別化治療に加え、遺伝医療など個別化予防の領域でもがんゲノム医療が活発化しつつあります。遺伝的な素因が同定されることで、がんの早期発見・治療が可能となることから、田辺氏は「遺伝医療は、がん罹患経験者を持つ家系の人々に、有効ながん予防の知識を提供します」と話します。

国立研究開発法人 国立がん研究センター中央病院
遺伝子診療部門 認定遺伝カウンセラー

田辺 記子 氏

今後、さらなる発展と推進が期待される遺伝医療ですが、一方で、医療現場では運用上の問題が少なくありません。その一つが、家系単位での医療情報の収集や管理です。特に、家系情報把握のために行われる家系図の作成には課題が残ると田辺氏は指摘します。

「現在、臨床現場では、家系図は手書きで作成されるのが一般的です。そのため、読みにくい文字で記載されることも珍しくなく、内容の誤認・見落としを招く要因となっています。病歴などの誤認は、患者や来談者とのコミュニケーションに齟齬を生じさせ、正しい理解を阻みます。とはいえ、人数や病歴は家系ごとに異なるため、すべての家系図を正確な文字と適切なレイアウトで作成するのは非常に困難です。実際に、私も遺伝カウンセリングの現場で家系図を作成する機会が多いのですが、きょうだいがかなり多い方や複数の結婚歴がある方の家系図の作成は困難に感じることがあります」(田辺氏)。

また、手書きで作成された家系図の更新や履歴管理も課題です。時間の経過とともに、年齢や病歴は変化していくため、家系図にも情報の更新や履歴管理が求められます。しかし、手書きの家系図の場合、更新内容を手書きで加筆しなければならないため、家系図が煩雑になりやすく、履歴管理も、都度家系図を清書しておかない限り、紙の余白に更新履歴を記載するといったあいまいな管理方法に陥りがちです。

さらに、手書きの家系図は、図(絵)として保管されるため、データとしての利活用が難しく、電子カルテとの連携や研究への活用がされにくいという難点もあります。

直感的な操作で家系図作成が可能。家系情報は自動的にデータ化

富士通Japanの石黒利幸は、こうした遺伝医療の現場における課題を解決するために、「HOPE LifeMark-GiMS ファミリカルテ」(以下、ファミリカルテ)が開発されたと紹介します。

富士通Japan株式会社
ヘルスケアデリバリー本部
第一ヘルスケアデリバリー事業部

シニアディレクター
石黒 利幸

ファミリカルテは、国立がん研究センターと富士通(当時)の共同研究により開発された家系情報管理システムです。従来、多大な手間を要した家系情報のデータ化、多職種・他施設間との情報共有、WEB上のリソースとの連携などの効率化を目指し、2015年から開発プロジェクトがスタート。2019年から国立がん研究センターを始めとした複数の施設に実装されています。

石黒は、ファミリカルテの家系図作成機能のユーザビリティの高さを「ファミリカルテを利用すれば、国際標準の家系図記載法に準拠した記号や関係線を用いて家系図を簡単に作成できます。直感的な操作で記号を配置したり、関係線を記載したりできるため、家系図を整理されたレイアウトで作成可能です。疾患名などはマスタデータから参照できるため、記載ミスや表記のゆれも削減できます。また、人物の年齢は自動的に更新されるほか、更新履歴も自動的に記録されるため、適切な履歴管理も可能です」と解説します。

手書きの家系図とファミリカルテで作成した家系図

ファミリカルテの場合、簡単な操作で整然としたレイアウトの家系図を作成可能。

加えて、田辺氏はファミリカルテで作成された家系図を用いることで、患者や来談者とのコミュニケーションの齟齬を削減できると補足します。

「わかりやすい家系図は、遺伝性の素因への理解を促進し、患者や来談者との円滑なコミュニケーションを実現しやすくします。遺伝カウンセリングや診断の際に、手書きの家系図を対面で説明する場合と、整然とした家系図をモニターで表示して説明する場合とでは、患者や来談者の安心感や理解度は異なると感じています」(田辺氏)。

さらに、ファミリカルテの特徴的な機能がリストビューです。リストビューは家系図の作成情報を自動的にリスト化する機能。家系情報を一覧表示できるほか、疾患名での検索・絞り込みなども可能になります。さらに、リスト化した家系情報は、CSV形式やOffice形式などで出力可能なため、研究・調査・学会などへのデータ利活用も促進されます。

施設間でのデータシェアリングが、エビデンス創出を促進

田辺氏はゲノム医療におけるデータシェアリングの重要性についても言及しました。ゲノム医療の推進には、さらなるエビデンスの創出が求められます。そのためには、部門や施設の枠を超えたデータシェアリングが必要ですが、従来の紙による家系情報の管理が、その障壁になっていました。しかし、ファミリカルテは、部門間や施設間でのデータ連携を促進するため、膨大な医療情報の蓄積を通じたエビデンス創出を促します。田辺氏も「病歴や家系情報、遺伝子検査結果などを同じデータ形式で蓄積できれば、ゲノム医療の研究もさらに進むことでしょう。その意味では、ファミリカルテは、国内のゲノム医療の発展に寄与するシステムだといえます」と期待を寄せました。

最後に、田辺氏はファミリカルテの開発に共に携わった富士通Japanへの謝意を述べました。開発の過程では、田辺氏らの要望や医療現場のニーズが数多く反映されたといいます。

「家系図作成の操作方法やリストビューのデータのまとめ方については、何度も議論を重ね、改善を繰り返しています。富士通Japanの皆様は、常に『医療現場で使いやすいこと』を意識して、開発に向き合ってくださいました。ファミリカルテは、ゲノム医療の専門家である私たちとシステム開発の専門家である富士通Japanの高度な知見が融合し、凝縮されたシステムです」(田辺氏)。

ファミリカルテは、今後さらなる利便性向上にのぞみます。データの利活用機能やデータシェアリング機能の拡充などを通じて、システムの普及を進め、日本におけるゲノム医療の発展を支えていきます。

ゲノム医療におけるDX
~ 家系情報の収集・管理・利活用を効率化するには?

著者プロフィール

富士通Japan株式会社

【事業内容】
自治体、医療・教育機関、および民需分野の準大手、中堅・中小企業向けのソリューション・SI、パッケージの開発から運用までの一貫したサービス提供。AIやクラウドサービス、ローカル5Gなどを活用したDXビジネスの推進。

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