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熊本地震から考える災害福祉

2016年7月19日(火曜日)

日本は世界でも有数の自然災害の多い国です。超高齢社会に向かい、核家族化・地域社会の脆弱化が進行する中で安全・安心な社会として何が必要なのでしょうか? その答えの1つが、富士通総研が厚生労働省の助成を受けて取り組んできた「災害福祉広域支援ネットワーク」の構築だと考えます。これは、東日本大震災が発生した2011年に富士通総研が実施した実態調査を契機に議論が高まり、2013年には厚生労働省からの大規模災害時における広域的な福祉支援ネットワークとその前提である都道府県内の福祉支援ネットワーク構築の通知を経て、都道府県・事業者の公民協働で体制構築と人材育成が進められており、4月の熊本地震でもその重要性が確認されました。

1.東日本大震災を契機に高まった災害福祉

災害では人命をどう守るかが最重要課題です。よって、発災直後の「災害による直接的な被災」から命を守る一次被害を防止する活動として、緊急災害医療の専門性が高い組織による救命等は公的な体制として整備されています。しかし、東日本大震災当時、その後も続く災害の影響による二次被害防止の体制構築は進んでいませんでした。結果、避難生活導入時に行われるべき支援の見極めの遅れや避難生活の長期化等がもたらす二次被害に陥る人々が長期にわたり大量に生まれました。救命行為等で命が助かっても、その直後から必要となる介護や援助等を確保するための実態把握、状況や状態に応じた適切な場所や支援の要否の見極め、それらを支えるマンパワー等がなければ、その命は守られず、時間経過とともに新たな被害を生みます。この二次被害を防止し、生活機能確保の支援を緊急的に行うのが、災害時に提供される災害福祉です。

【図】災害後の各段階と支援を必要とする者の関係
【図】災害後の各段階と支援を必要とする者の関係

2.熊本地震直前までの状況

災害時の福祉支援は、災害初期に実態把握を行う先遣隊的な機能である福祉ニーズ把握、避難者に対するスクリーニング、直接的に支援を行うサービス供給と大きく3つの機能に分かれ、各都道府県は各々の実情に応じた方法で、実施体制、災害派遣福祉チームや支援を行うマンパワー確保等を進めています。

富士通総研の調査研究では各都道府県の体制構築の支援も行っていますが、災害の直接的な被害、すなわち命の危機に対応する医療と異なり、災害時における福祉の必要性の理解は進まず、当初は都道府県の反応も鈍いものでした。

風向きが変わったのは、命が助かりながらも避難所の過酷な環境下で落命した人々、長い避難生活や生活環境の変化で状態が悪化して介護需要が前倒しで発生したと考えられる人々、そして、数年経っても災害関連死とされる人々が継続して発生したことが知られるようになった頃でした。そして、2014年の災害対策基本法改正を契機に、都道府県では災害時の福祉支援の必要性への意識が高まり、平成28年3月末現在の弊社調査では29団体が体制構築に取り組み、平成28年度中に取り組むとした3団体を合わせると32団体・全国の3/4に及びました。富士通総研では構築支援として、年に1回情報交換会で情報や意見の交換、情報提供の機会提供等で各団体をつないでいますが、熊本地震発生直前の平成28年3月の情報交換会では大規模災害時の都道府県間での相互支援を踏まえた全国統一ルールの策定、コーディネート機能の必要性が議論されました。

3.全国初となる災害福祉広域支援の実施

災害時の福祉支援体制構築では、東日本大震災の被災地である岩手県の取り組みが有名であり、災害派遣福祉チームの人材育成も進んでいます。また、当時の支援の経験から、熊本県も体制構築と人材育成に熱心に取り組み、熊本DCAT(Disaster Care Assistance Team)として災害派遣福祉チームの人材育成も進める等、先駆的に取り組んでいました。

しかし、熊本地震本震の被害は大きく情報把握も進まないため、被災時に声をあげることの難しさを自らの経験で知る岩手県は、熊本DCATの立ち上げが困難であることを察し、待機状態にあった県内の災害派遣福祉チームの派遣準備を前震直後から進めており、熊本県からの正式な派遣依頼が届いたのは出発直前でした。この派遣は、全国初の都道府県による災害派遣福祉チームの正式な派遣であり、第一次チームである先遣隊派遣、そして次に続く京都府の第一次チームである先遣隊派遣の2回に弊社も調査研究者として同行しました。

岩手県災害派遣福祉チームが熊本県入りした直後に、ようやくその日より活動開始した熊本DCATの数名と県庁で会えたものの、多くのチーム員が被災していることから他県の事業者系団体の人員を含んで立ち上げた状況を確認しました。そこで、熊本県とも協議を行い、災害時の知見を多く持つ岩手県災害派遣福祉チームが熊本DCATと協働して支援を展開することとし、地域の実情に精通した熊本DCATと岩手県の被災経験と訓練ノウハウが融合した支援が可能となりました。この取り組みは、熊本県より依頼のあった益城町で行われ、5月中旬まで続いた岩手県災害派遣福祉チームの第5次までの派遣だけでなく、同じく熱心に取り組んでいた京都府による5月末までの災害派遣福祉チームの第3次までの派遣へと展開されました。これは被災地で減じた機能を広域間で自律的な支援を行うことで補完・代替するとした本来の広域支援の姿であり、今後想定される大規模災害の対応策として数々の示唆を与えるものでした。

【写真】熊本DCAT・岩手県災害派遣福祉チームによるスクリーニング
【写真】熊本DCAT・岩手県災害派遣福祉チームによるスクリーニング

4.熊本地震で改めて確認できた災害福祉の重要性

熊本地震では、改めて次のことが確認できました。

◆セーフティネットとしての体制構築であることの重要性

発災直後から多くの団体が被災地に入り活動を行いましたが、個別の関係性や関連団体内による事業所支援にとどまる等、活動範囲が限定的な状況も見られました。しかし、超高齢社会の日本では要配慮者も多く、一般避難所の環境整備が不可欠であり、都道府県が構築する災害時の福祉支援体制は一般避難所支援を意識した公的なセーフティネットとして整備される必要があります。

立ち上がりこそ時間を要したものの、熊本県では平時に体制構築を進めていた経験から、外部からの支援を受けて機能確保し、二次被害の発生・拡大の防止を進めました。事前の体制づくり・認識があったからこそ支援の受け入れもスムースに進んだと考えられ、事前に取り組むことの重要性が再確認されました。

◆災害時にも稼働する体制であること

被災時に体制を稼働させるには、体制構築に関わる各種団体等による事務局機能の補完や代替策を予め考えておく必要があります。大規模災害の場合、それらを行い得る人々を外部から受け入れる可能性があることも十分に理解し、それも念頭に置いた体制づくりが必要です。

◆基礎自治体・地域住民への展開策・浸透策の推進

一般避難所の管理は基礎自治体、そして住民です。たとえ都道府県内での体制があっても、基礎自治体・住民らの十分な理解がなければ支援活動は困難、もしくは活動開始までの説明や調整に貴重な時間を要することとなります。

被災時の説明や協議は時間のロスであり、それを防ぐには、体制が当然のものとして当初より認識されている必要があります。

◆活動の環境整備

被災自治体が外へ支援要請を出すことは困難であることを見越し、大規模災害の発災直後の支援ではプッシュ型も想定しておく必要があります。しかし、災害時の福祉が災害救助法の対象として明確に書かれておらず、都道府県には自団体以外の広域支援に向かうことへのためらいがあります。

今回の状況や活動実態から、災害救助法を所管する内閣府と厚生労働省は協議を行い、熊本地震における一般避難所への介護人材等の派遣は災害救助法の対象となることが熊本県事務連絡で示されました。この前例は今後の災害でも踏襲されると考えられますが、自動的に動くシステムとするにはさらなる明確化が必要です。

5.おわりに

日本には毎年のように自然災害が発生し、その度に高齢者や障害者等の要援護者がクローズアップされています。南海トラフを震源とする大地震や首都直下型地震等の大規模災害は、いつ起きても不思議ではありません。こうした教訓を活かし、超高齢社会下にあっても強い社会を公民が共に作り上げることは、現在の日本に必要不可欠です。

さらに、災害時においてのみ稼働する機能はなく、平時から災害時を見越した体制づくりが必要です。熊本地震でも、災害派遣福祉チームは、各福祉専門職が連携するだけでなく、地域包括支援センター、在宅医療の医師らとも連携して支援を行う等、この体制が平時の地域包括ケアシステムの延長上にあることが確認されました。今後は、より強固な体制づくりを、今後の地域包括ケアシステム構築も睨みながら公民が協働して進めることが重要です。

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名取 直美

名取 直美(なとり なおみ)
株式会社富士通総研 公共事業部 チーフシニアコンサルタント
都市計画事務所、医療・福祉関連を専門とする設計事務所の調査企画職等を経て、2007年に株式会社富士通総研に入社。持続性ある高齢社会の構築を目指し、福祉・医療分野の調査研究やコンサルティング、実現策としての公民協働事業のアドバイザリーおよび関連プロジェクトの立ち上げ等に従事。