2020年10月28日

失敗しない自動化の進め方第01回 何のために自動化するのか?

株式会社MEマネジメントサービス
マネジメントコンサルタント 添田 英敬 氏

今回から3回にわたり、自動化の進め方についてお話を進めていきます。皆さんは、自動化というとどのようなものを思い浮かべますか。私たちが眼にすることができる自動化には、作業補助を行う簡単なものから、工場建屋すべてが自動化の上、データ連携されているものまで、様々な種類があります。第1回では、何の為に自動化を進めるのかを再確認し、効率的に効果を得るためのポイントを見ていきましょう。

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<目次>

1. 自動化することが目的になっていないか

私が、「自動化の進め方」についてお話しする際、多くの方に自動化を推進する目的をお尋ねします。その際に「とにかく自動化を進めたい」「他社で見た近代的な工場にしたい」などというお答えをされる方が多くいらっしゃいます。このような漠然としたイメージで自動化に取り組むとイニシャルコスト、ランニングコストがかさみ、自動化したのに製造原価が上がってしまった、製造リードタイムが伸びてしまったなどということになりかねません。企業経営においては、「自動化を進める目的」をQCDESの切り口からしっかりとまとめ、企業の課題解決に繋がる自動化のポイントを見極める必要があります。QCDESの切り口から主な目的をまとめたのが、図ー1「自動化の目的」です。

図1

2. 自動化することで生産性は向上するのか

自動化のために設備投資を行うだけで、生産性が向上するのでしょうか。データを交えながら、その答えを見ていきましょう。
自動化と生産性を考える上で重要なキーワードが3つあります。「資本装備率」「資本生産性」「労働生産性」です。まずは、「資本装備率」から見ていきましょう。
企業の機械や設備への投資を示すのが「資本装備率」です。この指標が高ければ、資本集約型、低ければ労働集約型であると評価できます。
資本装備率は、次の式によって求められます。

資本装備率 = 総資本(資本ストック) ÷ 労働力

図―2「企業規模別資本装備率の推移」は、1983年度から2016年度までの企業規模別資本装備率を示しています。企業規模によらず、2002年度をピークにほぼ横ばいと見て良いでしょう。

図2

次に、企業が導入した生産設備を効率的に使用できているかを示すのが「資本生産性」です。この指標が高ければ、主に生産設備を効率的に使用できていると評価できます。せっかく多額の設備投資をして設備を導入しても、効率的に設備を使いこなせていなければもったいないですよね。とても重要な指標のひとつです。
資本生産性は、次の式によって求められます。

資本生産性 = 付加価値額 ÷ 総資本(資本ストック)

図―3「企業規模別資本生産性の推移」は、1983年度から2016年度までの企業規模別資本生産性を示しています。いろいろな見方ができますが、ある側面から中規模企業を考察してみましょう。2016年度は1983年度に対し設備投資額は、約2倍になったが、投資した設備を使いこなす力は、約3割落ちたと考えることもできます。

図3

3つ目は労働生産性です。労働生産性は労働者1人当たりで生み出す成果、あるいは労働者が1時間で生み出す成果を指標化したものです。この指標が高ければ、労働者が効率的に成果を上げられていると評価できます。
労働生産性は、次の式によって求められます。

労働生産性 = (付加価値額 or 生産量) ÷ (労働力〔労働者数or労働者数 労働時間〕)

図―4「労働生産性の推移」は、1983年度から2016年度までの企業規模別労働生産性を示しています。中規模企業の1983年度に対する2016年度のデータを見てみると資本装備率は約2倍でした。しかし、労働者1人当たりの成果は、約1.5倍です。単純に資本装備率が上がったからと言って、労働生産性が上がるというわけではありませんね。

図4

実は、労働生産性の式を展開すると次の式になります。

労働生産性
  = 総資本(資本ストック) ÷ 労働力 × 付加価値額 ÷ 総資本(資本ストック)
  = 資本装備率 × 資本生産性

この式を読み替えると次のことが言えます。労働生産性は、企業の機械や設備への投資と投資した機械や設備を如何に効率的に使用したかの掛け算で表されるのです。すなわち、労働生産性の向上には、生産設備への投資だけでなく、その使用効率がとても重要になります。せっかく生産設備へ投資をしたとしても、効率的に使用する力が無いと収益を生み出すことはできないのです。

3. 自動化は人と設備の最適な組み合わせで考える

生産性向上に繋がる設備投資は、設備投資した設備を使いこなすことがとても重要であることをお話ししてきました。言うまでもありませんが、設備を使いこなすのは、あくまでも人です。人と設備の最適な組み合わせが、自動化成功への近道と言っても過言ではありません。
ところで、アウトプットを生み出すための生産要素は、人、材料、設備、情報、エネルギーの5つがあります。生産性向上のためには、この生産要素の最適な組み合わせが求められています。一番基本的な自動化は、生産要素の人が設備に置き換わることです。置き換える作業を進める上で、それぞれの特性に合わせた、人と設備の最適な組み合わせを追求しなければなりません。図―5「人と設備の特性」は、5つの生産要素のイメージと人と設備の主な特性をまとめたものです。

図5

一番基本的な自動化は、生産要素の人が、設備に置き換わることであると前述しました。自動化には、どのようなレベルがあるのでしょう。自動化レベルについてまとめたのが、図―6「自動化の5レベル」です。

図6

各レベルについて簡単に解説を加えておくことにします。

レベル1:手作業
完全手作業で自動工具などの導入もなされていない状態です。

レベル2:改善指向型(点の自動化)
生産を行う際に、変形、変質を伴う加工作業を基本機能と言います。また、搬送や位置決めなど基本機能ではないが、基本機能を満たすためにどうしても行わなくてはならない作業を補助機能と言います。ネジ締めのためのエアドライバー、搬送のためのコンベアが導入されているなど、あるポイントのみ自動化されている状態が改善指向型です。

レベル3:改革指向型(線の自動化)
複数の工程が自動化により繋がれている状態が改革指向型です。図-7「レベル3:改革指向型自動化イメージ」では、ベルトコンベアでの搬送により複数の工程が繋がれています。ロボットが材料のセット、位置決め、部品取付などの作業を行い、検査機に流れていくというイメージです。

図7

レベル4:戦略指向型(面の自動化)
設計情報と製造現場の連動、生産計画情報と製造現場の連動など情報連携された状態の自動化が戦略指向型です。図-8「レベル4:戦略指向型自動化イメージ」を参照してください。この図では、設計情報、生産計画情報と連動しています。製品の生産数量など量的判断は、統計分析により予測することができます。各予測値と実績値を分析することにより精度を上げることができる為、このレベルで自動決定することができます。

図8

レベル5:AI活用指向型(立体の自動化)
AIなどの技術を用いて、質的判断や制御を自動で行うレベルが、AI活用指向型です。図-9「レベル5:AI活用指向型自動化イメージ」を参照してください。このレベルでは、あらゆる情報が連携され、製造ではロボットにAIが組み込まれ、位置決めなどを最適化し、制御します。また、計画面においては、販売実績のみならずマーケティング情報や経済動向などあらゆる情報を基に生産数量、生産計画などの判断を自動で行うようになります。製造からの情報も関係部門で共有し、相互連携の上、自動的に判断できることが特徴です。

図9

さて、「失敗しない自動化の進め方」第1回では、自動化をする目的、自動化のための設備投資と生産性の関係などについてお話ししました。皆さんの描いている自動化のイメージと実態はいかがでしたか。次回より自動化の実現に向けて、具体的に何を取り組めば良いのかを見ていきましょう。

著者プロフィール

株式会社MEマネジメントサービス
http://www.mejapan.com/

マネジメントコンサルタント 添田 英敬 氏

独立系システムインテグレーターにて流通業向け販売供給システム開発に携わる。会計事務所勤務後、日本インダストリアル・エンジニアリング協会(日本IE協会)にて、生産技術スタッフ向け研修会、現場実習、工場見学会などの企画・運営を経験。また、協会会員誌「IEレビュー」の企画、編集業務に従事。 その後、(株)MEマネジメントサービス入社。 社内外の研修講師を務めるほか、大手電機メーカー、自動車部品工場でのコンサルティング業務を行うなど、国内外で精力的に活動中。

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