設計工程での「完全3次元設計」を達成したケンウッドは、2007年4月、さらなる3次元データの活用を目指して、デジタルモックアップ(DMU)を導入した。採用したのは富士通「VPS(Virtual Product Simulator)」で、デジタルモックアップ、組立検証、遠隔地デザインレビュー(DR)を行う3つのモジュールを柔軟に組み合わせている。現在は、東京・神奈川の2カ所の設計部門と、山形・長野の2カ所の生産拠点との間で、3次元データを活用してのコンカレント・エンジニアリングを実現。金型修正コストの半減をはじめとする大きな成果を上げつつある。
導入事例キーワード | |
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設計品: | カーエレクトロニクス、コミュニケーションズ、ホームエレクトロニクス |
ソリューション: |
PLMソリューション
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製品: |
VPS
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山本 信昭 様
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荻野 正樹 様
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中島 毅 様
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伊藤 徹 様
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「音」と「無線通信」をコアコンピタンスとするケンウッド。事業の柱は、カーエレクトロニクス、コミュニケーションズ(無線通信機器)、ホームエレクトロニクスの3つである。
同社の製品は主にコンシューマ向けであるだけに、デザイン性がとても重要だ。そこで、曲面を自在に扱うことを目的に、1996年には3次元CADの利用を開始。現在では、設計工程では「フル3次元化」が完了した。
「次の課題は、設計以外の工程でも3次元データを利用して、納期短縮・コスト削減といった効果を高めていくことです」と、同社のもの造りセンタ、チームリーダーの山本信昭氏は語る。
そこで着目したのが、デジタルモックアップ(DMU)である。「DMUは、バーチャルに物を作ることで、『物を作らないものづくり』ができるツールです。当初はViewerも検討しましたが、Viewerでは力不足で十分に検討できません」と、同社の伊藤徹氏はいう。
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2006年5月、DMUの導入を研究するワーキンググループが発足した。まず、様々なDMUツールを比較検討し、最終的に富士通のVPSシリーズを選定したのである。
「機能が豊富で、特に製造工程で役立つ検証・シミュレーション機能が充実していました」と、同社の荻野正樹氏はいう。DMUを行うベースモジュールVPS/DigitalMockupと、遠隔地間でのDRを行うVPS/DirectShareに加えて、組立性を検証するVPS/Manufacturingの存在を高く評価したのである。
VPSに決めた後、半年間ほどをかけて、導入効果の検証を行った。その1つが、過去の製品開発で発生した問題の工程単位での分類・分析である。そこで明らかになったのは、1次試作で行っていた検証をDMUで実施することで、組立や操作性に関する問題を前倒しで発見でき、試作を行った後の設計変更と金型作り直しの負荷を大幅に減らすことができるということだ。作る製品によって多少の違いはあったが、設計期間も最大で1カ月以上の短縮が可能であると試算できた。
「このほかにも、様々な角度からDMUの利用効果を評価しました。これらを総合的にまとめ、『DMUによるフロントローディングで金型修正コストが半減可能』であると、経営会議で説明したのです」と荻野氏。
DMUは、製造コストを低減し、利益率向上に役立つツールであると経営トップが認識したことで、導入が決定されたのである。
組立手順書システムとVPSとの連携
VPSは、2007年4月から東京と神奈川の設計部門、山形と長野の生産拠点という合計4カ所で利用を開始した。
設計と生産拠点との間では、設計フェーズごとに行われる通常のDRのほかに、VPS/DirectShareを用いた「ミニDR」が日常的に行われている。
「思いついたときにいつでも気軽に同じ画面を操作しながらコミュニケーションがとれるので、判断に悩まなくて済む、出張も減ったと喜ばれています。拠点間でも現行の回線で十分に快適です」と、同社の中島毅氏はいう。通常のDRを開くときも、参加する関連部門の担当者が事前に3次元モデルをじっくり見ておけるため、見落としがなく、質の高いDRができるようになった。
設計部門の中では、リーダーによる検図に、VPS/DigitalMockupが活用されている。わざわざCADマシンの所まで行かなくても、目の前のOA用のPCを使って納得ゆくまで検討でき、検図の精度向上に役立っている。
一方、生産拠点にある製造部門では、VPS/Manufacturingを使って、組立検証を行っている。これまで、組み立てを検討するには実機を使っていたが、今では、実機がない段階で、組立順や組立動作を検証し、問題があれば早めに設計へフィードバックできる。製造工程もフロントローディングが行われているのだ。
さらに、組み立て手順をデジタル化した作業指示書を作るときも、VPSは製造フローに沿って3次元画像を簡単に外部出力できるため、ドキュメント作成にかかる工数が減り資料作成時間が大幅に削減できた。
VPSによる3次元イメージ
DMUを活用した成功事例もいくつか出てきた。フロントローディングの効果は明らかで、「金型修正コストの半減」という目標はかなり早い段階で達成できるものと期待できる。
また、後工程になってから問題が発生することがなくなったため、設計者がこれまでよりも早い段階から次の新しい開発プロジェクトへ集中できるという効果も報告されている。
さらに、治具設計を前倒しでスタートするなど、設計と並行して生産準備を進める動きも始まった。
「設計の道具だった3次元データを、ものづくり全体で使うことができるようになりました。これまで理想としてきたコンカレント・エンジニアリングが、DMUによってついに実現したのです」と山本氏は力強く語る。
今後は、利用部署を、品質保証、マニュアル作成、サービス、購買などへと広げていく。国内拠点はもとより、海外のR&D部門や生産拠点からも、利用したいという要望が相次いでいるのだ。
DMUでコンカレント・エンジニアリングを実現したケンウッドは、この成果をさらに全社全部門へ拡大して、ものづくりの全体最適化を推し進めていこうとしているのである。