3次元CADの10分の1の容量でデータが軽々と扱えるVPSの能力に着目。設計途中のデータをもとにVPSでデジタルモックアップを作成し、製造部門の組立工程に必要な手順書を試作機ができあがる前に作成できるようにした。全製造プロセスの中で、最も足かせとなっていた試作の不具合による手戻りを大幅削減したことで、量産立ち上げまでの期間を短縮。海外生産拠点向け手順書の翻訳レスやサービス教育にも役立てている。いまや設計と製造をつなぐコミュニケーションツールとしてフロントローディング推進の一翼を担っている。
導入事例キーワード | |
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設計品: | 板金加工機、切削機械、プレス機械、工作機械など、金属加工機械 |
ソリューション: |
PLMソリューション
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製品: |
VPS
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パンチ・レーザ複合加工機、EM-NT シリーズ「EML3510」
金属加工機械の総合メーカー、アマダ。2007年2月開所の「開発センター」は同社が取り組むフロントローディングの"前線基地"。ここに結集する約200名のエンジニアにとって、開発・製造のコミュニケーションツールとして重要な意味を持つのがVPS(Virtual Product Simulator)だ
話はセンター開設の3年前にさかのぼる。「当時は工場全部門で工場の"魅せる化"、生産についてはIT化を進めていた。試作においては、量産早期立ち上げを目指し溶接・加工CAMは進んでいたが、組立性等モノづくり容易化を事前に検証できるツールを探していたところVPSに出会った」と同社試作推進部 部長の遠藤泰弘氏は振り返る。そしてもっと早い段階で開発・製造が検討するには同じ場所、ということでブランキング開発部部長の有馬宜孝氏以下数十名が富士宮工場で一緒に業務を始めた。
遠藤 泰弘 様
株式会社アマダ
試作推進部
部長
そもそも、同社がPLMの一環として3次元CADを採用したのは1999年のこと。だが、従来型の2次元設計との共用部分が多く、当初はそのメリットがなかなか生かし切れなかった。それを払拭するために、数年後、トップダウンにより3次元CADの全面活用の方針が打ち出される。
しかし、そこで問題となったのが3次元CADの能力的限界。同社では、部品点数やデータ量を考慮して、大型機械に関してはモジュール単位の設計を行っていた。それぞれのモジュールの品質を検証した上で、後で組み立てるというやり方である。
ところが、この方法にはモジュール間の干渉や組立性が見にくいという難点があった。しかし、それらのデータをすべて3次元CAD投入すると能力をオーバーしてしまう。「小物部品なら何とかなっても、部品点数が10000点、データ量が3GBクラスの機械になると、3次元操作は困難だったのです」と遠藤氏は語る。
そこで注目したのがVPS。例えば、データ量が3GBでも、VPSを使うと10分の1の300MB程度になる。「これを使えば、製造側で手軽に3次元データへのアクセスが可能になると思いました」(遠藤氏)。
実際に、3次元設計とVPSを活用して試作前に事前検証できることの効果予測をしたところ、ハーネスや組立のアニメーションの活用で、ケーブル長や引き回し、組立工程、組立性、メンテナンス性などで過去に発生した試作時の問題点の81%は解決できることが分かった。
有馬 宜孝 様
株式会社アマダ
ブランキング開発部
部長
小林 金作 様
株式会社アマダ
試作推進部
CAM・MAK推進グループ
リーダー
こうして、2004年にVPSを導入。まず、製造部門の試作準備を前倒しすることから活用を始めた。特にターゲットとしたのが組立工程の合理化だ。
組立工程では、品質を保つための様々な手順書を用意する必要がある。その組立手順の検討を、ものづくりの前にVPSを使って行うことで、作業手順書を素早く作り、事前検証で組立不具合を撲滅するというのだ。
従来、組立手順書は試作機を何台か作った後でないと作成できなかった。できあがった試作機を写真に撮り、それを貼り合わせて手順書を作る、という方法をとっていたためである。試作後に仕様が変われば、またやり直さなければならない。しかし、VPSを使うと、設計段階で製造工程や組立手順が分かるので、それをデジタルモックアップとして組立マニュアルに使えるようになる。
さらに、機械にはケーブル類が多くあるが、3次元CADでは容易に作成できないケーブルの引き回しも作業者が理解しやすくなった。
また、以前は図面を広げて組み立てていたが、現在では遠隔操作で、パソコンやテレビ画面に映し出されるアニメーションを見ながら組み立てられるようになった。実際にこの方法で組み立てられたのはまだ3機種だけだが、手順書の作成工数は3分の1に減少した。
「当初目標である組立不具合の80%削減は、現段階でも十分達成できたと思います」と同部CAM・MAK推進グループリーダーの小林金作氏は語っている。
VPSによるユニットのアニメーション展開画面(右:YLモジュールを抽出)
また、海外生産拠点とのやりとりも楽になった。従来は組立手順書を現地語に翻訳するのに多くの費用と時間を費やしていたが、アニメーションならば、どこの国の人でも見るだけで理解できるので、いちいち翻訳しなくて済む。このほか、サテライト・カンパニー(協力会社)での組立実績のない組立工程の事前検証やサービス教育にも役立っている。
従来、開発から量産の全製造プロセスのうち、最も足かせとなったのが試作の不具合による手戻りだった。VPSによりそれが大幅に改善されたことは、製造はもちろん、設計負荷の軽減にも寄与している。
開発・製造のコラボレーションを進めるためのコミュニケーションツールとしてVPSを活用してきた結果、開発・製造の各工程で十分討議できるようになり、手戻りが減って量産立ち上げまでの大幅スピードアップが図れた。製造から始まったVPSの活用は、フロントローディング推進の一翼を担うまでになっている。