(正木)
富士通は、Brocade製品のOEMを1999年から始めて、12年以上、お客様へ提供してきた実績があります。それまで、ストレージとサーバはDAS(Direct Attached Storage)と呼ばれるダイレクトに繋がれる環境が主流でした。しかし、複数のストレージと複数のサーバを一つのシステムとして繋ぐSAN(Storage Area Network)の環境が増えるにつれ、これらをまとめるターミナル的なスイッチが必要になってきました。1995年創設のBrocade社はその分野で常にパイオニア的存在で、次々と新たな技術を搭載したストレージネットワーク機器を企画し、設計・生産してきました。Brocade社はこのSANスイッチ製品で世界シェア8割以上を誇っています。いわゆるデファクトスタンダード製品ですね。富士通は、Brocade社の先進性を高く評価し、初期の製品からOEM化してきたのです。
(大塚)
富士通は、これまでBrocade製品をETERNUS SN200 seriesとして販売してきましたが、2009年以降の新製品から、富士通のグローバル戦略に合わせシリーズ名を変更し、国内外でBrocade seriesという名称で統一しました。
(正木)
例えば、ファイバチャネルの転送レートを例に挙げると、1Gbit/s → 2Gbit/s → 4Gbit/s → 8Gbit/s → 16Gbit/sといった流れで規格標準化されてきましたが、常に先陣を切って対応してきたのはBrocadeのファイバチャネルスイッチです。富士通ではこれらBrocadeの新製品を業界に先駆けてOEM採用してきており、それに追従するようにETERNUS ディスクアレイもこれら転送レートに対応してきました。この一例からもBrocadeと富士通はファイバチャネルSANの市場を共に牽引してきたと言ってもいいと思います。
また、SANを利用するユーザー層は、中小規模事業者から大規模な社会基盤システムやデータセンターなど幅広いですが、複数のサーバとストレージを高速に接続したいという要件以外にも、特に耐障害性、拡張性、データセキュリティなどを非常に重視する重要なお客様がほとんどです。Brocadeのファイバチャネルスイッチは、これらの厳しいシステム要件にも応えられるような高度な機能を豊富に備えており、富士通が提供するストレージシステムのネットワーク基盤として、安心してお客様へ提供できるのです。
(大塚)
データの長距離転送に特化したSANスイッチ製品として、エクステンションスイッチも提供しており、これも重要な製品の一つです。ユーザーは中規模企業、主要都市に拠点を置く大規模企業、金融機関などさまざまです。例えば遠隔地にあるシステム同士でデータをバックアップする場合、エクステンションスイッチを使うことで、WAN回線を経由し両システムを接続することが可能です。
ファイバチャネルスイッチの場合、転送距離は一般的には数十kmほどですが、エクステンションスイッチを設置すれば、東京と大阪間でバックアップすることが可能です。
万が一の災害時、事業継続を実現するディザスターリカバリーシステムとして活用されている理由です。
(捧)
エクステンション製品に関しては、8月2日発表の、SANバックボーン 「Brocade DCX 8510-4/DCX 8510-8」でサポートを開始した「エクステンションブレード」もその一つです。これまで、データセンターなど大規模なお客様がバックアップ機能を増強するためには、既存のSANにFCIPトンネリング機能を標準装備しているエクステンションスイッチBrocade 7800を買い足していただいていました。しかしSANバックボーンでは、Brocade 7800同等機能のエクステンションブレードを同一シャーシに追加することで、ネットワーク構成を変更することなく、容易に遠隔地間へのデータバックアップやデータのミラーリングを提供することができます。最初は必要最低限のブレードでスタートし、必要に応じて容易に拡張できるわけです。
(大塚)
一つの筐体に複数のブレードを増設していく方式は、省スペース性、ポートの高密度化、そして省電力性においても有利です。またコントローラー、電源、コアスイッチングや冷却ファンをすべて2重化しているため、信頼性は今まで以上に高まります。ETERNUSの卓越した遠隔地間バックアップ機能とBrocade series のSANバックボーンは、エクステンションスイッチ技術の新たな扉を拓いたと思っています。
(梅月)
長距離接続の課題としては、遅延、パケットロストの影響による性能劣化が挙げられます。例えば、東京-大阪間でパケットの往復遅延時間(RTT)が20ミリ秒ほどの回線の環境では、回線速度に関係なくTCP/IPの1セッションあたり最大25Mbit/s程度の転送レートとなります。また、回線品質によるパケットロスがあるネットワークの場合、さらに転送性能が落ちてしまいます。
エクステンションスイッチでは、高度な圧縮技術、帯域制御の機能を有しており、このような環境においても、より高速にデータ転送をすることができます。また、暗号化機能が実装されているため、安全なデータ転送を実現しています。
(正木)
さらに先進的な技術を使ったコンバージドスイッチがあります。コンバージドとは「統合した」という意味です。これまで、SANとLANのそれぞれを別のネットワーク機器で構築していたのを、コンバージドスイッチにより、一つに統合できるのです。ストレージネットワークについても、冒頭で述べたFC-SANのほかに、iSCSIやFCoEなどのIP-SAN、さらにはNASストレージによるイーサネット接続を利用するタイプも普及し、ストレージの接続形態は急速に多様化が進んでいます。こうしたストレージ環境に網羅的に対応できるよう、ベースはイーサネットインターフェースを使用した上で、上位レイヤーで多様なプロトコルに対応できるように開発されたのが、コンバージドスイッチなのです。
(梅月)
これまでイーサネットのネットワークでは、パケットロスをスイッチ側で未然に回避するのではなく、サーバ側がTCPによる確認応答 / 再送という仕組みで失われたパケットを再送信する考えでした。しかし、ストレージのデータ転送では大量のデータを高速かつ確実に転送する必要があります。
そこでSAN/LAN統合にあたり、新しいプロトコルを採用。イーサネットのプロトコルに、パケットロスをスイッチ側で未然に回避するフロー制御技術や、データ転送の帯域制御や優先度制御の技術を拡張したDCB(Data Center Bridging)とFCoE(FC over Ethernet)というものです。既存のイーサネットを踏襲しつつ、ストレージのデータ転送に高品質、高信頼性を与える技術を確立させたのです。
(捧)
コンバージドスイッチ製品に関しては、今年4月、富士通が「Brocade VDX 6730」「Brocade VDX 6710」を世界で最も早く製品化しています。これらは、難しい設定をせずにスイッチを追加したり、ケーブルを追加して帯域を拡張できるファブリック技術を持っています。これはファイバチャネルスイッチの初期の製品から持つ技術で、このファブリック技術を「イーサネットファブリック技術」として実現した画期的な製品となっています。すでに中規模・大規模企業を中心とするお客様から問い合わせを多数受けており、たいへん注目されている製品です。
(梅月)
Brocade社の強みは先進的なストレージネットワーク技術です。一方で我々は、自社でサーバ、ストレージ、そしてソフトウェア、ミドルウェアをつくっていて、これらの技術や機能について、各開発部隊と効果を検証し、お客様に導入メリットを感じていただける多様なシステムを構築しなければならないと考えています。また、お客様への豊富な導入経験をもとにこれまでに得たノウハウや要望事項をフィードバックし、より推奨できるシステム構成パターンとして提案しつづけててきているという実績も我々の強みです。いわば、Brocade社の先進技術を、多様化するサーバ、ストレージ基盤環境に吹き込む役割を担っていると思っています。
(大塚)
コンバージドスイッチのように最先端技術を取り込んだ製品を提供するにあたり、運用面での課題など過去に遭遇したことのない問題に直面することもあるかと思います。しかし、こうした経験を他社に先駆けできるだけ多く積み重ねることで、お客様に対してより良い提案、満足いただける対応をできると考えており、我々の財産だと捉えています。
(正木)
新しい経験を積んでいく自信。それはこれまでの経験に担保されたものなのです。富士通のスイッチ製品の中には、メインフレーム向けサーバとストレージとの接続に対応した「FCLINK Switch」も提供しており、これもBrocade社のスイッチを採用しています。極めて高い信頼性を必要とするメインフレーム環境において、富士通は自社サーバとストレージとの高い親和性を提供できているというのは、こうした長年にわたり培ってきた技術力と経験、そしてBrocade社との強い連携力を証明できるものだと思います。
(正木)
まず、サーバとストレージ、あるいはテープとの接続親和性をしっかりと検証し、評価しているところです。これにより、システム全体としての親和性を富士通が保証した形で、責任を持って「止まらないシステム」をご提供できること。また万が一トラブルが起こったときにも、スイッチの観点で調査をするだけでなく、ストレージ、サーバ、ソフトウェアの専門部隊が一丸となり、復旧に向けて迅速に対応できることが優位性として挙げられます。
もう一つは、ストレージネットワークの導入の流れがわかるマニュアルを富士通が作成し提供していることです。もちろんBrocade社からもマニュアルは提供されていますが、あくまでも製品単体として仕様やコマンドの使い方を解説したリファレンスになっており、必ずしも現場の導入や保守の流れに沿ったものとは言い切れません。富士通で行った実際の検証結果をもとにして、システム全体を構築するための流れを示したドキュメントを提供できるということも富士通の強みだと考えています。
これらは、スイッチに接続される機器や、機能連携するソフトウェアをすべて自社で開発し、サポートサービスまでワンストップで提供できる富士通だからこそできることであり、そのようなメーカーは世界中を見ても数少ないと思います。
(捧)
Brocade社の製品は、さまざまなメーカーからOEM製品が出されており、当然、製品自体の機能や性能は各社同等です。その中で富士通としては、製品リリースの早さが強みです。昨年度以降、富士通は業界トップレベルの早さで新製品をリリースし続けています。新技術を採用した製品を他社に先駆けてリリースして製品ポートフォリオを拡充することで、お客様のニーズに合わせたシステムをスピーディーに構築できる力は、どこにも負けないと自負しています。また、各社同等と思われがちの製品品質についても、富士通独自の出荷試験を行うことにより高い品質を維持しています。
(捧)
我々のプロジェクトでは、製品の企画立案から評価、マニュアル作成など全般を手がけさせていただいていますが、SAN市場で世界トップシェアを維持し続けるBrocade製品を扱うことで、世界を実感し高いモチベーションを得られています。先にご紹介したとおり、今後、コンバージドスイッチによるSANとLANの統合が進んでいくと予想されますが、この新しい分野において富士通が提供するBrocade製品がトップとなれるようにチーム一丸となって取り組んでいきます。
(正木)
私は富士通に入社したのが1998年。その翌年からBrocadeと富士通とのOEMビジネスが始まり、当時から現在までずっとその商品化にかかわってきました。4人の中で私が最も長くBrocade製品にかかわっていることになります。
昔も今も、システム提案においては基本的にサーバやストレージ、ミドルウェアが主役で、スイッチは脇役に見られがちです。確かにスイッチは単体で買っても意味はなく仕方のないことですが、やはりシステムの基盤として重要な位置づけにあるものだと考えています。今後も、Brocade社とのパートナー関係をより一層強くしながら、お客様にとって価値の高いソリューションを、安心できる形で提供できるよう、責任を持って製品開発に取り組んでいきたいと思っています。
(梅月)
これまでシステム開発に携わったこともありますが、現場では使い慣れた技術を好む傾向があると実感しています。しかし、新しいソリューションは既存技術の課題を劇的に変えることができます。最先端のソリューションをリスクなく安心して導入いただけるよう、統合システムベンダーならではのソリューションを今後も発信していきたいと考えています。
(大塚)
私は入社以来ディスクアレイ装置のファームウェア開発や、いくつかのストレージソリューション製品の開発に従事してきて2009年からこのプロジェクトに参画しています。これまでの開発経験はBrocade製品の製品化においても非常に役に立っていますし、ファイバチャネルの世界で業界をリードするBrocade社のスイッチをいち早く触れることができるということは良い経験となっています。
これからも技術力を高め、お客様に満足していただけるように努めていきたいと思います。
(注)取材日:2012年7月26日
本稿記載の肩書きや、固有名詞等は取材日、または公開日時点のものであり、このページの閲覧時には変更されている可能性があることをご了承ください。
掲載日:2012年10月26日
多様化するストレージネットワークを支える富士通のスイッチ群
ストレージネットワーク機器 (スイッチ)