持続可能なモータースポーツとは?中嶋一貴さんの想いに迫る ~WEC2022最終戦に向けて~

FIA世界耐久選手権(WEC)の2022年最終戦(第6戦)「バーレーン8時間レース」の決勝が、いよいよ11月12日(土)に開催されます。
9月に富士スピードウェイで開催された第5戦「富士6時間レース」では見事、TOYOTA GAZOO Racing(TGR)のハイパーカー2台が1-2フィニッシュを獲得。シーズン世界チャンピオンが決まる重要な最終戦を前に、その意気込みと、モータースポーツが目指すサステナブル(持続可能)な世界についてTGR Europe副会長の中嶋一貴さんにインタビューしました。

目次
  1. 3年ぶりの母国開催、「応援ありがとう!」
  2. 勝ち進めるために重要なこと
  3. モータースポーツから始まる、サステナブルな世界の実現
  4. 2022年 最終戦に向けて

3年ぶりの母国開催、「応援ありがとう!」

――第5戦富士での1-2フィニッシュ、おめでとうございます!私も現地で応援しましたが、3年ぶりの富士スピードウェイでの開催だったこともあり、私たち観客は大いに興奮し、盛り上がりました。母国での開催はいかがでしたか?

まずはWEC富士でのレースを応援していただいた皆さんに感謝を伝えたいです。やはり母国開催のレースが特別なのは、日本のモータースポーツファン、関係者、そして富士通様をはじめとするパートナーの皆さんの応援があってこそですし、それをエネルギーにすることで素晴らしいレース結果につながったと思います。
また3年ぶりの開催ということで、僕たちチームメンバーだけでなく、他チームや主催者の方々も待ちに待ったレースでしたし、応援してくださった皆さんと共にレースを楽しみ、興奮を共有できたことは素晴らしい経験でした。
また、世界を転戦するレースということもあり、パートナーの皆さんに直接レースの現場を見て・知っていただく機会は、残念ながらまだ多いとは言えません。そういう意味でも、今回のWEC富士はレースだけでなく、僕たちの活動やチームに直接触れていただくことで、よりパートナーの皆さんとの絆を深められる場にしたいと思っていました。その中でまだまだやらなくてはならない多くの発見と学びがありましたし、勉強になったレースでもありました。

勝ち進めるために重要なこと

――富士での勝利によって、今シーズンのマニュファクチャラーズタイトル争いではトップのまま2位のアルピーヌとの差を大幅に拡大しました。また、ドライバーズランキングでもトップと同点に並びましたね。次の最終戦での勝利でどちらもシリーズチャンピオンを狙いたいところですが、そのための戦略はどのようにお考えですか。

最終戦への戦略はとてもシンプルで、勝利を目指して戦うだけです。もちろんレースに勝つためには、オペレーションやクルマの信頼性、ドライビングすべてにおいて、ミスなく進めることが絶対条件になります。タイトル争いという観点では、アルピーヌより前でフィニッシュすれば良い状況ですが、タイトルを意識するのではなく、チームとして、より高い目標意識をもって戦いたいと思っています。
また、タイトルの行方に関係なく、チーム内では7号車と8号車がどちらも有終の美を飾ろうとガチンコ勝負になります(2台での接触だけは気を付けてもらいますが。苦笑)ので、それぞれの意地をかけた勝負の行く末にご注目ください!

――最終戦は見所が多く楽しみです。今年を振り返りますと、中嶋さんにとっては副会長としてはじめて臨まれた1年だったと思います。手ごたえはどのように感じておられますか。

個人としては新たな役割をいただいて臨んだ1年でしたが、まだまだ勉強中というのが正直な心境です。
立場が変わったことで自分に何ができるのか?それを模索しながらのシーズンでしたが、この点は終わりのない問いでもあると思います。
よく、レース現場にいるのに乗らないことに違和感はありませんか?と質問いただくのですが、その点はごく自然に受け止めていますし、立場が変わってもレースそのものが好きなことは変わらない、ということを改めて感じています。変わらずWECのレースに携わることができることに感謝しながら、このレースの素晴らしさや、TOYOTA GAZOO Racingの活動意義である「モータースポーツを通じたもっといいクルマづくり」をこれからもお伝えしていきたいと思います。

――シーズンを勝ち抜くということはすごいことだと思うのですが、勝ち進めるためには何が最も重要だと思われますか。

とてもベタな答えになりますが、「継続性」「一貫性」というのは大きなファクターだと思います。もっといいクルマづくりを語るうえで 「壊し、直し、鍛える」 というフレーズがよく使われるのですが、WECの活動では10年以上に渡って 「壊し、直し、鍛える」 を続けてきました。今シーズンも決してすべてが順調であったわけではありませんが、問題に対していかに対応し改善するか、そのサイクルを継続していくことが最終的にはチームの強さに繋がるのだと思います。
WECを例にとれば、2023年以降にたくさんのライバルが参戦してきます。そのライバル達を見据えて、より高い目標に向かって改善のサイクルを回し続けていかなければいけません。

――「壊し、直し、鍛える」。その当たり前のことを継続し追及し続けることが、強さに繋がるんですね。言うは易し、なかなかできないことだと思います。

モータースポーツから始まる、サステナブルな世界の実現

――富士6時間耐久レースでは、水素エンジン車(水素エンジン搭載「カローラクロスH2コンセプト」)の同乗体験の企画もありました。WECシリーズでは2025年から「水素カテゴリー」のレース導入も発表されています。そういった取り組みの先にはどのような未来が待っているとお考えですか。

水素エンジン車に乗られた皆さんの感想が気になります!
僕自身も同じ水素エンジン車にACO(WEC、ル・マン24時間レースの主催団体)の皆さんと試乗する機会がありましたが、とても大きな可能性を感じました。※1

何よりも、カーボンニュートラルなのにエンジンの音と振動がある、クルマ・レース好きの人間には言い表せないぐらいの期待しかありません。ACOでは、すでにレースへの水素技術を導入する取り組みを行っていますし、レースだけでなくイベント全体を通したカーボンニュートラルを目指す姿勢を示しています。僕たちもそれに共感していますし、同じ志を持つ仲間づくりが大切な取り組みだと思います。サステナブルな世界の実現に向けて、EVだけではない選択肢を増やし、仲間と共に大きな可能性につなげていきたいですね。

――おっしゃる通りですね。水素エンジン車は私も同乗させていただきましたが、ガソリン車のフィーリングに差が無いだけでなく、登坂やカーブでの力強い走りに終始圧倒されました。水素エンジン車が町中を普通に走る時代も、それほど遠くはないと考えるとわくわくします。

カローラクロス H2 コンセプト

――サスティナブルな社会の実現に向けては、富士通もテクノロジーで取り組んでいきたいと考えています。
今回の富士耐久レースでは当社エンジニアも現場でディスカッションに参加させていただきましたが、当社に期待していることを改めて教えていただけますか。

富士のレース現場では様々なトピックについて富士通の皆さまとディスカッションさせていただきました。ありがとうございました。今回さらに一歩踏み込んだ技術協業の可能性について議論ができたことで、改めてWECの場でも活用できる、様々な分野と可能性があると感じましたし、その形が具体的になってきていると思います。
その可能性をぜひ一緒に広げていき、より良い社会の実現に向けて取り組みを続けていきたいですね。WECという世界中で行われるレースを戦い続けるためには、富士通様のテクノロジーのみならず、それを支える挑戦、共感、信頼という価値観は、我々にとって必要なものです。是非これからも共に戦いながら、そのテクノロジーと価値観をチームに注いでいただけることを期待しています。

――ありがとうございます。是非共に戦いたいと思います。

2022年 最終戦に向けて

――最後に、最終戦バーレーンへの抱負をお願いします。

WEC2022年シーズン最終戦が間近に迫ってきていますが、まずはここまでのシーズンを一緒に戦っていただき、ありがとうございました!
最終戦となるバーレーンは、ドライバー、チーム共に世界チャンピオンのタイトルが懸かる一戦になります。今シーズン、ここまで積み上げてきた集大成になるレースということで緊張感もありますが、それをエネルギーに変えてレースに臨みたいと思います。
レースは時差もあり日本時間は夜中になってしまいますが、タイトル獲得の喜びをぜひ皆さんと分かち合いたいと思いますので、応援よろしくお願いします!

今シーズン最終戦「バーレーン8時間レース」の決勝は、いよいよ11月12日(土)に開催されます。私も7号車、8号車をぜひ応援したいと思います。
富士通では、モータースポーツをはじめとした新たな分野でのチャレンジを通じ、カーボンニュートラルなどのサステナブルな世界の実現をはじめ、社会が抱えている課題の解決に取り組んでまいります。

【中嶋一貴さんプロフィール】

愛知県出身の元レーシングドライバー。2007年にF1テストドライバーに、2008年からF1に2シーズン参戦。2012年からWECに参戦し、2018年から2020年にかけて日本人初のル・マン24時間3連覇、2018-2019シーズンにはチャンピオンを獲得した。2021年に現役を引退し、現在はTOYOTA GAZOO Racing Europe副会長に就任。

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