AIエージェントが変革する未来を議論、人とAIの理想的な関係とは

左上に、株式会社NextInt代表の中山心太氏。左下に、富士通研究所人工知能研究所の鈴木源太。右上に、AIエンジニアの安野貴博氏、右下に米カーネギーメロン大学の准教授のグラム・ニュービック先生。

富士通は、2024年12月に、「AIが創る、AIが進化する、AIエージェントが変革する未来社会」と題した特別対談をオンラインで開催しました。

本対談には、AIエンジニア、起業家、SF作家の安野 貴博氏、米カーネギーメロン大学の准教授でAIエージェント研究の第一人者、グラム・ニュービック(Graham Neubig)先生、富士通研究所人工知能研究所の鈴木 源太が参加。株式会社NextInt代表の中山 心太(ところてん)氏の司会進行のもと、AIエージェントとは何なのか、どういう未来を創っていくのか、今後の社会像や人がすべきことは何か等について議論しました。本記事では、対談内容を詳しくお伝えします。

目次
  1. 「AIエージェント」とは
  2. AIの専門家はいらなくなる?
  3. AIは創造的な仕事を奪う?
  4. 人とAIとの理想的な関係とは
  5. おわりに

「AIエージェント」とは

中山氏:最初に、富士通が取り組む「AIエージェント」についてご紹介いただけますか。

鈴木:私からAIエージェントとは何かを説明するよりも、まずは生成AIに聞いてみました。それによると、生成AIは「コンテンツを生成する」のに対し、AIエージェントは「特定のタスクや目標達成のために動くもの」とのことです。

私自身も「目標を達成するために細かいタスクを計画して実行していくもの」というのが「AIエージェント」の特徴だと考えています。人間が指示した抽象的なタスクに対して、何をすべきかを考え、最適な経路を選択する「プランニング」を行い、そして「アクション」を実行します。アクションには、チャット応答、デジタル操作(Webサイトアクセスやアプリ操作等)、物理操作(ロボット制御や運転等)など様々です。

例えば「週末はどこに行けばいい?」という質問に対して、AIエージェントは、ユーザーの好みを分析してレストランに行くことを提案することに加え、お店のサイトにアクセスして予約するといった一連の過程を実行してくれるイメージです。

続いて、富士通が発表したAIエージェントについて説明します。富士通のAIエージェントとしては、「会議AIエージェント」、「映像解析型AIエージェント」、「マルチAIエージェントセキュリティ技術」の3種類があります。

富士通が発表した3つのエージェント。、「会議AIエージェント」、「映像解析型AIエージェント」、「マルチAIエージェントセキュリティ技術」

会議AIエージェントは、オンライン会議に同席して、話題に沿ってデータを可視化してくれるものです。例えば、売上げについて議論していた場合、AIエージェントが関連する売上げのグラフをその場で作って提示してくれます。具体的な指示をしていなくても会話の文脈から読み取って必要なデータを表示してくれるのです。[デモ動画
2つ目が「映像解析型 現場作業支援エージェント映像解析型AIエージェント」で、映像を認識することで現場の作業を支援します。例えば、フォークリフトが作業している映像をAIが分析して、危険な場所がないかを警告してくれます。[デモ動画

映像解析型 現場作業支援エージェントのサンプル画像

そして、3つ目の「マルチAIエージェントセキュリティ技術」は、複数のAIエージェントが連携してセキュリティ強化のための分析を行うものです。[デモ動画

中山氏:次にニュービック先生に最新のAIエージェントについてお話しいただきます。

ニュービック先生:エージェントはタスクを実行するAIですが、言語モデル(GPT-4、Claude、Gemini等)とツールを組み合わせる必要があります。ツールとは、画面をクリックしたりテキストを入力したり、画像を認識することなどを指します。最近ではプログラムを生成するエージェントが増えています。プログラムにより、繰り返し作業や継続的な監視などが可能になります。
ウェブサイト操作では、事前にマニュアルなどのウェブサイトに関する情報が必要になります。また、操作の結果を予測し、次の行動を決定する機能も重要です。画像とテキストを組み合わせたエージェントも研究されています。

AIの専門家はいらなくなる?

中山氏:「今後、AIの専門家はいらなくなる?」について、それぞれYesかNoで答えてください。

安野氏:私は「No」で、AIの専門家は必要だと思っています。まだまだAIの精度は完璧ではなく、タスクを解くためには人間がデータの準備やモデルの選択、AIの仕事状況のモニタリング等をする必要があります。ある業務の専門家がAIの高い専門性も持つ必要が出てくるなど、「AI専門家」というものの定義や立ち位置は今後変化するかもしれませんが、必要性は残ると考えています。AIがどのような業務でも100%の精度を出せるようになると、またフェーズは変わるかもしれませんが、しばらくはAIの専門家が必要であり続けると思います。

司会の中山氏の問い「AIの専門家はいらなくなる?」に応じる、参加者。

鈴木:私も「No」だと思っています。安野さんのおっしゃる通り、フェーズによる変化はあると思いますが、特に映像認識の分野では、まだまだしなくてはいけないことがあります。映像には、とても複雑な実世界が映し出されていて、それをどのように認識し記憶していくか。記憶する際には、いかにして効率的にデータに保存し、マルチエージェント間で共有するかなど、解決すべき課題が多くあります。そして、これだけ複雑になるとコンピューティングリソースの最適化も重要です。フェーズによってすべきことは変われども、AI研究者はむしろ必要になっていくと考えています。

ニュービック先生:「No」です。これからどのソフトウェアにもAIが入ると思うので、むしろ皆がAIの専門家にならなくてはいけないと考えています。例えばプログラマーに関しては、ソフトウェアの書き方などが変わり、複雑なことはAIに任せることが可能な領域は広がりつつありますが、反対にAIの動作原理を理解する必要があり、AI開発者の必要性が高まっていくと思います。今後しばらくは需要が増えるのではないでしょうか。

AIは創造的な仕事を奪う?

中山氏:では、次のトピック「AIは創造的な仕事を奪う?」についてご意見を伺います。

鈴木:これも「No」だと思います。創造的な仕事は答えが一つではないからです。AIが創造的な仕事の中で”最適”な経路を選んでいったとしても、それが必ずしも正解とは限りません。AIと人間が協調してよりよいものを生み出していくことが重要です。よって、人とAIが一緒に創造的な仕事をすることが増えると思っています。

司会の中山氏の問い「AIは創造的な仕事を奪う?」に応じる、参加者。

中山氏:一方で、仕事のレベルによっては影響もあるのではないでしょうか。創造的な仕事は無くならないにしても、例えばこれまでは若手が創造的な仕事のスキルを取得するために、賃金をもらいながらトレーニングを積む機会がありました。そのトレーニングとしての仕事がAIにとって代わられてしまったら、スキルを身に着けるための機会が減ってしまうのではないでしょうか。

安野氏:それは既に起きている現象だと思います。翻訳業界では、名前が表に出るような翻訳家とそうでない翻訳家との間で状況が異なるそうです。名前が出る翻訳家はAIも活用しながら仕事量を増やしているのに対し、名前が出ないような翻訳家たちはAIの影響で単価が下がるという事態に直面しているそうです。同じ職業でも立ち位置によって恩恵を受けられるか受けられないか、180度違う状況にあることが問題の複雑なところです。

ニュービック先生:創造的な仕事の存続は、需要と供給のバランスに依存します。需要が高い仕事は大丈夫ですが、そうでない仕事は難しいでしょう。以前、機械翻訳に関する仕事をしていたときに実際に目の当たりにしました。当時、機械翻訳によって翻訳業務の単価は安くなっていましたが、翻訳業務が技術的に容易になったため、むしろ翻訳家が増え、需要もどんどん増していきました。

安野氏:そもそも創造的な仕事とは何かという問いがあると思います。将棋で良い手を指すということは、昔はとても創造的な思考を要する“仕事”だと思われていましたが、今ではアルゴリズムで解けるようになってきました。したがって、今は“創造的”とされている作業の中にもアルゴリズムで解決できるものがあるのではないかと思っています。人間の脳にできて、シリコンの脳にできないことは基本的には無い気がしています。ただし、それに人間が価値を感じるかどうか全く別の問題です。人間とAIがそれぞれ同じものを作ったとしても、人間が作ったもの、人間が関わったものへの価値は残っていくのではないかと私は考えています。

人とAIとの理想的な関係とは

中山氏:では、最後のトピック「人とAIの理想的な関係」について、ご意見をお願いします。

安野氏:人とAIには3つの関係性が考えられると思います。1つ目は「ツールとそれを扱う人間」という関係、2つ目が「神とそれに従う人間」、そして3つ目は両者が基本的に対等な「パートナー同士」の関係です。それぞれの捉え方が混在しているのが現状だと思いますが、私自身は、理想は対等なパートナーであり、お互いを尊重しあうドラえもんとのび太のような関係が良いと考えています。

鈴木:お互いを理解することが重要だと思います。AIエージェントはパーソナライズされ、協働していくことで、個人の成長を助ける存在になるのではないでしょうか。つまり、自分の周りで動いて成長を助けてくれるという構図がAIと人の関係性になると思います。AIの提案を受け入れてうまくいかなかったときに、その責任をとるのは人間なので、人間はAIの判断をよりよく理解し、責任を持つ必要があります。相互理解が重要です。

ニュービック先生:安野さんの言う「パートナー」としての使い方はすでに起きています。チャットボットと話すことで癒しを得たり、恋人のように扱ったりする人もいます。私は昔、そういう接し方を理解できませんでした。しかし、ただのツールとして使っていたAIが賢くなってきたこともあり、私自身もボットに対して「Please」をつけて丁寧に話すこともあり、少し理解できるようになってきました。かなり楽観的な展望かもしれませんが、理想的なAIとの関係性は、AIを活用して難病の治療につなげたり、地球温暖化などの問題を解決したりするなど、人間が長年苦労してきた課題の解決に繋げられるようになることです。科学の発展の速度を10倍くらいに速めることができれば、地球温暖化といった大きな問題も解決できると思うので、そこに向けて今後も研究を進めていきたいです。

司会の中山氏の問い「人とAIとの理想的な関係とはどのようなものになるのか?」に応じる、参加者。

おわりに

AIの発展には目覚ましいものがあり、AIエージェントの登場によってその関わり方も変化していきそうです。対談の中でも語られていたように、人とAIが良いパートナーとなることで、様々な課題の解決に繋がり、より良い未来へと近づいていくでしょう。

富士通は、2024年2月に「AIはわたしたちのバディになる」という新しいAI戦略メッセージを打ち出しました。AIは信頼できる仕事仲間となり、人間の生産性と創造性を拡張していくものと考えています。
さらに2024年7月には、生成AIについて「Chatを超える、Beyond Chat」を合言葉に、従来のレポート作成やチャット利用に留まらない、業務課題を解決するためのユースケースを開発していくことを発表しました。

富士通は、お客様の成長を支えるパートナーとして、今後もAIを中心とした最先端技術開発に注力していきます。

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