生成AIスタートアップ企業が生み出すビジネス価値とユースケース

生成AIの可能性を探している男性

企業は、データの編成、プロセスの自動化、管理サポートなど、業務を支えるための生成AIの可能性を探り始めています。今回のフジトラニュースでは、最も革新的なスタートアップ企業の視点によるビジネスチャンスについて分析しました。スタートアップ企業の分析結果から得られる詳細な情報から、興味深い事例をご紹介します。

目次
  1. 生成AIの業務への適用
  2. スタートアップが生成AIのビジネス革新を牽引
  3. 革新的な生成AIサービス
  4. まとめ:革新的な生成AIの業務への統合

生成AIの業務への適用

生成AI は現在、人間とコンピューターの両方の世界を統合することで、人間とコンピューターの能力に革命を起こし、利用の裾野を広げ「民主化」されてきています。組織内のさまざまなITシステムやソーシャルメディアのコミュニケーションチャネルに分散していた非構造化データを、IT の専門知識がなくても、自動的に統合、分析し、意思決定者に伝達できるようになりました。

生成AIの価値統合を示す系統図 生成AIの価値統合

最前線に立つMicrosoftやAWSといった大手プラットフォームプロバイダーは、AIを活用した「Copilot」やAPI、クラウドサービスの新しいエコシステムを生み出しています。このエコシステムは、開発者や組織が次世代のアプリケーション、製品、サービスを開発できるようにするAI変革の基盤となります。

スタートアップが生成AIのビジネス革新を牽引

大企業が生成AIを既存のビジネスに適合させる前に、どのような革新的なサービスが業績とビジネスモデルに影響を与えるかを示せるのは、活発な動きを見せる生成AIスタートアップ市場です。また、AIベースのビジネス開発をリードしているのは、生成AIの開発にも取り組むAIスタートアップの成長グループです。このようにスタートアップはAI開発の最前線に多く存在します。スタートアップは現在、企業の全ての業務に対応する生成AIサポートを急速に進めているのです。

日本の生成AIスタートアップの事業機能別アプリケーション開発構築図 日本の生成AIスタートアップ ー 事業機能別アプリケーション開発

今回、主要な企業と新たに資金を調達したスタートアップ企業のサービスを検証し、様々な新しい生成AIビジネスサービスを探りました。その中で注目すべき企業は、米国市場ではY-Combinator YC Startup DirectoryやCrunchbase、欧州市場はEuropean AI Startup Landscapeデータベース、そして日本市場は富士通アクセラレーターデータベース、東京大学松尾研究室のデータベース、およびスタートアップ関連のインターネット検索を組み合わせて構築した日本の生成AI スタートアップ企業データベースです。

革新的な生成AIサービス

検証の結果から、データ管理の点において効率的な自動化、教育、設計や知識管理まで、ビジネス変革の波が生まれていることが判明しました。下図は、生成AIが革新的な業務の開発・設計に及ぼす可能性がある影響範囲を示しています。

生成AIの業務への統合による影響図 生成AIの業務への統合

データ管理と研究開発・設計の間の新しいつながりは、重要な業務のイノベーションを促進します。生産および運用部門は、社内外の情報に直接アクセスすることで可能になる自動化の恩恵を受けます。この結果「インダストリー4.0」が示した新たなレベルのデジタルな接続性と自動化が実現する可能性は大いに高まっています。
同様に、サプライチェーンとロジスティクスのオペレーションは、社内外のリソースへアクセスすることでより柔軟なオペレーションが可能になるという恩恵を受けます。マーケティング、顧客管理、およびセールスは、前例がないほどのカスタマイズやコンテンツ生成を体験します。最後に、人事、採用、従業員教育の開発は、人間とコンピューターが共創する時代において、組織がどのように運営し、従業員をエンゲージさせるかを再定義します。
インサイトペーパーでこれらに関連するスタートアップのユースケースを詳しく紹介していますが、以降の章では主な洞察をご紹介します。

インテリジェントなデータ管理

大企業では、ビッグデータの管理は組織のサイロから取り出したデータを「データレイク」か「クラウド」に移動させてきました。生成AIによって、現在、メールやソーシャルメディアの投稿などが簡単にできるようになっていますが、今後はさらに、組織全体の情報やコミュニケーションの関係性を自動的に識別し、また新たな情報を付加して保存することが可能になってきます。新たなデータが利用可能になると、それらを継続的に更新し、精緻化することで、関連性と正確性を保証します。部門や業務機能ごとに個別の回答を提供する、新しい形の知識ベースが可能になります。

研究開発・設計

組織内の高度なデータ管理が進化するにつれて、研究者は、内部データや学術情報や公開情報と統合した、幅広い情報にアクセスできるようになります。しかし、既存の情報へのアクセスとカスタマイズを抑え、応用研究に最も大きな影響を与えるのは、調査手法の開発を通じたデータ収集の支援です。
過去の調査結果を即座に取り入れることができ、新しい調査は、合成されたデータに対して柔軟にテストが可能です。調査回答結果が自動的にレポートされ視覚化されます。調査はより個別化され、インタラクティブになり、その結果、調査以外のデータも付加され、製品開発や顧客管理の回答にリンクされます。
3Dデザイン作成も可能となった生成AIの能力は、将来に変革をもたらすでしょう。建築分野で活用されるAIは、すでに複雑な建築設計を可能にする重要な要素となっています。企業はすでに生成AIを利用して、柔軟なモデリングやカスタマイズを強化し、エネルギー効率や廃棄物管理、地域規制などの複数の仕様を新しい設計に適合させています。昨年度公開したインサイトペーパー「産業用メタバース」で指摘しているように、将来的には、生成AIによる設計がデジタルツインと企業メタバースの開発の基礎になるでしょう。

インテリジェント・ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)

コンピューターコードを記述する生成AI の能力は、すでに定量的に測定出来るほど結果を出しており、最も急速に進化しているアプリケーションの1つです。マッキンゼーの分析によると、AIがソフトウェアエンジニアリングの生産性に与える直接的な影響は、年間支出の20~45%に及ぶ可能性があるといいます。最先端のビジネスプロセスの自動化は、クラウドプラットフォーム上のエンドツーエンドのサービスに組み込まれるようになっています。
RPAはソフトウェアボットが人間の繰り返し入力を模倣し始めたときに、重要な開発テーマになりました。しかし、これまでは、これらのボットはエンジニアによって提供された構造化データを操作することしかできず、より広い文脈での判断能力が欠如しているため、その能力は非常に限られていました。しかし状況は変わりつつあります。ほんのわずかな操作で、Zoom通話は自動的に要約され、メールキャンペーンの全体設計が実行されます。レポートとダッシュボードを自動的に生成することも可能になるでしょう。

インテリジェントサプライチェーンとロジスティクス

AIはすでに、交通量予測から効率的な経路、倉庫の整理まで、多くの機能をサポートしています。しかし、自動化にはまだ限界があり、すべてのノード(拠点)の間には、トラックの荷下ろし、確認のための電話、注文のためのメールの送信、コスト構造の最適化を行う人々や零細企業が存在します。トラック輸送情報と経路決定、運送業者のスケジュール、車両メンテナンスなど、多くの「マルチモーダル」な管理タスクがようやく統合され自動化される可能性があります。需要予測を個々の場所に合わせてカスタマイズし、在庫とロジスティクスを最適化し、調達を自動化し、検出された異常に基づいてリスクを管理し、スケジュールを調整し、適切な管理者へレポートを作成できます。

マーケティング、カスタマーサービス、セールス

新世代のチャットボットやバーチャルアシスタントは、マーケティング、カスタマーサポート、セールスの分野で最も大きな利益をもたらす可能性を秘めています。生成AI の可能性として、洞察の生成、コンテンツ作成、ソーシャルメディアへの統合が、全ユースケースの約半数で重要な役割を果たしています。
個々の企業にとっては、より高い顧客満足度の結果、売上が増加しさらに大きな利益を得ることができます。これが可能になるのは、貴重な顧客情報へのアクセスと対話が「民主化」されるためです。これまで、ブログやソーシャルメディアの構造化された顧客情報に直接アクセスできたのは、Eコマース企業とプラットフォーム企業だけでした。生成AIで、異なるプラットフォームや非構造化ソース(ブログ、ソーシャルメディア、フィードバック)からのデータへのアクセスが統合され、自動的に分析されるようになります。

人事、採用、従業員教育

Brynjolfsson、Li、Raymondの調査によると、生成AI アシスタントはすでにカスタマーサポートセンターの生産性を平均14%向上させています。「AIモデルがより有能な従業員のベストプラクティスを広め、新しい従業員が経験曲線を下げるのを助ける」可能性があると指摘しています。これは、高齢化している国や組織にとって重要です。タスクは、必要な時点で、リアルタイムの情報と専門家のガイダンスによってサポートされます。これは、個人の生産性を向上させ、組織に対する個人の価値提案の能力の範囲を拡大します。学習プログラムを生成することも可能です。コース実施内容や目的に基づいて、クイズ(小試験、宿題)、投票、ビデオなど、関連するすべての教材や、学習コース全体を自動的に生成します。簡素な学習モジュールと絵コンテの説明に基づいて、アバターによるお話・読み聞かせや学習者の反応の分析など、没入型のバーチャルリアリティ学習プログラムを提供します。

まとめ:革新的な生成AIの業務への統合

最後に、企業が生成AIのすぐに使える機能だけでなく、データ管理と意思決定の分野において可能性を探求して始めると、ほぼすべての業務で新たな機能を引き出すことができるでしょう。富士通グループは、このような実験、探求を容易にするために、先進的なAIプラットフォーム「Fujitsu Kozuchi」を開発しました。

富士通の生成AI混合技術による統合図 富士通の生成AI混合技術による統合

富士通が提供するインサイトペーパーは、最も革新的なスタートアップ企業で開発中のサービスの可能性を強調していますが、「Fujitsu Kozuchi」は、オープンソースコミュニティと主要な商業ベンダーの両方からの先進的なAI技術とサービスをフルに活用し、効果的なデジタルビジネス変革を可能にする組織を支援します。
Fujitsu Kozuchi により、富士通とそのパートナーは、生成AI を業務に統合して新たな競争優位性を創出し、新たなビジネス価値を最大化する機会を迅速に探索し共創します。

プロフィール

シュルツ マルティン(Martin Schulz)博士
富士通株式会社 チーフポリシーエコノミスト

デジタル化、政府政策、企業戦略の影響に焦点を当てた研究に従事。日本政府の委員、デュイスブルクエッセン大学マーカトール経営学部で講師も務める。彼の分析は国際メディアで広く引用されており、CNBC、ブルームバーグ、NHKワールドなど定期的に出演。最新の著書は以下の通りです。

新田 隆司(Takashi Shinden)
富士通株式会社 グローバルマーケティング本部コーポ―レートマーケティング統括部テクノロジーマーケティング部

システムエンジニアとしてキャリアをスタートし、新規事業開発やPMOなどを経験。
現在は富士通の技術力を世界に伝えるマーケティング活動に従事。
米国シリコンバレーで、スタートアップ企業や当社現地法人に勤務した経験を有する。

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