生成AI:信頼とヒューマンエンパワメント

生成AI構築の方法を検証している人

多様性の社会において個人はもとより、組織を取り巻く環境をコントロールできるように成長しながらも持続可能な変革と信頼を育むためには、生成AIの導入は不可欠な技術となりつつあります。

また、生成AIシステムの導入を成功させるためには、テクノロジーに対する理解を深めるとともに、組織の適応能力を最大限に発揮させるリーダーの透明性と、人間の能力を引き出すヒューマンエンパワメントが求められています。

今回のフジトラニュースでは、信頼しうるAIシステムを計画し構築する方法をご紹介します。

目次
  1. AIの機会を最大化し、リスクを最小化する
  2. エンパワメントと成果が信頼を育む
  3. つながり、学習、利用体験を通じたAIとの信頼の醸成
  4. AI実験で信頼を構築し、エンゲージメントに備える

AIの機会を最大化し、リスクを最小化する

富士通は、2024年1月にダボスで開催された世界経済フォーラム(WEF)に合わせて、“信頼”と“生成AI”という2つのホットトピックを取り上げたインサイトペーパー「生成AI:ヒューマンエンパワメントによる信頼の構築」を発表しました。このインサイトペーパーでは、インクルーシブな成長、持続可能な開発、人間の能力を引き出すヒューマンエンパワメントを促進するために、信頼と生成AIがどのように関係するかを解説しています。

“透明性”は、AIに限らずあらゆるシステムの信頼を構築するための土台となります。生成AIが提供する透明性とは、AIの動作方法、トレーニングされたデータ、出力に隠されたロジックに関する明確な情報を提供することを意味します。これは、富士通が得意とするAI分野である「説明可能なAI(Explainable AI, XAI)」によって強化されますが、同時に、強力な倫理基準に則った信頼ある実装も必要です。

企業経営者は、信頼性のあるAIの機会を最大化し、リスクを最小化するという課題に直面しています。信頼性が高く、倫理基準に沿ったAIにする一方で、利用者を惹きつけ、実装する魅力があるものにしなければいけません。さらに、企業は、新たなスキルと能力をステークホルダーに提供するAIパートナーシップの明確な道筋を示す必要があります。

エンパワメントと成果が信頼を育む

すべての組織の中核には、その存在の根本的な理由を指し示すパーパスがあります。組織のパーパスは、目標を明確にし、チームを共通の目標に向かわせる原動力となります。例えば富士通のパーパスは、イノベーションを通じて社会的信頼を築くことで、より持続可能な世界を育むことです。信頼、エンパワメント、実績はすべて、企業のパーパスの実現に貢献する相互に関連する要素です。これらの要素を強化するためにも、AIの実装は企業内のつながり、学習、利用体験を促進します。

ヒューマンエンパワメントによるAIとの信頼の構築 ヒューマンエンパワメントによるAIとの信頼の構築

企業のパーパス達成に貢献する重要要素

信頼:ビジネスを含むあらゆる関係において、信頼は極めて重要です。それは強固なチームの基盤を形成します。従業員がリーダーとお互いを信頼していれば、効果的に協力し、アイデアを交換し、会社のパーパスに貢献する傾向が強くなります。

エンパワメント:従業員に意思決定と行動を行う権限と自主性を与えることです。それは、関係する人々が効果的に役割を果たし信頼することで展開します。従業員が自分に力があると感じることで、率先して行動し、創造性を発揮し、会社のパーパスの実現に貢献しやすい状態になります。

実績:各部門の目標を成功裏に収め、掲げたパーパスを達成した結果です。それは、チーム内の信頼、エンパワメント、および努力の産物ですが、組織のテクノロジーとその効果的な適用にも大きく左右されます。

結論として、明確に定義されたビジネスのパーパスが組織の行動を導きます。信頼とエンパワメントは、個人が評価されていると感じ、能力を発揮しようとする前向きな職場環境を育てます。これは、組織の目標を達成し、そのパーパスを実現することにつながります。では、AIはこの方程式のどこに位置するのでしょうか?

つながり、学習、利用体験を通じたAIとの信頼の醸成

生成AIは、信頼とエンパワメントを高めるために特別なツールとして機能し得ます。組織のリーダーは、従業員が自分のアイデアや洞察を共有できるようにし、厳選された外部の知識を取り入れ、顧客向けの製品・サービスや体験の創造と実装をサポートするプラットフォームの開発を支援する必要があります。最近のMIT Technology Reviewの言葉を借りれば、つながり接続性、学習、体験の進歩によるAIの「民主化」は、あらゆるAI実装戦略の基礎となるはずです。

信頼を醸成する重要な要素

つながり:組織内のつながりと透明性の触媒として機能します。既存の「スマート」なシステムから情報にアクセスすることで、システムやプロセスをリアルタイムで監視し、運用の透明性を提供し、問題や異常を迅速に特定することができます。組織を横断する情報のやり取りを活用することで、部門で使われるデータや議論に基づいて問い合わせへの応答が生成され、従来の部門連携の範囲をはるかに超えるものを作成できます。問題に対する解決策は、すでに存在する場合もあれば、別のグループや部門の中で「サイロ化」された専門家の議論から作成される場合もあります。例えば、米国の保守部門からの質問に対し、その解決策を日本本社のマニュアル内で見つけ、同様の問題を体験したドイツのサービス部門の実用的な応用内容を見つけるかもしれません。

学習:組織内の学習、開発、知識の創造において重要な役割を果たせます。膨大な量のデータを分析し、新鮮な洞察を生み出します。人間が発見できないようなパターンや傾向を特定し、革新的なアイデアや戦略につなげることができます。また、生成AIは、複雑な議論や文書の要約や概要を生成することで、知識の共有や共同作業を促進します。現実的なトレーニングシナリオやシミュレーションを含むトレーニング資料やドキュメントを作成し、組織全体への知識の普及を支援し、従業員が新しいスキルを習得するのを支援することもできます。

利用体験:レポート、記事、トレーニング資料などのコンテンツを直接生成できます。反復的なタスクを自動化し、より複雑で戦略的なタスクに人的リソースを解放することで生産性を大幅に向上させます。また、大量のデータを迅速かつ正確に分析し、意思決定や戦略の指針となる洞察や予測を提供し、生産性をさらに向上させます。個々の利用者データに基づく推奨事項で体験をパーソナライズし、つながりと関与の感覚を促進もできます。

結論として、AIプラットフォームをデータ、コミュニケーション、配信チャネルなどの統合により、あらゆるレベルのスキルと能力を活用することで、組織のビジネスモデルに対する信頼の構築に大きく貢献できます。AIは、組織の目標を達成し、パーパスを達成するために不可欠な技術に近づいています。では、このような強力なテクノロジーの導入と組織のオペレーションの変革を成功させるにはどうすればよいでしょうか。

AI実験で信頼を構築し、エンゲージメントに備える

この章で強調したいことは、信頼は、急速な変化の中で適応し、成長する能力によって構築されるということです。

信頼できるAIの実装戦略のための具体的な推奨項目は、“生成AI導入の3段階”として、以前に公開した記事「生成AIの導入や活用で成功させるために必要なもの」をご覧ください。

上記の推奨項目には、今回のインサイトペーパーでご紹介した生成AIと組織が信頼を構築するための必要事項も含まれています。具体的には、堅牢で安全な内部データと通信プロセスの確保、人間の責任と幸福の優先順位付け、一連のAI利用ポリシーの策定、生成AIを利用する従業員のトレーニングへの投資、イノベーションの最前線の維持などです。

幸いなことに、企業固有のAIモデルのほとんどを社内で構築する必要はありません。業界のサービスプロバイダーは、すでにドメイン固有のソリューションを開発しています。例えば、金融サービス企業のBloomberg社は、オープンソースの大規模言語モデル(Large Language Model, LLM)を使って独自の金融市場モデルを開発し、同社の広範な金融データベースでトレーニングしています。Salesforce社の生成AIであるEinstein GPTCRMサービスで使用するために微調整されており、Harvey社は大手法律事務所向けに法務用途のLLMをトレーニングしています。Microsoft社は、オフィス機能をサポートするだけでなく、サプライチェーン統合全体の最適化を支援するCopilotを開発しています。富士通などの業界のAIサービスプロバイダーは、自動化や品質管理など、業界固有のAIソリューション間でのサービス統合を支援しています。

新しいインテリジェンスを備えた組織は、分析(予測)、開発(製品発見)、生産(ハイパーオートメーション)、顧客体験(インタラクティブな製品とサービス)など、多数のビジネス機能にわたって革新を行うことができます。最終的には、AIによって強化されたビジネス機能を調整できる経営幹部が、次世代の「知識創造」組織の先頭に立つのが理想的と位置付けられるでしょう。

生成AIプラットフォームをデータ、コミュニケーション、配信チャネルに統合することは、あらゆるレベルのスキルと能力を活用可能にし、組織のビジネスモデルに対する信頼の構築に大きく貢献します。生成AIは、組織の目標を達成するために不可欠な技術になろうとしています。

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