メタバース・デジタルツイン実現に必要なこととは
~組織横断による集合知の蓄積と人づくり~

皆さまは、普段からヘッドマウントディスプレイを保有してメタバース空間に接続していますか。また、皆さまが所属する組織において、メタバースは活用されていますか。今、メディアで「メタバース」というキーワードを聞かない日はありませんが、メディアの扱いに対し、実態は意外と少ないのではないでしょうか。DX企業である私たちも利用促進に苦労を重ね、経験を積み上げてきました。本記事では、メタバース・デジタルツイン推進に向けて、私たちがどのような活動を実施しているのかについて、ご紹介いたします。

目次
  1. メタバースとデジタルツインの関係性
  2. 富士通のメタバース・デジタルツイン推進に向けた取り組み
  3. 富士通がメタバース・デジタルツイン市場の成長に貢献できる最初の一歩は
  4. 社内の集合知を人材育成のための教育へ
  5. DX化を進める社内コミュニティーの力

メタバースとデジタルツインの関係性

普及期を迎えるメタバース

メタバースと聞くと、どのような印象を持たれますか。立体感のあるゲームのような背景の中を様々なキャラクターが動き、その中の一体を自分が動かしているというイメージでしょうか。メタバースは1992年に米国で発表されたSF小説の中で生まれ、「ゴーグルを着用して入る3Dの巨大なバーチャル空間」として表現されました。今、小説のイメージを30年の時を経て実現し始めています。

メタバースは将来のコンセプトを含む広い概念のため、語る人や企業によって定義は様々ですが、多くの方は、以下のような意味で使用されています。

  • コンピューターネットワークの中に構築された3Dの仮想空間やサービス
  • 「将来」インターネット環境が到達するであろうコンセプト

いずれの定義でも、以下の3つの要素が含まれることが多いです。

  • バーチャル空間:3DCG(2Dを含む場合もある)で表現されるオンライン上に構築された空間
  • アバター:自分の分身であるアバターで参加
  • コミュニケーション・意思疎通:バーチャル空間内で他者と対話が可能

SF小説の中で生まれたメタバースが、現実的な利用方法に着地し、エンターテインメント、官公庁・自治体、学校、医療・介護など、様々な分野に導入され始めています。利用者の体験を高めるため、サービス提供企業各社が、ヘッドマウントディスプレイの軽量化や日常利用可能なデザインを目指し、3D空間を作り出すハードウェア・ソフトウェアの進化を進めています。近い将来、スマートフォンが生まれた当時のように、私たちの生活風景が一変する可能性が高まってきています。

黎明期のデジタルツイン

国や自治体、企業規模では「デジタルツイン」という概念も浸透しつつあります。デジタルツインは現実世界の環境をバーチャル空間に再現する技術のことで、「デジタルの双子」という意味合いを持ちます。現実世界をデジタル上で再現することで、様々な視点で監視したりシミュレーションしたりすることが可能となります。既に災害対策や、物流・交通・建物の、設計・シミュレーション・監視など、多くの領域で適用され始めています。

メタバースとデジタルツインの目的は以下です。

  • メタバース:コミュニケーションを目的としたものが多い
  • デジタルツイン: バーチャル空間でのシミュレーション結果と重ね合わせ、現実空間上の人々の行動に寄与することを目的とする場合が多い

ただし、利用する技術(3Dの設計・モデリング技術、AI、シミュレーション技術、3D空間やアバターをリアルタイムに作り出すハードウェア・サーバーとソフトウェア、低遅延なネットワーク、立体視するためのヘッドマウントディスプレイ、Web3など)においては、両者とも多くの複合要素にて成り立っており、重なる部分が多く、最近では境目が曖昧になりつつあります。また、どちらも市場規模拡大の期待が高く、多くの企業が参入してきています。

富士通のメタバース・デジタルツイン推進に向けた取り組み

富士通では、どのように推進してきたのでしょうか。あまりにも多くの技術が関係するメタバースは従来型のやり方では推進が難しいです。ブレイクスルーは、メタバースの定義同様にオンライン上でのコミュニケーションから生まれました。2022年2月、執行役員 EVP CIO(兼)CDXO の福田と一従業員による社内SNSでの何気ないやりとりから始まります。

これが富士通メタバースコミュニティー(通称:メタバース部)立上げの瞬間です。熱意をもった有志による仮想的な部活動の位置づけで推進組織が発足しました。

SNSでメンバー募集の告知をすると、即日で100名の応募がありました。メタバースを構成する多くの関連技術者はもちろん、営業やマーケティング担当者など、グループ横断でメタバースというキーワード1つで多彩な人材が俊敏に集いました。2024年1月現在では、組織の枠組みを越えて1,400名のコミュニティーにまで成長してきています。

メタバース部では、ランチ会などを通してアイデア出しなどを日々行い、様々な取り組みを行ってきました。国内外のメタバースプラットフォーム・空間の利用体験・研究、社内への情報発信・啓発、イベントでの体験展示の実践、サービス化に向けたお客様の支援などです。

富士通がメタバース・デジタルツイン市場の成長に貢献できる最初の一歩は

2022年後半、様々な展示会や講演会に参加する中で「今、メタバース市場に必要なことは何か」を真剣に議論しました。メタバース空間を体験しながら、夜な夜なTeams会議を実施する他、時々はリアルの懇親会で熱く語り合い。その結果、まずはメタバースを知っている・使える・企画できる人づくりが重要だという結論に至りました。メンバーで教育を作り、メタバースを盛り立てる人を育てようという機運が高まった後は、株式会社富士通ラーニングメディア(※1)に相談。メタバースの教育を作り、富士通社内、そしてお客様にも貢献しようと目標が定まりました。

  • ※1
    株式会社富士通ラーニングメディア:富士通グループで人材育成を担当している
熱く語り合うメンバーたち

社内の集合知を人材育成のための教育へ

コミュニティー内から、人づくりに興味・関心のあるメンバーを集め、教育講座の企画・設計・執筆に挑みました。コミュニティーリーダーを筆頭に、日々メタバース空間を作り、デモをしている担当者、XR(VR/AR/MR)技術者、デザイナー、情報システム担当、知的財産権担当、調達担当、教育担当等、総勢30名強。それぞれ本業のある中、部活動としての活動時間を確保し、半年をかけて教育を作り上げました。

メタバース部の全体方針は「楽しくコミュニティー活動」です。教育づくりでも、この方針に則り「楽しく学べる」講座にすることを柱とし、頭で理解するだけでなく、実際にヘッドマウントディスプレイをかぶって体験し感動できるものになるよう注力しました。一人一台のヘッドマウントディスプレイを用意し、実際にメタバース空間に入り操作・コミュニケーションを行ってもらいます。この経験を通して、体験者それぞれが、自身のビジネスの企画や、業務への適用を具体的に考えられるように仕上げています。
また、メタバースはエンターテインメント・ホビー分野のものと捉えられがちです。富士通ならではの特徴として、デジタルツイン領域にも踏み込み、社会課題の解決やイノベーションにつながる内容も扱っています。

全員でメタバースを体験する演習

DX化を進める社内コミュニティーの力

コミュニティーで作り上げた 「体験型メタバース・デジタルツイン入門~ビジネス活用にむけて~」講座は、富士通グループ内で2023年10月から展開を開始しました。メタバース・デジタルツインが好きだからこそ伝えられる熱い講義・演習を展開しています。講座の中では「お客様のビジネスへどう貢献できるか」といった踏み込んだ質疑応答も飛び交い、普段からメタバースやデジタルツインの活用・提案を行っている講師とのディスカッションから、ビジネス化のヒントを持ち帰っていただけると確信しています。
社内での実践を踏まえ、2024年1月より、同講座を、お客様にもご受講いただけるようにサービス化いたしました。是非、本講座をご利用いただき、新しい扉を開きませんか。

多くの技術要素が絡み合うテクノロジーの推進には多くの課題がありますが、本事例のように、組織横断での熱意ある有志のコミュニティーによる解決も一つの方法です。市場の最新情報や、各技術者が所属する組織の情報共有がスムーズになり、メタバース・デジタルツインを推進するための仲間が日々増えています。
富士通は、これからも、メタバース・デジタルツインを支えるテクノロジーの研究・開発を通し、社会に貢献して参ります。ご期待ください。

担当者プロフィール

富士通メタバースコミュニティー
リーダー
北山 翼(きたやま つばさ)

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