「変わり切れない」富士通を動かした「人起点」の全社変革とは -後編-

富士通が2020年に全社変革の取り組みをスタートさせてから約3年が経過しました。その間、富士通はどう変わってきたのでしょうか。フジトラの実践的なアプローチを解説した書籍「HUMAN∞TRANSFORMATION」を上梓したRidgelinez(リッジラインズ) 代表取締役CEOの今井 俊哉と、フジトラの陣頭指揮を執ってきた富士通 執行役員 EVP CDXO(兼)CIOの福田 譲に、これまでの変革の道のり、現在、そして、今後の取り組みを聞きました。前編・後編の2回に分けてお届けする後編をご覧ください。

目次
  1. 4XのいずれのXにおいても変革を体現するのは「人」
  2. お客様とFujitsu Uvanceに取り組むことで三方良しのエコシステムを実現
  3. トランスフォーメーションに不可欠なのは、自らのゴールを設定し継続していくこと

4XのいずれのXにおいても変革を体現するのは「人」

――前編では、全社変革を進める為の有効な手段として、4X思考のフレームワークについて伺いました。この4つのXを実際に推進するにあたって心がけるべきこと、重視すべきことはどのようなことだと思われますか。

今井:いずれのXにおいても、その変革を体現するのは「人」であること、そして、テクノロジーを活用しながら、それぞれの「人」の行動変容につなげていくことが、Xを推進するポイントになります。4X思考を推進するドライバーは社員の行動変容であり、これはつまり「人起点」ということです。

Ridgelinezでは、変革に挑むのも「人」ならば、変革の先の未来を生きるのも「人」であるという考えから、「人」を起点にすべての変革を発想することをパーパスとして掲げています。人起点の変革です。

Ridgelinez株式会社 代表取締役CEO 今井 俊哉 Ridgelinez株式会社 代表取締役CEO 今井 俊哉

――富士通のような大企業で人起点の変革を進めるにあたっては、さまざまな課題・困難に直面したと思います。それをどう克服されていったのか、お聞かせください。

福田:まずは、パーパスカービング(※1)です。4X思考で重要なのは真ん中に来るパーパスです。それは富士通のパーパスですが、それだけではなく社員一人ひとりのパーパスも大切です。パーパスを感じながら仕事をすることで「これは自分がやるべき仕事」と自分事で考えられるようになりますし、社員一人ひとりの行動変容がないと、組織の変革にはつながりませんから、個人のパーパスカービングは人起点の変革の第一歩ともいえます。

  • ※1 パーパスカービング:
    社員一人ひとりが歩んできた道のりや大切にしている価値観を振り返り、未来に向けて想いを馳せながら、個人のパーパスを彫り出していく富士通独自のプログラム。

冒頭にも話した通り、日本では働き甲斐を持って仕事をしている社員がわずか5%程度しかいないとされていますが、富士通では一人ひとりが個人のパーパスを持つことで、そういった意識が変わりつつあると感じています。個々人が自身のパーパスを言語化して自分自身を再確認し、自分のパーパスと富士通のパーパスとの関連性を感じてもらうこと、つまり人起点で進めることを心がけました。

その他にも社内SNSやバーチャルイベント、デジタルツールを活用したチャットでの対話など、コミュニケーションの進化を心がけています。一般的に変革が起きるときのキャズム理論においては16%がひとつの壁と言われています。富士通の場合、社員数が12万4000人なので、そのうちの16%にあたる2万人に「新しい富士通、いいね」、「どんどん変えていこう」という意識が芽生え、行動が変われば、組織全体で大きな化学反応を起こせると考えています。

福田の名刺には自身のパーパス「日本を、世界を、もっと元気に!」が 福田の名刺には自身のパーパス「日本を、世界を、もっと元気に!」が

その人数をどう増やしていくのか。現在、社内SNS上に変革コミュニティを作っていて、そこに約9000人の登録者がいます。12万4000人中の9000人なので7%ちょっと、まだキャズムの手前です。一方で、3カ月に1度開催している社内DXイベントには、当初は数百人規模の参加でしたが、今では1万人以上の参加者がいます。

こうした仲間を増やしていくためのさまざまな方法を試行錯誤しているところです。地道で根気のいる取り組みですが、いったん変革に賛同してくれた社員の気持ちはそう簡単には変わらないと思っています。着実に仲間を増やしていくことが大切です。面は点の集合体、一人ひとりの気持ちを変えていくことで、ある日、オセロゲームで一気に色が反転するように大きく変わることがあるかもしれません。

また、4つのXを実現するための手段としてのD(デジタル)の整備も欠かせません。例えば、OXやMXを実現しようにも業務プロセスとシステムとデータがバラバラで、グローバルで様々なデータを素早く把握できないようでは、自分たち自身の変革を可視化してコントロールすることができません。EXを高めようにも社員のエンゲージメントを計測する、あるいは状態や動向を細かく把握する手段がないと難しいでしょう。手段としての「D」を整備すること、正しくデジタル化することは、デジタル変革(DX)の大前提です。

お客様とFujitsu Uvanceに取り組むことで三方良しのエコシステムを実現

――全社変革はまだ進行中です。その中でこれまでの取り組みを振り返り、得たものはどのようなことだとお感じですか。そして、得られた実践知を、これからどのように展開していきますか。

富士通株式会社 執行役員 EVP CDXO(兼)CIO 福田 譲 富士通株式会社 執行役員 EVP CDXO(兼)CIO 福田 譲

福田:富士通のDXはまだ現在進行形で、成功とは言い切れませんが、ビジネスにおける「三方良し」、つまり「富士通良し、お客様良し、社会良し」で考えると、まずは「富士通良し」でしっかりとFujitsu Uvanceに取り組み、それが「お客様良し」になり、さらには社会課題解決にもつながって「社会良し」になります。つまり、鍵はFujitsu Uvanceという新たな事業へと、富士通のビジネスそのものをしっかりとシフトさせることです。

Fujitsu Uvanceにこれからどう取り組むかが、富士通のCXであり、CXがうまくいくかどうかは、EXやMX、OXにかかっています。そして、それらの「X」を効果的に進めるために、デジタルやICTの改革が重要です。つまり、全てはつながっているのです。

これらを実践し展開していくためにはコンサルティング人材の育成も重要です。新たな中期経営計画では、コンサルティング人材をグループ全体で1万人体制にすると発表しました。この富士通グループのコンサルティング人材の増強をリードするのがRidgelinezです。

三方良しで言うと、まず「富士通良し」を実現しなくてはなりません。富士通がお客様とFujitsu Uvanceに一緒に取り組むことで、その結果として「お客様良し」につなげ、さらには社会課題の解決につなげていく、エコシステム視点で取り組むことが鍵になります。

白熱の議論は続く 白熱の議論は続く

今井:Ridgelinezはクライアントファーストの視点に立ったコンサルティング会社として設立されましたが、その意味合いがようやく社内外に認知されてきたのかなと感じています。実はコンサルティング会社からの提言は、必ずしもお客様にとって耳障りのいいことばかりではないのです。変革を通じて新たな付加価値を出すことを考えると、むしろ耳障りが悪い内容のほうが多い。それでも有償のプロジェクトとして我々が売上を上げていけるのは、お客様自身が「お金を払ってまでそうすることが戦略的に必要だ」と認識されたからです。そう認めてもらえる会社を作れたことに、一定の達成感を感じてはいます。

私は、Ridgelinezそのものが変革志向の組織でなければいけないと考えています。極端なことを言えば、100%変革志向の人間の集まりでなかったら意味がないということ。その考えのもとに厳しい組織運営や能力評価もしたので、残念ながら去って行った社員もいました。その一方で、厳しい環境の中でも、コンサルティングビジネスに向き合い、頑張っている社員がいるのも事実です。しかも、Ridgelinezにはもともと富士通総研をはじめとした富士通グループの社員が多くいます。つまり、12万4000人の社員の中には、コンサルティングビジネスを任せられる人材が一定数存在すること、富士通としてもコンサルティングビジネスを展開できることを確信できたこと、これは変革で得た大きな成果だと思っています。

トランスフォーメーションに不可欠なのは、自らのゴールを設定し継続していくこと

――富士通の全社変革、今は何合目でしょうか。

今井:私の感覚では、すでに5合目は過ぎて6合目あたりには到達したと思います。ただ、頂上はまだ具体的に見えていない。

そもそもトランスフォーメーションに取り組むことは、ある程度の成果が見えてくるまでは辛い日々が続くものです。時間もかかり、途中で心が折れそうにもなります。ところが、ゴールである頂上が見えてくると、その時には新たにアドレナリンが出てくるような感覚になって、「もう少しだ、頑張ろう」という気持ちが芽生えてくるものだと思っています。

全社変革には終わりがないのですが、6合目が過ぎて7合目あたりまで行けたら、少しずつゴールが見えてくるのではないかと思います。もう少しといったところです。

福田:今井さんの話を踏まえても、今はまだ頂上は見えていないと言えます。ただし、どの山を登るのかは明確になっています。実は、3年前にスタートした頃はどの山を登るのか、つまり富士通はどのような方向に変革を進めるのかが見えていない状態でした。時間はかかっていますが、事業やビジネスモデルをFujitsu Uvanceで変革していくこと(=MX、CX)、そしてその変革を支えるOXやEXの主要な施策が進んでいることは、大きな進展だと思っています。

そしてポイント・オブ・ノー・リターンはもう過ぎたと感じています。もう後戻りはしないところまで進みつつあります。例え、経営トップが変わっても経営陣が変わっても、もう元には戻らないところまでみんなで歩んできました。現在地を端的に示すと「登る山と方角は決まっていて、もう元には戻らないところまで来た。でもまだ頂上は見えない。今、ちょうど斜度がきついところ」といった感じです。

――最後に今、まさに変革に取り組もうとしている企業の経営トップやチェンジリーダーの人たち、フジトラニュースの読者に向けてメッセージをお願いします。

今井:外部から富士通を長年見てきた立場からすれば、全社変革の取り組みを通じて、社員一人ひとりが自分で考え行動するという意味での全員参加型の経営スタイルに変わってきたことは大きな進歩だと思います。まだまだ改善すべきところは多いと思いますが、それでも以前に比べて着実に変わったこと、進化したということは胸を張ってよいと思います。自信を持つべきだと思います。

富士通のような大きな会社のトランスフォーメーションは、何が正解なのかはやってみないとわかりません。一度やってみてうまくいかなかったからといって、途中でやめてしまっては意味がなくなってしまいます。いろいろなやり方をしながらしっかりと継続していくこと、そして、最後までやり切ることが何よりも大切だと思います。

人起点で行動変容を起こすことが大事と語る二人 人起点で行動変容を起こすことが大事と語る二人

福田:普通なら「みんなで頑張りましょう」などと話すのでしょうが、ここはあえて「まだ5合目です」と言いたいです。誰かがあなたに代わってこの先、頂上まで登ってくれるものではありません。あなた自身がどうしたいのかを考え、登っていくものです。

そのうえでお伝えしたいのは、「自分の会社をどうしたいのか」、「どんな会社や環境で自分の大切な人生の大半を過ごしたいか」という視点を持って、自分事として捉えることが大切ではないでしょうか。一人ひとりが考えて動く、人起点で行動変容を起こすことが、全社変革が成功するか否かの鍵を握るのです。

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