SXの実現に向けて「具体的な一歩を」
Fujitsu Technology and Service Vision 2023を通じて伝えたいこと

今、世界では、地政学的リスクや地球環境問題、資源問題などさまざまな問題が複雑に絡み合い、システミックな課題が生じています。多くの企業に、社会の重要課題と向き合い解決に向けて取り組んでいくことが求められている中、富士通はパーパスの実現に向けて未来を洞察し、ストーリーを描き、それをどう実現していくのかを「Fujitsu Technology and Service Vision(以下、FT&SV)」としてまとめ提言しています。2013年の発行から今年で11回目となる「FT&SV2023」を通じて、富士通は何を伝えようとしているのか。富士通株式会社 技術戦略本部 コミュニケーション戦略統括部シニアディレクター 西川 博に聞きました。

目次
  1. FT&SVとは「進化を続ける未来ストーリー」
  2. FT&SV2023では再生型社会に向けた具体的アクションを示す
  3. FT&SV2023で示された「5つのテクノロジーメガトレンド」
  4. 富士通が注力する「5つの重点技術領域」とは
  5. FT&SVは「オープン」なもの
    多くの人の意見を取り入れ進化を続けていく

FT&SVとは「進化を続ける未来ストーリー」

――「FT&SV」の2023年度版(以下、FT&SV2023)が公開されました。FT&SV2023には、どのような想いが込められているのでしょうか。

西川: FT&SVをひと言で示すと「富士通が考えるテクノロジーとサービスの未来ビジョン」です。ここ数年の世界の動きを振り返ると、気候変動、新型コロナウイルス感染症の拡大、ロシアによるウクライナへの侵攻、それらにともなうエネルギー不足や物価高騰など、さまざまな問題が複雑に絡み合い世界全体に影響を及ぼすシステミックな課題が浮き彫りになっています。

こうした状況にあって、私たちには10年先、20年先の未来を見据え、そのうえで「今を考える」ことが求められています。その視点に立って、富士通が「どのような未来をお客様やパートナーと共に実現したいのか」、その実現のために「どのようにテクノロジーが人々をエンパワーするのか」、そして、私たちが「どのようなアクションを取るべきなのか」といったことについての考えや想いがFT&SVには込められています。

将来の予測を踏まえ、現在から未来へとつながるストーリーを組み上げ、富士通としてどう社会に貢献していけるのかを示したものです。未来に向かって「進化を続けるストーリー」といえます。

FT&SVとは FT&SVとは
富士通株式会社 技術戦略本部 コミュニケーション戦略統括部 シニアディレクター
西川 博

FT&SV2023では再生型社会に向けた具体的アクションを示す

――2013年にFT&SVを掲げて以降、10年以上にわたって毎年アップデートしてきました。2年に1度や3年に1度ではなく「毎年」FT&SVを更新し続けてきたことの意味合いや理由を聞かせてください。

西川: 理由はおもに2つあります。ひとつはFT&SVを継続して発信することで、世の中、社会に浸透させていきたいと考えているからです。

もうひとつは、世の中の流れや変化があまりにも激しく、策定した内容が時代にそぐわなくなったり、新たな課題やテクノロジーをキャッチアップするために内容を追加しなければならなかったりということが次々に出てきているからです。世の中の変化に合わせて、常に最新のビジョンを発信し続けていかなければならないということです。

ただし、毎年アップデートと聞くと「すべてが変化し続けている」という印象を持たれるかもしれませんね。実は、FT&SVを公開した当初から、ずっと「変わらないもの」もあります。先ほど「進化を続けるストーリー」と説明しましたが、「変わらないもの」と「変わるもの・進化するもの」の両方があるということです。ここをご理解いただくことが大切です。

「変わらないもの」とは、FT&SVの根底にあるもので、以下の3つの要素です。

  • 「ヒューマンセントリック」:テクノロジーを活用して人をエンパワー
  • 「データドリブン」:データを活用してインテリジェンスを創出
  • 「コネクテッド」:新たなエコシステムを構築して社会課題を解決

富士通は、この3つをキーワードにFT&SVを通じてビジネスや社会の変革をずっと提言し続けてきました。そして、昨年(2022年)には、これらに加えて今後10年の最重要テーマとして「デジタルイノベーションによるサステナビリティ・ トランスフォーメーション(SX)の実現」を掲げました。

こうした流れを受けて、FT&SV2023ではSXによる再生型社会の実現を見据えた「具体的なアクション」について提言しています。ここがFT&SV2023を理解する重要なポイントです。

FT&SV2023で示された「5つのテクノロジーメガトレンド」

――再生型社会を見据え、SXの実現に向けた具体的なアクションを起こすときが来たということ、そんなメッセージがFT&SV2023には込められているのですね。

西川: はい。FT&SV2023は、全体が3つのモジュールで構成されています。モジュール1のテーマは「サステナビリティ=ビジネス」で、サステナビリティとビジネスをどのようにして一体化すればよいかを説明しています。モジュール2が「テクノロジービジョン」で「5つのテクノロジーメガトレンド」を示しながら、テクノロジーの進化が導く未来ビジョンについての富士通の考えを示しています。モジュール3が「再生型社会に向けたビジネス変革」をテーマに、富士通がビジネスパートナーとして、どのように再生型社会の実現を目指すのかについて紹介しています。

FT&SV2023の全体像

2022年のFT&SVではSXの実現の重要性をテーマとしましたが、FT&SV2023のモジュール1では、先進的な企業でSXの実現に向けた取り組みがスタートしていることを「5つの領域」で説明しています。「自動化」「エクスペリエンス」「イノベーション」「レジリエンス」「トラスト」の5領域です。

SXの取り組みが進行する5つの領域

そして、モジュール2では、これら5つの領域でSXとその先の再生型社会を実現するための「5つのテクノロジーメガトレンド」を紹介しています。

富士通では、これからのSXによる再生型社会の実現を目指し、具体的な取り組みに移行していきますが、そのカギとなるのが各領域に対応した「テクノロジーメガトレンド」です。

5つの領域 テクノロジーメガトレンド
自動化 創造性の拡張
エクスペリエンス つながり、誰も取り残されない
イノベーション 量子スピードの創造
レジリエンス 未来のリ・デザイン
トラスト 進化するウェブ
5つのテクノロジーメガトレンド

富士通が注力する「5つの重点技術領域」とは

――「テクノロジーメガトレンド」で示された方向性を踏まえて、富士通は具体的にどのような取り組みを進めていくのですか。

西川: FT&SV2023で示されたテクノロジービジョンを実現するために、富士通は「5つの重点技術領域」の研究開発にリソースを集中し、同時に幅広いパートナーとのコラボレーションにも積極的に取り組みます。5つの重点技術領域とは「Computing」、「Network」、「AI」、「Data & Security」、「Converging Technologies」です。

例えば、AIの領域では、セマンティックグラフAIや説明可能なAIなどの研究開発に注力し、それらの技術をもとに人とAIが知識を共有することで創造的に協調し、パフォーマンスを飛躍的に高めることが可能になります。これは「創造性の拡張」といったメガトレンドにマッチした研究開発です。

5つの重点技術領域の中でも、特にAI技術が、今、急速に進化しています。AIが単独で進化しているだけではなく、広範な領域にAIが浸透し、その重要度がますます高まっています。

富士通は、各重点技術領域とAIとの融合を強化し、FT&SV2023 で示したテクノロジービジョンの実現に向けた研究開発を加速していく考えです。

例えば、AIとNetwork、6Gなどの次世代高速ネットワークの技術の融合で、仮想世界と写像世界、現実世界との境目がないボーダレス・ワールドを構築できるようになります。現在の社会では、生まれ育った境遇や場所、性別、身体的特徴などによって人権や雇用環境などが制限されるといったことがありますが、ボーダレス・ワールドなら、ARやVR、遠隔操作、3Dホログラムなどを通して世界中の人々が協調できるようになり、さまざまな制約から解放されるでしょう。これは「つながり、誰も取り残されない」というメガトレンドに合った研究開発の取り組みです。

富士通の重点技術領域

FT&SVは「オープン」なもの
多くの人の意見を取り入れ進化を続けていく

――コンピューティングやAI、ネットワークといった個々のテクノロジーだけを見ると、それぞれの分野に特化した優れた技術を持っている企業は数多く存在します。その中で、富士通だからこそ実現できることや、強みは何があるのでしょうか?

西川: 確かに、一つひとつの要素技術を見ると多数のベンダーが存在します。しかし、富士通の強みというのは、これらの技術領域を網羅していることであり、だからこそ将来に向けたストーリーやビジョンをFT&SVとして打ち出すことができたといえるでしょう。

また、ストーリーやビジョンを打ち出して終わりではなく、それらを実現できるノウハウや技術を持っていることも大きなポイントだと思います。

例えば、単純にAIをAPIとして提供するのではなく、コンピューティングやネットワークといった複数の技術を活用しながら新たな価値や利用方法を提案・提供していけるということです。

FT&SVで掲げた内容に対して、富士通として何ができるのかを示すことが重要であると思っています。5つのテクノロジーメガトレンドに対応するために、富士通が具体的に何を提供できるのか、何をやっていくかということを、2030年までのマイルストーンとして示ししていくことが重要です。

――FT&SVは今後も毎年アップデートされていくと思います。FT&SVの継続的な発信を通して実現したいことは、どのようなことでしょうか。

西川: 富士通は10年にわたってFT&SVをアップデートし、社会課題の解決に向けて取り組んできました。2023年以降はSXの実現に向けて具体的なアクションを起こすフェーズに移り、富士通の重点技術領域をさまざまな分野に役立てていきます。そして、FT&SVを浸透させていくために、今後も引き続き継続して取り組んでいきます。

そのうえで、できるだけ多くの人たちからポジティブでもネガティブでも、さまざまなフィードバックをいただきたいです。FT&SVは、制作に携わった一部の人たちだけが作るものではなく、「オール富士通」で作り上げるオープンなものだと思っています。

富士通グループの全ての従業員、お客さまからもアイデアをいただいたり、みんなで意見や考えをぶつけ合ったり、将来的には富士通が研究開発に取り組んでいるさまざまなテクノロジーも「民主化」して誰もが使えるようにして、さまざまな社会課題の解決に向けて取り組める、そんな場の創出にFT&SVが貢献できれば理想ですね。

富士通株式会社
技術戦略本部 コミュニケーション戦略統括部
シニアディレクター
西川 博

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