トヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ)のレーシングチーム「TOYOTA GAZOO Racing」は、2023年6月に100周年を迎えるル・マン24時間耐久レースに挑みます。富士通はオフィシャルパートナーとして協賛し、チーム一丸となり、世界一過酷とされるこのレースの優勝を目指します。本記事では、富士通株式会社 グローバルカスタマーサクセスBGトヨタユニットのリーダーである小嶋 利信が、TOYOTA GAZOO Racingとのパートナーシップを通じて、トヨタのより良いクルマづくりをサポートしていく富士通の役割について振り返ります。
富士通とTOYOTA GAZOO Racingのパートナーシップ
2023年6月10日、フランスのル・マンには数十万人のファンが集まり、耐久レース100周年の熱戦の火ぶたを切るグリーンフラッグを固唾を飲んで見守ることとなります。今年で6連覇を目指すTOYOTA GAZOO Racingの2台のGR010 HYBRIDハイパーカーが衆目を集めることは必須です。
しかし、モータースポーツの記者たちは「今回はトヨタにとって簡単なレースにはならないだろう」と口を揃えます。ポルシェ、フェラーリ、キャデラックという強力なライバルたちがサーキットに戻ってきているためです。ポルシェは20回目の優勝を目指し、そして半世紀ぶりに戻ってきたフェラーリは10回目の優勝を目指します。

富士通でTOYOTA GAZOO Racingとのスポンサーシップを担当する小嶋 利信は、「もちろんTOYOTA GAZOO Racingのワンツー・フィニッシュを期待しています」と語ります。
「24時間を走り切るためには、ドライバー、メカニック、エンジニア、データアナリストなど、すべてのメンバーが極限状態の中で最大限の力を発揮する必要があります。今シーズンのチームは、総合力において最も優れていると思います」。

トヨタ自動車の本社がある愛知県の事務所に勤務する小嶋は、約4年前からトヨタの基幹システムに富士通のコンピュータシステムを導入・保守するプロジェクトなどで指揮を執ってきました。
2022年、富士通はFIA世界耐久選手権(WEC)に参戦しているトヨタのレーシングチーム、TOYOTA GAZOO Racingのスポンサーとなりました。より良いクルマを作るためにイノベーションを起こしたいというトヨタの想いをサポートし、カーボンニュートラルな世界を作るという共通の目標を推進することを目指しています。

当初、小嶋はモータースポーツについて、特別に関心が高かったわけではありませんでした。新プロジェクトは、もちろん細心の注意を払わなければならない案件ですが、重要なビジネスタスク以上ではないように思えました。しかし、1年間レーシングチームと密接に仕事をするうちに、その思いは次第に変化していきます。
「TOYOTA GAZOO Racingの一員として働くことは、今までとはまったく違う経験でした」と小嶋は言います。そして、トヨタにとってのモータースポーツは、当初のイメージよりもはるかに重要な意味を持つものなのだと続けます。
「サーキットでは、空気や音、そして何とも言えない興奮が充満しているのが感じられ、そこでしか感じられない興奮がありました。その環境の中で技術を議論することで、富士通とトヨタが同じ方向を目指していると実感できました。会議室の打ち合わせとは全く違うものです」。
ル・マン24時間耐久レース、イノベーション追求の100年
今年のル・マン24時間レースは、100周年を迎える特別なイベントです。その歴史は1923年にさかのぼり、初レースでは33人のドライバーが昼夜を通して競い合いました。ル・マン市街地の一部を走る17kmのサーキットは、まだ舗装もされていない状態でした。
それ以来、この過酷な耐久レースは、メーカーが画期的な開発を試す貴重な場となったのです。主催者のACO(オートモバイル・クラブ・ド・ルエスト)によれば、路面舗装の改善、霧の中のフォグランプ、ディスクブレーキ、燃料ロスを防ぐ直噴エンジンなどは、ル・マンで初めて登場し、試された技術です。ただしこれらの技術はほんの一部にすぎず、ル・マンをきっかけにした技術はその他多く存在します。

1985年、トヨタのレーシングチームとしての参戦の歴史が始まります。初めてのレースでは12位という結果でしたが、無事24時間を走りきることに成功しました。

その後、表彰台をかけた何十年ものトヨタの挑戦が続きました。トヨタのエンジニアたちが、より良いクルマづくりに没頭した年月です。
ハイブリッドエンジンは、トヨタが開拓した象徴的な技術のひとつで、プリウスシリーズは世界初の量産ハイブリッドカーです。この歴史的な技術の裏には、実はル・マンでの試行錯誤がありました。自動車のエネルギー効率を高める絶え間ない努力は今日までも続いています。
2018年、TOYOTA GAZOO Racingは20回目の挑戦で歴史的な初勝利を掴みました。現在、チームは6連覇を目指しています。そして今年の100周年記念レースでは、参戦する2台のハイパーカーに最新鋭のハイブリッドレーシングエンジンを搭載しています。

小嶋は、ル・マン優勝にかけるチームの意気込みについて次のように話します。
「もちろん、トヨタのメンバーは優勝を目指しています。しかし、レースに勝つことだけが最終目的かというとそれだけとは言えないかもしれません。ル・マンは、自動車技術の開発・改良を競う場でもあるということ。そして、それは主戦場である市場に投入されていく技術なんですね」。
富士通の技術でチームを加速
パートナーシップ初年度となる昨年は学びの年でしたと、小嶋は語ります。しかし今年はアクセルを踏み込み始めているのだと言います。「2023年は、富士通の技術でチームに貢献し始めた、初めてのシーズンになるでしょう」。
富士通のチームは現在、車載カメラのデータを分析するAI技術に取り組んでいます。この新技術によって、マシンのリアルタイムデータをピットに送信して処理し、エンジニアがそれを使ってレース戦術へ応用することを目指しています。
しかし、詳細のほとんどはまだ機密事項で公開はできません。
「すべてを公開すれば、フェラーリやポルシェのようなライバルは、すぐに模倣して我々に追い付いてくるでしょうから」と、小嶋は笑いながら言います。「でも、シミュレーションの結果は『非常に使える』というフィードバックをいただいています。期待の技術です」。

耐久レースへの参戦は、富士通の技術力をも試し、そして強化する機会になると小嶋は考えています。
「マシンが疾走していく時、ほんの一部かもしれませんが、そこに私たちの技術が入っているのだと実感しています。今はTOYOTA GAZOO Racingがレースに勝つことのサポートに注力していますが、我々にはモビリティやモータースポーツをより良くするためのアイデアがたくさんあります。このパートナーシップを通じて、人と社会に役立つ技術を一緒に推進していけるものと確信しています」。

富士通株式会社
グローバルカスタマーサクセスBG トヨタユニット
エグゼディレクター 小嶋 利信
トヨタ自動車のITシステムを支える事業本部を率いる。2022年からは、トヨタGAZOO Racingとのパートナーシップを牽引。