「Green x Digitalコンソーシアム」が取り組む
サプライチェーン全体のCO2排出量を「見える化」

2050年までの脱炭素社会の実現には、各企業が自社の事業におけるCO2排出量を削減するだけではなく、原材料の調達先などを含めたサプライチェーン全体でシームレスに共有し排出量を削減することが重要です。こうした中、一般社団法人 電子情報技術産業協会(以下、JEITA)が事務局を務める「Green x Digital コンソーシアム」では、「見える化WG(ワーキンググループ)」が中心となってサプライチェーンCO2排出量の見える化に向けた企業間CO2データ交換の実証実験を開始し、社会実装に向けた第一歩を踏み出しました。その取り組みについて、Green x Digital コンソーシアム 事務局 事務局長の平井 淳生氏、同WG 副主査のみずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社(以下、みずほR&T)の柴田 昌彦氏、同じく副主査と実証実験のプロジェクトマネージャーを務める富士通の塩入 裕太に聞きました。

目次
  1. サプライチェーン全体でCO2排出量を算定し「見える化」する
  2. 10年以上前から取り組む見える化には算定ルール、プロトコル、デジタル技術の活用が鍵
  3. 「CO2可視化フレームワーク」と「データ連携のための技術仕様」を策定
  4. 実際の経済活動の中での有効性は? 算定ルールやデータ交換プロトコルを検証
  5. 実証実験の結果から発生した課題に各社が足並みを揃えて取り組む

サプライチェーン全体で
CO2排出量を算定し「見える化」する

世界中で脱炭素に向けた動きが加速するなか、日本政府も「2050年カーボンニュートラル実現」を宣言し、官民をあげて温室効果ガス削減に向けた取り組みの強化が求められています。JEITAではカーボンニュートラル化の促進と産業・社会の変革につながる新たなデジタルソリューションの創出・社会実装に向け2021年10月に「Green x Digital コンソーシアム」を設立。2023年1月時点で、情報通信、電子機器、エレクトロニクスに限らず幅広い業種・業界の137社が同コンソーシアムに参加し年々増加しています。

温室効果ガス削減の目標をクリアするためには、産業界をあげてCO2排出量を削減していく必要があります。しかし、その実現のためには新たな技術開発や設備投資が必要となるなど各企業の負担も決して少なくありません。
Green x Digital コンソーシアム 事務局長の平井氏は、「カーボンニュートラルへの取り組みは、多くの企業にとって新たな成長の機会にもなります」と明言します。「日本政府が策定したグリーン成長戦略にも、太陽光発電やバイオ燃料などのグリーンエネルギーを積極的に活用して環境を保護しながら産業構造を変革し、経済成長を図ることが明記されています。官民をあげて成長戦略の一環と捉えて取り組むことが大切です」(平井氏)とその重要性を強調します。

一般社団法人 電子情報技術産業協会 平井 淳生氏

ただ、これまでのように各企業が自社の事業活動の中でCO2排出量を削減するだけでは、目標達成は難しいと考えられています。今、求められているのは原材料の調達から製造、製品の物流、販売、さらには廃棄に至るまでのサプライチェーン全体を通しての削減です。その実現の鍵を握るのが「CO2排出量の見える化」と「デジタル技術の活用」です。JEITAでは同コンソーシアムの設立とあわせて、「見える化WG(ワーキンググループ)」を設置。サプライチェーン全体でのCO2排出量の算定や可視化の枠組み作りに関する議論を進めてきました。

10年以上前から取り組む見える化には
算定ルール、プロトコル、デジタル技術の活用が鍵

CO2排出量算定には、スコープ1~3の考え方があります。スコープ1は事業者自らの燃料使用や工業プロセスによる直接排出、スコープ2は他社から供給された電気や熱、蒸気などの使用による間接排出、スコープ3はスコープ1・2以外の間接排出を示しています。そして重要となるスコープ3は、自社以外の排出量データも収集しなければならず、多くの手間が掛かることからデータを収集、可視化、開示するまでの過程を簡素化するツールが求められていました。

サプライチェーン排出量の考え方

見える化WGで副主査を務めるみずほR&Tの柴田氏は、「みずほR&Tは、スコープ3との縁が深く、その課題のとも長く向き合ってきました。2009年からスコープ3の基準開発の国際的な議論に参加してきましたし、2011年に基準が発行されて以降はコンサルティングという形で多くの日本企業のスコープ3算定を支援してきました。しかし、この時のスコープ3算定は、二次データと呼ばれる業種平均の排出量データを活用したものでした。取引先企業の排出量の集合体であるスコープ3は、本来はサプライヤー各社の固有の排出量を収集して算定すべきものですが、当時の環境ではまだ無理だったのです」と振り返ります。「欠けていた要素は大きく3つ。サプライチェーン上での大量のデータ交換を実現するデジタル技術の存在はもちろんですが、それ以前に、サプライヤー企業がCO2排出量を公正に算定するための共通ルールが無いことが課題でした。さらにそれ以前の問題としてサプライヤー企業側のCO2排出量算定のリテラシーと下流側の企業のデータ活用のリテラシーの両面の不足も問題でした。デジタル技術とその利用環境が長足の進歩を遂げたいま、共通ルールとリテラシーが改めてボトルネックとして浮上しています。みずほR&Tは、これまでのスコープ3算定の知見と経験を活かして、デジタル化を意識した共通ルール策定とデータ活用のリテラシー向上の面で貢献したいと考えています」(柴田氏)。

みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社 柴田 昌彦氏

一方、同じく見える化WGで副主査を務める富士通の塩入は、「CO2排出量データの真偽の証明や証跡の確認などにブロックチェーン技術や富士通のハイパフォーマンスなコンピューティング技術、AI技術の活用を提案するなど、見える化WGの活動をテクノロジーで下支えしたい」と富士通の役割を説明します。

「CO2可視化フレームワーク」と
「データ連携のための技術仕様」を策定

見える化WGは、3つの段階で取り組んでおり、「準備フェーズ」では2021年11月の開始から検討の方向性が食い違わないよう、参加企業が共通で目指す「見える化」の姿についての意識を合わせました。

富士通株式会社 塩入 裕太

次の「検討フェーズ」では、柴田氏がリーダーの算定方法やデータの共有方法について検討する「ルール化検討SWG」と、富士通がリーダーの共通データフォーマットやデータ連携方式について検討する「データフォーマット・連携検討SWG」に分かれて活動を進めました。同時に国内外の関連団体と連携し、グローバルスタンダードの動向も視野に入れて、日本でしか通用しないルールやフォーマットにならないように配慮しました。
こうした取り組みを経て、「CO2可視化フレームワーク」と「データ連携のための技術仕様」を策定しました。2022年10月から始まった「実証フェーズ」では、策定した内容に基づいて実証実験を開始し、いよいよ社会実装に向けた第一歩を踏み出しました。

実証実験を通じて仕組み作りを目指す

実際の経済活動の中での有効性は?
算定ルールやデータ交換プロトコルを検証

実証実験の目的は、これまでに定めたCO2排出量の算定や交換に関するルールや仕様がサプライチェーンの中で実際に活用できるかを見極めることです。2023年1月までの期間で実施されたフェーズ1ではソリューションベンダーが参加し異なるベンダーのソリューション間でのデータ連携の技術検証。フェーズ2では、2023年6月末頃までに、ベンダーだけでなくサプライチェーンに関わる多くの企業が参加し、CO2可視化フレームワークに基づくCO2排出量算定を含む検証を実施します。

社会実装を目指した実証実験の枠組み

この実証実験の中で、シナリオ設計を担当したみずほR&Tの柴田氏は、「参加企業間でサプライチェーンを疑似的に組み自社のCO2排出量データを次の企業に渡し、さらにその企業が次の企業に渡すという実験をします。データ交換のルールに不備や不具合がないか、社会実装したとき本当にこのルールに基づいて実行の有無を確認します」と語ります。

一方、富士通はプロジェクト全体のマネジメントと参加企業間でCO2排出量のデータを交換するときのデータフォーマットの共通化を担います。「サプライチェーンは諸外国にも及ぶため、日本国内だけでガラパゴス的にデータ流通をしていても意味がありません。WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)の規定に則り実証をしています。国際的に通用するデータフォーマット作成を目指しています」(塩入)

実証実験の結果から発生した課題に
各社が足並みを揃えて取り組む

今後の取り組みについて、柴田氏は「日本からサプライチェーン全体のCO2排出量を可視化するプラットフォームを発信していきたい」と語ります。その上で、「カーボンアカウンティング(炭素会計)の専門コンサルティングとして、脱炭素に取り組む企業とソリューションを提供できるベンダーとをつなげていきます」(柴田氏)と展望を示します。

また、塩入は「登山に例えるならばまだ家で準備をしている段階ですね。世界中でいくつもの組織や団体が規格を検討しており、国内外の組織や団体と詰めていく必要があります。しかし確定しないからといって登山ができないということではなく、社会実装に向けて実証実験を開始したことで、家から外に踏み出し頂上に向かって着実に進めたい」と語ります。

平井氏は、「サプライチェーン全体のCO2可視化は、技術的に不可能なことに挑戦しているのではありません」といいます。「参加企業が足並みを揃えて取り組むことで乗り越えていけるはずです。今回のフェーズ2の実証実験は企業が連携するための課題を抽出する取り組みでもあります」(平井氏)。
脱炭素社会の実現に向けて、視界は開けているようです。

一般社団法人 電子情報技術産業協会
Green x Digital コンソーシアム事務局
事務局長
平井 淳生氏
みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社
サステナビリティコンサルティング第2部
環境ビジネス戦略チーム
次長
柴田 昌彦氏
富士通株式会社
Uvance本部 SM)Sustain
Trans事業部
マネージャー
塩入 裕太
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