テクノロジーを活用し、再生可能エネルギーの導入拡大と送電設備の保全業務高度化を目指す

中国電力ネットワーク株式会社様(以下、中国電力ネットワーク)と富士通は、データを活用した送電設備の再生可能エネルギーの導入拡大と保全業務の高度化に向けた実証実験を実施しました。本記事では、実証実験を開始した背景や、具体的な実験内容、そしてプロジェクトに関わった担当者の声をご紹介します。

目次
  1. エネルギービジネスへの取り組み、これまでとこれから
  2. 実証実験の概要と結果
  3. カーボンニュートラルの世界に向けて

エネルギービジネスへの取り組み、これまでとこれから

富士通では2030年の社会を想定した事業ブランドFujitsu Uvanceを発表しています。今回はFujitsu Uvanceを形作る一要素である、データを起点とした新しいビジネス「Digital Shifts」を体現した取り組みをご紹介します。

エネルギー事業者に対して、これまで富士通はエネルギーの安定供給のためのITシステムや電力メーターなどのネットワーク商品を提供してきました。さらに近年では、電力小売自由化を契機として、CRMやコンタクトセンターなどフロントシステムの構築で競争環境に対する支援をしてきました。一方これからは、安定供給の使命に加え、カーボンニュートラルへの対応に向けてDXテクノロジーを活かした事業効率化・高度化が求められる時代です。現場のデータをAIなどの最先端テクノロジーで解析することで事業高度化やデータドリブン経営に貢献し、カーボンニュートラルな社会づくりに共に挑戦していく必要があると考えています。

このような背景から、中国電力ネットワークと富士通はデータドリブンをベースとした再生可能エネルギーの導入拡大に向けた実証実験を実施。そして約1年間行った実証実験の結果を2022年10月12日にプレスリリースで発表し、オンライン記者説明会も開催しました。

実証実験の概要と結果

実証実験の概要

架空地線

送電線には落雷による電流を大地に逃がすために架空地線が設置されており、その内部に光ファイバーケーブル(※1)が内蔵されたものをOPGWと呼んでいます。OPGWと変電所内にある専用の測定装置を接続すると、OPGW内の光ファイバーにレーザーパルス(※2)が入射され、レーザーパルスの伝搬とともに光ファイバー内で戻り光が発生します。測定装置への戻り光の戻り時間の遅れの計算を通じて、OPGWの各位置の振動の度合いが振動データとしてデジタル化されます。(=光ファイバーセンシング技術)これにより環境データ(風況)の推定が可能となります。また、得られた環境データ(風況)に加え、日射量や外気温を加味することで、電線の温度をリアルタイムで算出できるようになります。中国電力ネットワークと富士通は、本技術が実際の業務に適用可能か、約1年に亘り、中国電力ネットワークが所有する中国地方の送電線、計3線路で実証試験を行いました。

  • ※1
    光ファイバー:情報を伝送するための通信用の光学繊維
  • ※2
    レーザーパルス:細かい時間間隔で点滅を繰り返す光

1. 電線周りの環境データ(風況)を推定することでドローンの安全飛行が可能に

本実証試験では、前述した光ファイバーセンシング技術によって各鉄塔間の環境データ(風況)を推定しています。左下のイメージに示している赤い矢印は、各鉄塔間の環境データ(風況)を表しており、このように電線周りを約70kmに亘って詳細に把握できることを確認できます。また右下のグラフは、オレンジの線が光ファイバーの振動情報から変換したデータ、青い線が実際に鉄塔に設置した風速計により取得したデータで、両者が概ね一致することが確認できました。

現在、中国電力ネットワークでは、送電線の保全業務を作業員が鉄塔に昇って点検したり、ヘリコプター、車両、徒歩により巡視を行ったりしていますが、今後はこうした業務をドローンに置き換える検討を進めています。しかし、ドローンの飛行は風に大きく左右されるため、遠方まで飛行させるためには、風速等の環境データ(風況)をリアルタイムかつ正確に把握する必要があります。本技術を活用することで、起伏によって風況が複雑に変化する山間部においても、正確かつ効率的に状況を把握することができ、ドローンの運航可否判断や風況を考慮した飛行ルートの選定に適用可能であることが検証できました。

2. 送電時の温度をリアルタイムで推定して、送電容量を拡大

送電線の温度は送電電流のほかに、外気温や太陽光など周囲環境の影響を受けますが、風況による冷却効果が最も影響します。今回の検証では、富士通の技術で計測した環境データ(風況)に加え、外気温や日射量のオープンデータ、更に送配電会社が保有する電流値を組み合わせることで送電線の温度の推定を行いました。下の図が推定結果です。青い線がサーモグラフィカメラにより実測したもの、オレンジ色の線が推定したものです。両者の温度は概ね一致しています。

実測した送電線温度と推定した送電線温度の比較

現在、中国電力ネットワークでは、安全性を考慮し、電線の電流量の上限を固定して運用しています。本技術を活用すれば、送電線のリアルタイムかつ正確な状態把握が可能となり、送電線に流せる電流を状況に応じて柔軟に運用する技術「ダイナミックレーティング」に適用できます。

通常、送電容量を増加するためには新規の鉄塔建設や電線の太線化が必要で、kmあたり数億円の費用と複数年単位での工事期間(※3)を要します。ダイナミックレーティングは既存設備を有効活用した系統増強技術であることから、新規の鉄塔建設や電線の太線化と比べ、短いリードタイムで高い効果が期待できます。

  • ※3
    2016年に電力広域的運営推進機関が公表している単価では、送電線の建設費としてkmあたり1~10億円程度の費用が必要。送電線の建設は、ルート選定・用地取得・設計・建設などの行程があり、複数年単位でのリードタイムが必要となる。

3. 実業務活用に向けたプロトタイプシステムの作成

また、光ファイバーの振動データより推定した風速・風向および送電容量、送配電事業者が保有する鉄塔ルート、送電線の電流値、日射量、外気温を全て組み合わせてシステム上に可視化したプロトタイプシステムを開発しました。本システムを配電事業者が実業務で活用することで、先述したドローンの運航支援、およびダイナミックレーティングの両者を網羅した送電網高度運用支援に繋げます。

カーボンニュートラルの世界に向けて

――何故、富士通と中国電力ネットワークが協力することになったのでしょうか。

平原氏: 富士通様より光ファイバーセンシング技術を紹介して頂いたことがきっかけです。当社では再生可能エネルギー導入拡大の社会的要請の高まりや、労働人口の減少といった課題解決に向け、ダイナミックレーティングの実現やドローンの利活用拡大を検討していました。どちらも送電線近傍の風況が重要な役割を持つため、効率的かつ正確に把握できる手法を探していました。光ファイバーセンシング技術を活用すれば、外部電源や通信インフラの整備をすることなく、長距離に渡る送電線近傍の環境データ(風況)を同一指標で取得できるため、環境データ(風況)取得に必要となる費用を大幅に低減できると考えました。2021年度よりダイナミックレーティングやドローン運航支援などへの適用検討を開始し、2023年度以降、なるべく早期の実用化を目指しています。

――実証実験でもっとも検証したかったことは何でしょうか。

平原氏: 推定精度の検証です。推定した環境データ(風況)のダイナミックレーティングやドローン運航支援への適用がゴールですので、一定の精度を保つことが本技術活用の前提となります。そのため、現地に設置する測定機器の種類や場所など、推定精度の検証方法を富士通様と協議を重ね決定しました。富士通様とコミュニケーションを密にしながら、「実用化に向けた課題の洗出し→実証(検証)→実証結果で判明した課題の解決方法の検討」というサイクルを繰り返すことで、短期間にも関わらず期待以上の成果が得られたと考えています。

――プロジェクトを円滑に進めるためのこだわりや施した工夫を教えてください。

福田: 富士通の光ファイバーセンシング技術・データ変換技術を送電設備の保全業務の高度化にどのように活用できるかを中国電力ネットワーク様ととことん話し合い、ゴールを意識したことです。例えば運用に向けてデータの精度を高めていく検証がありますが、つい必要以上の高い精度を求めてしまうことがあると思います。しかし、今回は運用においての必要十分な精度に留め、リソースを別観点の検証に割いた方が良いといったディスカッションを実施しました。このように運用に向けてのデータの精度も含め、優先順位付けをチーム全員でできたことが良かったと思います。

――この活動がどのようにして再生エネルギー導入拡大に繋がるのでしょうか。

宇野: 省エネを実行するには、再生エネルギーをなるべく「捨てない」ように使うことが肝要です。ただ無風時もしくは微風時に多量の再生エネルギーを受け入れると、送電線が熱くなりすぎるという問題があるため、再生エネルギーの受入を制限している現状があります。したがって「大自然がどのように送電線を冷却するのか」を網羅的に把握できれば、発電所への発電指令や再生エネルギーの送電線への受入を最適化(効率化)できます。それにより再生エネルギーの導入拡大にも繋がると期待しています。

――今後、サステナブルな世の中に向けて、期待が脹らみますね。

福田: はい。実証の一番の目的は、テクノロジーを活用した送電網の保全業務の高度化ですが、それに向けてお客様と議論を重ねるうちに、今まで解決できなかった課題の解決策が出てくる可能性があります。技術は一つでもサステナブルな未来に対して様々な活用方法や可能性があるということです。本実証の結果をしっかりと見つめながら、今後もお客様にじっくりと向き合って、サステナブルな世界に繋がるためのテクノロジーの活用を提案してまいります。

写真左:中国電力ネットワーク株式会社 ネットワーク設備部 技術高度化グループ 平原 尚也氏
写真右:富士通株式会社 Uvance本部 DS)Data Platform事業部 宇野 和史
富士通株式会社 社会システム事業本部
エネルギービジネス事業部 中国ビジネス部 福田 伽尚子
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