メタバースやゲームの世界におけるデジタルデータの安全性向上に向けて

JCB、JP GAMES、富士通の3社共同プロジェクト

株式会社ジェーシービー(以下 JCB)、JP GAMES株式会社(以下 JP GAMES)と富士通はメタバースやゲーム世界におけるデジタルデータの安全な流通や販売に向けた共同プロジェクトを2022年8月23日に開始しました。

目次
  1. 拡大範囲を広げるメタバースを支える技術
  2. メタバースが抱える課題解決に向けて、3社が協力
  3. 担当者の社会課題解決に向けたプロジェクトへの想い

拡大範囲を広げるメタバースを支える技術

メタバースとは “Meta”(超越)と “Universe”(世界)を組み合わせた造語で、インターネット上に構築された三次元の仮想空間を指します。
メタバースでは、ユーザーは自身の分身であるアバターを使用して自由に空間内を散策したり、他のユーザーとコミュニケーションをとったりするなど、「デジタルの中にあるもう一つの世界」を楽しむことができます。
主にゲームの分野で活用されることが多かったメタバースですが、最近ではその技術を利用したバーチャルな店舗やオフィスが登場するなど、別の分野への広がりも見せており、大いに注目されています。

メタバースはWeb3(分散型ネットワークによる自己主権型の経済圏)の象徴ともいえるでしょう。このWeb3の根底にあるのがブロックチェーンという技術です。仮想通貨(暗号資産)で話題となったこのワード、一度は耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。ブロックチェーン技術とは「情報通信ネットワーク上にある端末同士を直接接続して、取引記録を暗号技術を用いて分散的に処理・記録するデータベースの一種のこと」(※1)です。サーバーでデータを一元管理する従来の方法と比較し、複数の端末で分散して管理されることでデータの改ざんが難しくなり、信ぴょう性が高まるという特徴があります。

さらに、メタバースにおける重要なワードとしてNFT(Non-Fungible Token)が挙げられます。NFTとは代替不可能なToken(権利証明書)を指します。所有者とデータの情報を上記に述べたブロックチェーンに記録することで、改ざんや悪用を困難にし、固有の価値を持たせることができるようになりました。これにより、例えばネットやゲーム上において、世界で1つしか存在しないアイテムを作り出すことができます。

NFTの仕組み

メタバースが抱える課題解決に向けて、3社が協力

しかし、ブロックチェーン上に所有者とデータを登録するだけの従来のNFTの仕組みでは、他人になりすましてデータを勝手に登録される等、改ざん・悪用される恐れがまだ残っているというのが現状です。

富士通では、デジタル署名(※2)の利便性向上や普及促進のため、誰がいつ該当データを作成したのか、改ざんはされていないか等、その真正性(トラスト)を保証するトラスト技術の開発に取り組んでいます。この技術の一つが「透過的トラスト技術」で、クラウドサービス上のファイルに対して利用者が操作したことを自動的に検知することで、利用者が複雑な手続きを意識せずに(=透過的に)ファイルに自動でデジタル署名を付与できるようになります。さらに「ハッシュチェーン型集約署名」と呼ばれる富士通独自のデジタル署名技術により、現在のデータ所有者だけでなく、その前後の所有者に至るまでの複数人の真正性や署名の順番、データの非改ざん性を同時に保証できるようになります。

今回のJCB、JP GAMESとの協業では、メタバース上のデータにハッシュチェーン型集約署名を用いて改ざん・悪用ができない仕組みを実現しました。データとデジタル署名が一体になっているため、データ自体の不正・なりすましを防止できる点がこの方式の特徴です。JCBには人の証明(ログイン情報/決済情報)、JP GAMESにはアイテムデータの証明(メタバースで作成されたアイテムであることを保証)の役割を担って頂き、メタバース上のデータ悪用を阻止します。

具体的な各社の役割は以下のように想定しています。

JCB 日本発唯一の国際ブランドの運営により培ったソリューションや知見を活用し、保有する決済基盤・ID認証基盤に基づいた決済機能・トラスト情報の提供、および取引の信頼性確保に関する新たなサービスモデルの提供。
JP GAMES メタバース空間構築技術フレーム「PEGASUS WORLD KIT」で構築するマルチバース(※3)、およびリアルとバーチャル間を越境するユーザーの情報を持ち運ぶパスポートをJCBと共同で開発。
富士通 デジタルデータの権利情報を明確にするデジタル署名技術「ハッシュチェーン型集約署名」および、ID認証基盤やサービスと連携して本人確認を効率化する透過的トラスト技術の提供。
3社の協業イメージ

これらの技術により、お子さんや年配の方々が貴重なデータを誤って売却してしまう、だまし取られるといった問題が発生した場合の対応が可能になります。例えばペアレンタルコントロールのように、保護者が最終承認しないと売買契約が成立しないようにすることができます。また、決済会社やゲーム運営会社と連携して不正を調査し、問題のあるアイテムデータや売買記録を無効にするなど、サービスの安心・安全を高める仕組みを簡単に追加できるようになります。

本モデルによる今後の3社の検討事項は主に以下の4点です。なお、本モデルは、JCBにてビジネスモデル特許(特願2022-015805)として出願済みです。

  1. メタバースやゲーム世界で発行されたデジタルデータに対し、デジタル署名を発行・検証可能とする「デジタル登記所TM(※4)」に関するビジネスモデル。
  2. JCBの提供する本人確認機能および決済機能と連携し、取引で発生し得る不利益からユーザーを保護する技術。
  3. 富士通独自のデジタル署名技術「ハッシュチェーン型集約署名」を用いた、未成年や高齢者なども安全・安心に利用できる機能の実装。
  4. 将来的に、既存のNFT市場などとの接続を可能とするインターオペラビリティ(※5)の確保。
  • ※2 デジタル署名:
    公開鍵暗号を応用した技術のことで、送信されてきたデータが間違いなく本人のものであるかを証明できる技術
  • ※3 マルチバース:
    マルチ(複数)とユニバース(宇宙・世界)を合成した造語。自分のいる世界とは別に他の世界が並行して複数存在するという理論物理学のこと。
  • ※4 デジタル登記所TM:
    メタバースやゲーム世界で発行されたデジタルデータに対し、デジタル署名を発行・検証可能とする権利管理サービス。
  • ※5 インターオペラビリティ:
    相互運用性・相互接続性。複数の異なるものを接続したり組み合わせて使用したりするときに、きちんと全体として正しく動作することを指す。

担当者の社会課題解決に向けたプロジェクトへの想い

無事、3社共同プロジェクトを開始することができた担当者に、現在の心境と今後の想いを聞きました。

富士通研究所 データ&セキュリティ研究所 TaaSプロジェクト
プロジェクトマネージャー 小栗 秀暢

透過的トラスト技術、TaaS(Trust as a Service)はコロナ禍におけるビジネスプロセスの信頼を確保する技術として考案されました。その利用方法を確立するため、社内外の多くの方と議論・PoCを進めてきましたが、今回のプレスリリースは、Web3時代の個人や企業の持つデータ権利管理の安心・安全を守る技術として活用するというものです。JCB様とJP GAMES様からは、NFTや仮想通貨を用いたメタバースやゲームが増加する中で、未成年者や老人の方々等でも安心して利用できる、データ権利管理ソリューションが必要だ、という点に強く共感いただきました。今後も進歩するであろうWeb世界での様々な利用方法を検討していきます。

富士通株式会社 Digital Solution事業本部
ソーシャルビジネス開発室 新田 円香

JCB様・JP GAMES様とは、「メタバース上でのデジタルデータの権利管理を、企業にとっても、子どもを含む生活者にとっても、安心安全に、かつ簡易的に実現する方法」について検討してきました。そこで行き着いたのが研究所技術TaaSです。社会課題を解決しうる可能性のある技術と素晴らしいスペシャリストたちに出会い、3社の強みを活かして、このようにプロジェクトの立ち上げに繋げられたことを心から嬉しく思います。3社の取り組みを継続し、皆さまに良い結果をお伝えしていきたいと思いますので、今後もぜひ注目していて下さい!

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