DX実現の鍵は、〈個人のパーパス〉
富士通のDX推進の原動力となる実践態度“exPractice”とは?

目次
  1. 富士通自身を変革する全社DXプロジェクト「フジトラ」
  2. 自らが変わり続けることを、日常とする “exPractice”
  3. “Purpose Carving”がもたらす、「意志解放と相互受容」
  4. 明日の社会のために自らを変革していく富士通

IT企業からDX企業への転換を打ち出した富士通。2020年に全社DXプロジェクトがスタートし、変革を進めています。今回、DX推進の原動力となる実践態度“exPractice”について、それらを生み出した富士通デザインセンターのタムラ カイ(写真左)、小針 美紀(写真右)から、その背景と想いを聞きました。

富士通自身を変革する全社DXプロジェクト「フジトラ」

――富士通では、どのようにDXを進めているのでしょうか。また、タムラさんと小針さんは富士通全社DXプロジェクトに、どのように関わっていますか。

タムラ: 富士通全社DXプロジェクト「フジトラ(Fujitsu Transformation)」(注1)は、2020年の10月に本格始動しました。「DX」というと、「中々明瞭な定義がない」と言われることもありますが、富士通では経済産業省が2019年7月に発表した以下の定義(注2)を採用しています。

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに業務プロセスや組織、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること

体制としては、代表取締役社長(兼)CDXO の時田 隆仁と2020年4月にSAPジャパン株式会社から入社した執行役員常務 CIO(兼)CDXO補佐の福田 譲のリーダーシップのもと、部門・グループ・リージョン横断で富士通グループの変革に取り組んでいます。

小針: 各部門にはDXのリーダーとしてDX Officerと呼ばれる部門代表がいます。DX Officer同士が連携して課題を解くこともあれば、トップ層であるDXステアリングコミッティと共に解くこともある。そして、DX OfficerやDXステアリングコミッティを繋ぐ潤滑油として、DX Designerがいます。DX Designerは、様々な部門から参画しており「フジトラオフィス」という名でチームを組んでいます。
タムラと私は、DX Designerとして「フジトラオフィス」にジョインしています。DX Designerは、「変革の仕組みと仕掛けをデザインしていく」という役割を担っています。

富士通全社の変革として様々な取り組みが走る中、悩んだり戸惑うこともありますが、そんな時はDXプロジェクト・ステートメントに戻ってくるようにしています。これはフジトラをキックオフする際に作成したもので、このような行動・空気感を社内に充満させ、富士通のカルチャーにしていこうとしています。

自らが変わり続けることを、日常とする “exPractice”

――変革をデザインするDX Designerとして、タムラさん小針さんは具体的にどのようなことをしているのでしょうか。

タムラ: まず初めにしたことは、DX Officer(DXO)向けの対話の場の設計です。隔週、オンラインで実施することは決まっており、そこにコンセプトと中身を詰めていきました。
それぞれの部門の代表が集まって話し合うせっかくの機会なので、単なる報告の場とせず「それぞれが持っている“違い”と“力”を響かせあうジャムセッションにしよう」と提案し、「DXO JAM」と名付けて開催することにしました。
そうしていると徐々にDXOから、「もっと現場社員と共に変革をすすめていきたい。そのために、現場社員に向けた変革のためのオンボーディングを実施してもらえないか」という声があがるようになりました。そこで、DXO JAMの実践内容をリ・デザインし、変革に向かうためのオンボーディングプログラム「exPracticeプログラム」を作りました。

exPracticeとは、「パーパスを起点に“最高の体験を提供する”という目的のため、持ち味を引き出し、育み、活かしあいながら、自らを変革し続ける実践態度」のこと。exはexperience(体験)を意味しており、Practiceは「実践」に重きを置いた点から名付けた造語です。

小針: タムラと私は、これまで社内外の様々な人材育成プログラムや組織変革プロジェクトの設計をしてきました。その経験から、exPracticeプログラムは「個人のパーパスを起点として、まず自分という器(うつわ)を創り、そこにコンテンツを自らが選び取っていくというアプローチをとろう」と決めました。
自分という器が形づくられないままだと、どんなコンテンツを注いだとしても溜まっていきません。結果としてその内容は身に付きませんし、当事者としてそれを受けとめることもできません。まずは自分という器を形作るため、exPracticeプログラムでは「Purpose Carving」からスタートします。その後に何のコンテンツ注ぐかは状況によって変化しますが、フジトラとしてのファーストコンテンツは「Dexign Practice」「Scrum Practice」「Data Science」としています。

――「Design Practice」ではなく「Dexign Practice」となっているのは、どのような意図が込められているのでしょうか?

タムラ: 「Dexign(デザイン)」は、「Design」と「Experience」を掛け合わせた、こちらも造語です。通常「Design(デザイン)」という言葉を聞くと、見た目の美しさやスマートなプロダクトを想起することが多いと思います。しかし、「最高の体験を提供する」というexPracticeにおける「デザイン」には別の用語が必要であると考え、新たに言葉をつくりだしました。
また、「Design(デザイン)」という言葉を聞くと「一部の才能のある人」の「感性」によるものと思われがちです。しかし、「Design(デザイン)」は本来、そういったものではないと私は考えています。
Dexign(デザイン)とは、最高の体験を構想し実装し提供するための、「知性」と「感性」に基づく、「逸脱」と「統合」。何かをデザインするとき、ある対象・業界・事柄に対して、知識もなければいけないですし、過去の事例も知らなければいけない(知性)。その上で、自分自身の目的意識やパーパスを軸とし、自身が持っているアンテナやセンスを注ぎ込んでいく(感性)。また、今の自分のバイアスから飛び出るようなアイデアを発想し、そこから非連続なジャンプを生む(逸脱)。とはいえ逸脱したままだと、ビジネスとして回らなかったり、技術的な課題が出てきてしまうので、それらを統合して調和させる(統合)。
こうした知性と感性に基づく、逸脱と統合のプロセスも「デザイン」なのですが、こうした視点を伝える時、既存の言葉である「Design(デザイン)」では伝わりづらく、この視点を語るための「言葉」をデザインした結果、「Dexign」という言葉をつくりだしました。

“Purpose Carving”がもたらす、「意志解放と相互受容」

――「exPracticeプログラムのスタートは、Purpose Carvingから」とのことですが、これは具体的にどのような内容なのでしょうか。

小針: Purpose Carving は自分自身のパーパスを彫りだし、言葉にする対話のプログラムです。誰しも、自分で選択したキャリア、人生等、そこには想いがあるはずで、「これをやろう」という使命感や、「自分はこんなことをやりたい」という未来へのまなざしを持っていると思います。
忙しい日常の中では考える時間が取れなかったり、様々なものに流されてしまうこともありますが、Purpose Carvingでは「誰しも個人のパーパスを持っているはずである」という考えのもと、心に灯っている炎が何に向かって燃えているのか、対話を通して彫り出していきます。DXO JAMも、Purpose Carvingからスタートしました。
実際、富士通社員がどのような個人のパーパスを彫り出したかについては、以下の動画をご覧下さい。

タムラ: Purpose Carvingがもたらすものは、「意志の解放」と「相互受容」だと考えています。特に大企業では、一人ひとりの「想い」よりも「組織としての決定」に重きがおかれ、徐々に社員が声をあげなくなると感じている人は多いのではないでしょうか。そしてだんだんと「どうせ変わらないでしょ」という雰囲気が蔓延してしまう。 そういった状況に蓋をするのではなく、真摯に向き合いながら変革をすすめていくには、社員一人ひとりの個人のパーパス、使命感であったり、成し遂げたいこと、ここにもう一度光をあて、エネルギーにして、心に火をつけて、意志を解き放っていく。相手のことを100%理解することはできなくとも、私達は互いを受け容れることだったらできる。そして仲間になった人達と手を携えて、物事を推し進めて、変えていく。これが鍵であろうと考えています。
よく、「個人のパーパスと、富士通のパーパス(注3)が違ったらどうするの?他の人と違ったらどうするの?」と質問をもらうことがあります。もし互いのパーパスが真逆だとしたら、それは何かしらの一手を考えるべきですが、会社のパーパスや一人ひとりのパーパスが異なることにこそ価値があると考えています。両者のベクトルの合力が新たな多様性と力を生み、環境の変化にも素早く対応しながら、次の革新へと繋げていけるからです。
実際、exPracticeプログラムにオンボーディングした「exPracticeアルムナイ」(注4)達は、互いのパーパスに共鳴しながら、exPracticeプログラムで培った内容を応用しつつ、部門の変革や全社のDXテーマを推進しています。exPracticeプログラムは全てオンラインで実施していますが、ネットワーク越しに彼らの実践の熱量を感じています。

  • 注3
    富士通のパーパスとは、「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」です。詳しくは、こちらをご覧下さい。
  • 注4
    「アルムナイ」は「同窓生」の意味。exPracticeの実践態度をもって変革を推進する人。

明日の社会のために自らを変革していく富士通

――最後に、これからの展望について教えて下さい。

タムラ: 現在、TOP FIRSTという経営層自らが変革をドライブしていくためのプログラムをスタートしています。これは、exPracticeプログラムを経営層向けにリ・デザインしたものです。ここには代表取締役(兼)CDXOの時田以下、常務以上の経営会議メンバーと、一部現場社員も参加しています。
トップも現場も全員で取り組んでいく。DXステートメントにもありますが、「全員参加で」。そしてカルチャーをしっかりと変えていく。これを重視して、進めていきたいと思っています。

小針: 「パーパスを胸に」秘めている人は、おそらくどの企業にも沢山いると思います。秘められてしまったそのパーパスを、Purpose Carvingで解き放ち、重なり合った箇所をアジャイルに実践していく。テクノロジーを使いつつ実践を積み重ねることで、私達が私達自身を変えていく。
おそらくここまで読んで下さった方は、何かしら自社の変革をドライブさせたいと思っている方だと思います。そんな、お客様や社会にとってのリファレンス(参考)になっていければと思っています。

タムラ カイ(写真左)
人と組織に寄り添い、変革の仕掛けと仕組みをデザインするDX Designer。
2003年富士通入社。Webシステムやモバイル機器のUI/UX、人材育成プログラムのデザイン等に携わる一方、個人としてのキャリアと向き合った結果、2009年ごろから社外での個人活動を開始。創造性を高めるラクガキ講座「ハッピーラクガキライフ」の開催、グラフィックを用いた場作りと新しい組織の実践チーム「グラフィックカタリスト・ビオトープ」の立ち上げ、教育系NPO法人SOMA等様々な活動に携わる。
現在はこれらの経験を活かし、本業である富士通の全社DXを幅広く「デザイン」という立場から推進している。「世界の創造性のレベルを1つあげる」がマイパーパス。
著書に「ラクガキノート術(エイ出版)」。

小針 美紀(写真右)
経営と現場の「分かりあえなさ」を解消し、次なる物語を共にデザインするDX Designer。
大学で臨床心理学を学んだのち、富士通グループにシステムエンジニアとして入社。その後、同社の人事人材開発職へ転向。「部署や役職といった、立場の違いによる“正しさ”をぶつけ合うのではなく、楽しみつつ共に組織の土壌を創っていきたい」と思っていた際、「人事×デザイン」という実践方法に出会う。以降、人や組織に関わる対話の場のデザインと実践を重ね、2019年より、デザイナーへ。
個人のパーパス「日本企業を、しなやかに強くする」を胸に、富士通の全社DXプロジェクトという道なき道を、クリエイティビティとユーモアをもって歩んでいる。

本記事はFUJITSU JOURNAL(2021年4月23日)の転載です。

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