持続可能な社会に向けた洞察と富士通の変革

皆さんは「Fujitsu Technology and Service Vision(以下、FT&SV)」をご存知でしょうか? これは、刻々と変化する世界において、富士通がパーパスの実現に向け、これからの未来を洞察し、ストーリーを描き、どのように成し遂げていくのかをまとめたものです。2013年より発行し、毎年改版しながら今年で9年目になるFT&SVを通して、富士通は何を伝え、実現しようと考えているのでしょうか。技術戦略本部 技術戦略デザイン統括部 シニアディレクターの西川博さん(以下:西川さん)に聞きました。

技術戦略本部 技術戦略デザイン統括部 シニアディレクター 西川博さん
目次
  1. Fujitsu Technology and Service Visionとは
  2. 時代の変化をとらえ、継続して伝え続ける信念
  3. 時代の変曲点におけるFT&SV2021の役割とは
  4. 共創パートナーとのデジタルトランスフォーメーションへの波及
  5. テクノロジーによるイノベーションで社会課題を解決したい

Fujitsu Technology and Service Visionとは

――FT&SVとはどのようなものでしょうか?

西川さん: FT&SVは、富士通がどのような未来を様々なステークホルダーの皆さまと一緒に創っていきたいのかについての考えをまとめた未来洞察のストーリーです。お客様のビジネス成功に向けたヒントになると同時に、富士通グループ自身の変革の指針となるものでもあります。

――どのようなきっかけでFT&SVを作ることになったのでしょうか?

西川さん: FT&SVを発表した 2013年当時の富士通には、コンピュータや通信システムなど様々な製品やソフトウェア、サービスがありましたが、企業としての一貫したコンセプトはありませんでした。そこに危機感を抱き、グローバルな視点で富士通が目指す大きなビジョンを示し、そこに向かって富士通が取り組むビジネスと開発するテクノロジー、そして製品にまでつながる1つのストーリーをお伝えしたいと思ったのがきっかけです。
2013年に、富士通のビジョンやサービスを総合的に示す第一弾として、副社長や役員、事業部、研究所をはじめ、社外有識者の方々も含めて50名もの人数で約1年かけて作成しました。

――そういった背景があったのですね。9年発行し続けていますが、どのように作られているのでしょうか?

西川さん: FT&SVの発行にあたって大きく3つのことに取り組んでいます。
1つ目は、ビジネスや社会の変化、“今”のトレンドをキャッチするための経営思想家とのネットワークづくりです。例えば、働き方改革の権威であるロンドンビジネススクールのリンダ・グラットン教授が主催する未来の働き方を検討するコンソーシアム「Future of Work」に参加するなど、経営思想家との交流の機会などを設けています。
また、毎年、世界9カ国の経営層や意思決定者に対してデジタルトランスフォーメーションや社会への価値提供に関する独自の調査を行い、そこから得た洞察をFT&SVのストーリーの中に含めています。
さらに、IT系のアナリストや社内のテクノロジーのスペシャリストとのディスカッションを重ね、グローバルかつ専門的な視点でフィードバックを頂き、見識を高めています。

――FT&SVの制作にあたって、社員にはどのようなコミュニケーションを行っていますか?

西川さん: グローバルで13万人の社員を対象としたeラーニングを行っています。そのフィードバックやお客様の声を反映し、翌年度版へのブラッシュアップが始まるのは発表した瞬間からです。社内の複数部門と連携しながら、約半年前から毎週議論を進めています。

時代の変化をとらえ、継続して伝え続ける信念

――富士通のパーパスとはどのように関連しているのでしょうか?

西川さん: 昨年、富士通の社会における存在意義(パーパス)を、次のように定めました。
「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」

パーパスやFujitsu Wayはこれまでも存在はしてきましたが、昨年あらためて刷新し、さらに本年度は自身のパーパスを削り出すパーパスカービング等を通して“自分ごと化”するような取り組みを進めており、FT&SVでも紹介しています。神棚に飾るものではなく、社員一人ひとりが成し遂げたいことと深く関連しているものだということを伝えたかったのです。

――FT&SVを毎年改版しているところにも強い信念を感じますが?

西川さん: お客様や社員から「よく長年続きますね」「毎年発行しなくてもよいのでは?」などの意見を頂くこともあります。ただ、やはり誰も取り残されない豊かな社会の実現に向けて「何を成し遂げてきたのか」という進捗を伝えていかなければなりません。近年はビジネスや社会が急速に変化しており、昨年のパンデミックによって世界は変容しました。その中で既存のお客様や社員には着実に富士通が進化していること、そして新しいお客様や新入社員に変わらない信念とビジョンを示すことは非常に価値のあることだと考えています。

――確かにFT&SVを読むことで、同じ富士通の一員として社会の課題解決に取り組んでいるとモチベーションを高く感じています。

時代の変曲点におけるFT&SV2021の役割とは

――それでは、6月に発行されたFT&SV2021の概要を教えてください。

西川さん: FT&SV2021は4つのモジュールで構成しています。
まずモジュール1のテーマはポストパンデミックの世界観。富士通が独自に行った9か国1,200人のビジネスリーダーへの調査から得た洞察やお客様経営層とのディスカッションをもとに、アフターコロナにおける経営の5つの優先課題を提示しました。

モジュール2は、その先の新しい世界、そして2030年に向けて富士通が何をしていくのか。先にお伝えしたパーパスとサステナビリティ経営の在り方、そして環境課題への挑戦といった大きな取り組みを紹介しています。

次にモジュール3は、「ものづくり」「顧客体験」「健康な生活」「都市と社会」の未来、そしてすべての基盤となる「ビジネスマネジメントの変革」といったそれぞれの領域において、富士通のテクノロジーがどう貢献できるのか。よりよい未来に向けたデジタルトランスフォーメーションのシナリオをテーマごとにお伝えしています。

最後にモジュール4は、「これまでできなかったことをできるに変えていく」、富士通のテクノロジーによるイノベーションについて。例えば場所と時間から解き放たれるボーダレス・エクスペリエンスやAIの予測による災害へのレジリエンス、高齢化時代の健康寿命の延伸に貢献するがんゲノム医療など、実現へのアプローチを紹介するとともに、社会課題の解決につながるお客様との事例も掲載しています。

特にモジュール3と4は、今回最も強化した部分で、今の富士通らしさが際立っているので、ぜひ読んでいただきたいですね。

共創パートナーとのデジタルトランスフォーメーションへの波及

――FT&SVは実際にどのような評価を得ているのでしょうか?

西川さん: お客様からは、大きな未来のビジョンに向けた変革という部分で「自分たちの会社でも取り入れたい」といった共感のお声を頂いています。また、「事例について詳しく聞きたい」というお声を多数頂き、「FT&SVを読んで、うちもタスクフォースを立ち上げました」というお客様もいらっしゃいました。経営層の方々にご紹介し、富士通が描く未来の話をする機会も増えてきています。

社内では、「ビジョンを知ることによる変革への意識改革ができる」や、ビジネスプロデューサーからは「FT&SVをお客様に渡すことで軸になるストーリーをお伝えし、より深い会話ができる」という声、そして採用においても「富士通のアピールにつながる」と高評価を頂きました。海外からも、社会課題に取り組んでいることなどを、自分の子どもにも紹介している社員もいると聞きました。

――着実に波及していますね。ホームページからダウンロードして誰でも読めるようになっているのも大きいと思います。

西川さん: そうですね。お客様の変革に貢献し社会課題を解決していくのは我々の使命ですから、FT&SVによって富士通の目指すことや取り組みを知っていただきたいのでどなたでも読めるようにしています。より多くの方に読んでいただき、社会課題を共に解決するパートナーとなっていただくのが理想ですが、そうでなくても、こうしたら課題解決に近づくのではないか、など様々なご意見を頂きたいですね。

テクノロジーによるイノベーションで社会課題を解決したい

――では最後に、今後のFT&SVの展望を教えてください。

西川さん: 昔は「いい製品を作れば売れる」という考えでしたが、今はさらに大局を見据え、しっかりとパーパスとビジョン、テクノロジー、製品のベクトルが1つになって進まなければならないと考えています。その意味でパーパスを刷新し、本年度は「社会課題を解決していく」という事業戦略へリファインしたという部分で、いいスターティングポイントになりました。

そのビジョンをしっかりリアリティに落とし込み、テクノロジーやサービスをデリバリーすることが大事になってくるので、今以上にトレンドをとらえ、製品開発、事業戦略、サービスなどすべての部門、そして全社員が“One Fujitsu”となって足並みを揃えることが重要です。その中でFT&SVは、様々なステークホルダーの方々とともに、誰も取り残さない持続可能な社会の実現に向けて、大きな社会問題に貢献するテクノロジーを継続的に生み出していく未来への羅針盤としてアップデートし続けていきたいと考えています。

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