「スポーツ競技のAI採点」が拓く健康未来

MM総研大賞2021で富士通のAI体操採点システムが審査委員賞を受賞しました。受賞のポイントや今後の展望について、スポーツビジネス統括部長の藤原英則さん(以下:藤原)に聞きました。

目次
  1. 人の動きのデジタル化に着目!まずは体操競技から
  2. 現場でのテストを重ねて認められたAI体操採点システム
  3. ICTによるスポーツの公平性や平等性が評価されての受賞
  4. スポーツを通じて人々を健康にしたいという想い
  5. 将来は様々な分野とパートナーを組んで社会変革を起こしていきたい

人の動きのデジタル化に着目!まずは体操競技から

なぜ、AIで体操競技の採点に取り組まれたのでしょうか?

藤原: 6年前に国際体操連盟の渡辺会長(当時は日本体操協会専務理事)と会話する中で「21世紀はロボットが採点しているよ」と言われました。最初はジョークだったこの会話をきっかけに本取り組みが始まりました。
なぜ体操なのだと言われることがありますが、体操ほど人気があり、なおかつ身体の動きにバリエーションがある競技はありません。体操で身体の詳細な動きをデジタル化できれば色々な分野に応用できるのではないかと考えたのです。それには我々の3Dレーザーセンサーの技術とAIが不可欠でした。雑誌を分厚くしたくらいの3Dレーザーセンサーを複数台用意し、身体の詳細なデータを取得、AIを利用して骨格とその動きをリアルタイムでデジタル化します。
このデジタル化された人の動きを、体操の採点規則のあいまいな部分の数値化とトップ選手の演技を取り込んで作成した技の辞書とマッチングして、採点を行います。このシステムを国際体操連盟と一緒に作り上げました。

現場でのテストを重ねて認められたAI体操採点システム

AI体操採点システムが国際大会で使用されるようになるまで、どのようなハードルがありましたか?

藤原: 正式に大会で利用されるまでは本当に様々な困難がありました。
最初はレーザーセンサーです。競技会場で3Dレーザーセンサーを試用したところ、センサーのデータが乱れてしまうのです。調べると、会場には選手が滑り止めに使う炭酸マグネシウムの細かい粉が舞っており、それをファンから吸い込んでしまっていたのです。こういうことは現場で使ってみないとわからないことです。
また、センサーのデータを元にAIが骨格を測定するのですが、そこにもハードルがありました。当初、器具は固定されているものと想定して動きがあるものを人物として取り出そうとしていました。しかし、実際には、吊り輪のように器具も動くのです。それが身体の一部なのか器具なのかの判別が必要になり、器具の細かな動きも学習させることになりました。さらに技から技へ連続的に移行するため、技の切れ目の区別も難しいところです。特に最初に手がけたあん馬はその判別が難しく、「なぜ一番難しい競技から始めるのだ」と言われてしまったほどです。
しかし、富士通には難しいところから挑戦する、という文化がありますから、それらを様々な技術を駆使して解決したのです。ICTの独りよがりになってはいけないので、協会や審判、選手等、現場の声を取り入れながら改善を重ね、国際大会で使われるまでになりました。

ICTによるスポーツの公平性や平等性が評価されての受賞

AI体操採点システムによるスポーツの公平性や平等性の実現、そして他分野への応用が期待されての受賞と聞きました。その点についてどう受け止めていますか?

藤原: ご承知のとおり、選手は0.01点の単位で争っています。AI体操採点システムに誤審があってはなりません。品質を担保するために、我々は国際機関と一緒になって取り組みました。海外の関係者からも判定の正確さと信ぴょう性について、高く評価いただいた点、スポーツの公平性や平等性の実現に貢献した点が受賞できた理由だと考えています。
今後、本技術を使用してオンラインで判定をすることで、複数地域での統一された基準の元、同時開催が可能になります。それによって、今まで様々な理由で会場に参加できなかった国の方が、平等に参加機会を得ることができるようになります。さらに、三密を回避して競技を開催することも可能です。

右写真:左から技術リーダーの佐々木和雄さん、山林祐子さん、大岩祐子さん、プロジェクトリーダーの藤原英則さん

スポーツを通じて人々を健康にしたいという想い

グローバルな体操競技会で認められたAI体操採点システムの人の動きをリアルタイムで測定できる機能を活かせば、今後、より多くの分野での活用が期待できますね?

藤原さん: 今は体操の器具がどんどん進化することで、より高度な演技が可能になり、難度の高い技に選手が挑戦するようになりました。でもその分身体に負荷がかかって怪我をしやすくなり、選手寿命も短くなってしまいます。今回のシステムを使えば、身体に負荷のかかる技を見直すことができますし、無理のない動きを追求してより科学的な指導が可能になります。そして選手寿命も伸び、年齢が上がっても続けられるようになるでしょう。技の難易度より美しさを競うようなシニアの体操があってもいいと思います。まず体操から始めましたが、体操以外でも様々な採点競技から声がかかっていますし、トレーニングの領域でも役立ちます。既に本技術を活用したフォーム可視化技術を共創パートナーであるAIGIA様にご提供し、ゴルフスイングのセルフチェックを科学的に行えるソリューションを商品化しております。

我々の3Dセンシング・AI技術で人の動きをデジタル化することで、科学的なトレーニングができ、観戦する人にも新しい豊かなコンテンツを提供できるようになるでしょう。また、人の動きをデジタル化したデータを使えばアニメやゲームにも応用できます。我々はAIが人間の仕事を奪うものではなく、人の能力を高め、経験をより豊かにするものと考えています。様々な分野で活用が進み、いつしか当たり前になっているのがデジタルトランスフォーメーションの世界なのです。

将来は様々な分野とパートナーを組んで社会変革を起こしていきたい

今後の展望について聞かせて下さい。

藤原さん: 富士通はデジタルテクノロジーで社会の問題を解決するパーパスドリブンの会社です。当社の重点注力分野の1つ「Healthy Living(あらゆる人々のウェルビーイングな暮らしをサポート)」ならびに、SDGs目標3で掲げる「すべての人に健康と福祉を」の実現に向け、本システムの展開を推進していきます。
例えば、我々のような働き盛り世代では、身体の動きを客観的に見ることにより、オンラインでセルフチェックができるようになります。映像を見ながらその通りに身体を動かすのではフィードバックがありませんが、このシステムならしっかりフィードバックも得られますので、在宅勤務で問題となる腰痛対策もできます。高齢者なら病院などで動きをセンシングして、歩き方を観察し、身体の動きが悪い箇所をいち早く発見し、治療に繋げることもできるでしょう。また、若い世代では「私はアメリカのあの先生の指導を受けたい」と考えた時、現地へ行かなくてもリモートで指導を受けられるということが考えられます。コロナ禍で以前のように気軽に海外と行き来するのは難しくなっていますが、このシステムを応用すれば実際に行かなくてもリモートで正しいトレーニングが可能になります。
文化面でも能楽をはじめとする伝統文化の動きや、アクション映画をはじめとする映像制作に応用できます。映画制作では現在、モーションキャプチャを使って動きを記録して映像を作っていますがどうしても大がかりなシステムになります。我々の3Dセンシング・AI技術を使えば身体にマーカーをつけなくても簡単に動きを記録できます。こうした動きのアーカイブを作っていくことで、伝統文化の継承にも役立つでしょう。体操競技の採点システムで得た技術を医療や障がい者支援、健康増進、産業や文化などあらゆる分野へ展開していくことで、SDGs目標3で掲げる「すべての人に健康と福祉を」という目標にも近づきます。

今後、私たちは、デジタルテクノロジーで社会課題を解決するための活動を加速していきます。本記事を読んでいただき「これは自分達の分野でも応用できるのではないか」と感じた方には、是非お声がけを頂きたいと考えております。皆さまと共に、デジタルの力で、人々が健康で幸福に暮らせる世の中の実現を目指していきます。

3Dセンシング・AI技術の今後の展開

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