日本において2005年に電波法が改正されUHF帯周波数が使える様になり、当社は各種タグ、各種リーダライタのラインナップの出荷を開始した。
前回(ソフトリネンタグ)に引き続き、開発担当者に書類管理用ラベルタグの開発エピソードを聞いた。
UHF帯は通信距離が長く一括読み取りができると言う特長をもっている。バーコード、HF帯RFIDなどに比べ自由で制約の少ない読み取りが可能で、作業効率が格段に向上する。しかし、『ぴったり重なっていると読み取りができない』という欠点があり、普及を阻む障壁の一つとなっていた。
具体的には金融機関、公共機関の重要書類、製造業の設計図面などの管理において、重なった状態の多数のタグを一括で読み取ることが求められたが、安定した読み取りを実現することが難しかった。
この障壁をタグアンテナ設計、チップ選定の工夫によりクリアしたのが、2009年9月に発売を開始した「書類管理用ラベルタグ」である。
当時、海外メーカーがHF帯(13.56MHz)の専用製品で重なっても読めるタグを実現していた。しかし、この製品はHF帯製品であるため通信距離が短く、かつ積層状態での読み取りを実現するためには高出力、大型の専用リーダライタ製品が必要であった。
このため、現場運用において例えば可搬型のワゴンにパソコン、バッテリ、リーダライタ、アンテナを搭載して、読み取り対象の書類をそこに持って来て読むという煩雑な運用が必要とされた。
この様な状況で「UHF帯タグで1~2mmの積層状態でも読める低コストな製品を開発する」と言う非常に高いゴールを設定し、そのチャレンジに2007年から着手した。
設計当初は2mmの積層状態でタグが読める事を目標とし、1年間かけてこの目標に近い試作品を開発した。汎用のICチップとタグアンテナを工夫し、汎用のリーダライタで実現した。
しかし、タグの積層間隔が一様で無い場合、例えば、部分的に積層間隔が5~10mmと長くなるとICチップとタグアンテナのマッチングがずれ、良い通信特性が得られない結果となった。タグが2mm間隔でも上下に少しずれただけで同様な現象が発生し、このままでは使えない状況が続いた。
開発途中で、ある企業様から『メール便管理に適用したい』という命題をいただいた。メール便とは、当該企業様の社内でメール袋(資料を収納し搬送する袋)を使って資料のやり取り(部門間の搬送)を行う運用であり、搬送前後・途中で「メール袋を開けずに、中身の資料が揃っているかどうかを検品したい」というものであった。
この場合は、袋の中で資料が整然と積層されている状態で無い上に、3m間隔の読み取りゲートを通過時に読める事が必要であり、新たな技術要件が追加された。
ちょうどその頃、海外半導体メーカーより高性能なタグ用ICチップが出荷され、これを適用し更にタグアンテナを改良して市場要件をカバーした書類管理用ラベルタグを2009年9月にようやく製品化にこぎ着け、二つの金融機関様に納入した。
この製品はタグが2mmに重なっても40cm程度の通信距離を実現した。
この製品は市場へのインパクトが強く、多くの適用事例を生み出した。
特に金融機関、公共機関の重要書類、製造業の設計図面などの管理に適用された。単体でも通信距離が4mあり、1~2mmに重なっても数百枚のタグをハンディタイプのリーダライタで読めることが評価された。
ハンディタイプのリーダライタをターゲットの書類に沿わせるだけで読めるので、誰でも簡単に操作でき棚卸等の管理を大幅に効率化した。
2010年に入ると他社からも類似のタグ製品が販売された。しかし概して、整然と積層された状態では読み取りができたとしても、タグの積層間隔が一様で無い場合や、前述したメール便管理のように「雑然と積層された」状態での読み取りが難しいという課題が解決されたものは出されていない。
今後の課題は、(1)通信性能をより向上させること。(2)低コスト化(製品バリエーション増)。
の2点である。
(1)については、1~2mm間隔の書類の場合、ゆっくりとハンディタイプのリーダライタを沿わせながら読ませる必要がある。これは最新の高性能ICチップを適用し更にアンテナパターンを改善して対策する。
(2)については、使い切りの用途で数十円以下のタグが必要とされている。部材の見直し、製造の効率化でこれを今後、実現して行きたい。
掲載日:2011年6月29日
Photo: Kinzo TAKABA
ソフトリネンタグ
市場の要求に応えたい。試行錯誤で実現した「ひょうたん形状」の補強材。