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府省・地方自治体における長時間残業削減のためのプロセス改革

府省・地方自治体における長時間残業削減のためのプロセス改革

掲載日:2017年12月11日

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概要


民間企業で注目を集めている働き方改革は、府省・地方自治体の行政機関でも重要な課題です。しかし、行政機関特有の環境・条件によって、民間企業で有効な取り組みが必ずしも行政機関で有効とは限りません。

民間企業よりもサービス残業を発生しやすい要因の多い行政機関で長時間残業削減するためには、業務の効率化とともに、正職員が担うべき業務の見直しも重要です。本稿では、プロセス改革の事例を交えながら、行政機関における長時間残業削減のポイントを示します。これは行政機関に限らず、多くの民間企業においても参考となるものと考えます。

課題

行政機関における「長時間労働」発生の背景と問題点

行政機関において長時間労働が発生する主な要因として、以下の3点を挙げることができます。

(1)行政改革の主要施策としての職員定数の削減

  • 国家公務員の数
    郵政公社化、独立行政法人化などの大きな影響を受けながらも、1980年代以降は長期的に減少傾向。直近でも、2009年度の社会保険庁の廃止(日本年金機構の設立)の影響を受けなかった2010年度末の302,281人から2017年度末の297,025人(見込み)へと5年間で▲1.7%の削減。
  • 地方公務員(都道府県、市町村の合計)の数
    教育、警察、消防部門を除く一般行政部門の一般職常勤職員(以下、正職員)は、1995年度の1,174,838人をピークに2014年度の908,570人まで削減が続き、2016年度は910,880人と1995年度比で▲22%の削減。2011年度(925,370人)から5年間では▲1.6%の削減。

(2)新たな行政課題への対応のための政策の増加

過去から現在まで常に新たな行政課題が発生し、その対応のために新しい法律、制度が施行され、行政機関が担わなければならない政策は増え続けています。1990年代以降の主な新規政策として、地球温暖化対策(地球温暖化対策推進法)、DV対策(DV防止法)、食育(食育基本法)、地方版総合戦略(まち・ひと・しごと創生法)、空き家対策(空き家対策特別措置法)などが挙げられます。

(3)公務

国や地方自治体の事務は「公務」であり、その公共性を担保するために、国家公務員には労働基準法は適用されず、残業時間の上限は実質的に何も規制がありません。また、労働基準法が適用される地方公務員においても、「公務のために臨時の必要がある場合」の労働時間延長・休日労働の規定や、地方公務員法第58条5項による一部の適用除外などにより、非現業職(事務職などの一般的な公務員)は労働基準監督署の監督権限外と理解されています(行政委員会としての人事委員会が代替。人事委員会未設置団体では首長がその機能を代替。)。

以上の3つの要因に加え、近年、小売業やコールセンター業務など対人サービス業で顕在化してきている「感情労働」問題は、過度な住民お客様主義によって、市町村行政の現場を中心に長時間労働の大きな要因となっています。

これらの発生要因のため、行政機関における長時間労働は、民間企業以上に解消が困難です。さらに、財政が逼迫する中、残業代を支払うためにも、議会の議決による予算措置が必要な行政機関において、ノー残業デーの推奨や首長などの定時退社号令だけで具体的な対策を伴わない長時間労働是正の取り組みは、サービス残業を増長する要因にすらなっています。

解決策

長時間労働是正のためのポイント

民間企業とは異なる様々な制約がある行政機関の長時間労働を是正するためには、正職員が従事しなければならない業務量を削減することが重要です。これは従来からの業務効率化、生産性向上の改善・改革の取り組みと変わりはありません。

ここでは、長時間労働是正のためのポイントを3点紹介します。

(1)非効率の解消

各行政機関では、各組織、各職員に担当する「事務・事業」が割り当てられています。これらの「事務・事業」は、日々何度も繰り返して発生するもの(窓口における証明書発行事務など)、年間スケジュールに基づき推進するもの(総合防災訓練に関する事務)など、多種多様です。さらに数年単位で職員異動が発生することから、前任者の事務を引き継ぎ実施する前例踏襲による執行が基本です。

その結果、「事務・事業」を執行する様々なプロセスにおいて、無駄な業務、過剰品質の業務が温存・蓄積されている場合は、その解消を図る必要があります。

また、「事務・事業」を推進するための庁内外での各種調整事務や、日々の住民や事業者からの様々な問合せへの対応など、担当職員による計画的な業務推進を阻害するプロセスが相当な業務量となっている場合は、その解消を図る必要があります。

(2)「事務・事業」の数量の削減

前述のとおり、過去から現在まで、さらに将来に向けて、新たな行政課題に対応するために新しい政策を推進しなければならない行政機関では、放置すると「事務・事業」の数は右肩上がりとなってしまいます。一方、正職員数の削減が続いてきたことから、長時間労働を是正するためには、職員数などの経営リソースに応じた「事務・事業」の数量に削減する必要があります。

(3)正職員が担うべき業務の見直し

政策の増加、正職員の削減が同時並行で進んできていることから、従来、正職員が直接担当していた「事務・事業」について、民間企業などへのアウトソーシングや非常勤職員の活用拡大を前提に、少数精鋭化している正職員が担うべき業務を見直す必要があります。その際、従来多かった「事務・事業」を丸ごとアウトソーシングするという視点だけではなく、プロセス単位で検討することが有効です。

なお、2020年度から導入される会計年度任用職員の制度設計に当たっては、この視点を盛り込むことが重要です。

プロセス改革による正職員の生産性向上の事例

富士通総研では、これまで数多くの行政機関で業務効率化の支援を行ってきました。この中で、A市様におけるプロセス改革による正職員の生産性向上の成功事例を紹介します。

A市様では、長時間残業が常態化している国民健康保険所管部門に対して、その削減が大きな課題となっていました。この改題解決のためのコンサルティングの具体的な進め方は、部門が所管する「事務・事業」の可視化(「事務・事業」別の主要な業務プロセス、職員種別業務量等)、プロセス別の最適な担い手の検討、担い手最適化により生み出される正職員の工数(時間ベース)の試算などです。

図1にプロセス改革の検討結果の一例を示します。この部門では多くの事務で窓口において住民対応していることから、図1の(1)から(3)に該当するプロセスを有する他の事務も含めて民間企業へのアウトソーシングを実施しました(BPO:ビジネス・プロセス・アウトソーシング)。

【図1】担い手最適化の視点に基づくプロセス改革の事例
【図1】担い手最適化の視点に基づくプロセス改革の事例
(例:国民健康保険資格に関する事務)



プロセス改革の代表的な手法として、BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)もありますが、A市様のコンサルティングでは採用しませんでした。その主な理由は、以下の2点でした。

  • 国民健康保険業務は情報システムと密接不可分であり、情報システムの機能などの見直しと一体で行わなければ効果の高いBPRは実施できないと判断したこと
  • 法令に基づき加入が義務づけられている医療保健制度に関する事務であり、法令に則った手続きの実施やミス発生予防のための多重チェックなど、現行のプロセスを再構築する余地が少ないと判断したこと

成果

アウトソーシングを開始した約1年後、効果や課題を把握するため担当職員へのインタビュー調査を実施しました。その概要は、以下のとおりです。

  • ■正規職員の残業時間の削減
    • 従前:定時内は電話対応業務などに忙殺され、その他の本来の担当業務は平日深夜までの残業や土日の出勤で処理。
    • 最適化後:正職員は本来従事すべき業務に時間を割けるようになり、残業は20時頃までに終えられるようになった。
  • ■正職員の本来業務への時間確保
    • 正職員が保険料の滞納対策や医療費給付などの適正化に従事できるようになり、保険料収納率は3~4%向上。
    • 今後は、医療費減免制度の見直し、レセプト点検の対象拡大による不適切な請求の削減など懸案事項の解決に取り組む。

一般的に、業務のアウトソーシングを行った部門では、アウトソーシングの業務量に見合った職員定数を削減する歳出削減効果を期待する場合が殆どです。しかしこの事例では、一部プロセスの民間企業へのアウトソーシング実施後も、市が直接雇用する正職員・非常勤職員の定数は従前と同数としました。これは、職員が長時間残業で着手できなかった部門の懸案事項を解決するための施策であり、結果的には、正職員の長時間残業削減効果や保険料収納率向上による国民健康保険特別会計の健全化効果を生み出すことができ、これらの効果を総合して正職員の生産性向上を実現しています。なお、アウトソーシングによる支出増加は、保険料収納率の向上によって余裕を持って吸収することができ、残業時間削減による時間外手当の削減と合わせて、財政効果も生み出しています。

総括

行政機関の長時間残業を削減するためには、行政機関の業務の特性を十分に理解したうえで、正職員が従事しなければならない業務量を削減することが最も重要です。そのため、民間企業で展開しているワーク・ライフ・バランスなどの働き方改革の施策を行政機関でそのまま展開するのは十分な効果が期待できません。

富士通総研は、長年にわたり行政機関の政策・事務・事業の立案や改革、業務の効率化などを支援してきた豊富な実績に基づくノウハウを、今後も行政機関の働き方改革に十分に活かしていきます。

参考資料

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  • 本事例中に記載の数値、社名・固有名詞等は掲載日現在のものであり、このページ の閲覧時には変更されている可能性があることをご了承ください。
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本記事の執筆者

コンサルティング本部 行政経営グループ
グループリーダー

佐々木 央

1991年株式会社日本能率協会総合研究所に入社。都市政策・地域政策に関するコンサルティングに従事。1999年株式会社富士通総研に入社。公共事業部で、主に地方公共団体および中央官庁の行政評価・行政改革・総合計画策定等の行政経営改革、都市政策・地域政策に関するコンサルティングに従事。また、(財)全国市町村研修財団 市町村職員中央研修所(市町村アカデミー)における行政経営改革に関する研修講師など、市町村職員を対象とする研修講師も多数実施。

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