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地方自治体の最上位計画としての総合計画の改革 -政策の高度化と経営資源の全体最適化に資する経営基盤の確立のために-

2016年7月22日(金曜日)

2011年地方自治法改正による市町村基本構想の策定義務が無くなった後も、ほとんどの地方自治体では、総合計画や長期振興計画等の名称で基本構想を含む最上位の行政計画(以下、総合計画)を策定し、総合的に施策・主要事業を推進していることは、一般的にはほとんど知られていない。総合計画は、一般的に4~5年を計画期間とする基本計画が中心で、民間企業の中期経営計画に該当する非常に重要な行政計画である。

一方、大都市圏や一部の地域を除き、地域の社会経済状況は人口減少や地域経済の疲弊など、長期悪化に歯止めがかからず一層深刻化している。

本稿では、多くの総合計画が、社会経済状況の悪化など地域が抱える問題・課題の解決に有効な計画となっていない問題を取り上げ、改革の方向性を考察する。

1.旧来の総合計画の形骸化・機能劣化

総合計画の問題点は、形骸化であり、機能の劣化である。総合計画が機能・役割を果たせていたのは、政策的経費に充てられる予算規模が拡大を続け、人口増や市街地・インフラの拡大が当たり前であった右肩上がりの時代、すなわち、多くの団体では1990年代までである。社会経済構造が大きく変化したこの20年間、総合計画は策定方法・計画内容およびマネジメント方法のいずれにおいても機能劣化の漂流を続けてきた。

右肩上がりの時代の総合計画は、将来人口の増加を目標に掲げ、予算を箱物やインフラの整備に代表される新規の施策・事業に割り当てるための根拠や、市街地開発等の許認可を得るための根拠となる機能を果たすことが主に期待されていた。そのため策定過程と計画内容は、純増する政策的経費の配分調整機能が重視され、新規の施策・事業を立案し計画に位置づけることで、期待される機能を十分に発揮できる総合計画とすることが可能だった。また、計画期間中のマネジメントは、重要事業として位置づけられた実施計画事業が計画どおりに進んでいるのかを測定する執行ベースの進捗管理のみ行っていれば、特段の問題は発生しなかった。

しかし、「財源・職員など地方自治体の経営資源の制約の強まり」と「解決するべき地域の問題・課題の拡大・深刻化」が同時に進む中、総合計画の構成・内容の基本的なスタンスは、選択と集中、および施策展開の戦略性へと大きな変化を求められている。選択と集中は、地方自治体が解決するべき課題の優先順位を明確にすることや、それに基づき具体的な効果の観点から、新規施策等の立案と既存の施策等の縮減や優先順位の劣後化を同時に計画することを求めるもので、全体最適の視点と効果等の比較分析が必要である。そして、総合計画に求められる施策展開の戦略性では、中長期の時間軸で解決するべき政策課題に対して、個々の施策の実施効果を連鎖させ段階的に目標達成を実現させるシナリオ構築が重要になる。

このように、総合計画に求められる機能・役割が構造的に変容しているにもかかわらず、それに適応した策定方法・計画内容・マネジメント方法に改革できていないことが、現在の総合計画が形骸化し機能低下している要因である。

2.地方人口ビジョン・地方版総合戦略の功罪

このように、総合計画の形骸化と機能低下が進む中、突然現れた「地方創生」政策の一環としての地方人口ビジョン・地方版総合戦略は、功罪両面から、地方自治体の政策形成に大きな影響を与えたものと考える。

良い点の1つめは、人口減少問題への抜本的対策の重要性を顕在化させたことである。1989年の1.57ショック(合計特殊出生率が丙午の1966年の1.58を下回った)以降、抜本的な対策を長期間先送りし続けてきた構造的大問題を正面から捉え、中長期的な時間軸の中で対策を講ずることの重要性について、職員、首長・地方議会議員から事業者・住民まで認識が広まったのは画期的である。

良い点の2つめは、政策検討の基礎であるデータの徹底的な分析の重要性が確認されたことである。地方人口ビジョンの策定にあたって、人口に関して、過去から現在までのトレンド分析、自然動態・社会動態の分析などを徹底的に行うことで、人口動態の要因からみた人口減少の深刻さや歯止めをかけることの困難さの理解が進んだ。

一方、悪い点の1つめは、策定期間が極めて短かったことである。交付金の要件の関係で、多くの団体では実質的な戦略検討期間は半年に満たなかったものと考える。その結果、行政内部で徹底的に検討する時間は不足し、国が示した事例集を参考に新規の施策等を立案する場合が多かったものと推測する。

悪い点の2つめは、いわゆる合成の誤謬を加速させたことである。例えば人口に関して、将来展望という名の目標人口を設定し、その達成のための施策として転出抑制対策と転入促進対策を総合戦略に位置づけている。当分の期間、国が多くの責任を負っている日本全体の合計特殊出生率の劇的な改善や自然減の劇的な減少が期待できない中では、東京都市圏と地方との奪い合いだけではなく、地方における地域間の生産年齢人口の奪い合いが必要となり、地方創生の観点から本当に望ましい姿であるのか甚だ疑問な戦略を生み出している。

3.総合計画の改革の方向性と経営基盤としてのPDCAサイクルの確立・運用

地方人口ビジョン・地方版総合戦略により、幸運にも総合計画の改革の必要性や重要性が、各団体の企画部門に理解されやすい環境が生まれた。これからの総合計画は、従来の「実行性」だけでは不十分で、地域課題解決と地域活力の維持・向上に高い効果を上げられる「実効性」を備えることが極めて重要となっている。そのためには、この20年間の漂流してきた策定方法、構成・内容、マネジメント方法のいずれにおいても、総合計画を抜本的に変える必要がある。

総合計画の改革として最初に行うべきことは、策定作業に入る前に、どのような総合計画とするのかを十分に検討し明確にすることである。それは、他団体の策定方針を参考としながら策定する従来型の策定方針では、全く不十分であることを意味する。以下にそのポイントを挙げる。

  • 総合計画が果たすべき機能・役割
  • 果たすべき機能・役割を実現するための計画の構成・内容
  • 果たすべき機能・役割を実現するための計画の策定方法
  • 果たすべき機能・役割を実現するための計画のマネジメント方法

これらのポイントは、相互に密接に関係することに留意する必要がある。例えば、計画のマネジメントを行うための分析・評価手法として施策評価を活用するのであれば、施策評価が可能な計画内容とする必要がある。また、マネジメントの結果として計画や予算の見直しを行うのであれば、それらの制度設計も必要になる。すなわち、総合計画を起点とし政策の高度化を促進する経営基盤としてのPDCAサイクルのあり方も事前に検討する必要が生じる。

地方自治体における従来のPDCAサイクルは、事務事業を対象とした行政評価を中心に、歳出削減を主な目的とする行政改革の視点ばかり強調されていた。しかし、本来のPDCAサイクルは、政策の高度化と費用対効果の向上を両立させる経営基盤であり、総合計画の策定・見直し、予算編成、分析評価(施策評価等)などが密接不可分に機能連動する必要がある。すなわち、総合計画の改革は、本来の意味でのPDCAサイクルの確立・運用を実現するための改革でもある。

ただし、総合計画およびそれを起点とするPDCAサイクルの改革は、非常に難易度の高い取り組みである。民間企業でも、策定した中期経営計画が事後検証されずに作りっ放しの場合が多い。中期経営計画に基づき、実効性の高いPDCAサイクルを構築・運用できている民間企業はどれほどの割合であろうか。地方自治体は、極めて多様で広範囲な政策分野を所管し、議会・住民・事業者・国・都道府県などの多様なステークホルダーから過剰ともいえる説明責任を求められ、法令や各種制度に準拠した事業展開が必要である。また、施策等の実施による成果と社会経済状況の改善・向上との因果関係が不明確な中で、数十年先の将来を見通した地域経営が求められるなど、民間企業とは異次元の難易度の経営が求められている。それでも、地域における公共分野の独占事業者とも言える地方自治体は、政策の高度化と経営資源の全体最適化に資する経営基盤の確立のために、総合計画の改革とPDCAサイクルの確立・運用に取り組む責務を負っている。

【図】政策の高度化と経営資源の全体最適化に資する経営基盤
【図】政策の高度化と経営資源の全体最適化に資する経営基盤

4.「実効性」重視の総合計画に変革するための支援

このように、実効性を重視した総合計画を策定し、策定後の総合計画を適切にマネジメントすることで、計画に位置づけられた施策等の実効性を向上させるためには、非常に多くの問題点やその要因を明確化し、解決する必要がある。そのため、これまで説明してきた改革は、庁内の職員だけで推進することは難しいものと考える。

富士通総研は、「【図】政策の高度化と経営資源の全体最適化に資する経営基盤」で示した、地方自治体の経営基盤の整備・運用に関する非常に豊富な知見と実績を有している。これらを活用しながら、実効性の高い総合計画の策定の支援はもちろんのこと、策定後に総合計画を起点とする実効性の高い行政経営基盤の構築・運用の支援に取り組んでいる。特に近年は、従来型の総合計画の問題点を正しく認識し、実効性の高い総合計画に改革することを希望する地方自治体からの相談が増加しており、その支援を通じて、行政のプロフェッショナルとしての地方自治体執行部の地域経営・行政経営の能力向上に貢献することが重要な使命であると確信している。

関連サービス

【行政経営改革の支援】
様々な利害関係が錯綜する公共分野特有の問題点を踏まえ、行政計画策定支援など、行政経営の基盤となるPDCAサイクルの確立を支援します。また、事務事業・業務の改善・改革や、PPP(官民パートナーシップによる公共サービス)の推進、行政経営を担う人材・組織の強化などの支援を通じて、目に見える成果を提供します。

関連オピニオン


佐々木 央

佐々木 央(ささき あきら)
株式会社富士通総研 公共事業部 プリンシパルコンサルタント
1991年 株式会社日本能率協会総合研究所に入社。都市政策・地域政策に関するコンサルティングに従事。1999年 株式会社富士通総研に入社。公共事業部で、主に地方自治体および中央官庁の行政評価・行政改革・総合計画策定等の行政経営改革、都市政策・地域政策に関するコンサルティングに従事。また、(財)全国市町村研修財団 市町村職員中央研修所(市町村アカデミー)における行政経営改革に関する研修講師など、市町村職員を対象とする研修講師も多数実施。