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【フォーカス】待ったなしの自治体経営改革

2016年7月21日(木曜日)

【フォーカス】シリーズでは、旬のテーマに取り組むコンサルタントを対談形式で紹介します。

人口減少やグローバル化、情報通信革命等、自治体を取り巻く環境は変化していますが、自治体経営の現状にはどのような問題があるのでしょうか? また、行政の最適化に有効な手段として、どのようなものがあるのでしょうか?

本対談では、「待ったなしの自治体経営改革」というテーマで、北海道大学法学研究科の宮脇教授、株式会社富士通総研(以下、FRI)の佐々木プリンシパルコンサルタント、櫻田チーフシニアコンサルタントに語っていただきました。進行役はFRI公共事業部の石塚事業部長です。

1. 自治体経営の現状の問題は?

【石塚】
今回は自治体の行政経営をどうしていくかについてお話しいただきます。私は富士通で32年ほど自治体担当のシステムエンジニアをさせていただきましたが、その中で自治体の財政部門の方からは行政経営も厳しくなっているとお伺いしています。宮脇さんは専門家として自治体の現状と未来をどのように捉えておられますか?

【宮脇】
大きな構造変化は90年代後半にありました。それまでは、コスト削減、民間化など行政の仕事のやり方を見直せば何とかなるという取り組みでしたが、90年代後半になって人口減やグローバル化とともに、本質的な影響を与える要因となったのが情報通信革命です。これが組織の意思決定や政策を考えるときの情報の量と質に決定的な変化をもたらしました。経済社会の活力構造が変わる「パワーシフト」の発生です。国や地方自治体ではこれへの認識が遅く、認識されても対応に時間がかかっており、その影響は様々な官民連携の構図にも及んでいます。単に規模や領域を見直すだけでは持続性を確保できない状態で、行政機能の体質・構造を大胆に変えることが求められています。

【石塚】
特に自治体のトップ層の認識も薄いのかなと個人的には思いますが。

【宮脇】
1つはトップ層自身の問題、もう1つはトップ層に必要な情報が集積しないという組織問題、さらに議会問題です。本来、行政は長期で物事を考え様々な政策や公的投資を進めて行くことで、民間の補完やセーフティネットなどの活動を展開します。しかし、政治や市場のリスクの高まりも含め短期的視野が強まり、政策自体が不安定になっています。

【石塚】
佐々木さんは長く行政経営のコンサルティングに携わっていますが、実際どんな感じですか?

【佐々木】
私がこの業界に入ったのはバブル時代末期の1991年。経済発展が前提でしたので、携わっていたのは新市街地を整備する計画ばかりで、自治体のお客様も新規政策に対して活力がありました。しかし、90年代後半以降は厳しい財政状況のもと、歳出削減のための行政改革を中心とした行政経営改革に関する仕事が増えました。今振り返ると、財政の健全性は維持できましたが、将来に向けた政策を講ずることができず、対症療法の改革にとどまっていたのだろうと考えます。

【櫻田】
私はバブルの時代を知りませんが、それまでの人口が伸びてきた時代は、新しい街をどう創っていくかということに、行政もコンサルも関わる機会が多かったのではないかと思います。でも今は、いかに縮小するか、リストラするかに主眼が置かれ、新たな街をゼロから創造する業務に関わる機会が極めて少ないので、我々世代はそうしたプランニング能力をきちんと身につけられていないのではという課題を感じています。

2. 行政改革など個別改革では不十分な理由-行政評価ではなく行政最適化へ-

【石塚】
都市とシステムは似ていますね。バブルの頃はシステムを大きくしていきましたが、今はSEもシステムを最適化する開発しかしていないので、ゼロから作るのが難しい。では、行政改革をやっていた佐々木さんから見て、何がダメだったのでしょう?

【佐々木】
財政状況が厳しく大幅な歳出削減が不可欠となると、事務事業評価のように個々の予算事業のうち不要なものを見つけるとか、正規職員数の削減により職員人件費を削減することなどをやっていました。本来は、不要な歳出を削減して財源を生み出し、その財源を活用して将来に向けて必要な施策を実施しなければならないのに、行政改革では健全財政維持のための縮小均衡となってしまった。地域や自治体にとって本当によかったのかというと、非常に疑問があると思います。

【石塚】
先日も佐々木さんと「評価」という呼び名も悪いと話していました。人事評価も、評価し続けると相手の人を縮小させていくだけなので、「行政評価」すればするほど小さくまとまってしまうのではないかと。ならば、「行政最適化」と言い換えようと。

【宮脇】
今、本当に求められるのは「最適化」であり、縮小均衡ではありません。

【石塚】
そういった「最適化」に向けて有効な手段や提言はありますか?

【宮脇】
本来、評価制度は有効な手段です。しかし、多くの自治体で展開している行政評価は、本質的に右肩上がりの時と同じ体質を持っています。事務事業の優先順位を決めるのではなく、右肩上がりの時の「皆で一律増やす」の発想と同様に、「皆で一律減らす・我慢する」が基本です。縮小させる際も、どこを残し、どこを再編し、どこをやめるかメリハリが決められない。毎年度の予算編成や評価の中で場当たり的に展開しても、体系的・戦略的には展開できないため、様々な問題を新たに生じさせます。これを抜本的に変えるには、意思決定の前提になる情報の質を変え、住民も含め見える化することが重要です。最終的に決定するのは、首長や議会、そして住民です。その意思決定に対して、公会計改革や行政経営戦略の策定を通じて、新たな情報を提供し、従来の意思決定との相違点を明確にすること、そして関心のある住民はもちろんのこと、関心のない住民の目にも晒していく、いわゆる「見える化」の充実が重要だと思います。

【北海道大学法学研究科 宮脇教授】
【北海道大学法学研究科 宮脇教授】

3. 経営資源の改革:公会計制度改革の突破口は公営企業改革

【石塚】
私も単式簿記で30年、システムの中身を見ていて、いくらでもごまかせると思いましたが。新公会計制度(注1)が出てきたとき、櫻田さんは、泣きながら仕分けをやっていた伝説をお持ちですが、その辺はいかがですか?

【櫻田】
昭和60年代から、資産と債務の状況を「見える化」するために、新しい公会計制度を導入すべきという議論が続けられてきて、総務省は平成19年に通知を出しましたが、今なお財務書類の作成モデルは転々としています。見える化した結果を、経営に十二分に生かせるなら、モデルが変わってもそれに合わせていく必要があると思います。しかし、財務書類を経営判断に活用できている自治体は、私が知る限りではほとんどありません。具体的な活用方法が見えていない中、財務書類をただ「作ること」が目的になるような状況は避けるべきです。ただ、1つ期待しているのは、自治体は単年度の現金の流れを中心に予算・決算を作成しているので、過去の投資はあまり重視されませんでしたが、公共施設のような資産をどう維持していくか、どう再投資すべきかを考える際に、財務書類の情報を活用できるようにしたいということです。

【宮脇】
行政機関は、元々「大福帳」的なフロー概念しか持たないため、ストックなど新たな概念が認識され定着するまで時間がかかります。一方で、経済金融環境や財政状況も急速に変化し、公会計もこの変化に対応するため見直しを進めることが求められ、様々な指針が次々と出る原因になっています。自治体経営で強く求められるのは、今まで先送りしてきた施設の維持更新費などストックの負担を、料金などフローの負担に転換することです。これができないと、次の世代に大きな負担を残し、地域生活の持続性も困難にします。この実態を議会そして住民も含めて、共有していくための情報の改革が求められています。

【石塚】
財務諸表を自治体のトップの方でもわかるようにする仕組みは難しいですか?

【宮脇】
英国などでは、ストック情報を意思決定に結び付けています。日本では単年度主義の下で事務事業のコストを単年度で切り分けて議会で議決します。確かに財政民主主義において単年度主義は重要ですが、判断材料として、例えば各施設や制度の維持管理費や運営費、その他の間接経費を長期にわたって認識する「ライフサイクルコスト」を予算書とともに提示し判断する仕組みです。先送りすることで単年度では健全に見えても、長期的に見ればむしろ不健全な姿となっている場合が少なくありません。こうした情報を意思決定の場に見せていくと、「これはマズイのでは」という感覚を持つ人が出てきます。今、地方財政は日本銀行のマイナス金利政策や国の交付金政策等でフローの面では表面上改善していますが、ストックベースではむしろリスクが拡大している状況にあります。ストックベースの問題をきちんと見て政治も判断できる仕組みの充実が喫緊の課題だと思います。

【佐々木】
一般会計で新公会計制度が活用されるきっかけとして期待しているのは、地方公営企業の改革です。地方公営企業は、長期間事業が維持できるようストックも含めてコスト構造を明らかにする必要があり、企業会計だからこそ使用料の値上げなどが建設的に議論できます。管きょなどのインフラを活用し提供する上水道・下水道事業が突破口になって、他の公共施設でも同じ流れができれば、新公会計が大きく具体的な効果を生み出すという認識が広がるでしょう。

【株式会社富士通総研 佐々木プリンシパルコンサルタント】
【株式会社富士通総研 佐々木プリンシパルコンサルタント】

【石塚】
使用料をとるような施設はほぼ全部公営企業にした方がいいと思いますが、いかがですか?

【佐々木】
新公会計を整備することで、使用料を決めるときには、ストックベースで持続可能な料金水準を検討する当たり前の議論が可能となります。

【宮脇】
上水道は、厚生労働省の衛生基準等は別として、自治体や地域コミュニティの経営を基本としてきました。このため、下水道に比べて上水道は経営概念が自治体でも強い側面を持っています。これに対して、下水道は河川としての性格もあることから国の支援が多く、経営概念が相対的に遅れた面があります。この点は、公会計の改革の適用状況にも表れています。長期のライフサイクルコストと収益の関係を見せるときにも単独の事業ではなく、公立病院、コミュニティバス等公共交通、ごみ処理、上・下水道、その他の施設も含めコストが比較できるように見せることが重要です、行政側が特定の施設を狙い撃ちするのではなく、住民に比較し考えてもらい、自ら議論し選択する流れを創り出すことです。

4. 経営資源の改革:公共施設マネジメント(ストック資源)

【石塚】
櫻田さんは公共施設マネジメントをやっていますが、どうですか?

【櫻田】
財務書類を作成する際、固定資産台帳の洗い出しもサポートさせていただく中で、公共施設の情報が紙媒体で管理され、過去の履歴情報がなかったり、部署によって把握している面積が違ったり、庁内で統一されていないことが明らかになりました。洗い出した情報の一部を公共施設マネジメントの基礎情報として活用できれば、成果が期待できると思います。

【佐々木】
公共施設マネジメントは、具体的に何を成果にしているのですか?

【櫻田】
1970~80年代までの人口増加に合わせて集中整備した社会資本は、今後20~30年のうちに一気に更新時期を迎えますが、多くの自治体が厳しい財政事情を抱える中、更新費用を賄うことが難しい状況にあります。限られた財源の中で、公共施設をどう安全に維持するか、費用低減のために数を減らすのか、減らさずに民間に運営を委ねるのかといった対応策を選択し、講じるのが公共施設マネジメントです。特に大切にしたいのは、物理的側面だけでなく、公共施設で提供する行政サービスのあり方と併せて改革していくことです。公共施設やサービスを廃止することばかりに焦点を当てると、住民や議会から大きな反発が生じます。しかし、このサービスは提供方法を変えてみよう、この施設で他のサービスと一緒に提供すると効率的かもしれないというように、提供する方法や場所をまちのあり方から考えていけると、住民や議会にも共感が得られる、未来志向のまちづくりにつながるのではないかと思います。

【株式会社富士通総研 櫻田チーフシニアコンサルタント】
【株式会社富士通総研 櫻田チーフシニアコンサルタント】

【宮脇】
いわゆる「公共空間」の再編で、単純なハードの再編ではないとのご指摘で重要な点と思います。特定の施設、特定の機能の存廃ではなく、機能統合や機能分担を進め単独の自治体を超えた地域や圏域単位の空間を認識しネットワークとして結び付くことで、人の移動が起こり経済社会活動も活発化します。財政面・人的面からも単独の自治体単位でフルセットで行政を展開できる時代ではなく、自治体単位を超えた役割分担や政策展開をネットワークとして積極的に意図して行く時代となっています。

【櫻田】
千葉県の某自治体でも、ごみ処理場や火葬場の共同設置だけでなく、市民ホールのような市民利用施設も、近隣市と共同で整備していけないかという話が進みつつあります。今後いろいろな所が追随して広がっていけばと思います。

【石塚】
「連携中枢都市」の構想がありましたが、今どうなっているのですか?

【宮脇】
残念ですが持続的ネットワークを形成する基盤とはなりづらい実態です。中軸となる都市、周辺自治体にとっても前向きのメリットが描きづらく、結局は中軸都市に人口や経済社会活動が集中し、さらに大きな都市に移動し集中するいわゆるメガリージョンの構図(分散ではなく1つの大きな都市に集中する構図)からは脱していません。

【石塚】
文化関係は真ん中の市で、スポーツは自然豊かなこの辺で、というような自治体間の協業はなかなか生まれないものですか?

【宮脇】
結局フルセット型で施設等を作ってしまったのが問題で、自分の自治体だけを見て投資を行う感覚が首長にも行政職員にも議会側にも住民側にもまたまだ根強く残っています。ただし、施設の老朽化などそれが徐々に限界に来ていることも認識し始めています。重要なのは、一部事務組合や広域連携からさらに進化させ、単独自治体を超えた機能分担とその連携を実現する努力が必要となっていることです。自治法もそうした仕組みを徐々に組み込んできています。

【佐々木】
すべての公営企業や公共施設のフローとストックのコスト構造を可視化して提示し、すべてのサービスを維持するためには、これだけ増税する必要があるとか、受益者負担はこれだけ値上げが必要だとか。値上げを回避するためには、どれを優先しどれを諦めてもらうのかを提示しなければならない。そのための基礎資料が新公会計だと思います。

【宮脇】
料金の値上げは政治的に大変な課題となります。これまで、様々な公営事業で普通会計から繰り入れを行い料金を低く抑えるなどの措置をし、住民からはその実態が見えない状態にありました。料金表は低く抑えた料金で表示しても、実際に必要となっているコストを明確に並べて提示し、それを様々な事業で比較して住民に見せることが重要です。北海道の某市で100円バスの運行や温水プールの運営に利用者1人当たり数千円~数万円かかる実態を提示し、住民の議論を喚起した例もあります。料金は安い方が良い。しかし、本来のコストを隠した中の低料金は、将来の住民の高負担に着実に結び付きます。

5. 総合計画改革-財政は数字に凝縮された住民の将来の運命である-

【石塚】
そのあたりは総合計画でうまくいきますか?

【佐々木】
20数年前は、新しいハコモノや新市街地を整備する根拠となる総合計画の策定を支援していたのですが、新しいハコモノなどの整備が難しい現在は、今実施している施策を作文して計画にまとめるだけです。これからは、どれに力を入れてどれを諦めるのかが位置づけられていないと、縮小均衡の未来を作る計画になってしまうと猛省しています。

【石塚】
私も役所で予算システムを作っていて、いろいろな人から「計画は計画、予算がつくかどうかは別の話だから」という話を聞きました。

【佐々木】
予算と連動した計画内容と計画マネジメントが重要との認識が広がっています。

【石塚】
予算を決める段階では計画を読みもしない様々なステークホルダーが好き勝手言うので、総合計画を緻密に作っていても意味がないというのが本音では。これを血の通ったものにしていくにはどうすればいいのでしょう?

【株式会社富士通総研 石塚公共事業部長】
【株式会社富士通総研 石塚公共事業部長】

【宮脇】
多くの総合計画策定では、地域の利害代表と手を挙げた住民でマッチポンプ型と主観的な意見が交錯する中で行政主導の総花的な計画が策定されます。こうした総合計画で行政活動の細かい事務事業まで組み込み細部にわたり硬直性の強い体質を形成します。このため、環境変化に対応した実効性に乏しくなり、総合計画自体の作成が目的となってしまう実態も少なくありません。大きく骨太の戦略は住民・議会と共に十分な議論で作成し、実際の経営は行政側・執行部に任せる役割分担が必要となっています。財政の定義で「数字に凝縮された住民の運命」という社会学の定義があります。持続性とは何か。将来の住民の選択肢を奪うことなく、現在の住民のニーズを満たすことです。総合計画の機能・目的とは何か、もう一度、検討すべき段階にあります。

【石塚】
予算書を読んでいる住民はいないでしょう。入札業者か財務会計担当SEくらいしか見ないのでは。

【宮脇】
公会計は特殊な分野ですから、そのままでは理解不能です。予算書は「一読難解・二読誤解、三読不可解」などと揶揄されます。多くの住民は、公会計に比べれば企業会計の感覚を持っています。したがって、行政分野でも企業会計で表現することが求められます。当然、民間では「コスト」と言えば間接コストも入れて計算しないと収益が確保できません。公会計では、直接経費だけで判断し、間接経費を認識しないため、同じ「コスト」の言葉でもその意味が大きく異なってしまいます。

【石塚】
ストックベースの計算はされないですね。庁内に電算室を構えるシステムを民間のセンターに出すと本当は高くなります。職員人件費や庁舎管理費というすでに存在しているもののコストがすべて直接経費に、ストックからフローに変換されて請求書が来るわけですから。説明しても理解いただけませんでしたが。

【宮脇】
私も公務員の時代は、人件費はタダという概念で政策・制度設計をしていました。公務員として採用した時から民間の視点を学んでいく必要があります。それでないと、民間化等におけるモニタリングもできなくなります。

6. PDCAサイクルの高度化の重要性-「評価」ではなく「診断」へ-

【石塚】
職員を指導する必要があるということで、研修の依頼も増えていますし、FRIも力を入れ始めています。

【佐々木】
総合計画を丸投げし、コンサルタントが策定する場合がありますが、そのやり方ではコンサルがいなくなった瞬間に計画が形骸化します。そのため近年は、総合計画の策定に併せて、政策を所管する職員が自分達で政策を立案できるように研修・指導・助言などに力を入れています。コンサルタントのゴーストライティングが当然と思っている自治体には評判が悪いですが、問題意識のある一部の自治体には高く評価されています。

【宮脇】
総合計画は物凄い情報の塊なのです。管理職だけでなく若手も総合計画から研修を始めて、自治体の全体像を理解し、自ら課題を発掘してもらう必要があります。若い人も刺激を与えていけば、自分達で考えてくれるので、総合計画と研修を重ね合わせるのも大きな選択肢と思います。

【佐々木】
愛知県の中核市で中堅職員に現総合計画の達成状況を分析してもらったら、「この内容では達成状況は検証できない」という結論になりました。次の計画は、事後に具体的に検証できる内容とする必要性に気づいていただけました。

【櫻田】
公共施設マネジメントに関わる職員研修向けに、自治体や他社コンサル、財団法人と一緒に「行政経営ゲーム」を作っています。仮想のまちで公共施設の統廃合などの再編を体験するゲームです。10年ごとに訪れる社会環境の変化、例えば福祉サービスの需要が高まったり、学校授業が要らなくなったり、老朽施設の建て替えが必要になったりといったシナリオを示し、公共施設の管理、建設コストをどう負担するか、そこで提供する行政サービスをどうするかをゲーム感覚で学んでもらいます。こういう遊び心ある研修に若手層だけでなく、経営層にも参加いただき、楽しみながら再編を考える機会づくりを進めています。

【宮脇】
ぜひ議会でもやってください。

【佐々木】
議員にも職員と同様に理解してもらう機会は必要ですね。

【宮脇】
私の地元の道庁だけでなく、東京の特別区でも数百人単位で採用を行うケースが多くなります。加えて、団塊の世代が大量退職し、これまでの職員削減で行政組織の年代別構成が歪んでおり、従来以上に研修の重要性が高まっています。しかし、現実の研修は、知ることを中心とした旧態依然としたものがほとんどです。

【佐々木】
目先ばかり見るのは誰でもできます。十年先、二十年先を見て、現状の延長線上の政策で目標に到達できるのか、到達できないなら、政策の軌道修正を行うのが正規職員の役割です。

【宮脇】
目先のことをこなすための知る研修だけでなく、長期を睨んで生み出すための研修が重要となります。「知ること」から「生み出すこと」への進化です。生み出すためには、常に地域を観察し課題を認識する力、そして政策を創造する力が必要となります。これまでのように国の政策に上積み・横出しするだけでなく、自ら創造する力の有無が自治体の持続力を大きく左右する結果となります。

【佐々木】
PDCAサイクルでは「評価」という言葉が問題だと考えます。

【石塚】
人事評価を進めていくと、より矮小化していくイメージですよね。

【宮脇】
「評価」はモノサシを当てはめ良し悪しを判断することですが、モノサシ自体が不明確だったり、凄く細かくなりやすく、単なる形式的な進行管理となってしまいがちです。そこでは、辻褄合わせと細分化が繰り返されることになります。

【佐々木】
福岡県内のある一般市で10年間、行政改革の支援を続けています。この市の行政評価の取り組みは成功事例として全国的にも有名ですが、「評価」ではなく「診断」という言葉を使ったのと、コンサルタントがヒアリングの場で指導・助言を継続して実施してきたことが良かったと考えます。当初、頑なだった事業担当者も、「ここが問題だから、これを改善すると、もっと市民に役立つ事業になると思いますが、どう改善すれば良いでしょうか?」という会話を何年か続けていたら、ある年から事前に自らが問題を洗い出し、「この事業はこういう問題があるから、こう変えていく」という前向きなプレゼンの場に変えてくれました。1つの理想形だと思います。

【宮脇】
「評価」ではなく「診断」という言葉はとても大切だと思います。診断は相談の意味です。診断結果は、1つの仮説であり絶対正しいとは言えない。そこに、いろいろ自ら考えて、さらに進化させていく種が生まれてくる。「診断」といった言葉にしていくことは非常に重要だと思います。

【櫻田】
自治体職員の皆さんは複数の部署を回り、ゼネラリストになるよう求められている中、職員の指導役でもある部課長級の方々が、新たな事業づくりに向けた思考方法や具体的なやり方を職員に教えられない状況であるとすれば、コンサルに相談する機会は非常に重要ですね。

【佐々木】
何年かに1回、事業診断を受けてもらい、「ここに問題がありそうなので、自分たちでより良くする案を考えてください」と助言しています。1990年代後半からモヤモヤしていましたが、ようやく解に気づいたのが、この5、6年です。

【石塚】
それが新しいコンサルタントの人物像の1つですね。政策をきちんと考えられる人が役所にも外にもいない状態なのだと思います。そういう意味で我々の仕事も肩代わりすることはできなくて、気づいてもらうまで粘り強くご支援させていただく形かと思います。

【宮脇】
忍耐強くやって、次の世代が担う20年後くらいで本当の実を結ぶかどうか、長期戦です。今のフローの恵まれた状態は続かない。自治体にとっても間違いなく経済財政面からのショックが来ます。自治体の合併ではなく、機能分担等を行う中で機能ハブを担える自治体になれるか、そのときの自治体の体力の違いは大きくなります。

【石塚】
そういう意味で、公共のコンサルタントはどの方向に向かえばよいのでしょうか?

【宮脇】
コンサルタントは行政の下請けではなく、行政の人に考えてもらう、その手伝いをする機能だと思います。答えを提示するのは簡単ですが、それでは自治体自体が育たないし、民間と連携する能力もなくなってしまう。答えを出すのではなく、一歩手前くらいの方向性を示唆して、共に考え共に行動してもらう。「下請けは行政の指示で作業する」という時代のコンサルから脱却し、行政と共に考え行動するパートナーシップの形成が重要だと思います。

【石塚】
それは先程の佐々木さんの気づきと符合しますね。

【宮脇】
先程の行政経営ゲームもいいですね。あれは破たんしたシナリオもあるのですか?

【櫻田】
破たんもします。それぞれ違う所管部長の役になりきり、部門横断での話し合いや議会への説得力ある答弁をしてもらいます。

【石塚】
我々が気づき始めた部分を宮脇先生には的確に表現いただいたので、非常に参考になりました。みなさん、どうもありがとうございました。

(対談日:2016年6月17日)

対談者

対談者(写真左から)

  • 宮脇 淳 : 北海道大学法学研究科 教授
  • 櫻田 和子 : 株式会社富士通総研 公共事業部 チーフシニアコンサルタント
  • 佐々木 央 : 株式会社富士通総研 公共事業部 プリンシパルコンサルタント
  • 石塚 康成 : 株式会社富士通総研 公共事業部 事業部長

注釈

(注1) : 新公会計制度 : 「現金主義・単式簿記」による従来の地方自治体の会計制度に「発生主義・複式簿記」といった企業会計的要素を取り込むことにより、資産・負債などのストック情報や、現金主義の会計制度では見えにくいコストを把握し、自治体の財政状況等をわかりやすく開示するとともに、資産・債務の適正管理や有効活用といった、中長期的な視点に立った自治体経営の強化に資するもの。

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